最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士の妹と公王太子殿下

 

 

 公都郊外。全寮制の名門ハイスクール。

 

 ランチの後、一年生のメル・オレオは、寄宿舎同室のクラスメイトと談話室にておしゃべりの時間を楽しんでいた。

 

 ……この表現は正しくはない。

 

 正確には、おしゃべりしているのは一方的にクラスメイトの側のみ。メルはといえば、気もそぞろで上の空だったのだ。

 

 気になるのは、先週末のこと。実家に帰った際に久しぶりに会った姉のことだ。

 

 

 

 

 おねえちゃんの様子がおかしかった……。

 

 『おねえちゃん』とは、もちろんひとつ年上の姉『ウーィル・オレオ』のことだ。

 

 姉は、私よりもちっちゃい。見た目だけなら幼女といってもいい。そして可愛らしい。

 

 しかし、性格はといえば、見た目とは大違い。よくいえば落ち着いている。いつもぼーっとしている、とも言える。華やかさとかかしましさとかは全くの無縁、年頃の女の子とはとても思えない。端的に言って、外見は少女だが中身はおっさんくさい女だ。

 

 そんなおねえちゃんは、私たちの両親が亡くなったとき、きっぱりと自分の進学をあきらめた。亡き父からついだ剣の腕を活かして、そのまま魔導騎士になった。私を養うために、だ。

 

 いまでは、公都市民なら誰もが知る公国史上最年少にして最強の騎士だ。ドラゴンにだってヴァンパイアにだって絶対に負けない、すごいおねえちゃんなのだ。

 

 そんな自慢の姉の様子が、……おかしかった。

 

 たしかに、おねえちゃんは間の抜けている時がある。仕事以外の日常では、間が抜けているときの方が多いと言ってもいい。

 

 でも、先日のおねえちゃんのマヌケっぷりは、いつものマヌケ具合とは違った。寝ぼけていたというか、記憶が混乱して自分がいったい誰なのかわかっていないみたいだった。……まるで、目覚めたら自分が自分じゃなくなっていたかのような。

 

 

 

 

「えーと、メル・オレオさん」

 

 メルに話しかける声。しかし彼女には聞こえない。メルは腕組みをして考え込んでいる。いつの間にやら周囲の声など何も聞こえなくなっている。

 

 ……直前のドラゴン撃退の任務で、おねえちゃんに何かあったのだろうか? 大聖堂こそ破壊されたが、……いや、おねえちゃんがぶっ壊してしまったが、それ以外に大きな被害はなかったと新聞には書いてあったけど。

 

 おねぇちゃんの同僚のジェイボスさんに聞いてみようか。

 

「メル・オレオさん、きいてますか!」

 

 ……ていうか、あの日いらい、私もちょっとおかしいような気がするのよね。

 

 何がどうおかしいのか自分でもわからないけど、なんか記憶の順番がおかしいような。幼い頃から昨日までの出来事を思い出そうとすると、……特に私とお姉ちゃんとお父さんに関する記憶の中に、小さな違和感がたくさんちりばめられているような気がしてならない。

 

「メ、メ、メル・オレオさん、お願いです。ちょっとでいいので時間をいただきたいのですが……」

 

 ……強いて言葉として表現すれば、あの日を境に過去と現在の記憶の断絶があるような。いやもっと端的にいえば、あの日以来、過去の特定の記憶と歴史が書き変わったかのような……。

 

 これは、……もしかして魔法? 広範囲の人の記憶を混乱させる魔法なんて、聞いたことないけど。

 

「メル!」

 

 ひとりでブツブツうなっていたメルの肩がたたかれた。ビックリして顔をあげれば、さっきまでおしゃべりをしていた相手、クラスメイトのレンだ。

 

「ほらほら、同級生のルーカス殿下が、君に話があるみたいだよ」

 

「えっ?」

 

 レンが促す方向みれば、目の前に少年がいた。

 

 メガネ。長い耳。線が細い美少年。……ルーカス殿下?

 

 さっきから私の名を呼んでいたのは、殿下だったのか。

 

 

 

 

 ここは公国一の名門ハイスクールだ。旧貴族やお金持ち、外国からの留学生など、生徒達はいいところのお坊ちゃまお嬢ちゃまばかりである。だが、殿下はその中でも別格中の別格の存在だ。

 

 公国は立憲君主国であり、国家元首は公王陛下。ルーカス殿下はその息子。すなわち公王太子、次期公王陛下なのだ。

 

 ルーカス殿下が凄いのはその血筋だけはない。成績は学園一のぶっちぎり。同年代の市民とともに学ぶことが重要なのだという陛下の方針の下、普通にハイスクールに通わされているものの、すでに国立大学の研究室にも籍がある。なんと物理学の学位までもっている正真正銘の天才だ。

 

 また、陛下の補佐としてすでに国政の中枢に関わり、内閣や議会からの信頼も厚い。もちろん国民の人気も高い。そのパーフェクトっぷりは、まるで異世界から転生したようだとも言われる。

 

 そのルーカス殿下が、私の前にいる。なにか言いたげに、はにかんだような表情で。……私、どれくらい殿下を無視していたんだろ?

 

「は、はい。なんでしょう、殿下」

 

 私が返事をすると、ルーカス殿下はホッとしたように微笑んだ。……その笑顔の破壊力たるや! なんて可愛らしい!!

 

 殿下のお母様、すなわち亡き公王妃殿下は、エルフ族だった。つまり、殿下はハーフエルフだ。

 

 エルフの特徴である長い耳。整った顔立ち。そのうえ、輝くような金髪。理知的なメガネの奥の、見つめると吸い込まれそうな深緑の瞳。

 

 あいかわらお美しい。ここまで完全無欠の美少年って、世界でも殿下ひとりだけだろうなぁ。

 

「え、え、えーと、ミス・オレオ、さん。わ、わたしのお話を、きいていただきたいのです、が……」

 

 ……だが、完璧超人である殿下だけど、弱点がないわけじゃない。

 

 まず、身体が細すぎる。いや、身体だけではなく、全体的な印象として線が細いくて華奢。公王太子という仕事は過酷だろうに、あれで体力や精神力がもつのだろうか。

 

 それからもうひとつ。

 

 ひとつひとつの仕草というか、ふとした立ち居振る舞いが、いちいち女の子っぽいのだ。

 

 今も、ちょっとおどおどしながら上目遣いで私の顔を覗き込む仕草といったら、もう、母性本能を刺激しまくり。抱きしめたくなるくらい!

 

 わたし的には決して弱点ではないと思うのだが、公王太子として男らしさが足りないことを批判する人もいる。ていうか、決して少なくない。特に一部の保守系マスコミや旧貴族達。この学園は旧貴族が多いので、校内でも。

 

 ……バカバカしい話だが、もし殿下が本当に転生者だというのなら、前世は女の子だったにちがいない。

 

「あ、あのー、ミス・メル・オレオ。私の話をきいていますか?」

 

「は、はい。聞いてますよ、ルーカス殿下さま!」

 

「クラスメイトなんだから、『さま』はやめてください。……えーと、君のお父さ、……ではなくて、お姉さんは、たしか、公国騎士、だったと思うのだけど……」

 

 殿下がおねえちゃんの事を知ってる?

 

 公国騎士団は公王陛下直属の組織だ。中でもウーィルおねぇちゃんは魔導騎士で、エリート中のエリートだ。公王太子殿下と直接知り合いであっても決しておかしくないかもしれない、が。

 

「え、ええ。姉は公国騎士です。魔導騎士をやってますが、……それがなにか?」

 

 殿下は、慎重に慎重に言葉を選びながら、問いを続ける。

 

「あの、騎士オレオは、その、えーーと、……ご無事ですか?」

 

 は? 意味がわからない。

 

 目の前の、秀才おぼっちゃん殿下は何を言っているのだろう?

 

「え、ええ。週末に家に帰ったときは『無事』でした。……ドラゴン退治の後のせいか、ちょっとおかしなことを言ってたことをのぞけば、まぁ普通の様子でしたけど……」

 

 もしかして殿下は、お姉ちゃんがドラゴンを撃退した張本人だと知っていて、心配してくれたのだろうか。

 

 メルは、姉を誇らしく感じた。

 

「そ、そうですか。……さすが、ウーィル」

 

「ええ、そもそもウーィルおねぇちゃんにとって、ドラゴン退治ははじめてじゃないし。小型ドラゴンなんて敵じゃありませんから!!」

 

 って、あれ?

 

 言ってから気付いた。お姉ちゃんって、騎士になってから、まだ数年くらいのはず、……だよね。ドラゴンと戦ったことなんて、そんなにあるわけないのに、どうして私はそう思ったんだろ? お父さんじゃあるまいし。

 

 メルは自分の記憶があいまいな事を自覚する。

 

「ミ、ミスオレオ、どうしました? おかしな顔をして」

 

「……い、いえ、なんでもありません。と、とにかく、姉は元気でしたよ」

 

「それは、よかった」

 

 心底ほっとした表情の殿下。このプリンス様は、お姉ちゃんのこと、何か知っているのだろうか?

 

「あ、あの。ルーカス殿下は、姉をご存じなんですか? 一介の騎士ですが」

 

「え、ええ。……よーく知っています。『あの人』は、幼い頃から私の憧れの騎士でした。そして、ドラゴンから救ってくれた命の恩人でもあります」

 

 へぇ。さすがおねえちゃん。さすが最強の公国魔導騎士。公王太子殿下にここまで言われるとは、我が姉ながら誇らしい。

 

 ……って、あれ? しつこいようだが、姉は騎士になって数年のはずだ。殿下が幼い頃に、おねえちゃんが騎士だったはずがないのだ。いったいぜんたい、どうなっている?

 

「……騎士ウーィル・オレオには、いずれ正式にお礼をさせていただきたいと考えています。お姉様によろしくお伝えください」

 

 頬をすこしだけ赤く染め、うつむきながら恥ずかしそうに頭を下げる殿下。

 

「ええ? お礼、ですか? 殿下が、一介の騎士でしかないお姉ちゃんに?」

 

 まったくもって、わけがわからない。

 

 だが、メルが問いただす前に、殿下は走り去ってしまったのだ。

 

 

 

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