男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ   作:HIGU.V

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小悪魔系お姉さんは強カード

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

バイトもそろそろ終わる時間。店にいるのは暇なコンビニバイトのみである。俺はこれでも高校生なので、そろそろ夜シフトの大学生と入れ替わる。駅から離れたコンビニは客も多すぎず少なすぎず楽だ。

 

「先輩、なんか今日ずっと、ニヤニヤってうざかったんすけど?」

 

同僚のこいつの絡みがだるい事を除けば文句はない。先輩なのはバイトであって、学年はタメなはずだ、よその女子校だから詳しくないが。

 

「私語は慎みましょう、竹之下さん」

 

「いいじゃないですか、どうせ客来ないし。本当なんか幸せなことありました感出てて、うざいんですけど?」

 

バックヤードに引っ込んだらともかく、客前ではしっかり敬語を使うべきだ。こういうところから信頼は積もっていくのだから。そう言っても態々訂正してやる義理はこいつにも店にもない。1回言っても聞かないならもうどうでもいい。

 

「幼馴染同士の仲が進展したんです」

 

「えぇ、何すかそれ? 幼馴染と付き合ったとかじゃないんすか。まぁ先輩じゃあ無理っすよね。アタシのイケメンの彼氏と全然違うし」

 

なにが面白いのかより笑い始める後輩を横目に、時間が来たのでバックヤードに引っ込む。こいつもあがりなので付いてくるのが、適当に話を合わせておく。

 

「料理がうまい気立ての良い娘で、俺でも食えるご飯を作るんだ」

 

「フーン、男の方はそっちもデブなんですかぁ」

 

「いや普通にイケメンだよ、それじゃあ……お疲れ」

 

男の俺は更衣室のロッカーはあるけれど、上から着てる制服を脱いでクリーニング箱に叩き込むだけなので楽である。その場で脱いでポイだ。

 

疲れるので後輩との会話はテキトーに切り上げて帰路に就く。

 

なにせ、完全に1:1の相思相愛になる前に、他のヒロインの攻略を進めてもらわねばならないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐くーん」

 

「わっ! あ、亜紗美先輩!?」

 

目の前で起こっている現象は、誰もしもが一度は思い描き、そんなものはないと無慈悲に切り捨てられる。美人でスタイルの良い先輩に、後ろからぎゅうと抱きしめられるである。

 

まぁこの狂った男女比世界ではそこまで珍しくもないのか? 隣で顔を青くしている雪之丞君は置いてく、彼は年上の女性が怖いのだ。

 

いま、祐に抱きついているのは、虎澤 亜紗美(とらさわ あさみ)先輩、通称虎先輩だ、

 

虎先輩は、いわゆる学校一の美人である。3年の成績トップで生徒会長。文武両道才色兼備である。スラっと高い背丈と、腰まで届くような黒いストレートの髪。モデル体型のお手本のような体つき。

まさに頼れるお姉さんといった風貌で、茶目っ気があり、割とギャグの沸点が低いという。完璧系女子である。名前的にこっちが正ヒロインでは? と前世さんは言ってる。ああ、竜虎か。

 

そして祐に割とガチ目に惚れている。お嬢さんだ。

 

「今度、うちの実家で親しい友人を招いた、ちょっとしたパーティーがあるんだけど」

 

「いやですよ、それ。絶対ちょっとしたじゃないやつですよね」

 

 

祐がこう言ってるのも良くわかる。

彼女は祐の親の会社の同業他社で、要するにライバルである。そして彼女はそこのトップの一人娘である。跡取りである祐を、婿入りの形で吸収するのが一番楽かつ低コストな妨害なので、彼女はちょっかいをかけ始めたのであろうが。

 

 

「ちがうわよ、私は祐君と仲良くしたいの、ダメ?」

 

「だめでは、ないですけど」

 

 

心も見事に落とされているのである。傍から見たら、ここまで計算でやってると思うかもだが……

 

「ふひぃ、せ、せ、先輩。パ、パーティーって、ステーキとか、で、出ますか?」

 

「んー……そうね、ケーキも出るし、鳥の丸焼きもあるわよ、来る?」

 

 

俺がそう声をかけても、彼女は一切動じる事も無く、むしろウェルカムという様子だ。

これである。恐ろしいことに彼女は俺にもしっかりと価値を見ている。邪険にしないではなく、プラス評価なのだ。そして祐の攻略的にかなりポイントが高いらしい。いい人だよな先輩と祐が言っているのだから。

 

俺が来れば祐も来るから、というのもあるが。俺単体で来てもつながりはできるという関係。そも男性が働いている会社というだけで社会的プラスなのだ。

前世の【女性でも活躍できる職場】よりも効果のある謳い文句である。だから俺もバイト出来ているわけだし。

 

ただ前世さんも俺も思っているのは、俺を見る目はしっかり計算してる商売人のそれだけど、祐を見るときは温度が違う。なので逆説的に本気というわけだ。

 

というか、こんな外見でも男なので、俺が彼女の会社に入れば男を雇っていることと、ライバル会社とのつながりが深い人員という何かと便利なのが手に入るというのもあるだろう。きっとそんな冷静な計算なのだろう。

 

そして、俺に優しくすることが、祐攻略の上での一番の踏み絵だということに、早々に気づいた上で接近してきた人である。事実として好感度稼いでるからなぁ。

 

つまりは、しっかり頭がまわり感情的行動だけではない女性。ということなので、ぜひとも彼女にも祐のハーレムに入って欲しい。

多少は立場的なしがらみはあるが、彼女ならどうにでもするだろう確信があるし。なにより華も多少彼女に対してライバル心のようなものはあるようだが、憧れもおおきいようだ。ケアは必要かもしれないが相性は悪くないはず。

 

「な、なぁ、ゆう、ぼ、僕行きたい」

 

「……本当にちょっとしたやつなんですよね? 亜紗美先輩? 」

 

「ええ、もちろん。私に二言はないわ」

 

3,4言はありそうだなとは思いつつ。そうして次の週末の予定は決まったのである。

今週末お料理教室だかに行く華には後でフォローを入れておくとする。

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、早速週末に彼女の家に訪れたわけだが、

 

「た、確かにこれは、ちょっとした、だな」

 

「いや、まぁそうなんだけど」

 

虎先輩の家にいたのは、彼女の友人や会社の人など、合わせて十数名ほどと彼女の両親のみで。なんでも彼女がお茶だかお花だかのコンクールで入賞したお祝いだとのことだ。

 

「ま、まぁ変な人に囲まれないのがわかったし、良しとしようぜ、祐」

 

「そ、そうだね……豪華な家だよな亜紗美先輩の所」

 

お前のところも大概だろうと脳内で突っ込む。

まぁ尤も、俺はあらかじめこのことを知っていたが────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、豚君は何の用?」

 

虎先輩は教室のドアを開けると同時に、ズバッと用件を切り出す。

放課後の教室に呼び出しをされることは、この男女比の社会でも慣れているのだとしたら……なにせ、後ろにいつも取巻きをやってる先輩もつれてるし……いや、よそう。今は関係ない。

 

「ふ、ふひひぃ、祐のことで、お、おはなしが……」

 

「別にマキしか連れて来ていないから。普通の話し方でいいわよ、豚君」

 

「あ、そうですか? では失礼して」

 

俺の変わり身を見て、取巻きセンパイが眉を動かすがどうでもいい。彼女は虎先輩の狂信者だし。

虎先輩は、俺のことを愛称として豚君と呼ぶ。蔑んだ意味でないのはニュアンスでわかるので気にしていない。俺の演技があまりにも露骨すぎて最初は豚大根だった。今は及第点なのだろうか?

 

 

「それで、何?」

 

「はい、祐のことですが」

 

「祐くんの名前だせば、私が何でも言う事を聞くと思ってもらっちゃ困るんだけど?」

 

そんな事は考えていない。この人はシンプルにそれだけで釣れるタイプではない。だからこそ理と必要性を示せば動いてくれる分楽である。

俺が生理的に無理だから話聞かない人も、学校にたくさんいるし。

 

「華ちゃんとたぶん付き合い始めました」

 

「はぁ!? え!? ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

本人は勿論、横の取巻きセンパイも含めて、完全に驚いて固まっている表情。珍しいその顔を見れて喜びはあるが、それは置いておいて話を進める。あんまり長居はできないし。

 

「ただ恋人になっただけなので、独占婚とかではないです……でもあんまり時間はないから、早めに動くべきです、はい」

 

「ま、まだ間に合うのよね」

 

「恐らくは。そのように祐の意識は誘導してきましたし」

 

正直言うと、何もなければ生涯二人だけでくっつきそうだった。しかし事実としてこの世界の男は、複数人の女と付き合うのが良いという感覚と価値観があり。なんなら同調圧力もある。俺もそれは散々吹き込んできた。だから、まだ可能性は十分以上余裕ある。

 

「しっかりとしたデートはまだできてないし、二人も俺に気を使って表に出さないようにしてるので」

 

「そう、それじゃあ……そうね……」

 

 

そうして、彼女の計画が話される。作戦立案まで向こうでやってくれるとだいぶ楽だ。こっちはとにかく祐の意識を複数の女性に向ける事を意識し続けているだけでも、結構忙しいから。

 

 

「というわけで、パーティーを開くわ。詳細の連絡は、マキを使って頂戴」

 

 

一通り説明が終わった後に、虎先輩から人身御供として取巻きセンパイもとい、鳥槇(とりまき)マキ先輩が差し出された。

うわぁって顔してるな。ただ、別に俺の連絡先だから嫌がるってタイプの人でもない……いやあるか?

 

でも、こうするのは虎先輩に対するアピールだろう、それだけのことをやってますよという。虎先輩と直接連絡しないのは、単純に証拠を残さないためだろうか? 家族以外で連絡する男を作りたくないのか? まぁどうでもいいか。

 

にしても、本当に嫌そうな顔をしている、鳥槇マキ先輩。

 

「必要ないこと送って来ないでよねっ!」

 

「勿論、暇でないので」

 

「……ふんっ!」

 

こうして、今回のパーティーの計画が決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────を祝して、乾杯!」

 

「乾杯!」

 

「亜紗美ちゃんおめでとー」

 

当然のように女性がたくさんいる会場。虎先輩の実家はかなり大きい。リビングダイニングで多分四十畳以上ある。ちょっとしたパーティーというだけあって、立食式じゃなく、普通にお誕生日席に先輩が座り、友人や家族で囲う形である。会社の人もプライベートで付き合いがある仲の良い人なのだろう。

 

隅っこに俺と祐を置いているあたり、さすがは虎先輩わかっていると思う。

なにせここで祐を隣に座らせては周囲や、何より祐本人からの反発を招くし。祐自身も俺を横におかないと、変な所引っ込み思案だから嫌がる。

 

つまりこのパーティーの席順自体には狙いが全くないということである。

 

ニコニコで笑顔をうかべているが、少しだけ虎先輩が固い表情に見えるのは、彼女の計画を知っているからだろうか?

 

お呼ばれしたお礼も兼ねての花を渡したりと、めちゃくちゃ美味しい食事を普通に頂戴している。

虎先輩のご両親や会社の人は、流石に大人だからか俺の外見と話し方に表情一つ変えずに柔らかい笑顔を浮かべているなぁと関心していると、後ろを通った取り巻き先輩から椅子を小突かれる。

 

ふと携帯を取り出すと指示が送られてきている。スパイ映画かなと思いながらも、素直に従うことにする。今回の俺は完全にスタッフ1というわけだ。

 

「祐、トイレ行こうぜ。一人だと心細い」

 

「え、ああ、そうだな」

 

連れションの時間である。割と男子同士の連れションはメジャーな文化である、社会の違いであろうか。というわけで、お手洗いへと長い廊下を抜けて到着するが、いくら広いといっても個人宅なので、小便器が並んでいるわけもなく個室が一つだ。

 

「んじゃ、お先」

 

「うん、わかった」

 

そう、俺はリビングから一人で祐を警戒させずに外に出すというお仕事である、簡単すぎてあくびが出る。まぁ此処は彼女のホームなわけで、此処まで連れてきてかつ、隙を作れれば充分であろう。

絶対俺が居なくてもなんとかなったが、居たほうが楽だから使ったのだろうか? いやむしろ俺を共犯に抱き込んで、将来的なサポートをするように暗に求めている?

 

「(ちょっといいかしら?)」

 

「(亜紗美先輩?)」

 

そんな事を考えていると、外で待っている祐が先輩に連れ出されていく気配を感じる。

ミッションコンプリート!

というわけだが、あまりにも簡単すぎたのでいつも祐達との連絡につかっているトークアプリのボイチャをオンにしておいてある。

 

とは言っても全部は聞く気はない。後は二人次第であるからな。

 

 

「どう? これが私の部屋」

 

「すごい……」

 

私室!? それになんか布が擦れる音とかし始めたし、これはやばいかもしれない……いや流石に主役が長時間の不在はないか……?

 

「ねぇ? 祐くん。私も言いたいことがあるんだけど……」

 

「せん、ぱい?」

 

 

しかし、これで二人目は確保かな。と確信して。祐の肯定の返事を確認したところで通話を切るのであった。証拠隠滅だ。

 

 

さて、ここからは忙しくなるぞ。気合を入れるべくトイレの水を流して俺はリビングに戻るのだった。

 

美味しいケーキが俺を待っているからな。

 

 

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