男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ 作:HIGU.V
駄場編です。3話にまとめたい。
中学になって、十三が本格的にクラスの女子たちと冷戦を始めていたころ、僕はいまだに彼の後ろにいた。だからかある時にちょっと様子が変わったことに気が付いた。
何がというわけでもないんだけど、なんとなく前よりも女子に対して優しくなったというか、無駄に煽らなくなったというか。手心を加えるようになった? そんな雰囲気を感じたんだ。
理由はわからなかったけど、漠然と良いことだなって思ってたある日、二人で彼の家で宿題を教えあって────ほぼ教わって────たら、突然女性が訪ねてきた。
十三は慣れた様子でなにかの道具を渡して、笑顔で彼女は受け取った後、交換して新しいのを渡していた。廊下越しに目があったらその人は僕にも会釈をして、お友達と遊んでたんですね。って言って帰っていった。
「今の誰?」
「ああ、あの人は献精の営業の人」
それは、ある程度の年齢になったなら考えなきゃいけない、僕ら男子の義務みたいなものだ。それを彼はもう始めていたんだって、少し驚いた記憶がある。
まぁお前には必要ないか。と苦笑いで言ってるのを見て、なんか少し釈然としなかった。
それが僕が彼女、駄場沙央里の存在を認識した日である。
僕としては今となってみて正直諸手を挙げての歓迎はし難いのだけど、駄場さんという女性は実のところ。僕と華の母さん以外で初めて十三に好意的な【女性】だったはずだ。
先生はいたけど、それは職務的なものだったし、お医者さんとかもきっとそうだ。僕らの母も友人の母親として接しているのはよく分かる。
しかし駄場さんは中学の僕がまだ弱くて彼に頼り切りで、華もそんな僕と仲良しだけど友達だった時期。十三が学校中の女子の目の敵にされながら孤軍奮闘……とまではいかないけど。告白として呼び出されれば罰ゲームか宗教か。
隙を見せれば陥れられるような、そんな馬鹿みたいな事を────正直十三本人はあんまり気にしてないどころか、仕返しを楽しそうにしてたけど────受けていた頃からの付き合いだ。
そして、そんな尖っていた彼とおしゃべりをして、一人の男性として扱って。尊敬も尊重もして接していたようだ。彼女自身、バリバリの営業の人! って感じなくて、なんか頼りないお姉さんみたいな感じで泣き落とすように十三と契約したらしいのだ。
又聞きにはなってしまうが、十三は変な人が来たみたいな感じで僕に教えてくれた。僕が見た時以外も、ただ用事がない日も経過観察とか言い出して、たぶんサボりだろうけど彼の家に行っておしゃべりして帰るという、そんな珍客になっていたみたいだ。
それは、僕やなにより十三自身が思うよりもずっと救われていたんじゃないのかな? 確かにひどい大人というか、ひどく駄目な大人何だけれども。
まるで十三が対等の相手かいじられキャラみたいに自然に接する事ができる女性は、少なくとも彼女だけだった。営業の仕事のいち社会人としては彼はゴミクズみたいに評するし、駄目な大人の例えとして引き合いに出すけど。嫌いとか苦手とは口に出さないし人としてはきっと彼も好ましく思ってる、のかな?
中学の修学旅行で彼が唯一おみやげを買っていたのが彼女だったのは、僕としては傲慢だけれどもかなり評価を甘くしているポイントなんだ。それだけ彼の中で駄場さんは一人の女性として大きかったんだと思うよ。
もうちょっとしっかりした人だったら、母性を感じてたと思うけど、なんというか駄目な姉みたいな気安さがあるんだよね。彼にとってはきっと。
まぁともかく、高校2年生の秋になって、本格的に僕も彼への女性関連の仕掛けをしようと思って、候補に入れる程度には前向きに検討していた。
現状二人の接点は、完全にお仕事だけだ。彼女がサボって十三の家にあがることはよくあるみたいだし、なによりも定期的に図書館に居座って彼を監視しながらサボっている様子だけど、顔を突き合わせて話す機会は案外多くないようだ。
だから、ちょっとした繋ぎになればとデジタル関連? に詳しいとのことで仕込みをしたんだけれども……
秋が深まり、俺のダイエットも竹之下の送迎ロードワークという特殊なカードを手に入れて軌道に乗ってきた頃。俺はとても珍しく家の外で駄場さんと会っていた。
《副業を始めたの、ちょっとお話しませんか?》
そんなチャットの誘い文句につられて、いや厳密には。
《勿論、わたしが奢りますよ》
の方か。そんな訳で、本日現在ちょうど二倍の年齢の方に近所のファミレスに連れてきてもらっていた。
彼女とはそれなりの長い付き合いだが、家に尋ねてくる以外での接点は正直な所薄い。それで十分なほどに顔を合わせているからでもあるんだけどね。
いつものタイトなレディーススーツ姿で、食事をするからか、大変ボリュームのある髪の毛を後ろでまとめている彼女と席について、俺は早速口を開いた。
「それで、何ですか、マルチですか? サプリですか? 健康グッズですか? 壺とか水なら正直あきれ返りますけど?」
「そ、そんなわけないですよ!? 君はわたしを何だと思ってるの? というかスピリチュアルついてないのなら、やりかねないと思ってるんですかぁ?」
「はい、メーカー柄のリーチ予告くらいには」
「み、未成年! なにやってるの!?」
小粋なジョークだ。ペカった時と言わない程度には彼女を信用してはいる。結婚は12で酒と煙草は20。パチンコは18で公営は20とややこしい社会で社会人だから。
なのでどちらかというとマルチに騙されたんじゃないかという心配のほうが大きい。「世間知らずだからな」と前世さんが言う程度には、多分俺の方が知らないと思うけど、働いたことなさそうだし。
「ちょっと写真とか動画を撮って、それを一部有料の支援サイトに上げることにしたの、そしたら結構見てくれる人が多くて」
「おい、アラフォー」
「来年の春まではサーです!」
確かに駄場さんは年の割には若くというか幼くというか、そう見える……多分胸がないから。前に見せてもらった大学生のころの写真とやらは、背が低く童顔である種の合法ロリという感じだったし。
そして今は恐らくその賞味期限が過ぎて、ブクブクと尻と腰を始め部位が育っていったのだろう。ただ俺の贔屓目で見ても流石に女子大生には見えないぞ。
「いやでも、三十路過ぎてますよね……」
「20代新人OL設定ですので」
最低5つはサバ読みじゃん! それはもう超え線だって! 女上司とかでやれよ!
「いやいやいや、詐欺じゃん」
「こういうのは、誰しも年齢なんて鯖読んでますよ?」
「嘘でしょ……!?」
「プロフに上がってる顔写真は過去のとかもできますしね、メイクの流行り廃りで推測できたりしますけど」
「知りたくなかった……」
ショックである、そんな。
この世界でのオカズは公式流通物があまり多くなくて。そんな隙間産業を埋めるように、インターネット黎明期から個人でのものが勃興したため。前の世界の支援サイトみたいのがたくさんある。俺も正直お世話になっている。女性物も男性物も多くあるのは歪んだ社会だからかなぁ。
じゃあお世話になってるKカップ現役女子大生の
「裸じゃなくて、ストッキング履いて後ろから顔を出さずにお尻の写真をとるとかだけで、それなりに稼げますし、動画も頑張って取ってるのが好評なんですぅ」
駄場さんはそう言って封筒を出す。今日の支払いは任せろという意味だろうか? しっかり中身を確認する。この人なら万札の間に千円札とかやりかねないから。
でも30代で始める副業がキャリアアップとかに繋がらないで先細りするだろうってのは、正直どうなのでしょうか? 俺はそう思ったけど献精もそうだが先のことを考えている人じゃないよなって思い口にはしなかった。少しでも前に進もうとしてるんだ、否定しちゃ駄目だよな。
「それで、ビジネス痴女が上手いこと言ってるのはわかりましたが、今日は何の要件ですか?」
「出部谷さんもやりませんか?」
「……あ?」
だめだ、今日はもうこの人について行けそうにない。時々あるんだよね、アクセルが凄い日。
「最近少しやせてきましたから、ガッシリ系DKで売り出せば、きっと儲かると思うんです!」
「おい、若作りアラフォー駄馬、何言ってんだ、お前」
やる訳無いだろ、そんなデジタルタトゥー案件。前世さんも無理無理やだやだ言ってるし。そういう方にお世話になっている事は否定しないし、ばかにする訳でもないが。俺はやりたくない怖いから。
「まだアラサーです。でも、きっとかなり儲かりますよ?」
「俺は普通に高校生で、祐の両親たちの期待に答えて大学卒業して就職する、まっとうなプランがあるの、コネがあるの」
祐と華の両親ともに俺に投資という形で金を出すなんて最近いってるけど、祐の両親なんかは何度かうちの子にならないか? と言ってくれてるけど。ありがたいが、さすがにおんぶだっこ過ぎるので断っている。あと、誕生日的に俺は祐の弟になるのは嫌だ。
「まっとう……なんて羨ましい」
「あなたは今までを無駄にし過ぎたんです。それじゃあ、話が終わりなら」
俺は注文して出てきたジャンバラヤを食べ終わっているので、いつでも出れる。前はこれにパスタとハンバーグ付けてたことを考えると、たしかに少しだけ食生活がましになったなぁと自分を評価して現実から目を背けるのだ。
「じゃあ憐れむと思って、撮影の手伝いをしてくれませんかぁ?」
「……手伝い?」
そう言って席を立とうとした俺を、駄場さんは引き止めるように提案してきた。
「カメラを三脚に固定して魚眼ズームとかでやってるんですけど、微調整が大変だし、人の指が食い込むのとか撮りたいけど大変だし」
「でも、なんで俺が……」
「しっかりお金も出しますし、顔は映らないし大丈夫ですよね? お願いします、わたしを助けると思ってぇ!」
まぁ、確かに面倒を見ているようなものではあるけれど、今までお世話になっ……お世話に……お世話してる側な気がしてきた。でもならばこそ面倒を見る必要があるのか? 困ってるみたいだしなぁ。それで駄場さんが資金的に多少でも自立できるのなら……
「はぁ……暇な時だけですよ?」
「ありがとうございますぅ! それじゃあ早速お願いしますぅ!」
なんか釈然としない気持ちを抱えながらも、時間拘束の緩い副業が出来た。まぁカメラで撮影したりする程度だろうし問題ないか。駄場さんだし。
「本当、なんか押し付けられるように買った福袋で機材がそろってから、運が向いてます」
「それは良かったですね」
俺は店員さんを呼んでアイスコーヒーを注文しながらそう答えるのだった。
僕はただ、駄場さんにカメラと画像編集ソフトを渡しただけなのに、とんでもないことになっていたんだ。まぁ十三はその辺のリテラシーは高いからあんまり大きな心配していなかったけれど。
それでも一つ心配なのは、この計画を始めるべく秋の頭頃に会って話を聞いた時の駄場さんあの態度だ。十三にはとても言えなかった。
彼女は、十三が一時期不能気味になりかけていた時に、すったもんだの末に十三にお尻を叩かれて、ストッキングを破られて、嬌声をあげたそうだ。何をやったんだよ、十三。
そしてなんというか……彼がそれに興奮したのでノルマを達成できたということを。
「使ってもらえたんです、こんなわたしを、照れてました。」って壊れた機械のように何度も誇らしげに僕に聞かせてきた。
ちょっとした恐怖体験だった。正直お断りしようとしたんだけれども。
それでも十三が会うことを辞めていないわけだし、悪影響が出ない限りは見守るって決めたんだ。
もう出ているような気もするんだけどなぁ……
3年生最初の連休の最終日の夜、僕が十三から電話で聞いたのは、想定していた竹之下さんに告白された件。
だけじゃなくて、駄場さんとした事という爆弾で。改めてそう思った。
(扉´∀`扉)