最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と始末書 三たび

 

 公国騎士団駐屯地。

 

 例によって例のごとく、オレは始末書を書いている。先日公都の繁華街でオーガと若造をぶっとばしてやった件についてだ。

 

「ウーィル・オレオ。先ほどからさっぱりペンが進んでいないようですね。よそ見ばかりして、本当に反省してるんですか?」

 

 腕を組みウンウン唸りながら始末書の文面を脳みそから絞り出しているオレに対して延々とイヤミをたれているこのメガネ野郎は、魔導騎士小隊副隊長ジェド・ノースだ。ちなみにレイラ隊長は、騎士団長といっしょに国防省だか内務省だかによばれているらしい。

 

 うるせぇよ。オレは剣は得意だがペンは苦手なんだよ。それでも逃げ出さずに頑張ってるオレに対して、おまえはそんなイヤミしか言えねぇのかよ。ねぎらいの言葉のひとつもあっていいんじゃないのかよ? 

 

 などと口にできるはずもなく、オレはやっとのことで書き上げた紙切れを副隊長に手渡したのだ。

 

 

 

 

 

「えーとぉ、……こんなもんで勘弁していただけませんか、ね?」

 

 オレは、メガネ野郎の顔をちょっと潤んだ目で、そして上目遣いに見つめてやった。オレなりに精一杯媚びを売ってみたのだ。なんてことない、中学生くらいの時のメルがお小遣いをおねだりする姿を真似をしてみただけだが。

 

 なっ。

 

 今の今まで怒りくるっていた副隊長がひるむ。一瞬呼吸が止まるのがわかった。もともとオレと同期、すなわち既にいい歳したおっさんであるノースが、ちょっとだけ顔を赤くしている。

 

 へっへっへ。作戦通り。オレの媚び売り作戦は成功したらしい。

 

 ……だが、こいつのクソ真面目は筋金入りだ。深呼吸を一回しただけで、通常モードに戻りやがった。そして、オレが提出した始末書をしげしげと眺めたあげく、きっぱりと言い放つ。

 

「ごほん。……なんですか、これは? 毎回毎回まったく同じ内容の始末書じゃないですか」

 

 なんだと!

 

 そ、そうは言っても、副隊長。こんな生産性のないくだらない仕事、真面目にやってられませんよ。始末書なんて、形式にさえしたがっていれば、内容なんて些細なことじゃないですか。

 

 ……いやその前に、あんた毎回オレが書いた始末書の内容なんてよく覚えてますね。自分でも書いた端から忘れているのに。その記憶力はもっと有意義な事に使うべきなんじゃないんですか?

 

 ギロリ。

 

 副隊長が睨む。

 

 しまった。口の中だけでつぶやいたつもりだったんだが、聞こえてしまったか? ……ええい、ついでだ。もうひとつ文句を言ってしまおう。

 

 副隊長! そもそもにして、どうしてオレが始末書を書かなければならないんですか? あの事件、誰が見たって正義はこちらにあるし。市民の皆様もオレに感謝してくれていたんだし。

 

「ウーィル・オレオ。あなたは公国騎士です。オーガだけならまだしも、公国市民に剣をむけることは許されません」

 

 いや、でも、奴らナイフや拳銃まで使ったんですよ。そもそも無許可で奴隷オーガを市街に持ち込んだ時点で違法だし。

 

「それを取り締まるのは警察の仕事です。そして、市街で剣を振るったあなただって、警察に逮捕されても文句は言えない立場なのですよ。……あなたは公国騎士団の中でもとりわけ目立つ存在なんですから、それを自覚してもう少し市民やマスコミの目を意識して欲しいものですね」

 

 副隊長がデスクに広げられた新聞を叩きながらウーィルに詰め寄る。白昼堂々、公衆の面前、公都のど真ん中で起こった、チンピラとオーガと美少女魔導騎士の大立ち回りが面白おかしく報じられている。

 

 えええ? これは正当防衛ってやつでしょ。それに、オレがやらなきゃ、あいつらに商店街は無茶苦茶にされていたんですよ?

 

「だまりなさい! 何度もいいましたが、あの件はあくまでもあなたとチンピラ小僧共の個人的なトラブルです。だから始末書が必要なのです。……いいですね。二度とこのような事はしないと騎士の誇りにかけて誓いなさい」

 

 ぴしり。音が聞こえそうな冷たい視線で副隊長が睨む。詰め所の中の空気が凍り付く。

 

 

 

 

 

 

 くっそ。この陰険メガネ副隊長め。……おまえ、もともと同期だったオレに対する思いやりとか、ないのか?

 

 おれがウィルソンだった頃、オレとノースでチームを組んだことも少なくない。力押し一辺倒のオレと、防御魔法と頭脳戦が得意なノースは、不思議と馬が合ったのだ。こいつ、若い頃から陰険でクソ真面目で潔癖症でメガネで几帳面でついでにむっつりスケベで巨乳好きな所を除けば信頼できて意外といい奴だったはずなのに。副隊長に出世した途端、これかよ。

 

 とはいえ、……だ。

 

 ノースの野郎は今や中間管理職だ。騎士団内外からの圧力を直接うけちゃう立場だ。オレがやらかしたことは、結果的に公国内での帝国情報部の活動を騎士団が邪魔してしまったことになるわけで、これに対してきっと帝国シンパのお偉いさんが圧力かけてきたのだろう。その重圧の中でノース副隊長様は、かわいい部下であるオレを守るため、なんとか『始末書』を落とし所にしてくれた、ってなところなんだろうなぁ。

 

 だから、心底イヤでイヤでしかたがないが、それでもオレは目の前の陰険野郎の言うことに従ってやるのだ。……上っ面だけだがな。ついでにもちろん、嫌がらせくらいはさせてもらうがな。

 

 

 

 

 

 はぁ。

 

 オレはわざとらしく、深い深いため息をついてやった。

 

 それだけではない。そのうえで、心底あきれた、そして失望したという目でノース副隊長の顔を見つめてやる。

 

 ……目の前で年下の女性にこれをやられると、大抵の男はプライドが傷付くはずだ。なぜオレがこんなことを知っているかというと、オレ自身が亡き妻と娘になにかとこれをやられて、しっかり傷付いたことがあるからだ。一回や二回じゃないぞ。

 

 思った通り、みるみるノースの表情がくもる。ズーーーン、と音をたてて落ち込んで行く。今にも地面にめり込みそうな勢いだ。

 

 へっへっへ。こいつは真面目でプライドが高い男だからな。数日は悔しくて眠れないだろう。ざまあみろ! ……今日のところはこれくらいで勘弁してやる。あんたの言うとおり、二度とこんなことはしないと誓ってやるよ。

 

「わかりました、副隊長。誓いま……『ちょっとまってください、副隊長!』」

 

 だが、ノースに詫びを入れようとするオレを邪魔する者がいた。ジェイボスの若造だ。

 

 

 

 

 

「ウーィルがそんな事を誓うわけありません! もしまた同じ状況に遭遇したら、ウーィルはまたエルフを護ります。もちろん俺も同じです。それが騎士ってもんでしょう!!」

 

 お、おい、ジェイボス。オレを庇ってくれる気持ちは嬉しいが、そんなに熱くなるな。余計なことをいうな。

 

「わ、わたしもそう思うっす。ウーィルちゃん先輩は間違ったことしてないっす」

 

 ナティップちゃんまで! どうして魔導騎士小隊の若手はこんなにすぐに熱くなるんだよ? 沸点が低すぎだろ。

 

 いいんだよ。たとえこの場で何を言ったって、どうせオレは副隊長の言いつけをまもるつもりなんてないし、副隊長だってそんなこと理解した上で説教してるんだから。

 

「そもそも、あの件でどうしてウーィルに処分がくだるんですか! まさか、帝国とつながっているという噂の枢密院議員とやらに圧力でもかけられたんですか?」

 

 あちゃあ。ジェイボスのアホ。この場でそれを口にするか。それは、副隊長にも、隊長や騎士団長にだって、どうしようもないことなんだよ。一番悔しいのは彼らなんだよ。

 

 ウーィルは、恐る恐るノース副隊長の顔を覗き込む。

 

 案の定、ノースの顔色がかわっている。メガネの奥の瞳に、怒りと、そして悲しみが入り混じっているのがわかる。

 

「騎士ジェイボス・ロイド。そしてナティップ・ソング。あなた達には関係ないことです。口をださないでください」

 

「関係ありますよ! 伝統ある騎士団の誇りはどこにいったんですか? 騎士として情けないと思わないんですか? 副隊長も隊長もいつからそんな腑抜けになったんですか?」

 

 ジェイボスとナティップちゃんがノースに迫る。襟首につかみかからんばかりの勢いだ。

 

「だまれ、若造! 貴様に何がわかる!!」

 

 ノース副隊長の堪忍袋の緒がきれる。

 

 ウーィルはおもわず背中の剣に手をかけた。アホなジェイボスがこれ以上アホなことを言い出すのを止めるためだ。いちど熱くなったこのオオカミ小僧を止めるには、腕力を行使するしかない。

 

 

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