男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

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汎用イベントとは言え、誰でも使えるわけではない

今日も変わらずアルバイト。色々金がいるというか、将来の学費の為にたくさん働きたいのである。頭を下げればどうにかしてくれそうな祐や華の両親はいるけれども、だからこそそれを避けたいので。

 

適度な混雑具合の疲れすぎず暇すぎない一日の労働が終わって、さっさと帰ろうと休憩室を抜けて更衣室に行こうとすれば、横から声をかけてくるやつが居る。

同じタイミングで仕事を終えた竹之下だ。本当にびっくりするぐらいシフトがかぶる。まぁ同じ高校生バイトだから仕方ないと言えば仕方ないのか。

 

「先輩、この後少し空いてます?」

 

バイトのシフトが終わってからようやっと敬語をつかっている竹之下に対して、俺は少しだけ考える。普段から使えよとは思うがそれはおいておいて。

休憩室にはシフト表が目の前にあるし、変わる変わらないの話は先ほどした。であれば別のことであろう……カレンダー部分をみれば、ああ。そうか給料日までまだ少しだけ期間がある。

 

「2万までしか貸せないぞ」

 

「なんで、そうなるんですか、でもぉ、くれるならありがたく貰っておきますね」

 

「貸すだけだから後で返せよ、店長にも言っておくからな」

 

「冗談っすよ、そんなにお金に困ってないし」

 

カラカラと笑いながら、肩のあたりで揃えられた短い髪を揺らしながら笑う竹之下。さっきシフトでみたらフルネームは竹之下 純だった。いい加減もう眠いので、俺は更衣室に入る。

彼女はこちらを嫌ったり蔑んだりしてこないが、ひたすらからかうような話をするので、疲れるのだ。

 

「あ、ちょっと待ってください!」と声が聞こえるが無視だ。あいつも女子高生として最低限の分別はあるからか、入ってくることはない。

普段は上から来ている制服をただ脱ぐだけだが、今日は倉庫整理があり汗をかくのがわかっていたので、代えのTシャツを持ってきていたのだ。

 

さっさと着替えて、部屋を出ると、着替えもせずにドアの前で待っている竹之下がいた。なんだ、本当に要件があったのか、少し悪いことをしたのかもしれない。

 

「あ、ちょっと! それは、ずるくないですか? まだ話は終わってないんですけどぉ」

 

「じゃあ、真面目に話せ。金はこれ以上出せないし、シフトはもう変われない。廃棄商品の弁当も渡せないし、販売ノルマは今年はもうないぞ。今度はなんだ、宗教か?」

 

事あることに何かしらを頼んでくるこいつは、暇な日は多少の暇つぶしになるが、基本的に面倒だ。時折仕事を間違えたり変な客に絡まれたりしているから、そのフォローをしてやることもある。

なので、宗教とかの勧誘をしてくるのならば、流石に負債が大きくなりすぎて距離を取る必要があるだろう。

 

「いや、なんでそんな疑ってるんすか、これですよ」

 

そう言いながら、彼女は後ろ手に隠していた何かを前に持ってきて、両手で持ったまま俺に差し出してくる。

 

「はい、これあげます。この前のお礼です」

 

それは、かわいく小さな袋でラッピングされた、何枚か入っているクッキー。一目で手作りとわかる。休憩室をみれば、置いてある彼女のカバンから似たような袋がいくつかはみ出しているために、何人分かを作って持ってきたのであろう。

そしてどれのお礼だろうか? 心当たりがありすぎてわからない。関係性が不健全にすぎるな冷静に。

 

「ありがとう……では失礼します、お疲れ様」

 

「いや、食べてくださいよ!」

 

折角貰ったものだ、しっかりとお礼を伝えて鞄にしまい、そのまま横を通り抜けようとするが、やはりというか彼女に呼び止められてしまう。

いや、俺だってわかるけれどもこちらにも事情があるのだ。

 

「頑張って作ったんで、食べて感想くださいよぉ、先輩」

 

「いや、今俺満腹だから」

 

「その体型で何言ってるんすか、仕事中も腹鳴らしてたし、絶対満腹なわけないでしょ」

 

「これでも少しだけ痩せたんだぞ」

 

逃れようにも、とにかくギャーギャーうるさい。正直問題しかないのであるが、仕方ないので袋を開ける。すると開け口からふわっと甘い匂いがただよってくる、美味しそうではある。まあクッキーだから当然か。

見た目もオーソドックスなそれで大きさや形も均等だ。普段から作っているのかもしれない。

と言うか職場に持ってくるというマインドになる時点でかなり作りなれてるのが普通か。

 

一枚を取り出して、見つめる。違和感はまったくない。半分ほどを口に含んでみるが、大丈夫だろうか?

 

「どうですか、味は」

 

少しだけ不安そうな竹之下の顔から意識をそらして、口に広がる甘味とバターの香りを感じて、そして────

 

「……せ、先輩? 顔色が……」

 

そこにないのは頭でわかっているのに、感じる爪、髪の毛、何かしらの不純物、ゴミ、虫の死骸。それらのないまぜになった味。

ぐるりとまわれば、あ、やっぱりだめかと思って。俺は休憩室の流しに駆け込む。覗き込み顔をうずめて────

 

「うっ!」

 

口と腹の中物を全部をぶちまける。久々に感じる酸っぱさと気持ち悪さだが、意識は冷静だった。ああ、やっぱり駄目かという失望感と申し訳なさ、そして怒りが湧き上がってくる。

 

「あ、えっと、その、え?そんな、あたし、あの、ごめんな、さい」

 

呆然とした様子で、少し目元に涙を浮かべて謝ってくる竹之下。それを横目で確認する。すぐにでも事情を説明して謝ってやりたいが、まずは無理だ。

ただ、頭では今食べたものが大丈夫だ、安全なものだとそのくらいはわかっているので。気持ち悪さはあるが、すぐに落ち着く。

 

一通り水を流して、口をゆすいで。ふき取って。服にかかっていないことを確認して彼女に向き直る。

 

「すまない……それと気にするな、俺は個人に向けられた手作りが食えないんだ」

 

「……え?」

 

「別に味も変じゃなかったし、妙なもんも入れてないんだろ?」

 

 

まだ、俺が純粋に女子からのプレゼントのを受け取っていたころ。主な理由は祐に合法的に渡すには、クラスの男子へのお土産やプレゼントという形を取るのが手っ取り早いと気がついた娘がいたからだったか。

 

止せばいいのに、日頃の恨みからなのか、それとももしかしたら祐相手にそうしたいという欲望があったのか。

 

嫌がらせか冗談かはわからないが、下剤か洗剤か何かが入ったクッキーをもらった。それも立て続けにだ。示し合わせていたのかもしれない。それ以降、手作りのお菓子を渡されると、拒否反応が出る。なんというか一緒に食べる弁当とかは平気な事が多いので、というか手作りお菓子が駄目なんだろう。

 

まぁ、ただそれだけの話だ。まだ純粋な心が幾許か残っていたのだが、それ以降俺にわざわざプレゼントをするような奴はまともじゃないと、子供ながらに納得と絶望をしたものだ。

前世さんも流石にドン引きとか言っていたはずだ。

 

その後も何度か、変なものが入った食べ物は渡された、一口かじって安全確認なんて昔はできたが、中学以降は危険すぎて出来てない。だんだん拒否感もひどくなってきているし。

 

俺に渡すなんて、悪意以外ないだろうって。体が免疫でも作ってしまったのであろうか。

 

「だから、気にするな。気持ちはうれしかったから」

 

「ご、ごめんなさい、あたし、知らなくて」

 

「当然だろ、言ってないんだから。気にしなくていい、竹之下は何も悪くないんだから」

 

こればっかりは、愛情込めて渡されたお菓子を目の前で吐いた俺が悪い。華が祐の分も

合わせて作ってきたのを、華自身と一緒に食べる形でなら。でやっと手作りって渡されたお菓子なら問題なく食えるという、俺の微妙な心理状態と体質が悪い。

 

普通は思わないだろう、手作りが苦手とかじゃなくて、手作りっぽい感じにされると体が受け付けないなんて。だから喧伝もしていない。

 

涙目で謝ってくる竹之下に、何時もと違って目線を合わせて誠心誠意謝る。こちらがむしろ彼女の善意を踏みにじった形なのだから。

 

「気にしないでくれ、美味しかったのも本当なんだ。ただ俺が食えないだけで。ありがとうな」

 

「で、でも……」

 

祐位とは言わずとも、最低限の外見があれば慰めてやれるのだが、俺には言葉を掛ける程度しかできない、彼氏が居るらしい女子相手だし。

近くで見るとこいつまつ毛長いなとか、冷静に考えてこいつ結構恵体じゃんとか考えが浮かぶ程度のゲス野郎だなと前世さんに突っ込まれる。否定はできないので、まぁそういうわけだ。

 

「それじゃあお疲れまたあした。クッキー嬉しかったからな。本当だぞ」

 

もらったクッキーの袋は口を閉じて鞄にしまう。お供え物みたいに数日は飾っておくつもりだ。実際善意での手作りお菓子のプレゼントなんて何年ぶりだろうか。華はもちろんこの体質を知ってるから、基本俺には作らないし渡されても既製品だ。

それも数年前が最後だったはず。

 

まぁ、こんな体質と状況では、普通に恋愛なんて無理だよな。

社会が歪で、俺の体に精神的な問題があって、性格も最悪な下衆野郎、容姿も落第点。横に祐がいれば倍率ドドドンだ。

 

そう納得しようにも、前世さんは「それ自己弁護か自己陶酔だろ。周囲からの同情が欲しかったんじゃね?」と言ってくる。

 

なるほど、確かに何事もなく普通に食べて、普通に美味しいと竹之下にいうよりかは、今の光景は彼女の心に残ったかもしれない。

 

また捨て去ったはずの自尊心を得ようと動いていた自身の浅ましさに反吐が出る思いをしながら、俺は帰路につく。

 

恋愛のあれこれを楽しむなら、祐がいればいいのに。

油断するとすぐ自分でもって思う浅ましく醜い俺が、まだ生きている様子だ。

 

もっと心を凍らせてしまえればな。そんな薬でもあれば飲むのになぁなんて考えながら、今日も長い道のりを歩いて帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ祐先輩、うたのストロベリーあげるね」

 

「あ、ありがとう」

 

「ふみのラズベリーもあげます」

 

「う、うん」

 

ある日の放課後、偶には男子高校生らしいことをやろうと、フードコートでポテト片手に祐と二人でだべっていた。華は本格的に花嫁修業とやらで今日も忙しい。先輩もそろそろ卒業後を見越して動いている。先生もこの時間は仕事というわけだ。

 

最近は上手くやれてるのかとか、色々聞き出そうと尋ねても案外口が固く、性癖はオープンにしないタイプの為に、あまり情報を得られないでいたら。

なぜかそこそこ込み合っている筈のフードコートに現れたのが鯉田姉妹である。姉の詩子に見つかり、妹を呼んであっという間に4人で飯を食う流れとなった。

私見だが、放課後来る途中の何処かで見つけられて付けられていたのではないだろうか?

 

2人がけの小さいテーブルに俺と祐で向かい合うように座っていたのに、気がつけば小さいテーブルがくっつき4人様になっている。

 

そして目の前で繰り広げられてるのは、どっちのアイスがおいしいかなんて食べ比べしている。甘い光景なのだ。いろいろな意味でごちそうさまですだ。

というか椅子が俺から見て扇形みたいな配置になってる。魔王戦かなにかか?

 

いいぞもっとやれ。と思いつつ、形だけは聞いておく

 

「な、なあ俺席外した方がいいか?」

 

「はいっ! お構いなく!」「どうぞ! ご自由に」

 

「いや、そうじゃないから、本当」

 

笑顔でそう答える双子は、むしろわかっている。俺も笑顔でからかうように聞いているので、それに乗っかって思いっきり甘えてやるという魂胆だろう。そのくらいのほうが好ましい。

まぁもとより祐と二人で居たタイミングで、周囲には微妙に牽制のしあいと言うか、取り囲まれている空気はあったし、それに対しての牽制も兼ねているのだろう。

ずいぶん強かに成ったなと感動している。

 

「多数決的には、そうみたいだし、一先ずお手洗い行ってくるわ」

 

「あ、ちょっと待ってって!」

 

「勝手に帰りはしねぇよ。本当にトイレだ」

 

まぁ、俺がいるから何とかなってたが、本来男子高校生二人でフードコートなんて来たら、高校生はもちろん、多くの方から声をかけられる。そういう意味で俺の抑止力としての能力は高い。なんか横に邪魔なデブがいる。そう思ってもらえるのだから。

祐の会社に入れなかったら、そういう仕事でもしてみるか? 虫除け的な。

 

祐が止めてくるけれども、トイレに行きたい理由もしっかりあったし。ポテトで油で汚れた手を洗いに、男子トイレへと向かうのだった。

 

 

「うーん……ガチかなぁ?」

 

利用人数が少ないため、異常に綺麗な男子トイレ。一度手を洗ってから個室に入り確かめる。

あまり言いたくないのだが、この世界の女性はあまり警戒心というかデリカシーがない、と言うか少ない? 弱い? 男の目が少ないのと、むしろそれを集めるべきだという価値観からか。

 

なので、すごく下品な話になるが、街を歩けばかなりいい感じの生のオカズが手に入るわけで、それも俺が男子高校生として健全な程元気であり【社会貢献】出来ていた理由だったが。

 

先日、竹之下のクッキーを食べて家に帰ってから、息子があまり元気が無いのだ。

 

単純に余計なことをしっかり思い出しちまったからだろ。と前世さんは言ってる。

救いなのは完全に【元気ない】ではなく、なんというか何時もは帰って一先ず一発! みたいなモチベだったのが、あー今日やっとくか……でも別にいいかぁ? 程度になったというか。

 

トイレに来る前も祐にアピールをするためか、何故か一枚上を脱いで薄着に成ってる方や、スカートが妙に短い方が足を組み替えながら周りの椅子に座っていたため、多少は反応するかと思ったら、全くであるのだ。

 

まぁ別に困らないし、完全に駄目になったわけでもないし大丈夫か。そう結論付けてみるが。

 

おつとめの方で困るのでは? と前世さんの声に思わずあっと固まるが、まぁ大丈夫だろうと、トイレを流して祐の元に戻るべく小走りで帰るのだった。

 

 

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