男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ 作:HIGU.V
きっかけは些細な事だった。
大事な大事な家族の玉ちゃんが、なんか後ろ足2本で立ち上がって、こっちに餌を要求して鳴いてるのが可愛くて、つい動画撮った。そしてそれを風間さんに送ったこと。かわいーって言ってくれたので姉として満足である。
そして、そんな事があったのなんてすっかり忘れて、もうすぐ学年が変わるし、店長に辞意を表したら、お願いだから4月までは居て欲しい、大型連休前までに新人が使い物になるようにするから、それまでは。と交渉され受験生なんですけど? というカードで交渉して最後の最後に時給を上げて貰う代わりに同意した。
だから時給が上がったことを、いつもの帰り道で先輩に自慢してたら、突然。
「な、なぁお前の家行っていいか?」
なんて、顔を赤らめているのが街灯の白い光でもわかる先輩がいて耳を疑った。いきなりめっちゃ距離詰めてきた!? え? 今夜いきなり!? お母さんいるのに!? って惚けてしまって何時もみたいにからかって意味を聞くのが出来ないで普通に、素のまま
「な、なんで?」
って答えてしまった。もうちょっと答えようはあったでしょって思うけど。完全に不意打ちだったから。
「猫……いるんだろ?」
「え? あ、はい。玉ちゃんですか?」
「ずるいじゃん、お前あんだけ今まで色々話してるのに、猫の話してなかったじゃん!!」
なんか子供みたいに拗ねてる先輩、最近ますます痩せてきてはいて、普通に小太りくらいになってる。だけど成長期なのか更に背が伸びて体重はむしろ増えたんだって。龍瀧さんが羨ましがってた。そしてそんな大きな先輩が、子供みたいな口調でこっちを恨みがましく睨んでくる。
「あれ? 言ってませんでした?」
「どうでもいいことは言ってたけど、猫がいるとは言ってないじゃん! 制服にも猫毛付いてないじゃん!」
「えぇ……」
そりゃ家で生活してれば猫の毛の掃除はしっかりするし、うちの妹は雑種だけどベースがそうなのかあまり毛が抜けないし抜けても短いから。というか、今までで一番アタシに感心を寄せている気がする。玉ちゃんのおかげとはいえ、少し複雑だ。
「ま、まぁ来るのは構いませんが……今週末の日曜なら空いてます」
「ほ、本当か!? お願いしていいか!?」
「いいですよ」
あれ? 先輩が、おうちに、来る? え? こんなあっさり? いやもうアタシも学習している。こういう時の先輩には、大した意図がなくて、期待すると空回りするだけだって。
ぶつぶつと、まぁそらお邪魔になるだろうけど、猫だし。なんて独り言を言ってる先輩はきっと完全に玉ちゃんの事しか考えてないだろう。
でも、日曜日かぁ……美容院予約間に合うかな? そんな事を考えながら歩いてたら一回改札に引っかかったけど、アタシはなんとか家に帰るのだった。
「うわぁ、可愛いな」
「ふふん、アタシの妹ですからね」
そして、何事もなく先輩はやってきた。春休みで日曜日だし制服でもトレーニングウェアでもない。ミリタリージャケットとデニムでちょっといかつい感じの格好だ。筋肉も増えてきたから強そうに見える。
そして多分これ風間さんが買ったやつだ。祐君に試せないのはこっちになのって言ってたやつだ。なんか複雑。
玉ちゃんは、たまーにアタシの友だちが来る程度で他所の人に慣れていない子だから、抱っことかは出来ませんよ。って予め伝えておいた。何なら撫でるの無理かもですよって。
なのにこの娘ったら初めて見る男の人に興味があるのか、先輩がお土産をお母さんに渡して、荷物を置こうとする前から脚の近くをうろついて。リビングのソファに腰を据えたらぴょんと、アタシと先輩の間に入って、先輩の太ももに手をかけて覗き込んでる。
なんて娘だ。アタシの友達なんておもちゃで誘ってもよってこないのに。
「人懐っこいな、うわぁ……猫……ヌコ……」
「先輩、表情がやばいっす」
完全にメロメロになってる先輩を見るのは始めてだ。表情とかすごい緩んでるし人間は猫の前で本性を表すというやつだ。
まぁ龍瀧さんも風間さんも動物を飼ってなくて、先輩も一人暮らしでペット不可って言ってたから、憧れがあったのはわかる。あんだけ広い家に一人でいるくらいなら、ペット可のところに行けばいいと思うけど、まぁ高校生じゃ猫は飼えないか。
「だ、抱いてもいいかな?」
「ッ! だ、大丈夫だと思いますよ」
アタシの言葉に待ってましたとばかりに優しく手を伸ばして胸元に抱え込む。サービス精神旺盛なのかきょとんとした顔で、先輩を見つめている玉ちゃん。抱っこ嫌いな子でアタシかお母さんでも気分じゃない時は嫌がるのに。今日は大人しく先輩に抱きすくめられてる。
せんぱいに、だきすくめ、られてる……いいなぁ……
「おやつ、あげます?」
「良いの? やるやる!」
なんか、先輩が先輩じゃなくて普通の男の子になってるように思える。まぁそれだけうちの妹が可愛いというわけで誇らしいのだが、だんだんなんか変な気持ちになってきた。
アタシの前だと、キャラ作ってたんすか? なんて言いたいけど、むしろ動物の前でキャラが変わるだけなのかもしれない。テレビでそういう人見たことあるし。
ペースト状のおやつの先を切って先輩に渡すと、全く警戒すること無く玉ちゃんは先輩の手ずからおやつをもらっている。
「ああ、ああ、かわいいなぁ、ベチャベチャになってるよ」
先輩は割と不器用なのか、玉ちゃんが雑に食べるからなのか、手がベトベトになっている。もう仕方ないなとウェットティッシュを横から取り出して……手がふさがっている先輩の手をぬぐってあげる。
「先輩の手もドロドロになってますよ」
自然に始めちゃったけど、右手で玉ちゃん持って左手であげてたから、先輩の左手を靴でも磨くように拭いてあげると、何故か先輩が固まって、苦笑いをしてる。手がやっぱり大きいなとか、思ったよりプニッとしてなくてゴツゴツだなとか、考えてたのがバレた? 流石に考えすぎ?
「ありがとうな」
「いえ」
餌が終わりとわかって満足したのか、玉ちゃんは身体を捩って先輩から降りると自分の餌場に水を飲みに行く、自由だなぁ。拭き終わったティッシュを捨てて、先輩の方を見るとなんか先輩は左手を閉じたり開いたりしてる、噛まれでもしたのだろうか?
「怪我ですか?」
「いや……女性の手握ったの始めてで少し驚いた。こんなにすべすべなんだなって」
「っす!?」
少しはにかむ様に笑ってる、先輩、え? ちょっとまって、いや待って、なにそれ、どういうこと、聞いてない。ちょっとアタシが勇気だしてやってみたら、なんかすごいこと言ってる。手を握ったこともないの? 男の子なのに? アタシが初めて? お母さんとかは? あわわわとばかりに、思考がから回っていく。
「あ、ごめんセクハラ? になるか」
「気にしてないのでいいです。それよりおもちゃで遊びます?」
「ぜ、ぜひ!!」
ごまかすように、玉ちゃんのおもちゃ箱を渡せば、先輩は子供のように目を輝かせて、どれを使うかを選ぶのだった。
結局玉ちゃんと満足するまで遊んだ先輩は、それだけで特に何もすること無く帰っていった。本当に猫と遊ぶために電車で来たのか、出不精で引きこもりがちだって言ってた先輩が。
それだけうちの妹は可愛いんだと、誇らしげになりながら。アタシは今日は休みだからお母さんが作ってくれたご飯を二人で食べる。
「玉ちゃんがあんなに懐くの驚いたね、先輩マタタビでも浴びてきたのかなぁ?」
初見の先輩にこれでもかというくらい、無邪気にじゃれついて。先輩も経験もないだろうにわりかし上手におもちゃを動かしていた。そんな光景を思い出しながらアタシがそう言うと、お母さんは少し曖昧に笑った。そしてゆっくりと口を開く。
「なんか、ちょっとパッとしないというか、ぽちゃっとした男の子だったね」
「あー……まぁ、そうね」
実際、まだ贔屓目に見ても太ってるのは否定出来ないから。身長のおかげで誤魔化しが多少は効いてきたけど。
「純、無理に男の子と付き合う必要はないのよ? 貴女は貴女の好きな人ができるまでゆっくりと探せばいいの」
「……え?」
お母さんはどこか言い難そうに、でもこっちを見てスプーンを持つ手を止めて話している。
「お世話になってるんでしょうけど、女性として求められても断っちゃいけない道理はないの。貴女は自分を大事にしなさい」
それは、どういう意味かわからなかった。いや実を言うと最初に先輩が来た時の顔や。そもそも先輩が来るという事を話した時から。お母さんはどこか微妙な表情をしていた。
「前に言ってた王子様みたいな人だって、いるんでしょ? 変に妥協はしないで頑張ってみたら?」
そう、お母さんは。先輩のことが多分アタシの好きな人だって、認めたくないし信じたくないんだ。アタシもこの年になれば、お母さんがこの社会で生きづらそうにしてるのはわかる。男性ならそれだけで人生が楽々というのは、大筋では間違ってないことも。
そして先輩が、アタシからみれば大分格好良くなっていってるけど、一般的に見たらどうなのかも、わかってる。龍瀧さんに比べたらよりどうなるのかも。
「わ、わかってるよ。お世話になった先輩だもん!!」
否定したかった。でもお母さんと二人でまだまだ暮らしていくんだ。アタシが飲み込めばそれでいい。でもこう言ってしまったら、それはつまり。
「好きな人とかじゃ、ないし!! アタシまだ、好きな人とかいないし!!」
「そうよねぇ……男なんていい人がいたら程度でいいじゃない。ああいう男に求婚されても断っちゃいなさい。学生のうちにそう言ってくる男なら一緒になっても碌な目に合わないわよ。純は可愛いんだからそういう目で見られてるだろうし、家にまで来るんですもの、玉ちゃんを出汁にして」
「も、もう! お母さんやめてよ!」
「ごめんなさいね、心配で」
口に出しちゃった言葉は、いっつも自分を苦しめる。彼氏のこともそう、あくまでお礼ですもそう。そして好きじゃないってもう何回目だろう。
でも、お母さんにも嫌われたくない。ずっと育ててきてくれたし、なにより間違ったことは言ってない。先輩じゃなくて、龍瀧さんを今日連れてきてたら。多分諸手を挙げて歓迎したのもわかる。それくらい、先輩は先輩なんだ。
「今日はもう寝るね、疲れちゃった」
「そう、おやすみなさい」
また、やっちゃった。そう思いながら、アタシはさっきまで美味しかったご飯を下げて、部屋に入るのだった。
十三が今回も華に必死で勉強を教えて、また3人で同じクラスに。そして最後の同じクラスになった春のある日。僕は十三から興味深いことを聞きだした。
「そういや先週から竹之下がしばらく同僚と帰るから、お迎えは来ないで下さいって言っててさ。もうなんかしっかり習慣になったし、それにあいつ今月でやめるから送り届けるのおしまいにしたんだ。その代わりに駅まで行くことにしたんだよね」
「へぇ……まだ続いてたんだ」
「冬を過ぎればむしろいい感じの気分転換になるからな」
時たま家の人にお願いして、十三と竹之下さんの帰る所がどんな感じか確認してもらっていたけれど。正直距離感が恋人のそれだった。そして彼女が現在交友関係として、同僚と一緒に帰る時間帯及び方向の人がいないのも知っている。
つまりはだ、また十三が変なことを言い出したか、彼女側で何かしらの心境の変化があったかのどちらかである。
「竹之下さんって、今日シフトなの? 」
「ああ、そのはずだぞ」
「そっか」
正直、なんで此処まで仲良くなっているのに、恋愛方面に思考がいかないのかと思わなくもないけれど。まだかなり変な感じに拗れてネガティブな思考をする時がある。
だからまぁ、早速様子を見に行ったのである。
「やぁ? ちょっといいかな」
「龍瀧さん?」
案の定、一人で出てきてそのまま帰途に就こうとする彼女に車を止めてもらい話しかける。まぁ絶対なにかあると思ったんだ。十三が言語化出来てないけどなんとなく変だと思って、僕にSOSを送ったような。そんな気がしたから。
「家まで送るから、お話に付き合ってくれないかな?」
「……はい」
運転手には30分くらいかけて行くように伝えてから、彼女を招き入れる。僕は一瞬助手席に視線をおくってから、改めて竹之下さんを見る。
「十三と喧嘩でもした?」
「いえ、先輩とは、なんにもありません。というか、もう先輩でもないですよね」
どこか投げやりに皮肉げに彼女はそう呟く。ああ、絶対何かあったじゃないかと確信を持ったけれども、この様子だと判断ができない。十三が無意識にやらかしたか、彼女の行動を十三が気づかなかったか。もしくは彼女自身がなにか悩んでるかなの可能性が高いかな?
「先輩に言われて来たんですか? 様子を見て欲しいって?」
「いや、そうじゃないよ」
「やっぱり。そうですよね、先輩はこんな回りくどいことしませんから」
投げかけてきた質問に素直に答えれば、むしろ少し意気消沈したように見える。これは重症だなぁ。もう聞いてくれって言ってるようなものじゃないか。とは思う。十三の周りの人って、どうしてこう面倒くさい感じなんだろう。
だけれども、直接聞き出そうとすると、きっと意固地になるなぁ。となればちょっと遠回りをしよう。この車に乗って僕と話している時点で彼女が何かしらの解決を望んでいるのは事実なんだから。
「十三は結局、君が辞めるまでジョギングを続けたんだね」
「はい、先輩は殆ど毎回来てくれました。アタシがいない日も来ているみたいですけど」
「そうか、本当に頑張ってるよね」
十三はやる時はやる男だから。ただ最近までそれを変な方向に頑張っていただけだ。
「先輩は、どうしてあんなに素直で真っ直ぐなんでしょうか?」
「え!? 十三が素直?」
「だって、アタシみたいに、自分のことさえ言えない人じゃないじゃないですか」
確かに十三は良いやつだけれども、僕が言うのもおかしいけど彼はかなりひねくれている。出力される行動は素直ではあるけれど、なんというか価値観が少なくとも素直じゃない。入力のフィルターがおかしくなっているんだ。
「自分のこと?」
「アタシ、お母さんにも先輩のこと、好きじゃないよって言っちゃいました。先輩のこと、格好良くないって言われたから」
聞いてみるとどうやら母親に反対されて、思わず母親側に立った意見をいってしまって、自己嫌悪をしている様子だ。えぇそんなことでと思わなくはないけれど、彼女からしたら大きなことなのだろう。
「ねぇ、まず君は本当の所、どうなんだい? 誰にも口外しないから教えて欲しい」
「……です。その、つまり……嫌いじゃない、です」
ものすごい小声で正直聞こえなかったけど、まぁこれを聞くのは僕じゃない。だけれども、彼女自身が言葉にするほど気持ちが向いているというのがわかっただけでもかなりの収穫だ。
「……そっか、でもそれを誰にも言えないんだよね? それはどうして」
「はい、アタシは……怖いんです」
「十三に嫌われるのが?」
「そうだったら、よかったですね」
まぁ正直十三が一度仲良くなった相手を嫌うのって、ほぼほぼありえないとは思うのだけれども。でも僕ももし十三に嫌われたと考えると背筋が凍りそうになるし、ある意味では気持ちがわかるとも言える。
「アタシは、誰かにがっかりされるのが、とても、怖いんです。あたしはその、先輩は全然ありなんですけど、一緒に歩いててどう見られるかなって、思っちゃうんです」
俯きながら、彼女は独白を続ける、僕にはギリギリ聞こえるくらいの声だけれども、感情がのっているからか不思議と頭に入ってくる。
「仕事でもそうでした。出来ない自分っていうのが見えてくるのが恐ろしかった。部活は補欠だったけど試合がないのは本当は心地よかった。つい言ってしまう嘘も、恥ずかしいからだけなら良かった。アタシはアタシを小さく見られるのがたまらなく怖いんです」
でも、悩み自体は僕にはわからない、というかこれって……
「先輩は、その顔が……良くないじゃないですか。でも、それでも格好良くなるために、少しずつ努力してて、本当アタシ何かとぜんぜん違う。アタシはそんなの出来ない。だめな自分を見て晒して、それを良くしてもらおうなんて、できないです」
「どうして?」
「あたしには、なんにもない! お父さんも、男の子の友達もいなかった! 勉強もそんなにできないし、運動も! 趣味も! アタシにしかないものがなんにもない!! そんなアタシが怖い! 小さい頃に気づけてもっと努力ができてればよかった! 空っぽなんです!」
ああ、やっぱりそういうことか。これは言っていることをそのまま素直に聞いちゃ駄目だ。結局のところ、これも悩みの一つにすぎない、大本はきっと別にあるやつだ。
「……空っぽって、そんなことないよ」
「アタシはどこにでもいるような女の子です。特別な何かがなんにもないです。友達だって明るい自分を意識しなきゃ出来なかった。先輩とは本当は同い年なのに、後輩でなきゃ話せないのに? 今まで男の子と話したことなんて殆どなかったのに?」
そして此処まで聞いて思ったのは、多分これを解決するのは僕じゃないな。っていう気持ちだった。というか、多分何もしなくてもどうにかするだろうという、十三への信頼感という気持ちだった。
よかった、病気で寿命がとかそういうので距離を置くんだったらどう仕様もなかったけど。
「えっとね、まず君の友だちも僕が君の彼氏でないこと、知ってるよ?」
「え? えっと?」
「君は、君が言うほど周りから大きく見られているわけじゃないよ?」
なんというか、この悩み自体は、変にコンプレックスを拗らせて。生きている意味とかアイデンティティがないと駄目なんだって。そう思ってる感じかな? うーんあんまり十三の近くに置いて悪影響があるなら止めたいけど、まぁこのくらいならご愛嬌かな?
「でも、それを見ないふりしてくれてたんじゃない? 友達ってそういうものだよ。結局さ、どうでも良いんだよ、相手からどう思われているかなんて。お母さんがどう思おうかなんて」
「そ、そんなことないです、だって!」
「本当はさ、ただ十三にどう思われてるか分からないから、変な理由をつけてるだけなんじゃない?」
ピタッと、竹之下さんの動きがとまる。ほら、色々理由つけてるけどさ。彼女は要するに十三からのアプローチがないと動けないだけなんだと思う。クッキーくらいじゃない? 聞いた感じ彼女が能動的だったのって。
それが自信のなさであり、彼女自身が否定されるのが怖いっていうところにつながるんだ。
「だ、だってぇ! 先輩アタシより、玉ちゃんとかコンビニの人員が足りてるかとかのほうが興味あって。アタシのことなんて、どうでもいい感じなんです!」
うーん、思ったよりも面倒くさい。彼の前でこういう事言えたら、それで終わりだと思うけど、いや十三のことだから直接言わないと変な誤解するか。
「あ、アタシがこんなに、見栄っ張りだから、なにをしても見てくれない。ほんとの自分も虚飾の自分すらもみてくれないじゃないですか! 彼氏がいるって言ったときもそうじゃないって言ったときも、先輩の対応何にも変わらないし、二人でよく会ってるのに、何もしてこないし!」
「そりゃそうだよ、だって君が君自身の件は触れてほしくなかったんだろ?」
「え?」
「十三は、仲良くなった人なら嫌がるようなことはしないんだよ。君が嘘をついたなら、彼はそうなんだって触れないで騙されてくれるはずだ。見栄と今の君どっちが本当かなんて言われたら困るでしょ?」
そもそもどっちもおんなじ人間なんだからね、わかっていれば口には出さなくて良い。ようするにこの娘は色々と高潔というか夢見がちというか。
満点の人間しか愛されない。満点とは0点から積み上げるもの。みたいな変な潔癖があるだけだ。そして受け身だからこんがらがっている、そういう意味で十三も受動的だし。そりゃ進まないよな。
もっというと、始めての男の子の友達と、どうすればもっと仲良くなれるか全くわからないから頓珍漢なことを言ってる感じかな? だから自分が足踏みする理由を見つけると拾っちゃうんだ。お母さんに反対された! つい素直になれなかった! どうしよう先輩! なんだよこれ、面倒だなぁ。
「じゃあどうしろっていうんですかぁ!!」
感情がいっぱいいっぱいに成ったのか、遂に泣き出してしまった竹之下さん。路肩に一度止めてもらって、僕は一度車をおりる。
「それじゃあ、華お願いしてもいいかな?」
「うん、もちろん。二人の為だもんね」
あとのケアは助手席の彼女と代わってもらう。今日は彼女と過ごす日だったから、十三の件でと話したら協力してくれたのだ。
まぁこれでもう大丈夫だろう。今日から本格的に彼女は彼女なりに十三にアプローチするだろうから。する、だろうか? いやしてもらわないと困る。アドバイスか入れ知恵には限界あるし。
横に座った華が、竹之下さんの顔を拭いてあやすように撫でているのを鏡越しに見て、僕はそう一息つくのだった。