男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

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依存と憧憬と諦観-4

年も明けて、2月。3年生の先輩方の受験もひとまず落ち着き、あとは祈るだけみたいな空気になってきたころ。

 

俺はマキさんに誘われてプールに来ていた。

 

 

 

 

 

いや、すまない、俺も正直経緯がよくわかってないんだ。

ただ、オールシーズンのプールのチケットを虎先輩が手に入れて、祐と二人で行くとほかメンバーと喧嘩になるので、マキさんと行けば? という話になったらしい。それなら祐が俺が行けばよいとダイエットのために市民プール通いの俺を推奨して。じゃあと虎先輩が抜けたのだ。

 

ものすごく作為的なものを感じるが、一切の意図が読めない。あえていうのならば、俺が服を脱いで泳ぐというのは、周囲に気を使う程度には醜い裸体をさらすので。もっぱら行くのは人の少ない市役所に併設されたプールの空いてる時間だった。

祐もなんか気にしてるので、幼馴染の二人の前ですら基本脱がないわけで。それを克服するために知人と行ってこいというものではないか? そう思う。

 

 

「十三。あんた泳げないって、本当なの?」

 

「ええ、まぁはい」

 

そして俺は恥ずかしながら泳げない、頑張って時々足ついて25M泳げる程度だ。男子のプール授業は中学以降様々な理由から無いからな。この社会。

 

 

「ま、まぁあんたが去年選んでくれた水着、一回くらいは着たかったし? 私が教えてあげるわよ」

 

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

というわけで、なんか2人で行くことになった時にマキさんは言っていた。あれ、俺が選んだんだっけ? でも一緒に水着買いに行ったし、そうだったかもしれない。

今時女子は毎シーズン水着を変えるのだろう。そんなポンポン変えるものかと思ったが、ゲームではシーズンごとに強いキャラや文明でプレイするために課金するからなと思えば、納得だ。

 

そういうわけで、今俺はプールに居る。普段は所謂25Mプールしかない市民プールで歩き、レジャー施設のプールで空いてる25Mプールで泳ぐのは無駄が多く感じるが仕方があるまい。

 

「ほら、人間は水に浮くんだから、しっかり膝を曲げず足全体を振りなさいっ!」

 

「いや、やって、ますぅ!」

 

プールの縁の水を流すためか少し低くなってる所に手をかけて、懸命に足を振っている俺に対して。その横のプールサイドに腰掛けて、俺を指導してくるマキさん。なんか楽しそうだ。俺が必死に死にかけて足をばたつかせているからだろうか?

 

「誰に見られるわけでもないんだから、必死にやりなさいって。フォーム直したら泳ぐのよ?」

 

「わかって、ますって」

 

 

時期が時期だろうか、周囲に人は少ない。今日なんか外は雪降ってるしな。併設のボーリング場とかの方が人気なんだろう。

普段は市民プールでバターになるまで歩くだけの俺は、泳ぐという概念を取得すべく、横の鬼コーチの指示に従う。

 

少し困るのは、顔に水をつけて息継ぎのために顔を上げるたびに、すらっと長くて綺麗な白い御御足が目の前に来ることで。結構目に毒だ。

黒基調でフリルのついたワンピースの水着で、ただでさえ長い手足にメリハリが出ている。小さい顔も相成って、完全に水着モデルの撮影風景のそれだ。

 

これでマキさん本人はシックなのは似合わないとか思ってて、虎先輩曰く放っておくと子供っぽいデザインを選ぼうとするらしいから、虎先輩のことが無くても変な方向で嫌われそうな、不器用な人である。

 

正直いつもならば顔を赤らめるほど見てしまうのだろうが、裸眼なのでぼんやりとしか見えない。泳ぐつもりで来たので、眼鏡は荷物のところである。

 

「きっとよくお似合いなのでしょう、満足に見れないのが残念ですが」

 

「ふ、ふん、お世辞は言っても何も出ないわよ」

 

「本心なのですが、では、もっと近くでも見ても?」

 

「や、やめなさいよっ!」

 

まぁさっき着替え終わった時にそんな事をやったから、今厳しく扱かれているわけだろう。

 

そもそもマキさんは 虎先輩至上主義だからなのか、割と自分の容姿に無頓着というか、良いものであろうとはしてるけど誇示するつもりがないというタイプで、隙が多い。まぁ、私なんてそんなに見られてないでしょとばかりに、無防備な時がある。

筆箱からペンを取り出す時の指使いだけで、むっちゃ淫靡……もとい綺麗だなって思うのに。そしてパーソナルスペースが妙に近い。今朝も合流した時にナチュラルに寝癖を直されたし、髪を女子に触られたのは思えば華を除けば初めてな気がする、泳ぐから良いだろと思った俺がだめだったわけだ。

 

「はい、それじゃあ私に追い越されないように泳ぎなさい!」

 

「いや、そんな無茶な……」

 

ざぶんと入って来たマキさんに肩をバシバシ叩かれて、俺は遂に泳ぎ始める。これさ、完全に修行とか特訓であって。遊びとかリフレッシュじゃないよね?

そうは思いつつも、なんだかんだで泳げるようになっていくのが楽しくて、25Mごとに壁で休みながら顔を寄せてフィードバックをしてくるマキさんの顔面偏差値に改めて殴られながら。

俺は楽しい一日を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、俺はクイックターンもできるようになったぞ」

 

「そ、そう……凄いね、十三」

 

正直に言ってお手上げだった。毎日のようにジレジレと少しだけ会って話している竹之下さんが、あまり関係を進めないのは、大きいイベントがないからだと思ってたから。その分僕と亜紗美さんで、鳥槇先輩の方でガッツリとデートになるように仕組んでみたけど。二人共何もなく終わって帰ってきた。

十三は完全に僕が仕込んだ社会復帰活動の一環かなにかだと思って、お礼を言っておいてくれよーなんて言ってくる始末だ。

 

お前、本当わかってる? 高校生で男女間で2人でプールは、恋人関係か夫婦関係じゃないと普通ないよ? 学校の授業とかじゃなくてレジャー施設で、女の子が割と気合い入れた水着を着てるんだよ? 男なら普通身構えるよね? なに普通に教わってるの?

と思わず悪態をつきたくなるほどだ。

 

んで、亜紗美さんの方からの情報だと。鳥槇先輩は水着姿を真っ直ぐに褒められて嬉しかったで終わりだそうで、後は泳ぎを教えるのに全力で、手をつなぐことすらしなかったそうだ。そこはこうさ、手を引いて泳ぐ練習をするとかさぁ、あると思ったよ。

 

本当にフォームと息継ぎの仕方をみっちり教えて、半カナヅチの十三を安定して50m泳げるようにしたのは、流石努力でやってきた人だけあって教え方が上手いと思うけど。そうじゃないでしょと。貴女は泳ぐ水着で行ってないでしょって。

 

亜紗美さんも呆れてて、もう名前で呼び合って、日常的に平気な顔で寝る前とかにチャットして、私について祐君の教室に来るとすぐ豚君の所に向かっていくのに。どうしてそう、変な方向に行くのと頭を抱えていた。

 

なんというか、二人共恥ずかしいとかじゃなくて、あんまり意識してないっぽいんだよね、恐ろしいことに。仲の良い異性の友達とも少し違っていて。亜紗美さんは【疑似恋愛をしている】みたいな感じと言っている。

 

でもなんかちょっと納得、ある意味ではホストに貢いでるとかそういう感覚なのかもしれない。多分鳥槇先輩的には好きなのは亜紗美さんで、十三はあくまで友達で恋愛対象としてお互い見ていないのかな。

それはそれとして好意的だし、相手に好かれるのは嬉しい。自分に恋愛なんかって思ってる2人同士だから変に噛み合ってる、そんなところだろうか? 面倒くさいなぁ、もう。

 

そういうわけで、もうまもなく。無事に別の学部だけれども亜紗美さんと同じ大学への入学を決めた先輩は。そのまま卒業してしまうのだ。

 

本当にどうするのさ、十三。いやいらないなら良いんだけど。でも多分君はかなり入れ込んでるよね。理由までは正直な所正確にはわからないけど……何となくなら分かるし、でも言いたくはないのかな。

 

それを認めるとそれはそれで、面倒なんだろうね。僕も十三も。お互いの一番を否定するみたいになってしまうだろうからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十三はネジ曲がっていて、捻くれていて、皮肉屋だけど確かに友人思いな後輩だった。私にとっては愚痴を言う仲間というか、ペンフレンドというか。同道の志のような、少し不思議な関係だったけど。年下のはずなのに時々私よりもずっと大人な意見を言ってくる。変な男だったわ。

 

殆ど異性って意識はしないんだけど、ふとした時に私を女の子扱いしてくるのは……その、心臓に悪かった。緊張とかじゃなくてびっくりしてドキドキする。私の周りは老若男女皆が亜紗美第一だった。それがとても誇らしいと思うし、今も変わらずままだ。

 

だからこそ、私のはなしについて来れる程度に亜紗美もしっかりと見ているのに、私も見てくるこの男には、たまにドキッととさせられる。

 

そもそもとして、私は……男子に見られたところで、じゃあどうすればいいのかわからないし。亜紗美に聞こうにもなんか拡大解釈してからかってくるし。貴女と祐さまの関係とは違うのよ、ただ淑女のマナーとしてどう振る舞うかの問題なのよ。

 

だからそう、これは情操教育の一環だなんて、そういうつもりの心構えもして、私は十三と顔を合わせている。彼の視線や意識がどこに向くのか、どのくらいの距離をとるべきなのか。そういうのも学べるから。

 

でも、去年の冬頃にあいつが眼鏡を新調して、瞳がよく見えるようになってからは、びっくりするぐらいこっちの顔を真っ直ぐ見つめていることに気が付いて、少し気恥ずかしくて大変だった。

 

「なに、私の顔に何かついてるかしら?」

 

ってちょっと強く聞いてみれば。

 

「はい、チャーミングな泣き黒子がついたお綺麗な顔が」

 

とあいつ!! いきなり! おかしいでしょ!? 男子ってこういうものなの!? たいして格好良くない十三でこれなら、祐さまとかはどれだけすごい訳!? と本当に思った。

 

で、でも、亜紗美の話にもしっかりと乗ってきてくれて。なにより男性視点からの亜紗美の良いところは私としても一考に値する意見が大きいのよ。

オフショルってそんなに見られるんだとか、背中の露出もかなり煽情的になるんだとか。スキニーデニムはヒップラインに注意だとか。

 

でも、亜紗美の下着のサイズが変わった話に妙に食いついたように見えたのは……少し気に入らなかった。

やっぱ男は胸かと。

まぁ、こいつは【あの】山上先生に言われてダイエットを頑張っているみたいだし、亜紗美いわく【卒業式に告白】するんだとか。

 

なんというか、あいつはちゃんと恋愛をしているのね。

 

そう思うのはきっと、どこか下に見ていたから。

亜紗美に吸い寄せられる周りの皆と違って、私も見てくれる十三なら

いつか、私を一番に見てくれるようになるかもなんて

 

そんな、どこか驕った考えか持ってしまっていたから。それは、別にきっと、女性としてじゃなくて、ただ単純に人として私を特別に見てほしいって、そういうのよ、多分。だって今まで思ったことなかったからわからないけど。

 

だって、十三を見ていたら【誰かの特別になること】がとても嬉しいことだって改めて気が付けた。

そして、だからこそ私が【亜紗美の特別】であることが、私にとってとても嬉しい事なんだって。

 

高校3年間色々あったけれど、3年で色々あって、前よりもっと亜紗美と仲良くなれたのは大切な財産だ。

先週久しぶりに、卒業祝いだなんて彼女の家にスリープオーバーに行ったときも、なんかしんみりとしちゃった。

大人になっても一緒にいようねなんて、また子供みたいな約束をして、亜紗美と笑いあった。

 

別の進路になったけれども、私は大学を出て気持ちが変わらなかったら、真正面から亜紗美の会社に入ろうと思う。よく考えればデジタルグローバルな経営学なんて、学んでどうするのよって話だったわね。

 

それを伝えれば、社長秘書としてこき使ってあげるわなんて言われて。じゃあパワハラって訴えるからと言ってやったわ。

 

楽しい一夜だったけど。ただ、その、生娘だってことを馬鹿にしてくるというか、いかに祐さまと愛し合ってるかを言ってくるのは、おもわず口をふさいで黙らせたけど。亜紗美にマウントをとれる筋力が私についててよかった。

 

「ねぇ、祐さまがそ、そんなに良いなら、わ、私も……その」

 

夜も大分更けてきて。もしかしたら、ちょっとした気の迷い。なんか、変な気持ちになって。

亜紗美がどれだけ苦労して祐さまの横にいるかを考えれば絶対出て来ない。でも、だからこそさっくり断られて冗談で終わると。そう思った甘えから。

 

だってそうきっと【大人の女性】になれば、なにかが変わるんじゃないかって、そう思ったのかもしれないわ。

 

「あら、それなら、祐君と華ちゃんとゆかり先生と双子ちゃんの許可が必要よ?」

 

なのに亜紗美はニヤニヤと、怒ること無くそう言ってくる。予想外の返答に私は思わず抱えていた枕をギュッと抱きしめてしまう。

 

「それは……でも……」

 

「祐君は【マキさんが望めば】って言ってるのよ、本当は駄目だけど。マキなら他の娘には口利きもするわよ?」

 

固まってしまう、祐さまが? 私を? どうしてそんなに? ぐるぐると頭はまわるけどまとまらない。正直亜紗美に気を使ってあまり話してないから。でもあの端正な顔立ちの男性が、自分の横に立って歩いている様を思い浮かべてみると……。

なんだろう、わからない。どうして?

 

「……ぇ」

 

「ほらね? そこで貴女即答できないじゃない。うちのクラスの女子でも9割が頷くわよ、こんな事言われたら」

 

「あっ……」

 

亜紗美が近寄ってきて、抱き寄せられて、頭を撫でられる。落ち着く亜紗美のいい匂いだ。でもやっぱり昔と少しだけ違う? 前は変わらないと思ったのに、今は違うって思ってしまう。

 

「少しは素直に成りなさいよ、いいえ。考えてみなさいよかしら? だって、貴女ほど可愛い子を私は知らないのよ?」

 

「かわいい?」

 

亜紗美のその言葉が私の心に響くまで、少し時間がかかった。

だって、そうじゃない。私がかわいいなんて、亜紗美に比べてもそう言えるわけないのに。

 

「ええ、私といい勝負よ……祐君の前では私の勝ちだけど」

 

顔を上げて表情を見れば、自信満々な顔でそう言ってる。その言葉にはきっとウソがないのは長い付き合いでわかる。亜紗美は本当に私を可愛いって、そう思ってくれてるんだ。

 

特別な人から貰った、その言葉は。好きって言われるよりも嬉しかった。

 

「だからマキは、誰の前で可愛いになるのかしらね?」

 

「……秘密よ」

 

そっぽを向いてそういえば、髪をグシャグシャにされて。思わずやり返せば二人共ぐちゃぐちゃになって。

 

卒業間近の2人で深夜に何やっているんだろうって。そう思ったけど。

 

ああ、とても楽しい夜だったわ。

 

 

 




100万PVを達成しました。ありがとうございます。
そろそろ佳境ですので、もうしばらくお付き合いください
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