男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

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マキ先輩編です。


依存と憧憬と諦観

正直十三の女性の好みはわかりやすいが面倒くさい。

こう、下品な言い方になるが、彼は性的興奮を覚えるタイプの女性と、一緒にいて好ましいって思う女性は結構ずれている。

この手の話題はわりと男同士でならオープンに話したがる彼は何度も言ってきてるから知っているけど、どっちかと言えば態度を見ると女性嫌いの男の典型的なそれだし。

 

性的興奮の方は、もうわかりやすいぐらいセックスアピールがでかい人なので割愛する。

まぁそれでも山上先生が出てくるまで、みたいな人っていう感じだったけど、高校であの先生に出会ってイメージが固まって「あの先生みたいな人」ってなったのは、なんか生々しいよね。

 

んで、じゃあ逆に好ましい女性はとなると、勤勉で自信がない人だ。

 

これは僕の長年の観察によるものだ。人としての好みはもうちょっと緩いけど、あいつが異性にもし恋人にするならと求めるのは、恐らくは支えてあげたいと必要とされたいなのだ。

誰しも大なり小なりあると思うし、そこに所作だったり、極端なことでいえば食べ物の食べ方だったり、ポイ捨てをしないマナーとかだったり、色々好悪分かれるところや気にしないところはあるけど。

 

彼が一番強く見ているのはそこなんだ。

そういう意味では空回っているけど、色々距離を詰めようと努力してた竹之下さんと、どう見ても依存べったりの駄場さんはかなり琴線に触れていたんだろう。

 

そして、だからこそ僕がずっと十三にぴったりだと思っていたのは鳥槇先輩だ。

 

彼女はどちらかというと……なんというか、あざといのだ。見た目はクールで美人系ですらっとしていて、亜紗美さんと並ぶと、モデル友達みたいな雰囲気があるのに。

その亜紗美さんが格好良いことをしたりすると、顔が蕩けてへにゃって笑うのである。表情が豊かだからなのか、よく見ると顔のパーツが釣り目だけど泣きぼくろもあって、なんかギャップが可愛らしい。絶対十三の前では言えないけどね。

亜紗美さんにそう言えばあげないわよ。って言われた。僕を彼女になのか、彼女に僕をなのかはその後ゆっくり聞き出したけど。

 

まぁそれはいいんだ。ともかく鳥槇先輩は、亜紗美さんのことをすごい好きだし、敬愛? 溺愛? 偏執? しているけど。あくまで友情と憧れで。将来を誓いあったりとかそういう方向の人ではないのだ。好きな男の子の仕草とかもお泊りパジャマパーティーで話したこともあるんだって。

 

話は戻して十三に彼女を勧めるのは、彼があからさまに彼女に対して甘いからだ。

あいつが当日に電話の約束で買い物に行って、食べ物を奢ったって聞いた時は、びっくりして箸を落としてしまった。嘘だろ、あの十三が? って。そして名前も呼ばせてるし、何より亜紗美さんと容姿を比較されている彼女を見て不快感を顔に出してるというのは、僕としては信じられない。

君そんなに他人に興味あったっけて思うほどに。

 

まぁそして、彼女の方も、割とまんざらではない様子で。それなら亜紗美さんと協力して、裏で手を回せばきっとすぐにでも……

 

なんて思ってた時期が僕らにはあったんだよね。

まさかあんなにジレジレと進まないなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼稚園の成長の記録みたいな小さな絵本。1年に1冊貰ったそれには、その年にやったことや身長に体重みたいなものが書いてあって。きっと、親御さんへのプレゼントという意味が大きい冊子。3歳の自分なんて自意識すらあったかわからないじゃない? でも私はしっかり覚えてることがあるの。

 

大きくなったら何になりたい? そんな1ページ。男の子はお父さんとかヒーローの名前であればましな方で、飛行機や電車の無機物も多いし、女の子も動物とかが多いみたいだった。

 

でも私はずっと同じ。3冊ともお姫さまって書いてある。

 

 

小さいころに見たアニメの影響なのよ。キラキラなドレスとみんなから愛される美しさ。他の子と違ったのは、王子様が迎えに来ることは好きじゃなくて、ただずっとお姫様を見ていたかった。そんなことくらい。

 

私は、ずっとお姫様になりたかった。お洋服もお姫様の絵がプリントしているのじゃなくて、イメージが近いものや、つけてたみたいのを欲しがった。なりきりのパジャマとかは喜んで買ってもらってダメになるまで着ていたわ。

 

大きくなったら、漠然とお姫様になるんだって、そう思えていたのは幼稚園の間だけだった。芋ほりも遠足もお遊戯会も何をしていたか覚えてないけど、お姫様になりたいと毎日思っていたことだけは覚えているのよ。筋金入りじゃない?

 

でもそれが大きく変わったのは、小学校に入った日。五十音順でひとつ前の席に座った女の子。とりまきの一つ前、とらさわあさみちゃん。

あの子のことを認めた日から、私は全てが変わってしまった。

 

今でこそ、女王様みたいなんて冗談で揶揄される亜紗美も、昔は本当に可愛らしくて────勿論今でも可愛いのだけどね?────整った目鼻立ちに長い睫毛、爪と指の形まで綺麗で。鈴のような声に、絹のような髪。陳腐な表現だけれども本当に私は、お姫様が絵本から出てきて学校に通ってるって、そう思ってしまったの。

 

私の曖昧だったお姫様像はこの日から亜紗美になった。

どういう風に話しかけて仲良くなったかなんて、全く覚えていない。でも気が付いたらずっと一緒にいた。

マキがずっと後ろから着いてきたのよ。なんて亜紗美は言うけど、そうかもしれないと思うほどに、気が付いたら亜紗美にべったりだった。

 

初めて彼女のおうちに遊びに行った時は、大きな庭と家に本当にお城に住んでるんだと感動したし、ピアノもバイオリンもできるというので聞かせてもらってさらに本物だと思った。

一緒にいて、ずっとお話するのが楽しくて仕方なくて。気が付けば亜紗美の事を見つめ続けている私が出来上がったの。後悔はこれっぽっちもないわ。

 

亜紗美は本当にすごかった。クラスにいた男の子もどう見ても亜紗美を気になってる様子だったし、上級生はかわいい新入生が入ってきた。お人形さんみたいと。囃し立てているのがまるで自分のことのように誇らしかった。

クラスの人気者で、いつだってみんなに囲まれている亜紗美を見て、そうだろうと、私の親友で理想のお姫様は、こんなに輝いているでしょって、得意げな気持ちになった。

やっかみもあったけど、亜紗美が何でもできるのを目にしてだんだんと鳴りを潜めていったのよ。

 

だから、憧れて、亜紗美みたいに成りたかった。亜紗美が料理をしたと聞けば、家のお手伝いで料理を始めて、手芸を始めたといえば同じ雑誌を買って私も初めて。

そんな、何でも亜紗美と同じことをする少女だった。お母さんもお父さんも苦笑はしてたけど、止めなかったのはきっと、私がすぐに飽きて投げたりだけはしなかったから。

 

私は亜紗美みたいに少しやればなんでもできるようになれないから。亜紗美が1冊終える時間で半分もできなかった。だからこそ、しっかり最後までテキスト通りやって、それでも不格好なものばかり。

勉強もいつも挙手して正解を答えて、時には空気を読んで皆の誤答を待ってから先生に指名されて正解を答えるなんてしてたの。ノートを作るので精一杯の私にはキラキラとして見えた。

 

ああ、また暗くなってしまったわ。いいの、そんなことは。ただただ、昔からずっと亜紗美のマネっ子だったわけ。

 

たまに喧嘩することもあったけれど、私にとっての亜紗美は本当に目標であり、憧れであり、全てだった。

中学になれば、亜紗美はさらに注目の的になった。会社のパーティーなんかにも前よりも出るようになって、ドレスなんかも持つようになってた。背もすらっと伸びて、かわいいからどんどん美しくなっていって。

それもまた、自分のことのように誇らしくて。

2人で繁華街で遊んでいる時に、スカウトされた亜紗美を見て、自分の見る目を誇ったりもした。

 

もちろんそんな完璧超人な亜紗美についていくのは大変だったけど、勉強も今高校で同じクラスに入れる程度には食らいついたし、私が出来る範囲でお稽古事も可能な限り手を出して。その全てで亜紗美より下の成績を出したけど。

本当に何でもできるセンスの良さと、自分の不甲斐なさに気がついてその時に少しだけあれって思ったのを覚えてる。

 

ある日、亜紗美とお弁当を交換する事になったの。きっかけはわからない、見たドラマの影響だったかもしれないわ。私は気合を入れて、お母さんに協力もしてもらって、普通のどこにでもある、今見れば面白みのないお弁当を作って。

亜紗美は色鮮やかな季節の野菜や飾りまで入った和食のお重。まぁなんというか全然違って。けろっと先週から和食の勉強を始めたのって言っててね。

 

ああ、そうだって思った。それはお姫様に和食は似合わないんじゃっていうよくわからない考えだった。いや、そんな事はない、亜紗美だものって否定しようとして。

 

そしてその瞬間、私は亜紗美が好きな理由の根幹を思い出せた。

そう、最初はお姫様みたいになりたくて、そして見つけた理想のお姫様であった、亜紗美のようになりたくなった。

私の夢はそう、亜紗美みたいになることというわけなの。でもそれって、今のままでも永遠に追いつけないのに、どうすればいいんだろうって。

 

ふと、思ってしまったわけよ。

 

私が去年の亜紗美が出来た作品をやっと作れるようになって、その間に亜紗美は片手間で別のことを始めてて。

私の夢は私には叶えられないんじゃないかなって。そう思うのと同時に。

 

亜紗美なら、どんどんきれいに、美しくて、かわいい。そんな理想のお姫様になれるって。

そう思うようになった。

 

「これだけ可愛い子と並んでも、なお際立つあなたならきっと高みを目指せる」

 

何度かあったスカウトの時に亜紗美が言われていた言葉だ。そう、私は自分がそれなりに見れたものだとは思う。お姫様に憧れられるほどには、夢を見れる程度には恵まれているけれども。

隣に本物がいるから、私にその夢はきっと成就できない。私の夢のゴールがあるとして、きっとその場所は、亜紗美がそこをチェックポイントにして、全然違う方向に進んでいくでしょうね。

 

辛いけど、それでいいじゃないの。

 

高校生になって、亜紗美はすぐにまた学校の中心人物になった。私も何とか特進クラスでは真ん中ぐらいの成績で、亜紗美とクラスメイトになれたけど。亜紗美は学年1位で、生徒会からも誘いが来て。先輩の男子生徒から遊びに誘われたのを袖にして、でも女子からも嫌われることなく友達を増やして。そんな皆に愛される様に磨きがかかっていた。

 

 

 

そんな、大好きな亜紗美がある日壊れた。

高校2年生のことだった。

 

 

 

「新入生に面白い子がいたの」

 

亜紗美がそう言って誰かが隠し撮りしてきた写真を見せてきた。正直引いたけど写っていたのは祐さまだった。そう、亜紗美は後輩にお熱になってしまった。今まで年上の男性からのアプローチを袖にしたことはあったけど、そういえば、年下からは恐れ多いからかそういうのなかったし。なんて思ったけど、そういう次元じゃない入れ込みようだった。

 

最初は亜紗美の実家の会社のライバルだから、そんな理由で気になりだしていたというのに、ちょっかいを掛けに行っていたのに。気がつけば口を開けば祐さまの話題になる。彼がどんな娘が好きで、どんな髪型と服装を気にいるのか。そんな事を書きなぐったルーズリーフ一枚を大切に手帳にしまっている。スカウトマンの名刺を即ポイした亜紗美がだ。

 

あっという間に亜紗美はお姫様から、恋するお姫様になってしまった。私が好きじゃない王子様の活躍の時間になるところまで、同じにならなくてもいいのに。そう少しは思って、気分は落ち込んだ。なにより、もう私が彼女の一番じゃないって思うとイライラしたのよ。

 

だから、亜紗美に何がそんなに良いのって言聞けば、これは理屈じゃなくて、もう好きで仕方ないの。って帰ってきた。ああ、本当にどうして?

 

そして、亜紗美につられて見てみれば、確かに祐さまはとても魅力的な方で、勉強が苦手なようだけれど、社交的で運動が得意な後輩。そして容姿と優しさは紛うことなき王子様で、並んで見れば亜紗美ととてもお似合いだったのよ。悔しいけど仕方ないって思えるほどに。

 

 

だから横の醜悪な男を見たときに、私は気持ち悪さと生理的な拒絶感を覚えた。

 

出部谷、なんて醜い男。不潔で不快で、だらしない外見と、ただれた皮膚。人の顔を伺うようにギョロギョロと周囲を見渡して。腰巾着のように祐さまにべったり。そばにいれば甘い汁が吸えるのだろう、男性でもこうも違うのかと残酷な差に憐憫の情が沸かなければ視界にも入れたくないほどよ。

 

そんな男が、さっと亜紗美に取り入って祐さまの情報を切り渡すようにしているのは、我慢ができないほどに拒否感があった。

浅ましい。そんなことで亜紗美に近づこうとするなんて。汚い、嫌い。そして露骨で、下手な演技と亜紗美もこき下ろしていた。

 

なによりこの醜悪な醜男は私から亜紗美を取ろうとしている。亜紗美が好きな祐さまは悪いわけがない、王子様だもの。だからすべてこいつが悪い。

 

時折、亜紗美は祐さまの教室に行くので、その時に私も当然ついていく。亜紗美がその美しい体を惜しげもなく使って、祐様にちょっかいを出すのを横で見ているだけ。主に仕事としては時間を忘れかけるので、折りを見てそろそろ帰りましょうと提案するのよ。

 

私が邪魔にならない位置に立っていたつもりだけど、後ろから誰かにぶつかられる。随分体格が良いのか、ヨロケてしまいたたらを踏む。

 

「フ、フヒィす、す、すみません」

 

「ふん、気をつけなさい」

 

軽く後ろを振り向けば、例の気持ち悪い男だ。本当は口も聞きたくないけれど、謝られたなら言葉を返すのが最低限の礼儀だ。睨みつけながらそう言ってやって、壁の時計を見ればもう良い時間だ。

 

 

「亜紗美、次移動教室よ」

 

「ん、そうね、それじゃあね、祐くんまた来るわ? 華さんも豚大根君もね」

 

「は、はい!」「それじゃあ」「フ、フヒィ!!」

 

 

祐さまと、幼馴染の風間さんはともかく、その横で気持ち悪い。いや、気色悪い声でそう言ってくる男を不快感を隠さずに目をそらして、亜紗美を伴って、教室に戻る。

 

「ね、マキ。それやめて? 」

 

「え? な、何を?」

 

帰り道遅刻しない程度の速度で戻る最中、亜紗美は歩く速度を変えずに、まっすぐ前を見ながら私にそう言う。

 

「彼に対する態度で、祐君は足切りしてるのよ。今回はまぁぶつかってきたから仕方ないかもだけど、何もないとこでしたら迷惑なの」

 

「え……?」

 

「……今度から一人で来ようかしら?」

 

やめて、すてないで、ごめんね、亜紗美。私が悪かったわ。だからそんな事言わないで。謝るから、直すから。そんな気持ちで亜紗美を見て、なんとか釈明の言葉を口にしようとするけど、動かない。恐怖と悲しさで凍ってしまったように動かない。

 

 

「冗談よ……でも、毎回ついてくるのは得策じゃないかもね」

 

 

その後は罰としてなのか、時々祐さまの所に行く時に一緒に連れていってもらえなくなった。その代わり、私がいない間の教室の空気調べておいてと言われて。

私のクラスにも男子はいるけど、興味も惹かれないし、他の教室の女子も結構祐様の話題をしている。クラスメイトにいないなら学年が違えと同じような距離ね。

 

私は、人の顔色を見ることは得意になってたから。こういう情報を集めるのは得意だった。極稀に亜紗美の悪口が聞こえた時は、自分を抑えるのが大変だったけど。

 

 

とにかく、あの疫病神の気持ち悪い男のせいで、亜紗美と過ごす時間が少し減った。憎しみとそれを隠すための無関心を表情に貼り付けて、じっと耐える日々に。

変化が起きたのは学年が更に上がって、少し経ったときだった。裕様の情報交換のために、亜紗美の身代わりとして連絡先を交換する羽目になったから。

 




つまりはこういうキャラ造形でそういう話です。
ネタみたいな名字でしたが、ぶっちゃけこの席順ためでした(嘘です偶然です)
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