男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ 作:HIGU.V
僕の陰謀家としての手腕も捨てたものじゃないね。それが最終的な僕の、僕への評価だった。
「祐! 卒業おめでとう!!! うう、祐がもう高校を卒業……あんなに小さかった祐が……」
「君も卒業だよね、十三」
「うんうんっ! 立派になったねぇ……祐くんっ!」
「華まで乗ると収集つかないから、やめてよ」
まぁ、あっという間だった3年生の期間も矢のように終わり、今日は卒業式である。
3年生の間は、結構色々あった。特に先月のバレンタインは、なんかもう色々ひどかったけど、まぁ終わってしまえばいい思い出だ。今日僕たち3人は学校を卒業する。
そして春休みの間に僕はゆかり先生と亜紗美さんと結婚する。まぁ、予定通りだ。そして十三もどうやら……。
そう、僕が色々とみんなの力を借りて手を回した結果。彼は割とこう、周囲の女性と良い感じの関係を築けているようだ。
結局、彼は駄場さん竹之下さん鳥槇先輩。全員と付き合ってる。
僕としては、もう少し増やしてもいいかと思ったけど、学業がおろそかになるかなとも思ったので、流れに任せた。
十三は結婚と言うか……事実婚に近い感じに落ち着いた。なにせ、結局駄場さんとは学生のうちなのにいつの間にか同棲しているのだから。気がついたら毎日いるようになったらしい。色々凄いなぁあの人は。
だけどある日、僕の両親にいい人ができて同棲している件を報告に来た時。駄場さんはガチガチに緊張していた。きっちりとしたスーツを着て、ビジネスウーマン感出して、僕の両親に挨拶する駄場さんは見ものだった。母さんと4つしか変わらないからね、駄馬さん。
「今後、うちの息子と結婚なさるそうですが、現在のご職業は?」
と聞かれたときは、十三曰く過去一番美白された肌だったそうだ。
去年の暮れくらいに鳥槇先輩が、亜紗美と合同の式がいいと腕にしがみついて駄々をこねて、2人ももうすぐ結婚することになったし。
竹之下さんも、私も貰ってくれるんですよね? 先輩と逆側の十三の腕をずっと握って離さなかったらしい。十三は聞いたら何でも話してくれるからなぁ。
うん、ようやっと彼も僕と悩みを共有できそうだね。
十三は、今ではもう僕より頭2つ分は優に背が高くなったし、自信もついた。
顔はまぁうん、って感じだけれど、全体的に顔つきは非常に良くなった。肉体に関しては今年は特に問題が出てくるほどに育ちやがった。
なにせ夏の間に、何度も華に「制服の第3ボタンまで開けるのやめなよ、ぶー君」と注意されていた。彼は全く意識してないけれど、すれ違う女子の視線を集めてたからなぁ、あの胸筋は。羨ましい限りだ。
ブサ巨乳需要みたいなもんかーとよくわからない納得をしていた十三も、無事大学には入れた。僕も華も全員学部は違うけど。サークルでも作るかなんて話をしている。
華だけは勉強がギリギリだったけどね。
さて────
「で、十三。行かなくていいの? そろそろ」
「ん、ああ。人も捌けたしちょっくらフられてくるわ」
「ふーん……まぁぶーくん頑張れと言っておくね」
そう、今日十三は山上先生にいつかの返事をもらいに行くのである。というか、早くしないと人が来ると思うのでさっさと追い返すのだ。
「おう、じゃあ後でな」
そう言って予め約束していたらしい、体育館の脇へと歩いていく十三。まぁ今日はこの後僕の家でパーティーだし。また会うのは確定なんだけれど。
「次会ったときには散々語り明かそうな、学生生活の思い出話を」
なんて言うんだもの。
「ぶー君……結局自覚しなかったね」
「うん、そうだね」
彼は体重は結局70kg代にはいかなかった。BMIでみたら肥満体のままだ。でも、そのなんていうか、ものすごい筋肉がついてしまった。なんで高3でズボンをサイズ大きいのに変更するんだよ、あいつ。
歩き去っていく彼は、時たま下級生からの視線を集めている。彼が昔言ってた、僕と並ぶと「俺との落差で祐の容姿の良さが際立つんだぜ」と同じで。
僕といるとあいつの恵体っぷりが際立つ。その手の人からするとたまらないみたいだ。色々聴こえてくるんだよね、女子のそういう会話って。
華曰く、十三は一番エロい体している男子に選ばれたらしい。まあ現在ウチの学校11人しか男子いないけどね。裏サイトでは顔がね……とみんな口をそろえているらしいけど。
そして、彼女が出来たからか、筋肉が付いたからか、前より明るく周囲に無差別に優しくなった。
「これは死守しないとねぇ」
そうつぶやきながら僕は自分の胸ポケットを軽く触る。
鳥槇先輩からは上着の、竹之下さんからはYシャツの第2ボタンを、予め確保しておくように指示を受けてたので、さっき回収しておいた。
正解だったと思う。だってアイツ多分ほしいと言われたら何も考えずに最初に言ってきた人に渡すもの。
そんな彼が消えていくのを見て。この後起こることに予想がついているけど、あえて見ないふりをして、華と一緒に笑うのだった。
「パーティーの参加者1名追加だね、祐君」
「僕もそっちに賭けるよ、華」
今日はいい日だ。だからきっと大学でも楽しく過ごせる。
「山上先生」
「ん、もういたのか、出部谷」
俺がここにいるのは、俺が変わるきっかけになった返事を聞くためだ。卒業式の人気のない校舎の裏の方。そこに呼び出しをしている男女といえば聞こえがいいけど。
元より今日卒業する男子は3名、杉崎君がその……持っていかれてしまったので、書類上は4名だけどね。
卒業できたメンツはなんだかんだ言って小学校から同じ3人だけだった。
まぁそれはともかく、男子がこれだけ少ないので、卒業後に男子の先輩やら後輩に呼び出されるのは、完全にフィクションの話なのである。
「それにしてもずいぶん、大きくなったな」
「はい、おかげさまで」
「私の目に狂いはなかったようだ」
嬉しそうに笑う山上先生。突然告白紛いなことをした、一昨年の秋は女性にしてはかなりの長身の先生とあまり目線の高さを意識するほどの差はなかったが。今ははっきりと俺は頭一つ大きい。
上から見下ろせるというのは、とても素晴らしいのだと再認識している。
「それで、要件はなんだ?」
改めて微笑を浮かべて聞いてくれる山上先生。
2年のころの俺とは違う。今日だって俺は駄場さんに頑張って来てくださいね? と見送られてきたんだ。保護者席にいたけどね、あの人。大事な時期だから家にいてほしいんだけどね。
「はい、2年前の返事を聞きに来ました。先生みたいな人が恋人なら嬉しいと思ったのは今でも変わりません」
これは一種の卒業の儀のようなものだ。
純にもマキちゃ……マキさんにもちゃんと言ってきた。今日フられてくるって。二人共変な顔してたけれど、まぁみたいな感じで送り出してくれた。
しっかりと高校生の頃に成長できたきっかけである、先生に御礼を言うべく。俺は目を見つめて伝えた。
「先生のお陰で、成長できました。本当にありがとうございます」
「ふふ、そうか……それは嬉しいな」
今日は卒業式だからか、いつものジャージではなく、スーツを着ている先生はどこか大人に見える。スラッとした脚にパンツスーツは本当に格好良い。
そんな凛々しい山上先生が小さく笑うととても可愛らしくてドキドキしてくる。結局マキさんにはフられたけど、即巻き返したから。きっぱりと断られるのはこれが初めてかな。
身構えながらゆっくりと続きを待つ。
「では、よろしく頼むぞ、出部谷……いや十三」
「え? えっと、あの? つまり?」
「ん? なんだわからんのか? あまり女に恥をかかせてくれるな」
しかし、何かがおかしい、この時点で何かしらの異常事態が起きていると直感的に感じることは出来たが。言語化することが出来なかった。まってくれ、何か既視感があるぞ、この感覚に。
「あの、告白の返事ですよね?」
「ああそうだ。立派な男になって健康体になったら、返事をしてやるという話だったな」
「はい、で俺は……体重的にはアウトですけど、身長がのびてセーフということで……良いですよね?」
まずはここから確認だ。そもそも返事をもらえるかどうかと言うための条件だったのだから。流石に電車のつり広告を避けなきゃいけないほどに伸びた背丈なので、79kgはきつい……肩幅もあるので……
「勿論だ、いやぁそこまで伸びるとは思わなかったぞ、男子は化けるやつはすごいな」
「ありがとうございます」
どうやらお眼鏡にかなったようである。であるのならば返事をもらえるはずだ。いま確認をしたわけだし。
「自分に自信を持って、いやプライドといえるほどの芯も持ったわけだ。年下ではあるが……まぁ些細な問題だ」
そう言いながら、近寄ってきて山上先生は手を伸ばして俺の頬をペタペタと触る。女性らしくはあるけど、少しゴツゴツしている、働き者の手だ。正直好ましいし、少しくすぐったい。
「顔なんて正直私はどうでもよい。成長性を見せてくれて尚、まだ飛躍前だからな……青田買いになるだろうか」
首、胸元とどんどん手がスルスル降りてくる。俺は全く気にしないけれど、多分この社会でやったら割とアウトな案件な気もする。まぁ周りに人もいないし良いのだけれど。
「えっと、それで?」
「ああ、だから皆まで言わせるわけか? まぁ1年以上待たせたんだ。良いだろう。OKだ、これからは恋人としてよろしく頼むぞ。末席で十分だからな」
「はぁ、こちらこそ……あれ? 」
ようやっと、脳が認識した。なんだこれ、つまりは
「OKってことですか?」
「ああ、もう生徒じゃないからな。3人と付き合ってるんだろ? いい顔をするようになった」
「お、俺年下ですよ?」
「年齢より老けてるように感じるから、問題ない。些事だ。それにお前が年上が平気なのも知っているからな?」
にかっと白い歯を見せながら笑って見せる山上先生。うわぁ格好良い。じゃなくて、考えるべきことは多い。まず振られる前提だったから、3人にどう話すかとか、結婚ももうすぐなのに席とかどうするんだとか……
「あの、その……」
「なんだ、不服か? お前の時間が合う時に会ってくれればいいんだぞ?」
わかっているのか、そう言いながら、むぎゅっと体を当ててくる先生。圧倒的な質量を俺の肋骨が感じている。ああ、だめだなこれは……無理です、幸福なので降伏だ。そも山上先生は俺の好みど真ん中の人なんだ。そう言われて断れるほど俺は意思が強くない。
「いえ、その。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ微力ながら、お前を幸せにしてやる」
やだ……格好良い……好きになっちゃいそう。ああ、もうなってるんだった。
まぁ、こんな感じで俺は山上先生改め、エマともお付き合いをすることとなった。
去年の夏に3人の扱いで揉めたのに、また色々と面倒なことになるのだが……それはまたの機会に話そう。
祐の家でのパーティー。
もうここ1年で何度お祝いしたかわからないけれど。卒業式だから今日は盛大だ。
2年前の2年生に成りたてだった頃の俺からすれば、想像もできないような光景だ。祐は5人の奥さんと恋人に囲まれて幸せそうに笑っている。それを見る祐の両親も安心したかの様に笑っている。
俺にだって、まさかまさかで4人も恋人ができた。絶対に当時の俺ならば、信じることはしてくれないだろう。
「何黄昏れてるのさ、十三」
「いいだろ、今日ぐらい」
今日の主役は俺と祐と華。そして一応先週卒業してた純という形だ。案外同学年が少ないのである。雪之丞君も誘ったけれど断られた。卒業記念に「これ使って」と胃薬と付箋がいっぱい貼ってある育児書をくれたけど。彼にも強く生きてほしい。
「それで、どう? 君は君の周りの女性を幸せにできるのかい?」
「さぁ? わかんないけど、やるだけやって判断してもらうさ」
さすがの俺も、ここまで俺に色んな人が慕ってくれたのは、俺が実はモテる男だからだなんては思わない。まぁ十中八九祐が色々と動いていたのだろう。それに関しては文句などあるはずはない、言う権利も資格もない。
「ほら、駄場さんがまた家の両親に絡まれてるよ、母体に悪いんだから助けてあげないと」
「いや、あれは善意でやってるし……」
「一生恨まれるんだよ、この時期の不満は」
いつの間にか俺は祐の両親から普通に子供扱いされるようになった。まぁそれはいいし、実際駄場さんも困ってはいるけど、嫌がってはいないからなぁ。
まぁ俺も変わらないといけない。いつもいつも祐のことばかりだったけれど、勿論大切な親友だけれども。大学に入って、将来のことを考えれば、優先順位はついてくる。
それでも変わらないのが友情だとは思うけど。
「お互い、大変だから、頑張ろうな祐」
「勿論、助け合っていくのが親友でしょ、十三」
まぁ、この1年。勉強を教える対価に、祐と華からは散々女性の機嫌の取り方を学んだよ。非常に勉強になったがまだまだ俺には足りないと講師2名が言っておられるから、精進する必要がある。
結局のところ、こんな男女比が偏った社会だからって理由一本で、男で楽な人生を送れるわけはないのである。
まだまだ沢山迷惑をかけて、純やマキさん、駄場さん……それとエマに怒られて泣かれながら四苦八苦していくしかないだろう。それを楽しいって思えなきゃやってられないんだろうけどね。
「それじゃあ、皆の所に戻ろうよ」
「ああそうだな」
甘えた考えだったろって、どこか懐かしい声が聞こえた気がした。
以上で完結です。1ヶ月半ほどのお付き合いありがとうございました。
ほぼ毎日書けたのは、読んでくださった方のおかげです。
この後は、おまけと後日譚を不定期に書いていきますので、お時間があればどうぞ。
あとがきは長くなるので、暇な時に活動報告にでも書き散らします。
改めてありがとうございました。
読了後の感想と評価をどうかよろしく願いします。