男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

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そろそろたたみに入ります


~いつもそばにいてくれた

今日は、とても素晴らしい日だ。

 

6月に入ってもまだ梅雨入り宣言されていないからか、天気は雲のない晴れ。湿度が高くべたついているけれど、それが気にならないほどに気分が良い。

なにせ、今日祐と華が籍を入れたのである!!

まだ学生同士であるが、正式に夫婦になったのである。

 

「二人共!! おめでとう!! 」

 

「えへへっ、ぶーくんありがとう。でももう10回目だよ」

 

「いい加減うるさいよ、十三」

 

別に今日式は行ってないし、これが披露宴ということでもない。ただ書類一枚を役所に出しただけ。それでも大変めでたいことで、祐の家で身内を招いたパーティーをしている。

 

色々込み入った話の祐の結婚だが、今日は祐と華の二人だけだ。残りのメンバーは各自卒業後だそうである。式もその時にまとめて行うので、双子の卒業する2年近く後まで待つことになる、そしてゆかり先生が第三婦人に格上げである。まぁ序列とかなさそうだけどね祐の所。

 

だけれども社会的理由で第一夫人が華であることが決まって、先に籍を入れておくことがまぁ親同士のあれこれで決まったようだ。他の未来の婦人達もやはり華には一目置いているのか一人先に結婚することを祝福している。

 

そんな細かい事情はあるが俺はどうでもいい。二人が夫婦になったのだ。住む家は変わらないし呼び名も元のままでも立場というものが人を作るのだ。

 

この社会において苗字に関しては、男性に統一したらもうとっくに全員山田になってるだろうという収束問題のためなのか、かなり自由である。揃えてもいいしそのままバラバラでもいい。だからか、二人とも苗字はそのままにするとのことだ。俺は少し、龍瀧華が見たかった……

 

珍しいところだと苗字も一文字ずつ取ってつけなおすみたいなところもあるらしいが、それは特殊すぎるケースだ。村全員同じ苗字になってしまったところとかが区別のために改名する奴である。

 

「僕が華を幸せにしたいって思ったから、結婚してもらったんだ」

 

祐のその言葉に幸せそうに微笑む華。もうこれだけで俺は泣きそうである。式本番はバスタオルを持って行こうと決めた。

 

とにもかくにも、俺は祐とその奥様である華と奥様候補のハーレムメンバーがワイワイやってるのを写真に収めつつ、ひたすらお祝いしているのだ。身内向けの集まりだからジュースだけどなんか数字が書いてあるやつを飲んじゃったりもしたいが、おいてないので我慢である。

 

 

 

「先輩、ちょっといいですか?」「お話があります」

 

そんなご機嫌な俺に話しかけてきたのは双子である。まぁ俺を先輩と呼ぶのは今日は二人しかいない。純は塾の模試が終わったら夜合流の予定だし。

 

「ごめんなさい」「すみませんでした」

 

振り向いたら2人が頭を下げていた。いや何で? 鯉田姉妹に関しては正直去年車で詰められてから殆ど話をしていない。祐の教室に来る回数も交際関係になってからは別で会えるからか減ってきていたし。少し後からは放課後の俺がバイトを辞めて忙しくなったからな。

 

「なんだよ、今日は祝の席だぞ」

 

「酷いことをいっちゃいました」

 

「うたもふみも、先輩のこと何が楽しくて生きてるんですか? って思ってました」

 

「「だって、あんな気持ち悪いことしてるくらいだから」」

 

卒業式の言葉みたいにかぶせてくる双子、打ち合わせなしか? にしてもこれは謝罪なのか?

 

「つまりなんだ?」

 

「先輩も普通に努力して、彼女できたんですよね?」

 

「普通の人なら、謝らないとと思って」

 

「「誤解しててすみませんでした」」

 

つまりはだ、去年からの妙に距離を置かれていた感じな関係を。めでたい席ということで精算をしようということだろう。まぁ俺は正直全く気にしてもないしどう思われようと……いや極論はだめか。

 

「祐に言うように言われた?」

 

「そうだったらもっと丁寧に言ってます、ただ、」

 

「前はちょっと言いすぎました」

 

「まぁ俺も、大概だった。気にしてないし構わない」

 

罵倒とかそういうのは喰らいまくってて、覚えているのもばからしい、韻を踏んでたり、エッジの利いた皮肉だったら覚えてるけどな。面白くないとかきもいとかそういうテンプレートなのは正直あー言われてたかも程度には馬耳東風だ。

だから、双子自身が謝ったからこれでチャラ。今後ともよろしく便利な先輩。って思ってくれるならそれでいいさ。祐の奥さんになるなら、一生の付き合いになるし、嫌い合ってないという曖昧な関係は維持したいからな。

 

 

「先輩が祐先輩の親友な理由わかった気がしました」

 

「これからも、よろしくお願いします」

 

「おう、俺もなにかあったら頼むかもしれない」

 

竹之下を除くと普通の女子って、たぶんコイツらだけだし。生まれと育ち双方ともにで考えると。まぁ人は変わるのだ。

今日みたいなめでたい日だからこそ、俺はそろそろ向き合うべきだ。自分と今の自分に。

 

双子が去っていき、部屋の中心で皆に囲まれている祐と華を見ながら、俺は隅の椅子に腰掛ける。

 

純と駄場さん────駄場さんは何と言うか俺の中では駄場さんなので未だに駄場さん呼びだ────の2人は、現状で言葉を完全濁すこと無く露悪的に言えば……キープとセフレだ。

冷静に見て俺は地獄みてぇなくそ野郎だ。まぁ俺自身が山上先生のキープであるからまぁいいのか、良くないな?

 

先月純に駄場さんのことを話した時は、

「あまり気にしてないっす。それともアタシはもういらないすか?」

って言われて、そんなわけはない。お前と一緒にいたいし、でも見限られて当然なことをしてると思う。って言えば、

「嬉しい……」って涙声で言われた。電話だったから心配したけど、この前玉さんに会いに行く時に様子を見たら何事もないように接してきた。少なくとも表面上は。

 

俺は気持ちを察するのが苦手らしいから、不満があったら言えよ。と言ったら、これからは夜にお休みの挨拶をしてほしいといわれたので、最近は寝る前にチャットを送っている。こんなのでいいのかと少し思うが、どんどんエスカレートしてもらえばいい。昔は面倒に感じることも多かったあいつのわがままを欲しくなる程度には俺は単純なやつだ。

 

駄場さんは、現在再就職のため頑張っている。例の俺の置き土産で退職金は増えたそうだ。

今後の後任の人と顔合わせだけはしたが、今後の回収はぶっちゃけ郵送でいいそうだ。マジであの人俺に会いに来てたんだな。

 

再就職は、家政婦とか募集してませんか!? って俺のところに来たけど。得意料理が【出汁入りスクランブルエッグ】って言ったのでお祈りしました。もうちょっと頑張ってもらって。また泣いてたけれど、1年頑張ってダメなら結婚歴つけてもいいからさ。と言えばへにゃって笑って転職サイト開いてたし様子見だ。

 

まぁ、うん。卒業までは二人とも俺に多くを求めてこない様子だ。

 

卒業と言えば、山上先生とこの前少し話をした。自分ことのように俺の体の成長と、あと女性関連を喜んでくれて。なんか嬉しかった。俺の努力は無駄じゃないし、見てくれている人はいるんだって、なんか返ってきたものを感じられたというか。

それはそれとして、まだ告白って有効ですよね?って聞いたら、当然だと言ってくれた。

どうやら、俺はゲロ以下のクソ野郎のようだ。

 

純粋に好いてくれる人もいて、自由にして良いとまでいう人もいるのに。まだ俺は満足しないのだという心持ちがある。だから、考えるべきことはあるけれども、一回俺は自分がどういう存在なのかを見つめなおす必要があるだろう。

 

椅子から立ち上がりお手洗いを借りることにする。少し静かな所で考えたいから2階の祐の部屋の向かいにあるやつを。個室で腰掛けて目を瞑ってゆっくりと自分の中を覗くように集中していくと

 

「うぬぼれたくそ野郎が」

 

ああ、いつもの声が頭に響く。その通りだと肯定してやれば、どこか皮肉気な声音の【一切ない声】が返ってくる。

 

俺は思考を言語で行うタイプだ。一度文字で考える形で思考や記憶をする。言語化した思考にイメージを結び付ければ、イメージで思い返すこともできるという対応だ。それはまぁどうでもいいけれど。

だからこそ、この頭の声というのは、とても自分に都合がよかった。

 

俺には前世がある。それは確かなものだ。でも記憶はない。何も覚えていない。自分の名前も知らないし顔も思い浮かばない。恐らく男性だった程度か。でもこの社会に近い日本という国で手に入るような変な情報をたくさん持っていた。だからとても歪だった。変に大人で変に子供だった。

 

新しい人生は二度目の人生でもあったけれどもまず親に捨てられたのだから。その時に思ったんだ。俺にはきっと悪い原因があるんだって。それがこの声なんだって。

それは俺の人と関わるのが、特に女性と関わるのが怖いという、きっと捻くれてスレていた名残みたいな記憶で。そこに全部自分の嫌なところを【持っていってもらった】

 

この前世の声は、俺が自分に向けて言っている内罰的な自己防衛だけれど、それを前世に言わせることで。

俺は辛うじて綺麗な自分と厄介な前世という。2つの人格を使い分けて生きてきた。

脳内会議とかと同じだ。人にとってまだ見せられる程度に仮面をかぶっている俺と。そんな俺が少しでも利己的な行動をしたときに浅ましいと詰る、悪い俺だ。

 

誰かと繋がりたい肯定されたい俺を、批判してもらうことで。反発と納得で辛うじての自己肯定感だけを持てていた。そんな否定と批判をしてくるのを可能な限り自分と遠くに置く。

こうすれば効率的にブレーキを踏めた。

 

期待をして裏切られて傷つくことに耐えられるほど、幼かった俺の心は強くなかった。人にそのまま好かれるような人間でもなかった。だからこそ、俺に良くしてくれた祐や華その家族、そしてギリギリ駄場さん迄は、俺の【悪い声】はあまり反応しない。

 

俺は俺が惨めであって同情されるべきだって、憐憫を最大の自己肯定にして、なんとか生きてきたんだ。

だからこそ前世さんはとてもよく俺を盛り立ててくれる聴衆にして語り手だった。

 

 

だけどもうさ、卒業しようよ? 俺も辛いだけだろ。俺がそう言ったら、やっぱり声をかけてきてくれる確かな人格だ。

 

「散々かわいそうな僕をやって、女が出来たらポイとはくそ野郎極まれりだな」

 

その通りだ、でもくそ野郎でいいんだよ。別にさ。

 

「開き直ってんじゃねーよ、そうしたらもう、お前には何もないんだぞ」

 

その声はまだ俺の心に刺さる。前世さんがいるから俺は自分を守れ慰められたし、うまくいかない言い訳にできた、無意識下でこいつが足を引っ張ってもいるから、俺はモテないんだって。そう思って見ないようにしている俺もきっとどこかにいた。

 

俺の後ろには前世さんの罵倒っていう、常に半歩は下がれる舞台裏があって、きつい時はそこで休めた。

でも、それを俺はもうやめたいんだ。

 

「殉教者気取りか、きめぇんだよ」

 

ほら、また俺の行動を揶揄して、だから反発するように自己弁護が生まれる。改心しただけだって具合にね。俺を馬鹿にする俺がいるから、俺は俺の価値を保とうと動ける。

恋愛の代償行為であった祐のハーレムを作るというのは、否定しないけど。一番の目的はやっぱりきっと、祐が幸せになる事だったんだって、今日改めて思った。

 

「もう、俺を理由に出来ないんだ、お前の責任はお前で持つことになる」

 

わかってるよ、今までありがとう、さっさと消えろ。17年の人生経験はあるんだよもう俺には。

 

「ああ、それなら消えてやるよ、清々する」

 

前世さんが悪態をついて消えることに悲しさがある。ただ彼は、俺が女性に近づいて、わずかでも距離を離されれば、もう二度と立ちあがれないことをわかっていたのに。純や駄場さんに不条理に捨てられてしまえばもう無理だって。

 

だからとは言っているけど、結局は俺なのに。無意識になるまで一人二役をやっていた、哀れな気持ち悪い男。

 

ほらまた、そういうレッテルを自分に貼ることもやめる。

 

ただのきもい男だ。哀れじゃない。今日からはそう。

そんなきもい男だから捨てられて当然なんて、甘えた考えは捨てろ。

断られたらもう、俺がモテない奴だっただけだ。魅力が足りなかっただけだ。

捨て子だからとかキモいからだとか、横にイケメンがいるからとか。そんな言い訳をすら言えなくなる。

 

そして、そんなもう言い訳が出来なくなってでも、俺は【まだ】俺の傍にいてほしい人がいるから。

 

前世さんの存在意義として、俺が既にこんなに恵まれているのに。まだ他の人に手を伸ばそうとするなら。消えてしまうのはわかる。

自分に自信がなきゃ、さらに欲しいなんて思えるわけ無いだろう? でも彼がいたら自分のプライドを低くして、落下ダメージを抑えようとするだろうから。

 

もういいんだよ、俺は俺たちはさぁ

 

前世さんに、いや俺自身に俺は言う。

 

もうさ、俺も普通の人間になろうよ

 

言葉は返ってこない、帰ってきたら自己陶酔をしている証拠だから、これは一つの儀式だ。さっきお別れをしたんだから。

 

頑張って取り繕って演じて慰めて。そんな誰でもやってることだけど、俺はそれに大きくリソースを割き過ぎてた。だって俺は引けなかったから、こんな俺を認めてくれた祐の為にも。でもそうだろ

 

「ああ、わかってるよ、俺の為じゃないんだろ」

 

また声がしてしまったけど、これは俺の想定通りだ。

 

だってもう俺は前世さんを言い訳に自分を卑下してでも心を守る必要がない。

 

なにせもう俺の心が壊れようと、祐を支える人はいるんだ。

祐からしたら、小学校で初めて会っただけの親友。でしかないかもしれないけれど。

あいつは俺にとって生きる目標だった。俺なんかと違って綺麗で、純粋でまぶしくて。こいつを守ってやりたいとそう思えたから。

 

モテモテになってやるなんてカラ元気で、親にも施設にも職員にも捨てられて、いっぱいいっぱいだった俺は、あいつに救われたんだ。普通の男の子が、どういう反応をするのかとかも学べたし、誰かと遊ぶのが楽しいってことも、あいつのおかげで知れた。友達(華)もできた。

 

 

俺が自分を惨めに思ってでも生きていたかったのは、自分が弱いからで。そうまでしたのは祐の傍にいてやりたいから。

 

でも、もう祐には周りに沢山人がいて。遂に奥さんも出来た。

 

ならば、俺は……もう、思ったよりもずっと長く頼ってしまった。前世さんというゆりかごを捨てる。

 

まぁ色々いったけど、単純だ。

俺はクソで最低な男だからな、ああそうだ。

 

トイレから出て階段の上から、吹き抜けの階下を見る。撮影をしているのか並んでいる祐のハーレム達の少し横に立っているあの人。

 

黒のドレスに白いボレロとで大人な雰囲気で、虎先輩の横でぼーっと華を眺めている彼女へと、俺は歩を進めるのだった。

 

 

だって、マキさんにも、俺の側にいて欲しいって、そして祐みたいに【俺が】彼女を幸せにしたいって思っちゃったから。

 

 




お気に入り7000と評価400人突破ありがとうございます。
わかりやすく賛否両論であり、読んでいただけるだけで本当に光栄です。
残り数話とおまけまでお付き合いください。
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