男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ 作:HIGU.V
俺と華を乗せて走り出した車。みんな無言である。華は助手席に座らずに俺の横に座っている。まぁ9人乗りのでかい車なので、何ら支障はないが。空気は重い。
女の子5人と別に運転手付きでの週末のドライブなんて、いくら金を払えばできるのだろう? とそんな現実逃避めいた考えが浮かぶ。「お前だったら100万でも無理だろ、撮影系の会社でも立ち上げてそれ目的にしてやっとじゃないの?」と前世さんが悪態をついているが、否定できない。
「それで、皆さん揃って何の用で? 祐なら今日はファミレスに行くって言ってたぞ」
俺の声に誰も言葉を返さない。おう、怖いぞ。無言はつらい。
「出部谷くん、わたしに隠してることあるでしょ」
一拍置いてそう言ってきたのは華だ。呼び方が堅苦しいけれど、まあ状況と心境的なものだろう。
「そりゃまぁ、いくつもあるけど、全部を共有しながら生きてるわけじゃないし」
「ゆう君のことで、どうしてみんなに協力したの?」
開幕ど真ん中だ。まぁ祐との関係以外は割とストレートに来る娘だったから、おかしくはないが。
「豚君は私にも協力してくれたそれは感謝してるわ。でも正直それ位で終わりと思ってたのよ」
先輩がこちらを見ながら追従してくる。まぁ自然に考えて彼女から見た俺は祐へのちょっかいを出してくる先輩をいろいろな意味で留める為に動いた。と思われるだろう。
しかし、この社会に置いて男性が複数の女性を囲むのは当然のことで、俺は何も悪いことをしていないはずだ。
「うたも、ふみも先輩のおかげで祐先輩とお付き合いできました」
「だから、ありがとうございます……でも」
双子に関してもだ。姉妹まとめての方がトラブルもなく、何も問題はないはず。彼女たちが望んでしたことであり、俺はただきっかけを作ったに過ぎない。放置したら彼女たちはそのままただの後輩止まりだっただろうけれども。
「いや、私は割と職を失いかねなかったのだけど」
「それについては、すみませんとしか」
ゆかり先生はまぁ立場上難しかった。まぁそれでも俺は選択権を差し出すまでしかしていない。リスクを取ってまで祐と付き合うことにしたのは先生だ。自身を抑えていたのを緩ませるようなことをしたのは事実であるが。
「昔言ったよね、いつか華をお嫁さんにしてやるって」
「ああ、言ったぞ」
言い方は紛らわしいが、華を祐のお嫁さんにする約束。これははっきり覚えている。別に華が俺に好意があるとかじゃなくて、祐をめぐる女性トラブルが本格化してきたときに、おれが華に約束したことだ。絶対くっつけるぞと。
いやまぁ正直その頃から後はどっちかの告白だけだったけどね。俺は何もしなくても君たちはいずれくっついたはずだし、くっつかないなら俺が何かを絶対するはずだ。
祐は立場をしっかりしてから迎えに行くくらいの悠長な考えだったし、華はリスクを恐れて石橋をひたすら叩いてたしで。
俺も祐はハーレムを作って欲しい、それも良い娘だけで固めたという考えだったから、ある程度メンバーの選定が出来るまでは、現状維持に努めていた。綺麗に全員の意思が一致していたわけだ。今年の春先までは。
「だが、華だけをお嫁さんにするとは言ってないぞ」
「それは良いの。仕方ないから。でも、ゆう君の気持ち聞いた?」
「勿論、ここにいる皆の事を一定以上に好ましく思っているのは、しっかり確認したぞ」
そう、俺は何も悪いことをしていない。祐が好感度を持っている相手に祐を好きな娘の中で機会を提供しただけだ。そこに俺の楽しむ心があったのは否定しないが。誰かを傷つける意図は一切なかった。社会的にもだ。
「どうして君の都合で、ゆう君が恋愛しなきゃいけないの?」
「え?」
「【今になって】急にゆう君がみんなと付き合ってるのって、全部ぶー君の都合でしょ!?」
それを言われると弱い。この時期に始めたのは、実際に完全に俺の都合だった。このままゆっくり放置していれば、華と先輩だけで終わりそうだなと思ったから。
まず華を1歩押し出して、それに追従をさせる形にした。
華と祐の場合はそれぞれの両親と会社的にも早い方がいいだろうっていうのもあったから。完全に俺の都合ってわけでもないが。ああ、これも周りの都合か。
「……確かにそれは俺の勝手だった。だけれども、現状に不満はあるのか?」
そういって周囲の顔を見渡す。理想的ともいえる女性間の階級争いがほぼないハーレムだ。これには華ですら黙るしかないだろう。
正直に言うと、華が仲良くできそうかっていうのも選定基準に入ってたんだ、小さい要素だけど。そういう意味で取り巻き先輩とかも是非にだったんだが。まぁいいか。
「じゃあ、先輩はこれからも祐先輩の女性を増やしていくつもりなんですか? 大丈夫そうなら」
「否定はしない」
当然まずは5人と考えていたわけで、今後も祐の反応次第でガンガン増やすつもりだ。本当は否定してこの場を乗り切りたいが、そもそも現在進行形で竹之下と祐が会ってるんだ。場所を押さえられた以上知っている前提で問答をするべきだ。
「スケジュールとか、色々無理があるでしょ」
「俺が出来る範囲でサポートはするつもりだし、しているだろう」
勉学や将来的には仕事と大変になるだろう。そして、女の子同士のデートなども煩雑になっていくはずだ。男女の営みに関しては代わってられないけれども、それ以外の雑事や、スケジュール管理やらなにやらの手伝えることはやるつもりだ。
マンネリ化したとかいう相談されれれば、提案型営業もできるだろう。知識だけはあるからな。
「それはあなたが今学生だからで────」
「将来的に仕事以外で忙しくなる予定もないが」
「あなたに彼女とか恋人が出来たらどうするの」
「できるとでも?」
先生の諭すような言葉に対しても俺はかすりもしない。こんな阿呆で不義理なことをしている男で外見も醜悪だ。そんな俺に恋人ができるなら、そいつは相当偏屈な金目的な奴だろう。不細工専門で、性格破綻者が好きで守銭奴ということだ。
今見えている人生のレールにおいて、俺は祐から離れない限り地位や給与でも祐を上回ることが一生ないのだ。そして俺に祐と離れるつもりもないので、横に最高の男が常に控えていることになる。
憐憫や博愛精神に狂うほど染まった娘がもし、俺のことを好きになったら。底抜けに優しいその娘こそ報われるべきで、つまり祐と結ばれるべきだ。それが一番の幸せになるのだから。
「さっきから! 何様のつもりですか!! 祐先輩は、うた達は貴方のおもちゃじゃない!!」
「勝手に祐先輩の恋人を作るように誘導しないで下さい!!」
「祐かその娘が求めているのを確証してから動いたんだぞ」
俺の悪びれない態度に双子が噛みついてくる。だが勝手にではない。華は望んでたし、先輩は狙ってた。君たちだって諦められなかったし、先生は飛び込んできた。そして祐が応えた。
「そうじゃない! 貴方はもう戻れないように逃げ道を塞いでから声をかけてる!」
「……そんなことはない」
その言葉は否定しきれない。でも肯定するわけにはいかない。
「ほら、また平気で嘘を吐く糞野郎だ、そうまでして周囲から同情を買いたいのか?」 前世さんがそう言ってる。ああ、そうだ。俺はどこまで行ってもモテない事で周囲の同情を買う。そうすれば少し心が救われるから。
「そんなんだからモテるわけないんだ。大人しく惨めに静かに生きれば、少しはマシになる」昔から前世さんはそう言ってくれる。そのとおりだと俺も思う。誰にも必要とされないで生まれて育ってきたんだ。そういう人生の方向性なんだろう。「期待して傷つくのは馬鹿のすることだ」全くもって同意だ。
俺は単純な馬鹿だから少しでも優しくされれば好きになってしまいそうになる。しかし外も中も腐っているんだ。その優しさに漬け込む最低な奴にだけはなりたくない。前世さんが言うように傷つくだけなら恋愛なんてする意味がない。
だからこそ、祐だ。あいつは俺と違って、周囲から周りから愛されて必要とされて生まれてきた人間だ。そんな人間ならどこまでも幸せになり、多くの人に囲まれて過ごすべきだ。
祐は昔から度を超えて優しいやつだ。俺が祐には有害でしかないからと、遠ざけようとした女子ですら同情してしまうようなイイヤツなんだ。
華もそんな祐の優しいところが好きだから、他の女の子と祐が楽しそうに話していても、自分を抑えられるいい子なんだ。
だったら二人は絶対に幸せにならなきゃ嘘だ。
そうでなきゃ、俺は何のためにこんな変な社会に生まれてきたんだって話になる。俺みたいな欠陥品は欠陥らしく相応な人生を送る。今いるのは多分、祐を補佐するためだ。もしこの世界がゲームならきっと祐が主人公で、俺はモブか何かの一人だろう。それでいい。
俺はただ、何かの役に立ちたいだけだ。その結果もし、祐に嫌われても仕方ない。それであいつが幸せになるなら。
「ぶー君のそういうところ、わたし嫌い」
「え?……華ちゃん?」
「わたしもゆう君も、ぶー君の良いところ知ってるのに、いっつも自分は何もないみたいに言うの、嫌い。ゆう君もそう言ってるよ」
ああ、嫌われても構わない。親に捨てられ、国にも捨てられて、じゃあ、誰に望まれて生きてるんだって話だ。くそったれな社会の為になんてにしたくない。育ててくれた礼として、維持のために種を提供してる分で十分だ。
「いっつも優しくて、なんでも知ってて、頼れるお兄ちゃんだったのに、なんでそんなに【気持ち悪く】なっちゃったの? わたしもゆう君も友達が格好いい人だって、言いたいんだよ?」
少しだけ目に涙を浮かべて、華は俺にそう言ってくる。それを言われると弱い。俺が昔優しかったとかは置いておくとしても、格好悪い友達でいるのは、二人にとって良くないかもしれない。しかし俺が気持ち悪いのはもう仕方ないだろう? そういう星の生まれなんだ。
「話がそれてるわ、今日の要件は違うでしょ」
「そうよ、風間さん。話すのはこれからの事でしょ?」
「祐先輩に、もう女の子増やさないでください!!」
どこか複雑そうな顔でこっちを見ている虎先輩も含めて4人は、結局そこに行きつく。まぁそうなるよな。俺がどうこうとか、そんなのはどうでもいいんだ。俺にとっても。大事なのは祐のことだ。
「祐が望まない限りはもう増やさない。万が一俺に相談してくる子がいたら、相談には乗る。だけどこっちから誘導をしない。それでいいか?」
祐が望むなら、望むだけ女の子を祐のハーレムに入れるようにサポートする。そうして祐が幸せになれるなら、別にいいじゃないか。
勿論、ある種の既得権益をもっている今の5人からしたらたまったものではないかもしれない。しかし恋愛は弱肉強食だ。華以外は祐に飽きられないように自助努力が必要だろう。まぁ優しい祐が女性を疎かにするとは思えないけれども。
人は望まれなくても生まれてこれるが、誰かを幸せにしないとそれは人じゃない。つまり俺は人でなしだ。そんな人でなしが役に立つのだから、望むべきことではないか?
「要するに、祐が他を見ないほどに君たちに夢中になればいいんだ。そうすれば仮に俺に相談した娘がいて、その娘が祐にアタックしてもフられて終わる。それは俺の関知することじゃないだろ? 君らの理屈なら」
多少不満げな目で見られるが、納得はしてくれたらしい。こうは言いつつ、祐が望む限り俺は彼女たちが祐と幸せに暮らせるのをサポートするつもりだ。嫌がられてもやめない。祐か華が明確に拒絶するまでは。
「引き続き、何かあれば手伝う。祐のためならな」
「先輩って、祐先輩が好きなの?」
双子の妹に無邪気にとんでもないことを聞かれるが、正直その疑問は何度も通った身である。
「人としては大好きだが、こんななりでも俺はストレートだ。祐は恋愛対象じゃない」
「そうですか」
俺も恋愛的に祐を好きだったら、むしろもっと距離を置いたと思うな。こんなクソみたいな男に好かれる祐とか、考えただけで悍ましい。まぁそうじゃないからどうでもいいか。
「ともかく、今度から勝手に祐君の恋人関係にあれこれしないで、するなら予め言って」
「ああ、仕方ないが同意する」
そうして俺は業腹ではあるが、祐の無限ハーレム計画を修正せざるを得なくなった。まぁ祐が少しでも不満なら女性と偶然の出会いすら演出するが、しばらくはいいであろう。まずは5人、今日の結果次第では6人の奥さんで始めてもらう。それでも十分幸せだろうからな。
ただ、途中で華に言われたことは、少しだけきつく感じた。
格好良い友達でいてほしい、か。
とても無理な相談だけれども、格好悪い人間で申し訳がない。「クソみたいな性格で生まれたんだから仕方ないだろ、他人と距離を置いて同情を引くのを我慢すればいい」前世さんがそう言っているのを噛みしめる。寂しさはあるがその通りかも知れない。
俺の内心なんて毛ほども価値がない。流されやすく一貫性がない男なんだ。何度も楽な方に行こうとして前世さんがブレーキをかけてくれてる。踏みとどまるのは人として当然だから、格好良くはないだろう。
後で華には別に謝ろうと思いながら、俺はこのドライブが各々を送り届けて早く終わることを祈るのだった。
「それじゃあ、ご友人にもよろしくね」
「は、はい、龍瀧さん! 今日はありがとうございました!」
竹之下さんだったか。親友のバイトの後輩とのなにやら愉快な状況の為、彼氏のふりをすることとなった。面白半分思惑半分で受けたけれども、たぶん本人的には誤魔化せたと思っている様子だ。
ご友人方は彼女がいない間に僕に 役者さんですか? って確認してきたので、見破ってそのうえで乗っている訳だが、まぁそれはいいか。
ちょっと見栄っ張りなのと、多分彼氏の話自体は前からあるけども、彼に対して誇示するかのようなあの喧伝っぷりは。きっと彼女なりの駆け引きのつもりなのだろう。
不器用だなぁと苦笑しつつ、そして逆効果だと採点しつつ。僕はゆっくりと帰路に就く。
さて、折角の機会だったし。これで華以外の皆もわかってくれるといいけど。まぁ亜紗美さんは別口で肯定的ではあるので大丈夫かな。
いつの間にかというと少し失礼だが、僕のことを好いてくれる女性たち。華は……元よりだけれども。彼女たちと今の関係になったのが彼の影響が大きいのに、正直な所気づくのが遅れてしまった。ゆかりさんの時でやっと確信した、自分の鈍さに笑いたくなる。
あの頃は急に距離を詰めてくる皆に困惑でいっぱいだったんだ。思えばそれも彼の狙いだったかもしれない。いきなり5人も恋人ができたけど今はとても幸せだ。戸惑うことは多いけれどもね。
そんな彼女たちにも、きっと今日のことのおかげで、僕に協力してもらえるようになると思う。あれだけ重篤なのを感じて貰えればね。
僕は、知らない人たちと話して少し疲れたなと思いつつ、軽い足取りで家に帰る。
「ねーねーお兄さん、今暇? これからどこか────」
「邪魔なんで失せて下さい」
歩けば棒に当たるほどに話しかけてくる、一山幾らの目障りな女は適当にそう言えば引っ込む。そのことには別にもう何も感じない。
今はもう、僕は昔の僕じゃないから。彼に庇われるだけだった弱い僕はもういないから。彼の手袋と顔を見る度に変わることを決意したあの日を思い出す。
「忙しくなるかな?」
時折、変な独り言を言う彼をどうにかしたい。華と僕はずっと甘えてきちゃったから。だからその為に僕は皆の力を借りたいんだ。
涼しくなってきた街の風を感じながら、僕は少しずつこれからのことを考え始めるのだった。