男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ 作:HIGU.V
今日は私達の卒業式。3年間亜紗美と一緒に通った高校も今日を最後にお別れとなる。決して輝かしい高校時代とすぐに言えるほど順風満帆ではなかったけれど。少なくとも楽しい高校生活は送れたと思うわ。
「ふふっ、卒業おめでとう。マキ」
「ええ、亜紗美もね。おめでとう」
式では別に泣かなかったけど、こうして改めて話しているとちょっと気持ちが引き締まるから不思議だ。高校生活の殆どは亜紗美と過ごしたからかしら。
春風に舞う亜紗美の長い黒髪を綺麗だと改めて思いながらそう考えてみる。大学入ったら私も髪を伸ばそうかしら。縮毛矯正かければ、私でも……こういう風に。
「……やっぱり、私も亜紗美とルームシェアしたかったわ」
「もう、嘘ばっかり言って。それに、祐君を夢中にさせるための家なのよ?」
亜紗美は、もうすぐゆかり先生とルームシェアをする。正直言ってすごい行動力だと思う。亜紗美と一緒に、ゆかり先生に提案する為だった不動産情報を調べたときは楽しかったけれど。
二人で住める……私と一緒に住む家じゃなくて、まさかの先生との家だったから驚いたし、少しショックだった。
まぁ。たまに遊びに行こう。祐さまの来ない日にでも。私も一人暮らしをするから、遊びに来てもらっても良い。アルバイトだってやってみたいし。ああ、色々やってみたいことが多いわね。
「亜紗美さん、鳥槇先輩」
「あ、祐君! こっちよ」
噂をすればというか、私たちに関わりの深い後輩が訪ねてきてくれた。校庭では同じように挨拶を受けている同学年の卒業生の娘が多い。部活関連がほとんどかしら? 私も亜紗美も入ってないけど、亜紗美はさっきまで新生徒会長を筆頭に生徒会に囲まれていたのよ。
「改めて、おめでとうございます」
「おめでとうございます、先輩方」
「ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、3人とも」
「ありがとうございます」
祐さま、風間さんに十三。まぁ3人は今後も亜紗美とは付き合いがあるでしょうね。何せ、恋人と、恋敵……いや恋仲間? と恋人の親友なんだから。
そういう意味ではここで一区切りをつけるのは大事よね。
「虎先輩がいなくなると、寂しくなりますね」
「どういう意味よ」
「教室に来る着火剤でしたから、祐の騒動の」
「ふふっ……そうね、そうだったわね」
へらへら笑いながら、十三は亜紗美に向かってそう言ってる。いつの間にか虎先輩なんて親しげな呼び方になってるじゃない。まぁ、厳かな式は終わったし良いけれど、亜紗美にいきなり話しかけて笑っているのはなんかむかつくのよね。
背はここ半年で伸びに伸びて、今じゃ六尺豊かなそれになってるし。体格もどんどん角ばっていっているので、もはや豚君というよりも……
「もう猪君か、それとも熊君て呼ぼうかしら?」
「はは、豚くんでお願いしますよ、元は苗字ですし」
亜紗美の言うとおりである。まぁ、まだダイエットというかもはやボディビルディングを続けているので、今後とも絞っていくみたい。70kg台が遠いと嘆いていた。それはどう考えても10㎝以上背が伸びたせいでしょうね。
授業でやったけど本当に成長期が遅いのね、男の子って。
ワイワイと、後輩に囲まれている亜紗美を見つつ、今度は祐さまと風間さんが前に出たタイミングを見計らって、私は十三に声をかける。
「ねぇ、十三。私には何かないの?」
「マキさんも卒業おめでとうございます。虎先輩からは卒業できましたか?」
「しないわよ!」
「流石ですね」
こんな日にも軽口をたたいてくるこの男。まぁ別れを湿っぽくしたくないということかしら、好意的に見れば。それならば今日くらいは許してあげようかしら。
だって今日で私と彼の関係は、元学校の先輩後輩になる。祐さま以外での繋がりはなくなるわけだ。もちろんそれが何だということはないが、少なくとも同じ学校に通う、歩いて2分で会いに行ける教室の距離ということは、もうできなくなるわけだ。
「ふんっ……こんな面倒な先輩がいなくなるから、清々したのでしょうね?」
「何言ってるんですか、らしくもない。普通に寂しいですよ。マキさんと会いにくくなるの」
けろっとそういってくる十三。友達がいなくなって寂しいというそんなニュアンスなんだろうけど、少しだけ心が上を向く。
そっか、寂しいって十三も思ってくれているのねって。私だけならなんかひどい寂しがりみたいになってしまうのは、ちょっと恥ずかしいから。
「でもまぁどうせ、虎先輩の結婚式とかの節目では会うでしょうし。多分来年ですが」
「そ、そうね。ああっ!! きっと素敵なドレス姿になるわ」
「虎先輩は白無垢も似合うと思うんですよね。黒髪とあの背丈で」
「まぁ、そうよねっ!!」
「まぁ先輩も大学でいい出会いがあるといいですね、虎先輩離れは無理にしても、新しい友達とか」
「元からいるわよ!! 亜紗美以外の友達も!!」
こんなに気が合うってわかってる男の子。だからこそ、言えない。
私が卒業してからも、この優しい後輩達に傍に……いえ、彼に一緒にいたいという事なんて口に出せない。
優しい十三だから、卒業の日の同情でそう言われたくはないし。もし面倒ですよなんて言われれば、とても辛いから。
【特別】でいさせてくれるなら、祐さまの次の【2番目】になってもいいって。そう思えるようになったのに。
あんな捻くれた言い方でしか聞けないし確約もできない。だから本当に私、可愛くない。彼の前では私はどうしてか、可愛くなくなるの。街を歩けば別なのに、亜紗美に言われて考えてみたけど。
眼の前でまた会話が盛り上がってる3人を見て、横で私と眺めている十三に、関係ない雑談を振ってしまうほどに。
ああ、どうして私はいつもこうなのだろうって。
「ねぇ、十三。祐さまと貴方の周りで、誰が一番【綺麗で可愛い】と思う?」
突然マキさんがそんなことを聞いてきた。いや、卒業式にする話題かなとも思ったけれど。彼女なりに思うところがあるのだろう。
たぶん……その、虎先輩に振られたとかかな。具体的にはルームシェアの件で。まぁ虎先輩側もしっかり距離を置くべきって考えていたり、そういう感じのやつじゃないのかな。嫌っているわけはないのだろうし。
他の可愛い子と仲良くして代用するとまではないだろうけど。周りに目を向けてみろとか言われたのかもしれない。となると言うべき回答は。
「客観的に見て一番は虎先輩ですね」
「ふーん良いの? お友達いるじゃない、風間さんとか……あとバイトの後輩の子とか」
「まぁ、客観的に見ればクビ差位で一番かなぁと思います、先輩が」
まぁ、祐に一番愛されるのは俺たちの華だと思うけど。幸せであるかが大事だからな。
そういう補正を抜いて考えれば。客観的に容姿が良いとされるのは虎先輩だろう、彼女は綺麗系のトップに異論はない。華は可愛い系のトップとしてもね。
「ふーん。そう……ふーん。そうなのね」
どこか嬉しいのか。それとも日和ったか忖度したと思われたのか。こっちを見ないで低めのテンションでそういうマキさんもとい鳥槇先輩。
だっていつもならここから、さっきみたいに「そう、亜紗美はね! 」って続くのに。一応フォローと言うか弄られるように本音も言っておくことにしよう。まぁ相手は今日で卒業の人だし。
「主観的にだとマキさんですね、綺麗+かわいいの合計点で考えるとそうなります」
「はぁ!? わ、私!?」
次点で竹之下かなぁ。まぁあいつの可愛いは小動物とかのそれだし、時々可愛がりたくなるけど綺麗系ではないから。
その点マキさんは表情というギャップ萌分があるし。ただ、胸は竹之下の方が大きいけど今は関係ない。
俺の好みだけで考えると山上先生になるが祐の傍にいないし減点して。華をそういう俺の主観では見たくない。え? 駄場さん? あの人はペット枠だよ。女性枠じゃない。
「そう、私……私を可愛いって思ってくれるのね」
「いや、何時も散々言ってますよね」
この社会では女性の方が多いし、ある程度仲良い人とは適当に容姿を褒めたほうが良いのだ。定食屋のおば……おかみさんとかは、今日もおきれいですねって言うだけで肉が1つ増えるんだし。
「そうかしら? まぁ、褒めてくれる人が【沢山いる】から覚えてなかったのかもね」
「それは良いですね、なら大学でも増えるとなお良いですね」
それでも俺のお世辞ではないが、多少の忖度は感じても素直に褒め言葉を受け取ってくれたようだ。卒業でおセンチにでもなっていたのだろうか。
「あんたは、うちの大学受けるんでしょ?」
「はい、そのつもりです。祐も華もそうですが」
まぁ首都とかにいかないならそんなに選択肢ないし。学部は皆バラバラみたいだけど。俺は授業簡単そうなのにして、就職後役立ちそうな資格勉強に充てる方向性だ。
そう考えている間に機嫌が直ったのか。虎先輩より可愛い【笑顔】のマキさんがこっちを向いてニコニコ笑っている。
「また、私のこと褒めてくれるなら、勉強みてあげる。だから────また会いましょう? 十三」
「はい、その時はお願いします。卒業おめでとう、マキさん」
俺はそう笑顔で返せたと思う。だって良いものを見れて嬉しかったから。少しだけ胸が高鳴ったから。可愛くて美人な先輩との卒業式なんて、そんな青春的な経験ができたからだろうか。
その後は笑顔で別れて、爽やかな気持ちで帰ったけど。
2ヶ月もしないで俺の身に純と駄場さんという女性問題が降り掛かってくるとはこの時は全く思えなかったんだ。
そして俺がこの時どうしてこんな事を言って感じて嬉しくなったのかも、ようやっとわかったんだ。
我ながら遅すぎる。
そうだから、今日の祐と華の結婚式。
俺はついさっき前世さんと決別した。まぁ辞めたというのが正しいけど。格好良い言い方をしたいから。
6月の晴れの日という、親友たちの門出にちょうど良い日に。
そして、俺は今からマキさんに……こ、告白をする。我ながら、前世の倫理観的には最低だ。
だが、俺はもうこの社会を生きる一人の外見偏差値低めの男なのである。
年上の女性から実地の性教育を受けて、バイト先の娘と卒業後に結婚する約束をしているという。探せば標準偏差1.0以内に入る程度にはいそうな男である。よしっ、動機の理論武装は完了。
結局のところ、こんなになったのも全部が全部駄場さんのせいだ。俺なんかを卒業させてくれたあの人がすべて悪い。
なんか、こう。変な自信がついてしまった。純の告白だって、男として好かれているかどうかなんてわからない段階でYESって言ってしまった訳だし。駄場さんの身勝手女ムーブにも俺の物になれよが出来た。
やっぱこの魔法使いの前ジョブはデバフでしかないな。
まぁ調子に乗っている自覚はあれど、それでも今までの自分を振り返ってみてみると、思う所がある。
あ、自分めっちゃマキさんのこと好きじゃん。って。
いやまぁ、見ないようにわざと蓋をしてたところはあると思うのだけれど。それにしたってだ。要するに、彼女に自己投影をしてしまい、同情したところからスタートしているから。
【優れた親友の太陽に照らされる影】という形で。
それが彼女の名誉を何よりも傷つけるし、その行為を同情すべきものって見る事自体が、俺自身も祐の隣に居られれば良いというアイデンティティを揺らがしかねないから。強く見ないふりをしていたんだろうと思う。
そもそも俺が祐とくっつけたいなって思ってた人って、皆好きな人だったんだな。
いや、本当に駄場さんはだな。
ともかく俺はまぁ、シンプルにマキさんのことが気になってしょうがなくなった。
純とチャットしている時や。駄馬さんが「終電逃します!」と夕方突然訪ねてきた時とか。そういう他の娘と過ごしている時以外では結構頭の中にいた。
こんなんじゃ勉強も手につかない。まぁ成績的に余裕はあるけど、中学の後半からはもう対策も始めていたから。
それでもだ。
俺はマキさんを、虎先輩の横で幸せそうに笑う彼女を。俺の傍でも笑っていて欲しいって思った。
あの人が可愛いってことを社会全体に広く喧伝したいとすら思う。
別に純や駄場さんより好きとかそういうわけじゃなくて、マキさんも好きなんだって言う。俺の中のよくわからない感情がある。言語化は難しいけど……両親のどちらが好きかわからないとかに、近いのかもしれない。両親いないけど。
虎先輩を時々変な表情で見てしまうあの人をずっと笑顔にしたいし。自分が可愛いって事を自覚するまでこんこんと問い詰めたいし。時々寂しそうな顔をするあの人の傍に居たい。
気が多いとは思ってるけど、俺もこの社会に染まったみたいだ。
雪之丞君からしたら、どうしてそう年上にしか行かないんだ君はとでも言われそうだけど。そういう好みだったとしか言えない。
「マキさんその……少しばかりお話があります。着いて来てもらえますか?」
「ここじゃだめなの?……そう、良いわ。行きましょう」
俺は今、階段の傍にいたマキさんを連れ出して、BBQパーティーが余裕でできる程立派な祐の家の庭にいる。さっきまではここで皆が写真を撮ってたけど、今の皆は食事のある室内で撮ってるから人はいない。今この場には確かに二人きりだ。
「んで何よ、十三」
「マキさんは、その……大学で友達出来ました?」
「ん、まぁそうね。何人かは」
黒のドレスに白いボレロ。ブラウンが目立っていた巻き毛だった髪は黒髪のミディアムヘアで。
きっと自分じゃなくて、虎先輩が選んだであろうコーディネート。シックなデザインとまだ2ヶ月とは言え大学生だからか、前に会ったときよりも随分と雰囲気が大人っぽい。
「女性の友達が?」
「当然じゃない、うちの学部男子いないし」
その言葉で安心できる程度に俺は浅ましい。そしてこれ以上引き延ばすと、割と回りくどいことが嫌いな彼女だから、きっと機嫌を損ねてしまう。もう後は直球で言うしかない。
こんな俺がとか、今の状況でとか、頭によぎる俺の声もあるけれど、でも今日伝えたいんだ。
マキさんも俺が竹之下に告白されたことは当然知っているだろう、祐に言ったっていうことは、去年からの色々を考えるに筒抜けだと思うから。
それでも、いやだからこそ今日言うべきだ。今日が俺に恋人ができてから初めて会う日だから。
友人の結婚式に来た人にっていうのは、少し以上には抵抗はあるんだけど。今言わなければ、もうずっとズルズル言えないような、そんな気がするから。
「マキさん、俺と付き合ってください、恋人として」
「え……?」
誤解を生まないように、言葉を選ぶ。どもったり視線をそらしたりしないで。すっと言えた。用意してきた言葉だからからか。
「俺と、恋人になってください。って言ってます。その、俺……好きです。マキさんが」
言った。言ってしまった。真っ直ぐに目を見て言ってやった。
ゆっくりと流れる時間の中、マキさんの表情はふわっと目が大きく広がって、口を小さく開いた後に、きゅっと唇を結んで。顔をそらされた。
ど、どうなんだ。
「……ごめんなさい、私。十三とは付き合えないわ」
「あ、そう……ですか」
「嫌いじゃないけど、そのごめんなさい。容姿が釣り合わないじゃない、私たち」
それを言われると弱い。彼女は可愛い人だ。俺は体格はともかく顔は相変わらず人類ではあるがというレベルだ。美醜に関して妥協してくれなければ、こうなっても仕方がないだろう。
「もっと顔が良い人と、私は、その付き合いたいと思うの。だから、その、ごめんなさい」
そう言ってマキさんは、すっと踵を返して部屋に戻っていった。
……まぁ仕方ないか。土台今までが上手く行き過ぎていたんだ。結婚を検討してくれている女性が二人いるのに、調子に乗っていたんだ。
そう言い聞かせながらも、さすがにすぐには戻れないなと、俺は近くの椅子に力なく座る。
せめてパーティーを台無しにしない程度にテンションを戻すまでは、ここに居るべきかとそう思って。
せっかくの6月の晴れなのに、雨が降ってほしいほど恨めしく見えた。