最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)とオーガ奴隷 その03

 

 

「く、くそ。まさか魔導騎士がこの場に居あわせるとは……」

 

 ウーィル達からほんの数十メートル先、野次馬の環の後ろ。停車した車の中から騒ぎを見守っていた男が、苦々しくつぶやく。

 

 彼の任務は、公国国内に社会不安を引き起こすことだ。そして、帝国シンパを増やすこと。そのために、公国の若造どもをたきつけたのだ。

 

 ついさっきまで、任務は実にうまくいっていた。

 

 彼はいかがわしい店に出入りする若者達に取り入り、彼らの耳元でそっとささやいただけだ。

 

 君たちが職にあぶれたのはエルフどものせいだ。お人好しな公国市民は、狡猾なエルフにとっていい鴨だ。政治家も、公国軍も、財界も、陛下すらも、みんなエルフに騙されている。公国を救えるのは君たちしかいない、……と。

 

 なにも心配いらない、エルフ排斥を国策としている帝国がサポートしてやろう、……と。

 

 まずはお小遣いと薬を渡して手懐ける。ナイフや銃の訓練をしてやって自信をつけさせる。最後に、彼らが活躍できる舞台と小道具を用意してやる。

 

 作戦は極めて単純だ。だが、効果は大きい。……はずだった。

 

 帝国かぶれの小僧共が公都で狼藉を働く。国際的なトラブルを嫌って及び腰の警察を尻目に、彼らに解き放たれたオーガが街の真ん中で派手に暴れる。これにより、公国市民が決して一枚岩ではないことが内外に明らかになる。うまくいけば、人間とエルフの分断のきっかけになる。これは、現公王太子がハーフエルフである公国にとって、大きな社会不安につながるだろう。

 

 どうせ小僧共もオーガも使い捨てだ。本国は、公国の若者が勝手にやったこととシラを切り通すだけだ。とにかく安上がりな上、リスクがほとんどない。

 

 なによりも、ここは公国だ。この科学万能の時代に、今だ魔物が跋扈する野蛮で原始的な『魔法の国』だ。爆弾や銃器ではなくオーガを使ったテロだなんて、実にふさわしいじゃないか。未開の国でオーガがあばれたところで、国際社会も深刻なテロと受け止めることなどない。

 

 なのに、……『魔法の国』の象徴ともいえる魔導騎士が、まさかこの場に居合わせるとは!

 

 まったくもって運が悪いとしかいいようがない。……まぁいい。今回はおとなしく引き下がるべきだろう。手駒とする小僧はいくらでもいる。公国政権中枢部にも協力者はいる。本国が関与した決定的な証拠さえ残さなければ、この程度の陰謀は何度でも実行できるのだ。

 

 男は懐から杖を取り出した。手元で小さな魔法陣を描く。

 

 あの若造共にも伝えていないが、彼が用意した奴隷オーガの首輪には安全装置が仕込まれている。制御が不可能となったときに備えた自爆魔法だ。たいした爆発力ではないが、魔法陣により遠隔から起動させれば、オーガを含めて半径数メートルは吹き飛ぶだろう。

 

 証拠隠滅のついでに、あの魔導騎士にも死んでもらおうか。

 

 

 

 

 

 ぐおーーーー。

 

 ウーィルとレンのすぐ側を、再び咆哮が響き渡る。

 

 オーガが目を覚ました? ……しまった、油断した。打撃が足りなかったか。なんて無駄に頑丈な奴だ。

 

 オーガは腕で身体をささえ、すでに上半身を起こしている。立ち上がろうとしている。

 

 すげぇ体力、……というか執念だな。両腕が砕かれ、頭蓋骨が割れてるだろうに。

 

 半ば呆れているウーィルの目の前、オーガは震える脚で大地を踏みしめる。ついに立ち上がる。そして、にらみつける。射るような視線をむける。その先にいるのは、もちろんウーィルだ。

 

 ……こりゃ死ぬまでおとなしくならないだろうなぁ。気が進まないけど、トドメを刺さないとダメかなぁ。

 

「さがって!」

 

 ウーィルはオーガの視線を真っ向から受け止めながら、隣の少女に向けて叫ぶ。今度は峰打ちじゃない、本気で斬る。

 

 だが、レンさんはさがらない。かえって一歩前へでる。そして、ウーィルに微笑みかけた。

 

「心配いらないよ、騎士ウーィル」

 

 しれっとした顔。恐怖などまったく感じていないような。

 

「言ったろ? ボクは『運がいい』んだ」

 

 にゃあ。

 

 例によって胸ポケットのネコが応える。

 

 ……はあ? 『運がいい』?

 

 やはりウーィルは、レンが何を言っているのか理解できない。

 

 

 

 

 

 

 震える脚を気力だけで押さえつけ、オーガはついに立ち上がった。激痛に歪んだ視界の中、あの人間の雌がこちらを見ている。

 

 彼には本能的にわかった。自分はあのちいさな人間には勝てない。何度やっても絶対に勝てない。いまだに信じられないが、奴は強い。ドラゴンよりも強い。はるかに強い。

 

 それがわかっていても、彼に逃げるという選択肢はない。彼はオーガの戦士なのだ。

 

 自分はあの人間に殺される。間違いなく。ならば、……一撃でいい。たった一撃でいい。殺される前に、この拳をたたき込んでやる。

 

 オーガは腰を落とす。一歩だけ脚を前にだす。そして、渾身の力をこめて跳ぶ。

 

 着地と同時に、あの小さな人間めがけて拳を振り下ろすのだ。たとえ真っぷたつに斬られても、そのまま押しつぶしてやる。

 

 

 

 

 

 やばい。

 

 跳躍したオーガを前に、ウーィルは剣を握り直す。

 

 オーガが殴ろうとしているのはオレだ。避けるのは簡単だ。……しかし、今となりにはレンさんがいる。このままでは確実に巻き込まれる。

 

 ウーィルは剣を下段にかまえる。一撃を食らう前に懐に入りこみ、腕ごと切り落とす。それであの巨体が止められればよし。ダメならば、胴体まるごと細切れのミンチにしてやる。

 

 だが、……オーガの一撃はウーィル達に届かなかった。ウーィルが斬るまでもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 オーガは、着地した瞬間その勢いのまま拳を振り下ろすつもりだった。しかし……。

 

 つるっ!

 

 最初の跳躍から着地した瞬間、オーガが脚を滑らせた。

 

 なんという偶然! なんという『運の悪さ』!!

 

 彼の着地点にバナナの皮がおちていた。それに乗っかったオーガが、足を滑らせ見事にひっくり返ったのだ。

 

 勢い余ったオーガは、そのままスライディング。たまたま停車していた車に突っ込んだ。その巨体は車ごと中にいた魔法使いらしき男を押しつぶす。発動直前だった自爆魔法の魔法陣が、ゆらゆらと消えていく。

 

 

 

 

 

 へ?

 

 今度はウーィルがあ然とする番だ。

 

 そりゃ、たしかに公国は亜熱帯の国だ。バナナは身近なものだ。でも、そんな、マンガみたいな……。

 

「言ったろ? ボクは『運がいい』んだ」

 

 にゃあ。

 

 さきほど全く同じ口調で、まったく同じセリフをはくレンさんと白ネコ。

 

 運? 運だと? 今のを『運』の一言で、すますのか?

 

「そうさ。君が時空を司る守護者であるように、この子は運を司る守護者なんだ」「にゃあにゃあ」

 

 は?

 

「もうちょっと専門的な言葉でいうと、この子は波動関数の収束先を任意に選択することができる、……のだそうだよ」

 

 はぁ?

 

「……といっても、実を言うとボクもあまりよくわからない。別の世界の記憶があるといっても、もともとのボクの専門は歴史や政治だったからね。さっきのはルーカス殿下の受け売りさ。まぁ、要するに、この子がボクを守護しているかぎり、どんな状況であってもボクにとって都合の悪い未来が選択されることは絶対にないということさ。わかるかい?」

 

 さっぱりわからない。そもそも『守護者』ってなんだ? そのネコが『守護者』なのか? オレもそうなのか? そのネコが君を守護しているとして、オレも誰かを守護するのか?

 

「それをボクの口から言ってしまうのはちょっと野暮ってものだね。……いずれ、君にその力を与えた彼が説明してくれるんじゃないかな」

 

 ……オレに力を与えた彼?

 

「おねぇちゃん! やった! かっこいい!!」

 

 おっと、後ろからメルが抱きついてきた。お嬢様方が集まってくる。うやむやのうちに、レンさんとの訳のわからない会話は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 ちなみに、パンケーキのお店は、オレ達のお会計を無料にしてくれた。今日だけではなく、今後も永久に無料にしてくれるそうだ。

 

 やっぱり善行はするものだよな。ラッキー。

 

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