男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

32 / 33
30万UA ありがとうございます。

でも俺は、自分の性癖だけは絶対ぇ曲げねぇ!!


依存と憧憬と諦観-6

 

 

 

まぁ、正直ここまでかっ飛んでいくとは思わなかったけれど。剛毅果断なのは十三の良いところだ。人の結婚式で何やってんだって疑問はさておき。

いや式ではないか。一応は結婚記念パーティー。ただみんなが式、式いうから、披露宴なのか結婚式なのかパーティーなのかわからなくなってきた。

 

ともかく十三が告白してフられている。庭でぼーっと外を見ているのを、家の人が確認してどうしたのか聞いたら、「黄昏ています」と答えたそうだ。

まぁ、ご友人の結婚ですし、そういうこともあるのかと流したら、目撃者が別にいて僕にまで報告が来たとの流れである。

 

実のところ二人で抜け出すのは見えてたけどね。そして鳥槇先輩だけ戻ってお手洗いの方に行ってたから、その……正直想像はついた。

 

彼女の方は亜紗美さんに任せる。もとより僕と亜紗美さん的には今日動きがあることは想定していたし。むしろ今日のパーティーの目的の何割かは2人の進展の為っていうのもある。

そうじゃなきゃ竹之下さんが遅れる日を選びつつ、友人オンリーの感じで参加者こんなに絞らないもの。ほぼ身内だけの集まりなんだ。

 

健康体というか恵体になって自信がついた十三。だからこそまぁ、こういう風に行きすぎるんじゃないかなとは思った。あいつは優しいんだけど、押しつけがましいところは確かにあるから。

 

最近は自分の欲望に素直というか、色々と考えて将来を見て動いては居るけれど。デリカシーが妙にないところとか、お節介を焼きすぎるところとか。色々マイナスはあるし何より浮かれてるアイツは踏み外すからなぁ。

 

鳥槇先輩の心理まではわからないけれど、その辺は亜紗美さんが上手くやってくれるだろう。なので、華の方には周囲の誘導をやってもらう、野次馬はもう少し控えるように。ほら、母さんもカメラはだめだから。

 

そう取りなしてから僕は庭に向かう。今日の主役だってのに、ババを引いた感じだけど、どこか気分は晴れやかだった。

 

ダメだったらその時だろうけど、まぁ十三だから。アイツは最後にはどうにかするタイプなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーい、振られてやんの」

 

「ああ!? ……ああ、祐か。見てたのか?」

 

 

庭で何が悪かったのか改めてじっくり検討していると、軽い声で煽られたからつい威嚇してしまった。感情がささくれ立ってる証拠だ。

 

「今はちょっと元気ないし機嫌が悪いから、後にしてくれ祐。お前に当たりたくない」

 

「ちょっとモテたくらいで調子乗ってっからそうなんだよ、でくの坊」

 

「ああ?」

 

でも今日の祐は流石に聞き流せないレベルでなんかめっちゃ煽ってくる。ゲームの盤外戦術くらいでしかやらない、祐の煽りだ。基本的には俺のミスプレイを咎めて、せめてもの溜飲を下ろす時程度だから、あまり気にならないけれど。

だからこそ、今の俺にはだいぶ耳障りだ。

 

「今日の主賓様は、ずいぶん口が悪いな」

 

「そりゃそうだよ、これでパーティーが台無しな空気になるかもしれないじゃん」

 

「それは……その、すまないとしか……」

 

なんて思っていたが、その一言で一気に冷える。うん、これは俺が悪いな。

いくら正式ではないとはいえ、結婚を祝う場で添え物が出しゃばって、その結果空気をぶち壊したらいけないだろう。

 

え、あれやば。これからどうするの、マキさんが体調が悪くてとかの理由で自主的に帰るのを待つの? いや俺が帰れよって話か。

そしたら、何でって聞かれるよな? こんな見るからな健康体が体調悪いなんて言っても信じてくれないだろうし、ああ、もう面倒。

そしてなにより、さすがの俺もわかる。このままだと完全にマキさんとの線が切れること位は。確実に俺が傷つくであろう外見を揶揄して告白を袖にしたんだ。もう友人としての付き合いもガクッと減らすつもりだろう。あの人はそういう人だ。

 

「情けないよね、十三」

 

「その通りだな」

 

「君はさぁ、自分に楽しみを求めてくる女性がいたら、全員に傘を差し出す準備があるんじゃなかったの?」

 

ものすごく痛いところを的確に付いてくる。これはまさに身から出た錆である。祐をハーレム推奨派にするべく色々吹き込んだからなぁ。

 

「まぁ、鳥槇先輩は亜紗美さん程じゃないけど美人だったしね。でもいいんじゃない? 他に2人は君のこと好きな人いるんだし」

 

「……ふんっ」

 

ずいぶん露悪的な言い草だが俺は聞き流すことにした。考えをまとめたい。今は祐と話などしていたくはないんだ。

 

「君なんかが目を向けるべきは君を見てくれる人だよ。でもまぁ、もし他にも女性を囲いたいなら、紹介できなくないよ? 何人かくらいは」

 

「いらねぇ」

 

「鳥槇先輩レベルの女性で、年上行けるなら沢山いるから話しだけでも────」

 

「……なあ、祐、お前さぁ」

 

だが、流石に煩く感じてきたので俺は立ち上がって祐に近づく。さっきから感情が上がったり下がったりと忙しい。

今の祐の格好は、今日のパーティーにマッチした落ち着いた黒のタキシードだ。まぁ正直それが

 

「似合わねえな、そういうの」

 

なんというか、服装も演技も全然である。大根なのは俺とそっくりなのか。一緒にいれば似るというが、ここまでとは。祐の弱点をまた見つけたようだ。

 

「うるさいよ、マザコンM野郎が」

 

が、さすがに俺もそこまで言われれば、むかつく。温厚な俺だがキレないわけではないのだ。

 

「んだと、気障S野郎が。デジタルタトゥーは作らせるなよ」

 

「は? あれは勝手に過激な自撮り送ってくるのがブームになってただけで、僕は頼んでないし。むしろ止めてる側だ。お前こそ作ってる側だろうが。というかプレイのたびにストッキング破いてんじゃねーよ、脚フェチ野郎」

 

「んだと下着フェチが、華から男性が好きそうなのってどっちかってURL送られた俺の身にもなれや、赤飯炊いたぞおいこっちはよ」

 

眼の前に居る祐を思いっきり睨みつけながら。高さの差をそのままエネルギーに変えて、ガツンとその突き出してきてた額に頭突きをする。

石頭のこいつとぶつかることで白い光が走ったように視界が消えて、痛みで思考もマヒする。

 

「っ!! てーな」

 

「そっちのせいだろっ!!」

 

怒鳴り合うように言い争う。頭突き以外手を出さないとお互い随分前に決めた喧嘩の時の男の約束だ。でも、最後にこんな感じで喧嘩したのはいつだったかな? すぐには出てこないほどには昔だ、だが今はまぁいい。

 

「ああ、気合入ったわ」

 

「うん、それでこそ十三だ。粘着質で偏執的なのが良いところだよ」

 

「前はそれをやめろって言ってたくせに、よく言う」

 

 

まぁ、なんだ。一回フラれたくらいで、諦めたくないほどに俺はどうやら、マキさんが欲しいらしい。そうでもなきゃこんなにうじうじ悩まないよな。わざわざ理論武装までして言い方は悪いが浮気をするつもりで告白して振られたんだから。すっぱりと諦めれて反省すれば良いわけで。

 

そも外見理由にフるなら最初から近くに置くなよという話だ。マキさんはそんな器用に嫌いな人を近くに置きながらニコニコなんてことは出来ない。

直球しか投げれない彼女のことだし、本心で嫌ならもっとえげつない事を突きつけてくる。

 

見た目を理由に彼女が俺をフるならばきっと

「その外見で私に告白とかふざけてるわけ? 」とか。「ごめんなさい生理的に無理」とかの希望を断ち切るとかじゃなくて心を折りに来る形になるはずだ。

あんなにびっくりして、もっと外見が良い人と付き合いたいと断るのは、別に理由がある。

そう言い聞かせる。

 

「まぁ、このまま行けってことだろ?」

 

「うん、変に考え込むよりは目はあるよ、まだね」

 

多分、祐も俺がなんで振られたとか、裏事情とかわかってないけど。お前なら何とかするだろうくらいのふんわりとした感じで送り出しているのはわかる。長い付き合いだ。まぁもとよりダメで元々みたいなものだし、俺は純にも駄場さんにも何も相談してないし。

だけど、こと人間関係に関しては、祐の言う通りにしたほうが良いのは、華と出会えた時から確信してる。おれがマキさんを好きだということがわかって、今振られたのに、また言ってこいということは今行くべきなんだろうさ。

 

なに、どうせフられても俺が納得するまで話し合うだけだ、罪にならない程度に。フられても惨め野郎がもっと惨めになるだけ。笑い話にする必要はあるかもだけど、笑ってくれる人はたくさんいるからな、今日は。元より道化は慣れている。

 

んで、ダメだったら慰めてもらおう。純にはけじめつけてきたって言えばいいと思う。ダメだったら謝る。駄場さんにマキさんのコスプレしてもらうのは無理があるし、尊厳破壊が過ぎるからやめておくにしても。単純に制服を着せるだけならしてくれそうだ。いいよね三十路の制服。

 

「んじゃ、玉砕してくる」

 

「うん、振られて来い、十三」

 

「パーティーの第2部は、残念パーティーになるかもしれないけど」

 

「垂れ幕の文字書き換えとくよ」

 

バカみたいなやり取りをして、俺はわかりやすくこっちを見ている虎先輩の方に向かう。

 

苦笑いしながら化粧室の横のゲストルームを指差している虎先輩。どうやら最初から俺とマキさんの二人きりというのはみんな気を使ってのことだったようだ。

 

横目で華が両手をぐっとして応援しているのを見て、苦笑しつつ親指を立てて俺は足早に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また意地はってるでしょ」

 

「はってないわよ」

 

洗面所、というよりも化粧室ね。十三と分かれて駆け込んだそこの鏡の前でぼーっとしている私に声をかけてくる亜紗美。

 

「それで、どうしてふっちゃったのよ?」

 

「何で知ってるかは聞かないわよ、もう」

 

そう、私はさっき十三に告白をされてしまった。恋人にしたい、好きだと言われてしまったのだ。そしてそれを断った。だから合わせる顔もなく彼が入ってこれないこの場所にいるの。

そして、それを当然のように知っている亜紗美。まぁ十三が私を呼び出した時に一瞬私は亜紗美と目があったし、着いてきてたんだと思う。それは別に良いの。

 

「いいじゃない、そのくらい普通だと思うわよ?」

 

「亜紗美に何がわかるのよ」

 

怒る気力すら沸かないで、知ったような顔で私を諭すように言ってくる亜紗美。今日の衣装もよく似合っている。お揃いにしようと細部のデザインの異なるものを2人で選んだから。私と2人で並べば、さらに亜紗美は際立って綺麗に見えるはずだ。

 

「優越感は悪いことじゃないわ」

 

「ふんっ!」

 

そんな亜紗美だからこそ、言ってくる言葉なのでしょうね。そして私は今その言葉について考えられない。

思うのは、どうして告白をしてきたんだという、戸惑いと少しだけの怒り。そしてどうしてあんなふうに返してしまったんだという後悔。そして何よりも、気がついていたけれど見ないようにしていたことを、改めて突きつけられた苦い思い。

 

目の前に綺麗な亜紗美が居ても、なお拭えないほどに濁って下がった私の感情は、いまは全てがどうでも良いと思う。祐さまや風間さんへの申し訳無さもまだ殆ど湧き上がってこないのだもの。

 

「わたし、華ちゃんとキスしたことあるわ」

 

「え? なななななな、なによ! それ!」

 

しかし、そんな亜紗美が私の耳元に顔を寄せて、ささやくようにそう呟いてくれば、思わずという反応で飛び上がってしまう。かかる吐息もそうだけれど。何よりも内容を一瞬脳が理解を拒んだ。

 

「まぁ、祐くんといろいろしてるとね……そういう事もあるの」

 

「いや、あんまり聞きたくないのだけど……そこまで生々しいのは」

 

少しは興味ある話題だけど、もっとこう。どういう所にドキドキしてるとか、どんなふうにされるとかでもこの前はいっぱいいっぱいだった。今のテンションと心理状態で受け止められる内容だとは思えない。

クスクスと、恐らく百面相をしているであろう私を見て亜紗美は笑う。そしてさらにいたずら気に口を歪ませて、私の肩に手をかけて顔を寄せてくる。

 

「……でも、マキとはしたことないわよね?」

 

「ないに決まってるでしょ!?」

 

そう、私と亜紗美は別に恋人でもなければ、事実婚をしているわけでもない。普通に親友であり、幼馴染……でもあると思う。亜紗美のことは一番に好きだけど、恋人にしたいほど気持ちが強くなったと思うことはない。

 

「そうね、でも友達として仲いいのはマキだと思うし。華ちゃんも別に恋人とかそういうわけじゃないでしょ?」

 

「何が言いたいのよ」

 

また、煙に撒こうとしているのはわかる。でもちょっとフックが気になりすぎて聞くのを止められないのは仕方ないじゃない。

そうね亜紗美は確かに前から風間さんを気に入っていたけど、私より親密というわけではなかったわ。勿論祐さまとのお付き合いの過程で共通の話題やそこだけの話みたいのもあるでしょうし。それで仲良くなっても、私は亜紗美の一番の親友で一番仲が良い人間である自負はあるわね。

 

「マキは型に入れすぎてるのよ」

 

「型? どういう意味よそれ」

 

「好きに順位もなければカテゴリもルールもないのよ。華ちゃんはわたしにとっては、祐君との恋人になって愛してもらう上で最大の障害だけど、かわいい後輩でもあるの、そんなものよ」

 

順位がない? でも本当は一番好きな人と恋人になって結婚するのが正しい事じゃないの? だから一番好きになった人を恋人にしたいと思った時に告白するんでしょ? 社会の男性の数が少ないからそうはなっていなくて、2番や3番でもOKするということがあるだけで。

私はずっと亜紗美が一番で十三がそれを越えたと思っていなかった。亜紗美に何度も言われて考えたけれど。

 

「あんまり言いたくなかったけど言うわね。親友の延長線上に恋人はないわよ」

 

「え? あの、それってどういう意味?」

 

「……いえ、ごめんなさいやっぱ忘れて。決めつけるのは良くないわ……ええ、そうね。人によるものね」

 

真面目な顔をして言ったかと思えば、それをすぐに否定してくる亜紗美、今日は何時にも増してわからない。私の一番の親友で特別で大好きな人。

家族を除けば一番好きなのが亜紗美でずっと変わってない……2番目が嫌いだった十三になったのは、今も納得してないけど。自分でふっておいてまだ変わらない。

 

「簡単な方、でも根深い所を見ましょう。マキ、貴女自分のこと可愛いって思うのに理由が要るのよね? 知ってるわよ」

 

「そ、それは、でも」

 

ああ、やっぱり。最初に言われたから覚悟はしていた。亜紗美はしっかり私を見て、わかってる。バレてしまってる。私のどうしようもなく醜い部分を。

 

「私と一緒にいるときより、豚君と一緒にいるときの方が……沢山視線感じるのよね?」

 

「うぅ……あっ……」

 

「まぁ、そうよねぇ? マキは可愛いもの。豚君と一緒の時はさぞ美人に見えたでしょうね、周りから」

 

「し、仕方ないじゃない!! 私だって、最初は楽しんじゃったわよ!」

 

十三は優しくて、そして全然気にしていなかった。でも私は、ずっと亜紗美の陰に隠れていた私にとっては。

十三といることに、拭えないほどの優越感があった。彼は私を引き立ててくれた、いや過剰なまでに引き立てすぎてくれた。

となりのテーブルやすれ違う人の声が、私を褒めてくれる、可愛いと言ってくれる。綺麗なお姫様みたいだって言ってくれる。それがとても心地よくて。

あぁ、きっと私の親友は何時もこんな気持ちなんだって。そう醜くも思ってしまった。

 

そして、それを自覚してしまえば、自分が憎いほど気持ち悪くなった。そう私は、十三を利用しているだけだった。私は、十三を使って自己肯定欲を承認欲求を高めているだけの、ひどい女だって。

一緒に居て楽しいっていうこの気持ちですら、その自分を高める【アクセサリー】があるからなんだって、その思いが0だと否定出来ないほどに。でも私は十三の傍に居ることを望んだ。

 

友達だったらまだいいわ。それに十三とはギブアンドテイクみたいな、教え合ったり補い合ったりのそんな関係だったもの。心地よさを得る事も悪いことじゃないでしょ?

 

でももし、もし十三が私の【特別】で【恋人】になったら。私は十三と一緒にいるときに、そんな気持ちをきっと抑えられない。

十三と一緒にいるのは、自分が可愛く見られる為だって、優越感のためだって。

 

あれだけ体格が変わっても、十三の顔は良くないもの。周囲の視線は変わらず私を可愛いって言ってるから。私は褒めてもらえる度に、十三を下に見て優越感に浸る。そんな女になってしまうわ。

 

そしてそれが、外見の悪い男の傍にいてあげる優しい女を気取りだしたら、私はもう自分すらわからなくなってしまうわ。

 

そんなのあまりにも不義理じゃない。十三にさっき【好きって言ってもらって嬉しかった】のに。私が返せるのが、こんな醜い感情じゃ、渡せるわけじゃないじゃない。

しかも、私は亜紗美の次に好きだなんて、不義理な感情なのに。性別が逆だったら、まだマシだったかもしれないけど。

 

私には、十三に好かれる資格が全くない。身も心も特別に可愛いわけじゃない女だって。そう思ったら、十三の傍にはもう去年会った2人が居るって聞いたのを思い出して。

ぐちゃぐちゃになった私は、ただその思いだけで言ってしまった。

 

彼を傷つけるような、ひどい発言を。それですら、自分を傷つけないように、彼と居ると私が嬉しいことすら言っていないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に潔癖よねえ、マキは」

 

好きだという感情は、お姫様のように純心であるべきだっていうのが、きっとマキの心にあるのでしょうね。

相手のことが好きならば、周囲から何を言われようと揺るがないほど、相手に対して真摯であらねばならないのだろうと。そんな高すぎる理想を。

 

マキにとっての恋は物語のような洗練されて、綺麗に昇華した強い曇りのない感情なのでしょう。

 

そして事実として、マキは実践してきた。私の隣にいて周囲に腰巾着と言われようと、どう思われようと真っ直ぐ努力で跳ね除けてこれた。親友と言ってくれる私へ恥じないように……なんか時々邪な行動を隠してするけど。

それでも【思い】自体はずっと真っ直ぐ向けてくれていた。

 

私は飽き性で手を抜きがちなところがあるけど、マキが何回も試行錯誤しながらやってるのを見て。まっすぐ私について来てくれるのを見て、何度も自分を律せた。

多分一人でいたらもっとわがままで奔放な社長令嬢になってた。そうならなかったのは、マキに格好良い私を見てもらいたいって、そう思えたからでしかないわ。

 

 

じゃあマキが逆に、誰かに真っ直ぐ見てもらえる上の立場になった時。少しでも周囲からの評価や視線を気にしない、喜ぶようなことを我慢するのは。きっとできなかったのね。人間ならば普通の感情だけどね。

でも、それを不純で、醜いものだとそう捉えてしまったと。

 

私はマキを何時かのように抱きしめて背中を撫でて口を開く。

 

「あのね、マキ。私、ちやほやされるの大好きよ?」

 

「え?」

 

本心だけを言うの。難しいことじゃないわよ。ちょっとだけ貴女の前で格好をつけていたことを暴露するだけ。

少し恥ずかしいけれど、すぐに笑い話にできるようなそんな程度のことじゃない。

 

「あなたが追い払ってた変な取り巻きとかやっかみも、言われる分には好きよ。心地よいじゃない? 負け犬の遠吠えって感じで」

 

「あ、亜紗美?」

 

ほら、目を白黒させているのが声の上ずり具合でわかるわ。私はね、マキ。これでも頑張ってたのよ。

貴女にお姫様みたいだって言ってもらって。ずっと嬉しかったのよ? お姫様みたいに、貴女の理想像に近づいてずっと貴女に好きでいてもらえるように、こっそり努力してたの。

 

本当はもっと俗っぽくて、好きな男の子の反応一つで一喜一憂する、ちょっとだけお金持ちの家の女の子でしかないけど。

かわいい真っ直ぐな親友を持った幸運な女の子で終わらないようにね。

 

「言わせておけば良いって訳でもないの。好きに受け取って、綺麗な所だけ。自分が嬉しいと思うとこだけ着飾ればいいじゃない。人間てそんなものよ?」

 

「わ、私には、そんなこと」

 

真っ直ぐで純真すぎる、それがマキだ。私、結構苦労してるのよ? 貴女はすぐ悪意に引っかかりそうになるから。変なスカウトや嫌がらせも、貴女には見てほしくないって思うエゴが私にはあったのよ?

 

どうして貴女は、小さい頃の憧れにずっと真っ直ぐでいられるの? こんな馬鹿げた社会でもお姫様に【私】みたいになりたいって、私に真っ直ぐ言えるの?

 

本当は、もう少しだけそんな純粋な貴女を見ていたかったけど。

 

女の子は恋をして成長しちゃうものだから。仕方ないわね。

 

「できないとかじゃなくて、やるの。いいわねマキ」

 

綺麗なお花畑でずっと私に夢を語ってくれた真っ直ぐな女の子にも、遅れはしたしあまり誠実で格好良いとはいえないけど。真っ直ぐでひたむきな王子様が迎えにきたんだもの。コーディネートくらいはしてあげたいわ。

 

「自分の価値は自分で決めなさい。誰に好かれるとか褒められたとか、愛して貰えたとかじゃないの」

 

恋は、マキが思うほど綺麗なことだけじゃないけど。マキが思うよりずっと楽しい刺激的な事だもの。

 

「私は、自分に最高の親友がいて、可愛くて綺麗だって自負があるわ。だから私は自分が好き。それで終わり。マキがどう思おうと、私は否定されない。私はマキが私のことを大好きだって信じているから。それでいいの。祐君が私を不細工だって思おうが、関係ないわ。私は私のまま愛されるだけ。顔が好まないなら別の方法があるもの」

 

私と同じようにはなってほしくないけど。私のこと好きでいてくれるのは嬉しいけど。

好きの種類が増えてもいいのよ。

 

「そんなの無理よ! 私亜紗美みたいにっ!」

 

「だから、何度も言ってる通りやるのよ。人間みんなやってるわよ。っていえばやるかしら?」

 

あたふたし始めるマキ。パートナーと居ると、自分が可愛く見えて相手を利用しているみたいでいや? そんな理由でフるほうがもっと不義理なのよ。汚そうとしないのは高潔じゃなくて臆病なのよ。

豚君は今まで自分から泥だらけに汚れてきたんだから、気にしないわよそんなの。なんで私のほうが確信しているのって話だけど。

 

「もう面倒なこと全部投げ捨てるわよ、いいあなたが考えるのは3つ」

 

まぁ、もしかしたら。それも含めて豚君に甘えているのかしらね? 無意識かもしれないけれど。

そうだったら完全に余計なお世話をしちゃったかもしれない。散々豚君には迷惑をかけたし世話になったからお返しをしないとね。

 

「1つ、自分が一番なりたい状態を目指しなさい」

「2つ、その中でどこは妥協できるか考えなさい」

「3つ、私を信じなさい簡単でしょ?」

 

残念だけど豚君も祐君と同じで女の子にしっかり順位をつけて愛するタイプじゃないから。どれだけ好かれても独占は出来ないでしょうし。

だったら最初からほしい物を選ぶべきよね。私は子供は後にする代わりに色々優先してもらってるから。マキもそういうのを見つけるべきよ。

 

「素直になりなさい。言ってたじゃない、水着を褒めてくれて嬉しかったって。一緒にいると楽しいって。貴女まだ、一回も自分の豚君に対する気持ち言ってないのよ?」

 

それはまぁ【私が一番好きだから】っていう理由なのは申し訳ないけれど。

 

「う、うん」

 

「じゃあ最後、アドバイスじゃないけど一つ教えておくわ」

 

さて、お膳立ては十分ね。祐君が発破をかけてくれるだろうし準備しないと。私はクラッチバッグから取り出した化粧品でマキのすこし崩れたメイクをなおすべく取り掛かる。

肌に合うかより私とおそろいを選びたがるのが功を奏するのは複雑ね。

 

「豚君ね、少し前からインターンはじめてるの。祐君の会社でね」

 

「え? そ、そうなの? ……あ、でも言ってた気がする?」

 

まぁ、この位なら話をしながらですぐに対処可能だ。

 

「元々社歴の長い社員は顔見知りだし、やることはお手伝い程度みたいだけどね、大学卒業まで5年あるから実績も残せるわね」

 

豚君はまぁ、将来の安定性は十分以上ありそうだから、そういう意味でマキを預ける……いやお願いするかしら。その分に不足はない。でも

 

「そこで、現在10人以上の社員に狙われてるわよ?」

 

「え? じゅ、十人?」

 

「全員が本気とかじゃないでしょうけどね。あ、祐君は周囲とか取引先とか、諸々含めて100人以上よ。学校見てれば分かったと思うけど」

 

まぁ二人共お先の明るい未婚の────祐君は今日から既婚だけど────男性だ。冗談半分で狙う人も多いだろう。豚君は無駄に多才だし、祐君は社長令息だもの。

 

「……そん、なに」

 

「だからね? まず拾い上げてから捨てるか決めるほうが、賢いやり方よ? 貴女が下に見れるほど、豚君はでくの坊じゃないのよ、もうすでに、ね? はい、できた」

 

とりあえずはであるが、まぁこれでいいでしょう。そのまま手を引いて隣のゲストルームに連れ込む。体調悪くした時の一時休憩用にしているけど、しばらく借りちゃいましょ。

 

「それじゃあ、ここで待ってなさい。すぐに来るわよ」

 

「あ、亜紗美!? ど、どうしょ。私、十三にひどいこと」

 

「だから、大丈夫よ。祐君が認めてる男の子なのよ?」

 

私にとってはそれで十分なの。

ドアを後ろ手に閉めて、私もマキ離れをしないとって思いつつ。将来ダブルデートとかしたいなぁなんて楽しい妄想をしてるとすぐに……おでこを赤く腫らした豚君とその後ろで同じく赤いおでこの祐君が見える。

 

「男の子って、本当に……単純ね」

 

そう思いながらも、私は横の部屋を指さしてあげるの。

頑張りなさい、マキの王子様って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ってまず思ったのは安堵だった。

俺が目の前に座っているマキさんの表情に嫌悪感を発見できなかったというのもあるし。なによりも俺を見て立ち上がって迎え入れるように動いたから。

 

まだ俺に気を使ってくれる程度には親愛が残っているのがわかったなら。もうあとはやることは変わらない。

 

 

俺は人間関係の構築に関しては、祐と華だけ味方にして。あとは全部敵の方が楽だったって言うほど下手だったし。そのせいで人の機微も言ってくれないとわからない。だからちょっと自分でも過剰かなあって思うほど気を回す。やめてって言ってもらったほうが楽だから。

そして、だからこそ祐が行けっていった時、俺が行きたいって思ってるなら。もう突っ込むしかしないわけだ。

 

マキさんは、意地っ張りで素直じゃないけど。ちょっとからかうと良い反応をしてくれるし、寂しがり屋だ。努力家で真面目で責任感が強くて案外面倒見が良い。夢見がちだけど変な所が冷めてるそんなひとだ。

 

彼女が俺の横で笑ってくれればそんなに嬉しいことはない。たとえこの後純や駄場さんに色々言われようとも。俺がいまそうしたいって思った。祐がやって良いんじゃないって言った。それだけでいいさ。

結果的にや倫理的に間違っても、この選択を取った事に。少なくとも後悔はしないから。

 

「改めて、お話があります」

 

「まって、その前にその……」

 

珍しくこちらを遮るかのように言葉を発して近寄ってくるマキさん。握手ができるくらいの距離で止まって、すっと真っ直ぐに頭を下げてくる。

 

「さっきは御免なさい。とても酷いことを言ってしまったわ」

 

「構いません、慣れてますし。気にしてませんから」

 

外見への揶揄であれば、まぁ正直。告白を断られたことは大ダメージでそれ以外があまりにも些事になってる。感覚の麻痺ではあるけれど。正直……俺は祐の指摘通りだからなぁ。好きな人からなら別に……

 

ゆっくりと頭を上げて、不安げにこちらを覗き込んでくるマキさん。本当に可愛らしい。自信有りげな強気というかキツめな表情じゃないだけで、本当に印象がかわるから。

 

「マキさん、好きです。変わらずに」

 

ぽろっとそう漏れてしまったのに、数瞬遅れて気がついたけど。もう一度床に撒いてる水である。お盆に残ったのをまたひっくり返しただけだ。

 

「一番に愛するとかは言えない程度に不義理ですけど、幸せにする努力だけは欠かさずしますので」

 

そのままの勢いで言い切ってしまうことにする。マキさんはまだ俺を見上げたまま動かないから。

 

「だから……その、俺で妥協しませんか?」

 

我ながら酷い口説き文句だという自覚はある。でも一度振られている以上、交渉として挙げられるのは拒否しないで下さいという下からの文句でしかない。

 

外の喧騒が聞こえるほどに静かになって、そのまま固まっていたマキさんの両の目からポロポロと涙がたれてくる。

 

「え!? あ、あの」

 

「ご、御免なさい、平気よ、ただ……」

 

慌てた俺をさらに慌てた様子で留めてくるマキさん。静止するように触れた腕は震えていて、肩幅は俺のイメージした感覚よりもずっと華奢だった。

 

「酷い言いようね……ロマンチックの欠片もないセリフじゃない」

 

「釈明はできませんが……すみません」

 

お前、俺のものになれよなんてとてもじゃないが言えない。でもまぁ

 

「そばにいてほしいので、いくらでも言いますよ」

 

「もっと勉強しなさい……でも、そんな言い草でも。私」

 

マキさんはそこまで言うと倒れるように俺に向かってくる。腕は回していたので、そのまま抱きとめるように受け止める。

とても軽くて小さい女の子で。まるで小さなお姫様みたいだってそう思ってしまった。

 

「嬉しいって、思っちゃったわ……責任とりなさい、十三」

 

何時もの強気な発言なのに、どこか弱々しい言い方。ああ、とても可愛い人だなと思う。俺にはこうして俺に命令したり甘えてくれる人の方が、わがままを言ってくれるほうがずっと楽だから。

 

「はい、喜んでお姫様」

 

しっかりと背中に腕を回して抱きしめた。

 

ああ、これで俺は3股確定のくそやろうか……

そう無意識にうかべられる程に、俺は自分を肯定できていた。

 

 

 






長かった鳥槇先輩編も終了です。賛否はあると思いますが、前書きの通りです。
これでも削りに削りました……その分は後ほどおまけにでも加工します。
次話で一先ずの完結となります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。