男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ 作:HIGU.V
「先輩、一生のお願いがありますっ!」
バイト中からそわそわしてた後輩が、もはやいつも通りと言わるようになった、高校生故の同じ上がりの時間に、殊勝な態度でこっちに頼み込んでくる。
俺の表情が苦虫をかみつぶしたものになるのを自覚しつつ、話を聞くことにする。
「ことわ「まだ何も言ってないんですけどぉ!」
つい反射的に拒否しようとしてしまったらしい。そもそも一生のお願いが文言通りなら、そろそろこいつは解脱できてる頃だ。お前も2回つかえるなと前世さんが言ってるが、ブラックすぎるな。
「話せば、長くなるんすけど…」
「……」
手短にしてほしい。
しかし色々思うところはある。そもなんで俺はこいつの話を聞く義理がある? さんざんシフト変わってやってるし、この前はゲロも吐かされて、不能になりかけたというのに。まぁ謝ってもらえたしそれは良いか。ただ唯々諾々と聞くとこいつは絶対につけあがるからなぁ。
しいて言うのならば同年代で数少ない、普通に話しかけてくる娘だからか。どうにも甘やかしてしまっている。「そんなことで拾った好感度なんて塵にも等しいぞ」と前世さんが言うが、そんなもの自明の理だ。
「あ、あたしって、彼氏いるじゃないですかぁ?」
「ああ、いつも言ってるな」
こいつの彼氏自慢は割とうざったいが、相槌を打つだけでいいので楽な部類ではある。
「イケメンでハイスペックで幼馴染で病弱でお前にべた惚れでお前だけを生涯愛するって誓ってくれる彼氏だったな」
「そ、そう! それです!」
女子高に通うこいつは、学園でのリア充っぷりと彼に如何に大切にされてるかを定期的に語ってくる。自慢話をする場所が他にないのだろうか?
「学園の友達に、彼氏に会わせろって言われたんです」
「会わせればいいじゃないか、週末か? お前シフトなかっただろ」
至極もっともな意見だ。まぁこの世界では男と隙を見せたら食われるから、会わせたくないという意見も一定以上存在する。しかし双方が強い愛で結ばれているのならば何も問題ないだろう。実在するのならば。
「小さい頃から家庭教育を受けて居るほどに、病弱なんでって断ってきたんですけど、写真の一枚も見せないのはおかしいって言われて」
「見せればいいじゃないか」
写真にすら写りたくないというのはなかなかいないし、いたとしても彼女のためにふつうは写るだろ、こんな社会で一夫一妻でいたいと言ってくれる彼氏なら、普通は。
「そっからはもう、売り言葉に買い言葉、じゃあ、実際に会わせてやるって!」
「ん?」
おい、なんか話飛んだぞ、実在証明がないぞ。と言いたいが飲み込む。正直9割以上確信はあるが、あえて乗っておく。
前世さんがいつも笑ってるし、そういう事なんだろう。
「ただ、病弱で家から出れないし、彼の家に招くのもしゃくなので? 外で代わりの彼氏役を用意して会おうと思うんですよ」
もう、理論がめちゃくちゃだな、協力を頼むならそこは真実を告げるべきではないか? と前世さんも仰ってるぞ。
「祐を紹介してほしいのか」
「あ、えっと、その、は、はい、そうです。先輩は、その、イケメンじゃないので……」
しおらしく俯きながらそう言う竹之下。まぁハイスペックな男子と言われてイケメンも条件に入れたら、彼女の知己ではそのくらいしか候補はないだろう。というよりも竹之下は、ぶっちゃけ件の彼氏と俺以外に、日常会話する男いるのってレベルの娘だし。たしか母親と二人暮らしで父親はいないと言ってたからな。
「随分巫山戯ていること言ってるな? お前?」
「わ、わかってるんです! でもそうしないと、私の学校での積み上げてきたものが!?」
いや多分、友人もわかってからかってると思うぞ。さすがにそろそろ精算させようってだけで。終わってみれば青春の1ページになるんじゃないか? 知らんけど。
「俺に何のメリットもない、やる理由がない、祐は忙しい」
「そこを何とか!? かわいい後輩の危機ですよ!?」
割りとミスもあるし態度が不真面目なので後輩としてはともかく、いち女子高生としてかわいいのは認めよう。しかし、それでいう事聞くような俺ではない。
シフト変わっているのだって。限界以上に最初から入れると店長が入りすぎと注意するから、むしろ都合がよかったのである。
「じゃあ、なんでも! 何でも言う事聞きます! 1つだけ!」
「ん?」
お約束だが、この手の約束を吹っかけてくる奴にろくな者はない、どうせ口約束と反故にするか、それは対象外と跳ね除けるか、こっちが頼めなくて日和るように迫るかである。しかし、渡りに船だ。こちらもやってほしいことがあるから。
「書面で用意するならいいだろう」
「え、ほ、本当ですか?」
「ああ、祐が頷けばだが、話は通してやる」
まぁあいつのことだし、スケジュールが空いてれば、俺のバイトの後輩の彼氏のふりをしてその友人にあってくれ。というどう考えても頭のおかしいお願いも……この前のノートと次の試験の山勘と対策と、後は飯を奢るのと今度遊びに行く場所は向こうが決めるあたりで何とかなるだろう。うん。ならなかったら諦める方向で。
「あ、ありがとうございますっ!! 」
「確約はできないぞ、断られたら素直に友人たちに謝れよ」
「は、はい。天の助けです! も、もし断られてもなんでもお礼はします!」
ペンを走らせながら、テンションが高くなっているのか、前払いで確約までしてくる竹之下。流石に哀れだからその場合はお願い程度で良いと思うぞ。
「そうか、それは助かる」
そうして、竹之下の署名をしっかり確認してから、彼氏のふり作戦が実施されたのだった。
祐が驚くほどあっさり承認したので、早速デート当日。いやデートというか一緒にファミレスに行くだけのようだが。忙しいくせに、確かにその日は空いていたみたいだが、それにしたって二つ返事で受けるか? 普通。お前の友人の頼みなら喜んでって。
まぁこれはいい機会だと思う。竹之下は他校の生徒で祐との接点も薄いからあまり考慮していなかったが。
彼女は祐のハーレムにはあまりいなかった、からかってくるタイプの性格だ。
髪型は活発な印象を受ける切りそろえられたボブで、それでいて最初は割りと人見知りしているが、慣れると急に図太くなるタイプの娘であり、俺も騙された口だ。
こういう娘が一人くらいいた方が、メンバーのギスり具合もなくなるだろう。トラブルメーカーでもあるかもしれないが。
背丈はちょっと小柄だが、祐のメンバーには先生だけのいや虎先輩も入るか、持つもの側の娘でもある。
1日一緒にいればどころか 数時間でも一緒にいれば竹之下も祐の魅力に病みつきになるだろう。俺が面倒を見ているタメの後輩とたまに祐には話しているからか、それとも俺と普通に話す娘なんだと言ってるからか、祐からの好感度も高めのはずだ。
だから今回の話を二つ返事で受けてくれたのかもしれない。
それに、イケメンの彼氏がいる……と自称しているわけで、顔が良い男性が普通に好きで変にひねた好みをしていないはずだ。面倒な絡みはあるが悪い奴では決して無いし。もしかしたらこれは彼女なりのアプローチで何度か顔をみた祐との接点を作りたいということなのか?
であれば、可能な限りお互いがいい感じになるようにするべきである。祐が気に入れば晴れて第六婦人になるだろう、学外にも食指を伸ばすタイミングが来たのである。想定より早いが、このペースなら卒業までに2桁の大台に……いや、相手の検証をおろそかにしてはいけないな。まだ鳥槇先輩を虎先輩の許可をとって巻き込むほうが良いだろう。
そうと決まれば俺も気合を入れねばなるまい。少し早い時間だが家を出て聞いていた待ち合わせのファミレスへと向かうことにする。
しかし、事前に打ち合わせでもするのだろうか? 話を合わせないといけないだろうに。連絡先を交換してる様子も俺を仲介してのやり取りしかみていない。あぁ、普通に3人のチャットから個別のチャットに移ったのかな。
なら、俺の考えよりも仲が進んでいるのかもしれない。
「また可愛い女の子がお前じゃなくて祐の事を好きになってよかったな」と前世さんも言っている。
そのとおりだ。竹之下の俺への雑絡みは嫌いではなかったが、先輩に対する甘えであったし。彼氏自慢をしてマウントを取るけれども、本質的には善良な娘だ。しっかりお礼も言えて反省もできる。ならば、真っ当な形で祐と付き合って幸せになるべきだろう。
もう言ってしまうが、妄想の彼氏よりかはずっと健全のはずだ。
何れはそこも友人たちとやらに謝って精算してもらおう。いや、実際にイケメンの彼氏ができるから、詳細こそ違うが成立するのか。
なら、あまり調子に乗らないように釘を差すのが先輩としての最後の指導かな。
というわけで、待ち合わせのファミレスの近くまで来た。既に祐はいるだろうかと外の窓から中を覗いて、ついでに俺が陣取るべき位置を探そうとして見ると……
「ちょっと、いいかな?」
後ろから急に声をかけられる。聞き覚えのある声だな。
なにせこれは俺の幼馴染で数少ない友人の一人華ちゃんの声だからな。
「え?」
いや、なんでこんなところに? 家からも学校からも離れた場所だぞ? おかしいね?
そして、これはすごく怒っているときの声だ。
優しくて控えめな華は滅多なことでは怒らないけれど、妙なところで爆発するんだ。
だからまぁ、怒るとかなり怖い。確か最後に怒られたのは、ババ抜きの時に華の後ろに姿見があったから、俺と祐が圧勝したときに、それがばれたときか? 結構前だが、あの表情は非常によく覚えているぞ。
「や、やぁ華ちゃん奇遇だな、いい週末だ」
振り返りながらそう言うと、いつの間にか、路肩にいつぞや見たの黒いごつい車、祐や華のところの社用車が止まっていて。
「ちょっとお話があるんだ、来てくれるよね?」
中には祐のハーレムメンバー4人、華を含めれば全員がいた。
街中で起こるエンカウントイベントにしては急すぎるだろ。思わず横をみれば運転手さんが道を塞ぐように立っておられる。逆側は華がいて、道路には車だ。うむ、逃げ場がないぞ。
むりやり華を突き飛ばすなどの力技で逃げれなくもないかもだが、正直運動は祐よりも得意な華に、3人で最下位の俺は奇跡に頼ること無く。おとなしく華に従って車に乗ることにする。
しかし、どれがバレたんだろうか。
閉まっていくドアが、断頭台のギロチンに見えたなんてのは言い過ぎかなと思う。
なにせ、俺は何も悪いことはしていない。皆の後押しこそはしたけれども。
そう自分に言い聞かせつつ、俺はシートベルトをしめる。
どうせ逃げられないんだ。腹をくくろう。