最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
そこは公都の軍港、公国海軍だけではなく同盟国の軍艦が停泊している埠頭。そんな海軍の縄張りのど真ん中とも言える場所を、青い小型ドラゴンの群が我が物顔で飛び交っている。
「くそ、二十頭ほどに取りつかれた。こいつら真っ昼間から、いったいどこから現れやがったんだ?」
そのドラゴンの群の中心、真っ赤な炎をまとった巨大な剣を振り回す騎士。大柄な身体、獣の耳、毛深い顔、オオカミ族である魔導騎士ジェイボスだ。
「そーじゃのぉ、おそらく雲のはるか上からこっそりと近づき、まっすぐにここに降下してきたのじゃろうなぁ」
ジェイボスの大きな背中の後ろ、両手を天に掲げた老人が、巨大な魔法陣を展開している。白いヒゲ、長い杖、いかにも魔法使いというローブを着こなしているが、やはり騎士。最長老の魔導騎士、バルバリー。
なるほどね。雲の上を飛ぶドラゴンを探知することは、いまだ人類には不可能だ。しかし、そこまでしていったい何を目的にこんなところに、……いや、いまはそれどころではない、か。
目の前、不用意につっこんで来た一頭のドラゴンを袈裟切りにしたジェイボスが振り返る。
「爺さん、その『聖なる障壁』、あとどれくらいもつ?」
バルバリーが展開している魔法陣は、半径十メートルほどの空間を覆い物理攻撃を無効化する聖なる障壁だ。耐えられる攻撃の強さに限界はあるが、相手が小型ドラゴンの爪やブレスくらいならば問題ない。障壁の後ろには、数人の人間が身を伏せている。
「うーむ。そう長くは保たんのぉ。あと10分、いや15分というところか。五十年前ならまる一日でも平気だったんじゃがなぁ、ひゃっひゃっひゃ」
長老騎士が腰をさすりながら答える。一見していつも通りひょうひょうとしているようだが、同僚であるジェイボスにはわかる。このジジイ、かなり無理をしている。魔力は残り僅かしかない。
まずいな。
ジェイボスは唇を噛む。
くそ、小銃や軽機関銃しかもたない警備の兵士達では、ドラゴンの包囲を外から突破できない。他の魔導騎士の応援を呼ぶか、……たった15分では無理だ。
港の中でドラゴンの群に向けて猛烈な対空砲火を撃ちまくっている巨大な艦。連合王国海軍の戦艦は、単なる補給のために寄港したのではない。ジェイボス達でさえ詳細は知らされていないが、何やら重要な会議のために王国の大臣や科学者がたくさん乗っているらしい。魔導騎士ジェイボスとバルバリの任務は、それを出迎える式典に出席する国防大臣と国務大臣、そして公王陛下の名代である公王太子殿下の護衛だ。
よくある任務だ。しょうしょう気になる点と言えば、騎士団を含む海軍・警察合同の警備体勢があまりにも大げさ過ぎるという点だけだった。
公国と連合王国の同盟関係は極めて良好だ。同盟の反対派など、皆無とはいわないが圧倒的な少数派だ。敵対している帝国にしても、敵対してるからこそ、こんな公式の式典を妨害してはこないだろう。ジェイボスは国際政治に興味などないが、それくらいのことはわかる。
なにしろ真っ昼間だ。しかも海軍基地の真ん中だ。これだけの警備体制をかいくぐり事を起こすなど、飛行機や潜水艦から奇襲でもないかぎり不可能だ。そして、そんな大げさなことをしでかしたら、それはすなわち二度目の世界大戦の始まりだ。
まんがいち人類の敵対種である強力な魔物が潜り込んだとしても、バルバリの聖なる魔法とジェイボスの炎の魔剣があれば、たいていの場合は撃退できるはずだ。はずだった。しかし、まさかドラゴンが、しかも大群が、犠牲覚悟で空から攻めてくるなどとは誰も想定していなかった。
公国と連合王国海軍の対空砲火により、青ドラゴンのかなりの数が空中で撃墜された。しかしもともとが大群だ。数十頭が生き残り、ジェイボス達を含めた式典参加者が取り囲こまれてしまった。地面からほんの数メートルの高度を保ちながら、交互に攻撃をしかけてくる。
王国側の要人がまだ戦艦を降りていないのは幸いだが、こうなってしまっては軍艦の砲はこちらに向けて撃てない。包囲の中に要人が取り残されているのに、まさかこの至近距離から40ミリ対空機関砲をぶち込むわけにはいかない。
今頃になってかけつけてきた海軍航空隊の戦闘機だって同じだ。そして、軍港の警備要員の小銃や拳銃などはそもそもドラゴン相手に役に立たない。式典参加者の命運は、今やドラゴンの環の中にいる魔導騎士ふたりに託されているのだ。
「なぁ、爺さん。……いざとなったら、俺は誰を護るべきだ?」
相対するドラゴンの数が多すぎる。バルバリ爺さんの聖なる障壁がなくなったら、その後ろに隠れている要人全員をジェイボスひとりの剣だけで護ることは不可能だ。護る対象を絞らざるを得ない。
「殿下を、……ルーカス殿下を、頼む」
脂汗をながしながら、やっとのことでジジイが声を絞り出す。任務に就く前から決まっていた答え。ジェイボスは、あえてそれを確認したのだ。
「で、殿下だけは、絶対に護らねばならん。我々の命にかえても……」
「……了解だ」