最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)とやんちゃ小僧ども

 

 

 人だかりをかき分ける。

 

 騒ぎの舞台は、先ほどオレが入店しようとして躊躇してしまったあの店。ちょっと高級な女性用の衣料品屋さんだ。

 

 ……ああ、なるほど。

 

 オレは一目で事情がわかってしまった。騒ぎの中心に居るのは女性店員。それを三人組の若者が取り囲み、因縁をつけている。

 

 嫌がらせだ。

 

 若者は、みなボウズ頭で妙に体格が良い。格好からして大陸の帝国かぶれだな。内ポケットにナイフを隠している。……あらら、拳銃を隠しもってるのもいる。即席の訓練くらいは受けたことがありそうだ。

 

 そしてもうひとり。いや、もう一頭。

 

 普通の人間よりもはるかに大きな身体。ボロボロの服。鼻をつまみたくなる悪臭。知性の感じられない顔。もじゃもじゃな髪、牙、そして巨大なツノ。……オーガだ。

 

 両手と首につながれた鎖の先を、若者のひとりが握りしめている。番犬かわりなのか? いや、嫌がらせのつもりなんだろうなぁ。本当に頭の悪い連中だ。ていうか、よくそんなでっかいの、この繁華街までつれてきたな。店の前に停めてあるトラックでわざわざ運んできたのか? ご苦労なこった。

 

 一方、取り囲まれ嫌がらせをうけている店員の女性は耳が長い。エルフだ。

 

 

 

 

 エルフ。

 

 われわれ人類とはことなる種族。人類よりも圧倒的に少数だが、主に旧大陸の各国にそれなりの人口が暮らしている。

 

 とはいえ、平均寿命が人類よりも長いこと、風の魔力持ちの確率が高いことを除けば、外見も含めて人類と大きな違いはない。生物学的にはホモ・サピエンスの亜種とされ、人類との混血も可能だ。亡くなった公王妃殿下はエルフであり、現公王太子であるルーカス殿下はハーフエルフだ。

 

 エルフはもともと深い森に住む種族だ。それゆえ中世以前は、かろうじて人類の国家と棲み分けができていた。しかし、産業革命とともに森林が激減した結果、彼らは住処を失った。同様に住処から追い出された魔物やモンスターは絶滅へと向かい、エルフは流浪の民となった。もともと国という概念が希薄なエルフ達は、熾烈な列強各国の勢力争いの時代、一部の国では公然と迫害の対象となった。

 

 一方、大洋の真ん中にある島国、我が公国では事情がかなり異なる。公国は異世界への穴が開いているとも言われるほど、いまだに魔物やモンスターがどこからともなく多数出現する。開拓が進んだ海岸沿いをはなれれば、多くの魔物が跋扈し人々の侵入を拒む大熱帯雨林が広がっている。わずかとはいえ、エルフや獣人の住処が残されているのだ。

 

 ついでに、大陸ではすっかり激減した魔力持ちの人間が生まれる確率も、公国はいまだに世界平均の十倍にもおよぶ。これもあわせて、公国が現代の『魔法の国』と呼ばれる所以となっていたりする。

 

 そんなわけで『魔法の国』公国では、エルフ、獣人、さらに魔力持ちに対する社会的なアレルギーはおおくはない。法的にも差別はないことになっており、最近は迫害から逃れるため大陸から公国へ亡命するエルフや獣人もいるそうだ。

 

 もっとも、法的に迫害されないといってもそれはあくまで建前でしかない。さらに近年では公国内にも大陸の列強国の独裁者シンパも少なくない。血の気の多い若造共が、他国のマネをして社会的地位のあるエルフに嫌がらせしているときく。国際的なトラブルを嫌う当局の取り締まりが甘いから、連中がつけあがるのだが。

 

 

 

 

 ああ、面倒くさいなぁ。

 

 騎士団は公王直轄の組織。建前とはいえ行政府からは独立した武装組織だ。だからこそ、政治的なはたらきは苦手、というか民主主義を標榜する我が国においては政治的な武力行使の自制が求められる存在だ。特に魔導騎士においては、政治活動家のいざこざには絶対に首を突っ込むな、と普段から強く強く釘を刺されている。

 

 うーん。どうしようかなぁ。でも、あきらかに嫌がらせだよなぁ。後先考えずに問答無用でぶちのめしちゃっていいかなぁ。

 

 などと悩んでいたら、……お、ラッキー。野次馬の中に見知った顔を発見!

 

 ウーィルは、野次馬の一番後ろの男に声をかける。山高帽にステッキの一見紳士、だが目つきは厳しいおっさんだ。

 

「ねぇねぇ、そこのおじさん」

 

 いきなり声をかけたオレを、男はうろんな目でみる。

 

 しまった。オレ、いまは少女だった。過去の知り合いといえど今のオレの事を知っているとはかぎらない。

 

「……なんだ。魔導騎士の嬢ちゃんか」

 

 ほっ。

 

 この姿になったオレのことを覚えていてくれたか。理屈はまったくわからないが、よかった。ならば話が早い。

 

 

 

 

 

 一見紳士風のこの男。オレはこの男をよく知っている。実はこのあたりを仕切るマフィアの幹部だ。

 

 魔導騎士小隊は、公国軍や警察とは違う。オレ達が相手にするのは、基本的に人権をもたない生き物である魔物やモンスター、要するに人間ではないものに限られる。現行犯ならば別だが、犯罪者の逮捕権もない。

 

 だから、マフィアの連中にとって、警察は敵でも魔導騎士小隊はそうではない。ヴァンパイアやサキュバスなど人間の闇世界に紛れ込んだ魔物を追ううちに、好むと好まざるとにかかわらずマフィアと顔見知りになってしまう場合も少なくない。

 

「あんたたち、このあたり仕切ってるんでしょ? あの店からもみかじめ料とってるんでしょ? だったらあの小僧共なんとかしてよ。恩に着るから」

 

 そう、マフィアからすれば、魔導騎士は敵対しない程度に恩を売っておいて決して損はない相手、であるはずなのだ。普段ならば。

 

 だが、期待した返事はかえってこなかった。

 

「勘弁してくださいよ、魔導騎士の嬢ちゃん」

 

 ん? オレの頼みを聞いてくれないの? あんたのところの違法な売春宿でサキュバスを使ってるの知ってるんだけどなぁ。ガサ入れのついでに『勢い余って』あんたのビルごと組織まるごと物理的にぶっ壊しちゃったりするかもしれないよぉ。

 

「……あいつら、ただのやんちゃな小僧じゃないんです。バックには帝国シンパの枢密院の長老議員がいるんですよ。そのまた背後には帝国情報部の資金もでてるそうだし」

 

 え? ……あああ、聞くんじゃなかった。面倒くさい事を聞いちゃったなぁ。

 

 必要なことは伝えた、とばかりの風体でマフィア男はこそこそと去って行く。自分達の利害と関係ない部分では、面倒ごとに関わりたくないということか。大人だ。賢明だ。マフィアのくせに生意気だぞ、くそ。

 

 振り向けば、オープンテラスの娘とそのご学友達は、さっきよりもさらにキラキラした期待の目でオレをみている。

 

 あー面倒くさい。ホント面倒くさいが、……しかし、しかたがない。オレは正義の公国騎士だ。娘の期待に応えてやろうかね。

 

 

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