男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

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~振り返れば君がいる~

 

「どきなさいよデブ!」

 

「祐くんに近寄らないで! ブタ!」

 

懐かしい記憶だ。だからきっと夢だろう。

 

たぶん小学校の高学年だったか? この頃にはもう何をするにしても祐の周りにいたがる女子は多かった。これは確か昼休みだったか? 華が夏風邪をひいて休んだからでいるからこれ幸いと、祐に群がっている女子達からの抗議の声だ。

 

この頃にはすでに、俺は天下無敵のガキ大将のような体型だったはず。顔もだいぶ直視が出来ないものになっているし、肌もガサガサボロボロボコボコだったはず。まぁこのくらいの子供はニキビは普通ではあるが。

 

女子に囲まれて案の定、祐はおどおどとして困っている。両腕を女子に引っ張られていて、大岡裁きでも始めるのかという具合だ。それぞれのサイドに別のグループの女子が控えている辺りが演劇のシーンぽくて少し笑える。

 

「うるさいな、祐が痛がってるだろ」

 

「邪魔、うっさい」

「臭いしきもい」

 

子供というのは周りが見えないもので、すぐにヒートアップする。祐が痛そうにしてたのを見かねて間に入ればさらに罵詈雑言が飛んでくるが、気になどしない。

 

近寄って祐の腕を握っている女子の手を、そのまま上からぎゅむっと包むように握る。その瞬間、ゴキブリかナメクジを触った時のように、嫌悪感に歪んでいく表情が二つ。思いっきり腕を引っ張って抜こうとしてるが、体格の良い俺の力の前に数秒拮抗して、ぬるっと滑るようにジリジリ動いていく。もう離すと確信したので放してやれば同時に後ろにたたらを踏んで下がっていく。

ふん、雑魚が。

 

「ほら、祐こっちでアドベンチャーブックやろうぜ、雪之丞君も一緒に」

 

「う、うん」

 

祐の背中をぽんとたたいて促してやれば、ほっとしたかのようにこっちを見る。あの場で女子二人にやめるように言うということも悩んでしまうほどに、彼は優しかったのだ。それが美点である。

 

「ねえ本当最悪なんだけど!!」

 

どうやら、腕を引っぱっていた女子のどちらかが、誰かの水をこぼしたのか服が濡れている。スカートの裾にかかったという程度か。放置しておけば乾く程度だ。

 

「ねぇ、本当にデブできもい癖に、何で学校来てるの?」

 

「お前が苦しむところを見るため」

 

適当に答えてあげれば満足するだろうとそういえば、癇癪を起こしたのか、その辺にあった筆箱を投げてくるが、無視だ無視。相手にするだけ無駄である。

 

「この年からヒステリーとか女は大変だな、男でよかった。デブでも未来は明るいし」

 

我ながら、クソガキだなぁという捨て台詞を言いながら、祐と一緒に雪之丞君の方に行く自分。

ああ、そりゃ顔が悪くなくてもこんな事言う奴はモテないよな。性格最悪なんじゃと。割と思うがまだこのころの俺は精神的に幼かったんだろう。体に引っ張られているのか。

 

なにせ、今なら子供の戯言と適当に流せるし。まぁ確かこの後、トイレから戻った時に俺の机の上にゴミがぶちまけられてたから、ノータイムでその女子に向けて投げつけて、先生に呼ばれたりするけど。楽しい思い出だ。

 

呼び出された後、優しく注意をしてきた先生に

 

「誤解でも別にいいですし、これで女子が全部敵にまわるなら、むしろやりやすくなるので」

 

なんて言ってしまったし、引きつった笑いをしてたあの先生には悪いことしたな。

そう、まだこの頃は俺に余裕がなかったから。極端なやり方しか出来なかったんだ。

 

 

 

「ご、ごめん、僕のせいで……」

 

「気にするな、祐。俺たちは友達だろ。助け合うのが友達だ」

 

「で、でも勉強も僕の方ができないし……」

 

「走るのはおまえのほうがずっと早いし、優しいじゃねぇか。それでいいんだ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

祐とはこんな感じで、いつも通り会話して。何日かして戻ってきた華が間に入って、女子達と俺の関係は少しだけ元通りになったような、ならなかったような。まぁ覚えていない。

俺にとっては祐達のことのほうが大事だから。

 

 

そんないつかの懐かしい夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐、どうだ最近の調子は」

 

俺は祐の部屋で二人、漫画を片手にだべりながらそう切り出した。明日は3人で水族館に行く予定の日。まぁ俺はこの後腹を壊すつもりでいるのだが。

 

「どうって、何が」

 

「決まってる、これだよ、これ」

 

そういって小指を立ててやれば、彼は途端にいぶかしげな顔をする。おっさん臭い動作でも、何度もやっていれば通じるものだ。

 

「女なんて選び放題なんだ、今のところ何人と付き合う予定なんだ」

 

もとより、世間の常識的に複数の女性と結婚することが、義務とまではないが美徳となっているこの社会。それでも少しずつ俺は念には念を入れて、祐の意識をハーレム形成に向けている。

 

勿論俺が楽しむだけではなく、社会的に良いし。なによりモテまくる祐と、彼を好きな女の子たちがなるべく最大限の幸福に成るようにしたほうが、気分も良いからだ。

結果的に祐の寿命が搾り取られて減ってしまったとしても、それはご愛嬌だろう。事実男女の平均寿命は有意差が出るほどになってるこの社会なのだから。

 

 

「いや、俺は、そういうのはまだあんまり……」

 

そうは言っているが、こいつも頭ではわかっている。男性が子孫を作らないことの社会への損失は大きいということを。それでもまだ恋愛が自分とは無縁のどこか遠い存在のように感じているようなのだ。あれだけ秋波を送られるどころか囲まれながら。

 

いや囲まれすぎて、恐怖とかのほうが上まわってしまっているのだろうか?

 

「子供を残すということまで考えなくとも、多くの女性を喜ばせてこそ、一人前の男だと思うが? 雨が降っておまえに寄り添おうとする女性たちを、皆傘に入れる位はするべきさね」

 

賢しげに俺がそう言えば、むっとしたかのように祐は返してくる。まぁ俺が散々言っているから耳にタコは出来ているだろう。今の俺が言い回しが劇っぽいのは完全に読んでいる漫画の影響だが、特に気にはしない。

 

「そういうおまえはっ!」

 

「俺に楽しみを求める人がいれば、いつでも受け入れる準備はあるぞ。傘も用意はある。が────」

 

大きく膨れた自分の腹をたたくと、ポンっと小気味の良い音が響く。勿論この体型だけが原因ではないし、祐もそれは分かっているが。

 

「男たるもの、寄りかかる女性は支えてしかるべきだ。寄りかかられる程の大樹であればな。生憎腐臭のするクシュヴィ・ラスの木みたいのは、不人気なんだ」

 

「えと……ごめん」

 

「なに、もう慣れた」

 

金髪の美少年といえる彼に対して、脂ぎったキモピザデブ眼鏡だ。性格だって優しくて社交的で親切なお人好しの祐と、皮肉屋で揚げ足取りが好きな偏屈な俺である。

 

 

「だから、せめて祐の事を好きだと言った女性には、誠意を持って返せよ?」

 

「わかってる、でも……お前をキモいとかいう女子は好きになれないよ」

 

「それならそれでいいじゃないか、俺を使って篩にかければ。その代わりそれを越えてきた娘はしっかり受け止めろよ?」

 

「……そうだね」

 

女性には選ぶ権利がある。もって帰れる荷物が一つだけならば、そこに財宝があるのに、隣にあるべたついた空き缶を拾おうとする人間はいないだろう。

財宝が100人での奪い合いになるのは、財宝にしっかりとした価値があるからで。世界に一つしかないならともかく、相対的に珍しいが数はある空き缶なんぞ、見向きもされない。

 

 

「俺の分も女性を幸せにしてくれよ? 祐にはその資格と義務がある。なにせ俺の事を好きになるかもしれない娘も、代わりにお前を好きになるだろうからな」

 

「……そうだね、自分を求めてきた娘には、きちんと答えるのが男……だもんね?」

 

「わかってるなら、いいんだ」

 

 

それは正しい事だと思うし、自然の摂理だ。男女比が先鋭化して誰かの一番に成るのが難しくなった女性たちは、2番以降でも良いから、良い男性の傍にいるという形が主流となった。妥協して結婚というのが逆に減ってしまったのである。そりゃそうだ。二号さん以降が普通で合法ならばそうする。鶏口牛後の逆である。

 

故に二桁の奥さんと愛人を持つ男性もいれば、一人二人だけと結婚してる人もいる。しかし0は相当珍しいというか、20過ぎてしまえば、それだけで地雷認定されるような感じの社会なのである。俺はもう自分の埋める穴は掘ってるぞ。

 

「でもぼ……俺は本当に不安なんだ……女の子はどうすれば、喜んでくれるんだ?」

 

「そんなの人によるだろ、華にでも聞いてみれば?」

 

悩まし気に頭を抱える祐は絵になっているが、横に俺がいると、かなり特殊な需要しか満たせなくなるだろう。

だが、俺も祐を使って多くの女性に囲まれる男性の幸せな図。というものを横で見てられるのは、まぁまぁできない経験だ。大抵の男の家庭には何かしらの不和がある事が多いし、場合によっては婚姻だけ結んでもう会わないや、子供が出来たら別の女の所に行く。なんてビジネスライクな家庭もある。

 

それだけ結婚しているというステータスが大事なのだ。

 

「そう……だね……」

 

「まぁ、もし華から告白なんてしてきたら、きちんと向き合えよ? ただ早まって華だけを愛するなんて言うなよ、それは難しいしこれから会う女性達に不誠実だ」

 

「こ!? いや、でも……うん、そうなんだよね……」

 

俺の言っていることは無茶苦茶だが、この社会ではそこまで無理筋ではない。ポリコレ的には微妙だけど頷いちゃうよねくらいの理論だ、ひでぇ社会だな。

 

でもまぁ、だから一先ずは学生中に5,6人程のハーレムを作り、社会人になれば愛人を沢山作ってもらえるように。少しずつ、こいつのマインドを変えてきている。そろそろ実践のときだからな。

 

 

 

水族館デートの少し前の日、俺はあいつの部屋でそう思った。

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