最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と青ドラゴン その04

 

 

 パブの窓から港へ飛んだウーィルは、まったく迷わなかった。

 

 自分でも何故なのかはわからない。そもそも、なぜ自分が空を跳べるのかもわからない。しかし躊躇はない。彼女には、声が聞こえていたのだ。必死に助けを求める声が。ウーィルは、その声に抗う気などまったくなかった。

 

 そう、……向かうべきは埠頭。助けるべきは声の主、ウーィルの主。倒すべき相手は、水の法則を司る守護者、青ドラゴンどもだ。

 

 

 

 

 空から見下ろす埠頭の上、人間がふたり小型ドラゴンの群に囲まれている。毛むくじゃらのでっかい男はよーく知っている。そしてその背中に庇われる少年。

 

 いったい何カ所負傷しているのか。血だらけのオオカミ族の青年がついに剣を取り落とす。膝をつく。その場に崩れ落ちる。絶望的な状況。とどめのブレスを吐くべく、ドラゴンが大きく口を開く。

 

 間に合わない!

 

 ウーィルは、乗っかっていた剣から跳び降りる。虚空に躍り出る。落下の勢いのまま柄を握る。空中でそのまま剣を振り下ろす。

 

 切っ先が空を走る。軌跡そって空間に黒い筋が走る。それがドラゴンめがけて飛ぶ。

 

 

 

 

 

 ああ、だめだ。身体が動かない。俺、まだ一人前ではないみたいだ。……ごめん、おっさん。

 

 それは、力尽きたジェイボスが目を閉じようとした瞬間だった。

 

 スパッ。

 

 ほんの数メートル先、ジェイボスにとどめのブレスを吐こうとしたドラゴンが、唐突に動きを停止した。

 

 無限にも思える数秒間の後、ゆっくりと、ゆっくりと、ドラゴンの首が落ちる。切断面から噴水のように鮮血が吹き出し、頭上から降りそそぐ。

 

 救援の騎士? 間合いの外から斬ったのか?

 

 ジェイボスは、一瞬遠くなりかけた意識を強引に現実に引き戻す。最後の力を振り絞り顔をあげる。目を見開く。

 

 誰だ? 誰の剣だ?

 

 彼の真上、眩しい太陽の光の中に人影が踊る。冴えない服装。だらしのないシルエット。黒くて長い剣。不敵な表情。

 

 おっさん?

 

 ……そうか。おっさん、やっぱり生きてたんだな。死んだなんてウソだったんだな。あんたが来たのなら、安心だ。

 

 ジェイボスの身体の力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

「……んんんん、あれれ、じぇいぼす? なんれおまえがここにいるのら?」

 

 ちょっとかん高く、ちょっと鼻にかかったロリボイス。その姿はとにかく小さくて、華奢で、細くて……。人とドラゴンの血と肉片が飛び散るその場にはまったくそぐわない。

 

「き、騎士ウーィル?」

 

 そんなウーィルをキラキラした目で見つめているのは、ジェイボスの大きな身体の下から這い出してきた少年だ。

 

 さっきの助けを求める声の主、……だよね? オレはこの少年を助けるために来た、はずだ。

 

 ウーィルは少年の顔を見つめる。

 

 メガネ。耳が長い。全体的に線が細い。一見して女の子みたいな少年。

 

 ルーカス……殿下?

 

 

 

 ウーィルはこの少年を知っている。当たり前だ。彼は公国騎士だ。公王太子殿下の顔を知らないはずがない。

 

 しかし、頭の中の記憶と肌の感覚が繋がらない。不協和音を奏でている。あの日、オレがウーィルになってしまった日と同じだ。

 

 さっきの助けを求める声の主は殿下だったのか? なぜ、声が聞こえた? なぜ、助けなきゃと思った? 目の前の少年に対して感じる、この不思議な感情はなんだ?

 

「あ、あぶない騎士様!」

 

 叫んだのは殿下だ。

 

 どすんっ!

 

 背中に振りおろされた爪。ウーィルはほんの三センチ身体をずらし、余裕で避ける。

 

 おそい!

 

 振り向きざま、のろのろと動くドラゴンの首の下から剣を振り上げる。一閃。二頭目の首が飛ぶ。

 

 そのまま上に飛ぶ。自分でも信じられないほど高く飛べる。剣も身体も羽のように軽い。まるで自分の体重が無いかのように。

 

 空中でドラゴンと正対。目を見開き驚いた顔のハチュウ類。そのマヌケずらを正面から縦に割く。

 

 

 

 

 うっぷ!

 

 やばい。身体を動かしたらまた酸っぱいものがあがってきた。

 

 うぇぇぇ、気持ち悪い。これ以上空中を跳びまわるのは、いろいろとまずいような気がする。……ええい、めんどくさい。まとめて斬ってやる。

 

 ウーィルは下から上昇してきたドラゴンの背の上に着地。そのまま仁王立ち。トカゲ共が密集する空間めがけて再度、空間を斬る。裂け目を飛ばす。三頭まとめてバラバラの肉片にする。

 

「騎士ウーィル! うしろ!!」

 

 またもルーカス殿下の声。振り向けば、踏み台にしているドラゴンが首を後ろに向けている。自分の背中の上にいるウーィルに向け冷凍ブレスを吐こうとしている。

 

「そのまま体重をかけて潰しちゃえ!!」

 

 自分でもどうやったのかわからない。とにかくウーィルはもう動きたくなかった。だから殿下の声に従っただけだ。

 

 がくんっ

 

 ウーィルが乗っかっているドラゴンが落ちる。同じ姿勢のまま高度だけがガクンと落ちる。翼は健在だ。ドラゴンは必死に羽ばたいている。それでも垂直に落ちる。まるでウーィルの体重が一瞬にして山のように重くなったかのように。

 

 へぇ。不思議だなぁ。

 

 ウーィルは他人事のようにつぶやく。ドラゴンの様子を見るに、背中に乗ったウーィルの体重が重くなったのは確かなのだろう。そういえばさっき空を飛んだときは、身体が軽くなったような気がしたな。もしかしてこの身体、体重を自由に変えられるのか?

 

 ずしん。

 

 ドラゴンが地面に落下した。埠頭のコンクリートにめり込む。それでもドラゴンはあきらめない。この世界最強の生物としての矜持をかけて、渾身の力を込める。背中に乗る小さな人間を振り落とそうともがく。

 

 あきらめのわるい奴だな。

 

 ミシ、ミシ、ミシ

 

 だが、ドラゴンは動けない。背中に乗る少女の圧迫。ウーィルの体重はまだまだ増加していく。地面にさらにめりこむ。いったいどれだけの重量がドラゴンの背中にかかっているのか。

 

 ぎゅぎゃあああああああ!!

 

 ぐしゃ!

 

 イヤな音。そして断末魔の咆哮。最後のドラゴンが、ウーィルの体重によって潰されたのだ。

 

 さいご?

 

 視線を上にむけると、取り囲んでいたはずの無数の小型青竜どもはみな上空へ逃げていく。港にいる軍艦の機銃や大砲が、いままで撃てなかった鬱憤を解放するかのように轟音をたてて空中のドラゴン達を狙って撃ちまくる。

 

 ……とはいえ、飛行機と比較しても小さな目標がバラバラの方向に逃げていくのを狙っても、そうそう当たるものではないが。

 

 

 

 海軍、警察、騎士団。さまざまな制服の武装集団が現場に集まったのは、ドラゴンが去ってから30分ほどたってからだった。まずジェイボスなどのけが人が病院に搬送された後、それぞれの集団による現場検証がはじまった。殿下の前で自重はしているが、あからさまにお互いを牽制し合いながら。

 

 公都の港での突発的な大規模な戦闘、しかも連合王国海軍を巻き込み、よりによって狙われたのは殿下だ。後始末は政府をあげての大騒ぎになるだろう。

 

「ウーィル、ウーィル、ウーィル、やっぱり来てくれた!」

 

 ドラゴンの血と肉片にまみれた埠頭の一角。大人達の喧噪をよそに、少年はただただ泣いていた。サイズがあっていないブカブカの服装に長い剣をもった少女に抱きつきながら。

 

「はっはっはっはっは、きにすることはないれすよ。わらしはきしですからぁ」

 

 たったひとりでドラゴンの群を一蹴した少女騎士が偉そうに応じる。周囲の大人達は、そんな不思議な光景を遠巻きに見守るだけだ。

 

「……騎士ウーィル・オレオ。私はあなたに謝罪させていただきたいことがあります」

 

 ルーカスが、ウーィルの顔を正面から見つめる。

 

 ん? 礼じゃなくて謝罪? ジェイボスが殿下を護って死にかけたことかな?

 

「らいじょうぶ。あいつのことならきにしないでいいのらよ」

 

 ジェイボスの奴は重傷だけど命には別状ないって。ホント頑丈だよな、オオカミ族。

 

「ち、ちがいます。……いえ、騎士ジェイボス・ロイドには別の機会にお礼をさせていただきますが、私がいま謝りたいのは騎士ウーィル・オレオ、あなたです」

 

 真剣な顔の殿下。ちょっとかっこいいかも。

 

 ウーィルは、瞬間的に目の前のハーフエルフの男の子に見とれてしまったことに、自分でも気づいていない。

 

「あなたは覚えていないのでしょう。……それも私のせいなのですが、それも含めて、私はあなたに謝らなければならないのです」

 

 殿下が必死に言葉を選んでいるのがわかる。だが、まったく心当たりがない。パブで気持ちよく寝ていたのを、殿下の声で起こされた件かな? 

 

「お詫びをさせてください。できれば公王宮にお招きして、事情をすべてご説明した上で。……よろしいですか?」

 

 殿下がウーィルに問う。おそるおそるといった体で、ちょっと上目遣いで、……なんというか、こういうところはちょっと女の子っぽいというか、妙に色っぽいというか、護ってやりたくなるというか。

 

「ああ、もちろ……」

 

 胸をたたいたウーィルが、突然その場にしゃがみ込んだ。

 

 おえっぷ!

 

「ど、どうたんですか? 騎士ウーィル。顔色が真っ青! だいじょうぶですか?」

 

 き、気持ちわる、……おええええええ。

 

 騎士ウーィルは、胃の中のものをすべて埠頭から海に向かってリバースしたのだ。よりによって殿下に背中をさすられながら。

 

 





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