最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と青ドラゴン その03

 

「なぁ、爺さん。……いざとなったら、俺は誰を護るべきだ?」

 

「殿下を、……ルーカス殿下を、頼む。我々の命にかえても……」

 

 長老騎士バルバリが沈痛な表情で語る。ジェイボスはちらりと後ろを振り返る。彼の警護対象である公国公子殿下が、震えながら不安そうな顔でこちらを見ている。

 

 

 

 ルーカス殿下。代々の公王陛下と同じ黒い髪。漆黒の瞳。そして長い耳。ちょっと線の細い十五歳のメガネの少年。

 

 亡き公王妃殿下はエルフ族だった。すなわち、殿下はハーフエルフだ。その可愛らしい容姿から国民には人気があるが、一方で現公王陛下と比べてしょうしょう頼りないとの評判もある。たしかに外見だけならば、ジェイボスから見ても男らしさが足りないような気がしないでもない。たまに見せる仕草が女の子っぽいというか……。

 

 しかし、同盟国から招いた学者や大臣の出迎えを任されるということは、陛下や政府から信頼されているのだろう。殿下の同級生であるメルちゃんから聞いた噂だと、彼はかなりの変わり者だが学業成績はぶっちぎりトップだそうだ。特に科学の知識に関してはまるで未来か異世界から来たかのようだ、ときいた事もある。

 

 まぁ、殿下がどんな人間でも関係ない。騎士であるジェイボスの仕事は、彼を全力で護ることだ。命をかけて。

 

 一頭のドラゴンがジェイボスに迫る。足元を狙って剣を薙ぐ。……とどかない。翼を広げてさがりやがった。

 

 クソ。深追いはできない。ジェイボスが離れる隙をねらい、他のドラゴンが魔法陣を展開するバルバリ爺さんに迫る。爺さんがやられれば、後ろに護られた要人達は全滅だ。

 

 しかもこいつら、決して高度を上げない。空に舞い上がれば対空機銃で狙われるのがわかっているのか。

 

「くそったれ、トカゲのくせに統制が取れすぎている!!」

 

 どこかに指揮命令している者がいるのか。せめてやつらの目的がわかれば対策もあるのだが。

 

「そ、そろそろ、限界じゃ」

 

 爺さんが声を引き絞る。顔が土色だ。魔法陣が薄れていく。

 

 ……わかった。

 

 

 

 

 

 ひゃっ!

 

 まるで女の子のような悲鳴をあげたのはルーカス殿下だ。ジェイボスがその太い腕で殿下の腰を抱え込んだのだ。彼ひとりを抱えて逃げるために。

 

「ジェイボス、……儂が囮になる。殿下を頼んだぞ!」

 

 バルバリ爺さんの魔法陣がついに消滅した。取り囲まれた人々が、ドラゴンどもと直接相対する。

 

 えっ?

 

 ルーカス殿下が叫ぶ。

 

「ま、まってください! 私だけ逃げるなんてダメです。騎士様、おろして! 逃がすなら大臣さんを先に!!」

 

 だが、周囲の大人達がそれを許すはずがない。要人の中でもっとも偉そうな男が殿下を叱る。ジェイボスも顔を知る国防大臣だ。

 

「殿下、あなたの知識、見識、聡明さは公国市民全員の誇りだ。だから、つい我々はあなたがまだ子供だということを忘れてしまう。だが、……こういう緊急事態くらい、大人の役割を果たさせてもらいます。子供は素直に言うことを聞きなさい!」

 

 もしここで殿下を犠牲にして生き残ったとしても、公国市民はそんな大人を許してはくれまい。どのみち公国での政治家生命は終わりだ。ならば、大人として、紳士として、格好つけさせてもらおうか。

 

 常日頃は魔導騎士を厄介者扱いしている国防大臣が、ジェイボスに命じる。

 

「いけ、魔導騎士。殿下だけでも護って見せろ」

 

 言われるまでもない。ジェイボスが市街に向けて走る。ルーカス殿下を抱えて。

 

 

 

 

 

 ……しかし、ジェイボスの逃走は成功しなかった。

 

 くそったれがぁ! どうしてトカゲ共は俺ばかり追ってくるんだよ!!

 

 殿下を抱えたジェイボスが走れたのはほんの数十メートルだった。この場に居たドラゴンすべてが、例外なく逃げるジェイボスを追ったのだ。彼は埠頭の根元付近で再びドラゴンの群に取り囲まれ、ついに進退窮まった。

 

 こいつら、初めから殿下だけを狙っていやがったのか? トカゲにそんな知能があるというのか?

 

 既に『聖なる障壁』はない。すべてのドラゴンがジェイボスと殿下を狙って一斉に爪を振るう。前後左右から間断なくブレスが襲う。

 

 ぐがぁぁぁぁ

 

 殿下を背中に、ジェイボスが咆える。彼はつい先日、公都を襲撃した青ドラゴンの群に殺されかけた。ウーィルのおかげでなんとか命は助かったものの、二度目の失態は許されない。……いや、自分が死ぬのは構わない。恐くない。恐いのは、自分の任務を果たせないことだ。殿下を護れないことだ。

 

 くそ、くそ、くそ、くそ!

 

 必死に剣を振るう。冷凍ブレスから殿下を庇う。

 

 爪が腹に食い込む。ブレスによりすでに脚は凍り付いた。それでも剣を振るう。殿下を護る。

 

 身体が動かない。目が見えない。殿下はどこだ。まだ生きているのか。

 

「殿下ぁ!!!」

 

 魔力が出ない。剣がウロコに弾かれる。腕が痺れる。剣を取り落とす。くそったれ。目の前の少年に覆い被さる。背中にブレスの直撃。これで何度目だ。だめか。だめなのか。俺はここまでなのか。

 

 薄れつつある意識の中、脳裏に人影がうかぶ。これが走馬灯ってやつか。誰だ? メルちゃん? ウーィル? ちがう。……うそだろ? 死ぬ直前に思い浮かべる顔が、あんなおっさんだなんて……。

 

 

 

 

 スパッ。

 

 ほんの数メートル先、ジェイボスに向けとどめのブレスを吐こうとしたドラゴンが、唐突に動きを停止した。

 

 えっ?

 

 血で染まった狭い視界の中、黒い筋が空間を走ったように見えた。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、ドラゴンの首が落ちる。切断面から噴水のように鮮血が吹き出し、頭上から降りそそぐ。

 

「……んんんん、あれれ、じぇいぼす? なんれおまえがここにいるのら?」

 

 剣をもった酔っ払い少女が、空から降ってきた。

 

 




 
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