最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と下っぱ吸血鬼 その04

 

「ば、ばばばばばかやろう。へんたい! 臭いを嗅ぐな! 嗅がないで!!」

 

 うわぁ、変態だ。変態が目の前に居る。変態のセクハラ野郎がこんなに気持ち悪いとは、この身体になるまで気付かなかった。

 

 ウーィルは自分で自分に驚いている。……なぜ、オレは半べそをかいているんだ? これじゃぁ、外見だけじゃなく中身まで少女になってしまったみたいじゃないか。

 

 

 

 

 驚いているのはウーィルだけではない。同僚ブルーノも同様だ。

 

 彼の記憶の中のウーィル、騎士の同僚としての彼女は、すくなくとも任務中はこんな少女っぽさ微塵も見せたことがなかった。

 

 両親を早くに亡くし、妹のために騎士として必死に働く少女。尋常ではない剣の腕と魔力、そしてドラゴンやヴァンパイアを前にしても決してひるまない胆力。その凜々しい姿には神々しささえ感じる。

 

 一方で、かつて同僚だったウィルソン先輩の血だろうか。彼女は、幼馴染みであるジェイボス以外の同僚とは、ほとんど無駄話をしない。他人とのコミュニケーションが得意な方ではない。

 

 それでいて、他人のイヤがる地味で面倒くさい仕事を淡々とこなす。まるでおっさんのように口ぶりで『やれやれ仕方が無いなぁ』などと嘆きながらも、同僚へのさりげない気遣いややさしさを決して忘れない。気が荒く常にささくれだった連中ばかりの小隊の中、彼女の存在は特別だ。魔導騎士小隊のキーマンと言って過言ではない。

 

 ウィルソン先輩がいたころは、彼がそうだった。無口で無愛想だが頼りになるおっさん。その先輩が殉職したとき、隊長をはじめとする隊員達の嘆き様はそれは凄まじいものだった。だが、今は娘であるウーィルがそれを引き継いでいる。小隊の同僚達はみな、彼女に特別な敬意を払いつつ、同時に自分の娘のように大切に扱っている。彼女自身はいまいちそれを自覚していないようだが。

 

 だから、騎士団一のプレイボーイを自認するブルーノも、決してウーィルには軽々しく手をだしたりしない。せいぜいが冗談で口説いてみる程度だ。任務においても、さりげなくサポートすると決めている。

 

 そんな『仕事ができるおっさん』のようなウーィルが、まるで小娘のように真っ赤になって半べそをかいている。ブルーノの記憶の中では、こんな彼女は初めてだ。その新鮮な姿が彼の琴線にふれた。

 

 もっとウーィルについて知りたい。そして、護ってやりたい。

 

 ブルーノにとって、女性にこんな感情を抱いたのは初めての経験だった。

 

 

 

 

「ウーィル、どいてください。その変態、私の魔法で黙らせてやる」

 

 同僚ブルーノが、いつになく真面目な口調だ。オレの記憶の中のこいつは、戦闘中でも常に優雅にふるまおうとするキザでイヤミな野郎だったはずだが。

 

「……大丈夫だよブルーノ。全世界の女性の敵、変態ヴァンパイアは、オレが自ら天誅をくだしてやるよ」

 

 狼狽から我に返ったウーィルが不敵に笑う。ヴァンパイアの顔色が変わる。

 

「なめるなよ、小娘」

 

 

 

 

 三度、ヴァンパイアが突進する。完全に再生したばかりの腕を伸ばす。

 

 対峙したウーィルは、剣をかまえた。上段。鞘に入ったままの剣を天に振りかざす。

 

 鞘のまま? 舐めているのか?

 

 ウーィルは、その場で振り下ろした。

 

 その勢いで、鞘がとぶ。まるでミサイル。凄まじい速度で正面から迫る。

 

 なに?

 

 しかし、……ヴァンパイアの顔面直前、それは停止した。再生したばかりの腕、親指と人差し指だけで、飛来した鞘をつまんだのだ。

 

「たしかに不意はつかれたが。残念だったな、……えっ?」 

 

 目の前の鞘から視線をあげた先、騎士はいなかった。そして、足元から何かが凄まじい速度で吹き上がる。

 

 また、下か? 同じ手を何度も!

 

 しかし、地面から吹き上がったのは、白く細い脚ではなかった。地面からまばゆい光の筋が走る。一閃した直後、彼の腕がなくなっていた。

 

 

 

 

 鞘を飛ばした瞬間、ウーィルの精神にスイッチが入った。自分でも何が起こったのかよくわからない。周囲のすべてが、もちろんヴァンパイアも含めて、スローモーションになる。

 

 同時に走る。騎士として、剣士としての本能。鞘を追い越す速度でヴァンパイアの懐に入る。

 

 至近距離から放たれた凄まじい速度の鞘を軽々と受け止めたヴァンパイアの身体能力は、たしかに人間離れしている。しかし、今のウーィルから見れば、単なるスローなおっさんに過ぎない。

 

 虹色に妖しく光る愛剣を、足元から振り上げる。まるで手応えなく簡単に断ち切られた腕が、ゆっくりと飛ぶ。信じられない量の鮮血が噴き出す。

 

 

 

 

「い、いまのなに? なにも見えなかったわ! 剣? 剣を振ったの?」

 

 あまりに現実離れした光景に、たまらず女性警官が座り込んだ。その気持ちはブルーノにもわかる。魔導騎士である彼にさえ、ウーィルの剣は見えなかったのだ。

 

 その剣により腕をおとされたヴァンパイアも同じだ。ポカンと口を開け、唖然とした表情のまま、肘から先がなくなった自分の腕と噴き出す鮮血を眺める。だが、それでも彼はヴァンパイアだ。すぐに平静を取り戻す。

 

「む、無駄だ。私は絶対不死のヴァンパイアだぞ。なんど斬ろうと腕などすぐに再生する」

 

 彼の言うとおり、すでに腕は再生を始めている。肘の切断面からグチャグチャと肉が盛り上がり、徐々に腕の形になりつつある。

 

 

 

 

 しかし、勝ち誇ったその顔は、一瞬で歪んだ。

 

 ヴァンパイアの視線が、意思に反して下に落ちる。

 

 なんだ? なにが起きた。

 

 自分で自分に何が起きたのか理解できない。自分の視線が勝手におちる。地面におちる。目の前に二本の脚がある。自分の脚だ。

 

 ここにいたって、彼はやっと気付いた。彼の上半身が、……上半身だけが、地面に滑り落ちている。いつのまにか、腰から上半身と下半身が切断されている。少女がふたたび足元に潜り込み、剣を横に薙いだのだ。

 

「む、む、無駄だといっているのに!」

 

 上半身だけで地面を這いずりながら、ヴァンパイアが叫ぶ。腰から下半身が再生しつつあるが、目の前の少女の顔をした悪魔からは逃げられない。

 

 ふたたび剣が振り下ろされる。袈裟懸けだ。上半身が肩から斜めに両断される。

 

「む、む、む、むだなんだよ。やめろ、やめてくれ!」

 

 上半身のそのまた半分だけでのたうつ情けない姿。しかし、ウーィルは容赦しない。再び右腕を斬る。左腕。そして首。バラバラの肉片に切り刻まれていく。

 

「再生力よりもはやくバラバラにすればいい。簡単なお仕事だな」

 

「やめてーー!」

 

 

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