最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と女子学生

 

 ある日の職場帰り。

 

 ジェイボスの野郎は、たった数日の入院で娑婆に戻ってきた。さすがにまだ現場に出ることは許されず、地道なリハビリトレーニングとデスクワークの日々を送っているが。それにしても、あれだけドラゴンのブレス直撃を喰らっておいて、もうデスクワークが可能というだけで驚異的だよなぁ。

 

 とはいえ、肉体的には頑丈でも、精神的にはけっこう参っているようだ。一度ならず二度までもドラゴンに殺されかけた自分に対して、そうとう忸怩たる思いを募らせているらしい。

 

 あの若造は脳みそが筋肉でできている単細胞だからなぁ。人間がドラゴンに勝てないなんて当たり前なんだから、それで落ち込む必要などないと思うのだが。

 

 それはともかく。ジェイボスが実戦戦力として計算できないとなると、他の騎士に負担がかかるのは仕方が無いわけで、最近はオレもちょっと忙しい。買い物に行く暇もないくらいには。

 

 

 

 

 夕焼けが照らす石畳の広い道。道を急ぐビジネスマン。労働者。新聞配達の少年。靴磨き。馬車と自動車による大渋滞。

 

 このあたりは公都の中でもオフィス街であり商業地区だ。明るいうちならば、若い女性がひとり歩きしても問題ない程度には治安がよい。そのため、買い物の主婦や学校帰りの女子生徒の姿もたくさんみえる。

 

 だから、ちょっとブカブカな騎士の制服姿の少女、つまりオレがあるいていても、それほど目立つことはない。目立たないはずだよな?

 

 で、そんな街中でオレがなにをしているかというと、……買い物だ。たまたま久しぶりに早く帰れる今日を逃すわけにはいかないのだ。

 

 オレは女性用の洋服屋さんを覗く。

 

 十年以上前、妻に付き合わされたことがあるお店だ。自慢じゃないがそれ以来、この店に限らず女性服のお店などいったことがない。妻が死んだ後、メルの子供服はレイラ隊長に土下座して買ってきてもらっていたのだ。

 

 うへぇ。

 

 あたりまえだが、女性客しかいない。店員も女性だ。ていうかエルフだ。美人だ。店の中に入りづらいなぁ。

 

 

 

 

 実は、先日ドラゴンの群からルーカス公王太子殿下を助けてやった後、殿下からお礼状をもらったのだ。そこには、『是非直接お礼をしたい。ついては公王宮に飯でも食いに来てくれ』(意訳)と書いてあった。

 

 助けてやったのは騎士の仕事なんだからそんな気にすることはないと思うのだが、殿下の申し出を無下に断るわけにもいかないだろう。しかし、オレはそこで大きな大きな問題にぶち当たる。

 

 お礼状にはこうも添えられていたのだ。『非公式な場なので私服で来てね』(意訳)と。

 

 オレの身体が少女になってしまったあの日。かわったのは身体だけではなかった。周囲の人々の記憶。そしてオレの戸籍や、騎士団での公式の記録。まるで、オレがこの身体になってしまったことの辻褄を合わせるかのように、歴史が書き変わってしまったのだ。

 

 変化は物理的な事象にも及んでいた。あの日から、オレの私物はすべて女物になっていた。クローゼットの中がすべて女物になっていた。下着も含めて。

 

 歴史を書き換えたのが誰なのかは知らないが、よくぞここまで徹底したものだと感心する。しかし、だからこそ問題がある。

 

 オレは、もともとおっさんだった頃から、私服なんてほとんど持っていなかったのだ。あっても、いかにもおっさんの服ばかり。それがそのままサイズが変わって女物になっても、やっぱりおっさんの服なのだ。

 

 早い話が、殿下にお招きいただいたにもかかわらず、公王宮に着ていく服がない。

 

 先日パブに行った際に着た服は、ドラゴンの血とオレの汗とゲロの臭いが染みついている。……いや、たとえそうでなくても、あの格好で公王宮にいくのは、さすがのオレもどうかと思う。

 

 一瞬、メルの私服を借りようと思った。だが、父親が娘の服を借りるというのは、なんというかプライドというか沽券に関わるような気がする。だから却下だ。

 

 ……すっかり年頃の女の子らしい体つきになってしまったメルと、ちんちくりんなオレの身体のサイズが違うのは、今回の件には関係ない。関係ないぞ。

 

 しまった。店の入り口を前に逡巡しているオレが、通りをいく人々からジロジロ見られている?

 

 きょ、挙動不審だったか? いやいや、そんなばかな。きっと意識しすぎだ。いくらサイズの合わない騎士団の軍服で長すぎる剣を背負ったちんちくりん少女が何度も店の前を行ったり来たりしてるからといって、その程度で市民のみなさまから注目をあびるわけがない。ないよな?

 

 よし、店内に突入するぞ! ……脚が動かない。最初の一歩が出ない。突入後、店員さんにいったいなんて話しかければいいんだ?

 

 やはりレイラに頼るか、そうでなければナティップちゃんに付き合ってもらうべきだったか。い、いや、それはそれで、恥ずかしいというか、やはりおっさん騎士としてのプライドが……。

 

 ああ、オレはいま、人生最大の障害にぶち当たっている。

 

 

 

 

 

 

「おねぇちゃん!」

 

 いきなり後ろから袖を引っ張られた。肩で切りそろえた金色のさらさらヘアーの少女。

 

「メル!」

 

 白いブラウスに赤いリボン。膝丈のスカート。皮製のカバン。女子学生の制服姿。うむ、いつものとおり可愛いな、オレの娘。……だったはずなのだが、なぜかあの日いらい世間的には妹ということになっているが。

 

 公都には公立私立多くの学校がある。メルが通うのは、旧貴族やお金持ちが通う私立の名門パブリックスクールの高等部。代々の公王陛下の一族も通う公国一のお坊ちゃんお嬢ちゃん学校だ。ちなみに学費は、騎士の給料だけで賄うにはかなりきつい程度に高いぞ。

 

「お洋服買うの、おねぇちゃん?」

 

 店とオレの顔を交互にみながら、メルが嬉しそうに言う。そのキラキラした目はなんだ? どうしてそんなに嬉しそうなんだ?

 

 え、い、いや、その。

 

 なぜ口ごもってしまうんだ、オレは? オレの姿は今は女性だ。女性の服を買うのが恥ずかしいことなんてないはずだ。

 

「おねぇちゃん、騎士団のお仕事もいいけどもう少しおしゃれしなきゃ。私のことばかりじゃなくて、たまには自分のことも考えて!」

 

 そりゃ仕方が無い。妻が亡くなってから、オレの人生はメルと剣だけだ。それで十分だったし、これからもそうだ。たとえオレがどんな姿になっても。オレがおまえの父じゃなくて姉でも、だ。

 

「そ、それよりも、メルは外出なのか?」

 

 オレははなしをそらす。メルのことは愛しているが、年頃の娘との面倒くさい会話が苦手なのは仕方が無い。

 

「うん、お買い物。夕食までに寄宿舎に帰ればいいんだ」

 

 制服のスカートとともに、金色の髪が揺れる。うん。出会った頃の妻にそっくりだ。

 

「へぇ……。暗くなるまでまだ時間があるし、なんか甘い物でも食べていこうか」

 

 ここは商業地区。若い人向けの飲食店も多い。そして、オレはお給料もらったばかり。お小遣いもちょっとはある。娘と外食もたまにはいいだろう。

 

「お洋服は? 買わなくていいの?」

 

「いいよ。別に今日でなくても」

 

 店員さんに話しかける決心がつかないしな。

 

「わーい、おねぇちゃん騎士団はいってから忙しくて全然かまってくれなくて、いっしょに外食なんてひさしぶり!」

 

 そ、そうだったか。それはすまなかったよ。

 

 

 

 

 

「ねぇ、メル。どなた?」

 

 メルの後ろから、ひょっこりと顔をだす少女。

 

 おっと。メルだけじゃなかったか。ご学友が三人。そりゃそうだ。この年頃の女子学生がひとりで校外に買い物になんて出かけないよな。

 

 みんな同じ制服。みんな育ちがよさそうなお嬢様。ちなみにみんな今のオレよりも身長が高い。

 

「この方、メル様のお知り合い? 公国騎士団の制服ですわ、よ、ね?」

 

「うそ、こんな小さくて、とてもかわいらしい騎士様がいらっしゃるの?」

 

 かわいらしい騎士様って誰の事だ?

 

「そういえば、先日大聖堂を破壊してドラゴンの群を撃退したのは、私達とあまり年の変わらない女性騎士だったとききましたが、まさかこの方が……」

 

 あ、やべ。大聖堂ぶっ壊したの、こんな上流階級のお嬢様方にまで知られていたのか。

 

「ええ、わたしくの姉ですのよ。騎士団でも魔導騎士小隊のエリートですの。みなさまも、ごいっしょにお茶にいたしませんこと? おほほほ」

 

 なぜかメルが誇らしげだ。ていうか言葉使いがへんだ。このお調子者め。しかも、勝手にご学友も誘いやがった。

 

「お姉様? この方が? と、とても年上とは、い、……いえ、おかわいらしいお姉様ですこと」

 

「このお姉様がドラゴンを? と、とても信じられませんわ」

 

 ご学友が混乱しているようだ。この見た目だもんなぁ。

 

「こんなステキな騎士様とお茶をいただけるなんて、光栄ですわ!」

 

「え、えーと、みなさん。勝手に外食は校則違反では……」

 

「公国騎士様がお食事に誘ってくださるのに、お断りするわけにはまいりません。是非ごいっしょさせていただきます」

 

 あー、やっぱり、全員に奢るのか。オレのお小遣いが……。

 

 

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