最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と始末書 三たび その02

 

「伝統ある騎士団の誇りはどこにいったんですか? 騎士として情けないと思わないんですか!? 副隊長も隊長もいつからそんな腑抜けになったんですか!!」

 

 ジェイボスとナティップちゃんがノースに詰め寄る。始末書をかかされるはめになったウーィルを庇うため、襟首につかみかからんばかりの勢いだ。

 

「だまれ、若造! 貴様に何がわかる!!」

 

 無礼な若造に対し、ノース副隊長の堪忍袋の緒がきれる。懐から魔法の杖をとりだす。呪文を唱え魔法陣を描き始める。

 

 

 

 

 

 やばい! こんな怒り狂ったノースの姿を見るのは十年ぶりくらいだ。こいつがマジにキレたら、いろいろと大変なことになる。ナティップちゃんはともかくとして、脳みそに筋肉しかつまっていないジェイボスのアホをとめるには、腕力を使うしかない。

 

 ウーィルは反射的に背中の剣に手をかける。

 

 ……だが、ウーィルが剣を抜く必要はなかった。ノースの魔法も発動しなかった。その直前、魔導騎士小隊の詰め所の中、まったく別の魔法が発動したのだ。

 

 

 

 

 ひゅーー。

 

 室内であるにもかかわらず、突如としてどこからともなく風が吹き始めた。そして、部屋の中央部で渦を巻く。

 

 な、なんだ?

 

 常識ではあり得ない現象。室内の騎士達が何事かと構える。が、風はますます強くなる。一瞬にして強風に。そして竜巻に。

 

 大量の備品や書類が巻き上げられる。決して広くはない室内、目を開けていられない。あっという間に立っていることすら困難な強風。吹き荒れる渦の中心にいるのはノースとジェイボス。そしてナティップちゃんとウーィルだ。

 

「きゃーーーー」 「ぎゃーーーーー」

 

 かん高い悲鳴が複数、部屋の中に響く。女性騎士の制服は膝丈のフワリとしたスカートだ。それが、竜巻により巻き上げられたのだ。

 

 

 

 

 

 公国騎士団には、決して数は多くはないが女性騎士が存在する。だが、そのほとんどは公王宮守備隊や儀仗隊、音楽隊などの所属だ。実戦部隊である魔導騎士第一、二、三小隊に所属する女性騎士は、ほんの数名に過ぎない。

 

 神話の時代からこの島国の人々を魔物やモンスターから、あるいはバイキングや海賊から、魔導を駆使して守ってきたのは騎士団だ。しかし、大航海時代に列強の侵略に対抗するため近代的な国軍が整備されるにつれ、騎士団は戦闘集団としての役割を失っていった。現在残っている公国騎士団は、公王家の権威の象徴として、また古き良き公国騎士や魔導の伝統を今に伝えるための、要するに文化遺産的な役割をもつ組織といえる。

 

 であるから、現代の公国騎士団の中でも最も本流の部隊といえば、先述の公王宮守備隊や儀仗隊、音楽隊などだ。騎士の制服も、彼らの目的にそってデザインされている。過去の騎士の伝統を活かしつつ、南国風味で肌の露出が多い現代の公国の流行も取り入れてアレンジされたものだ。要するに、ひとことで言ってしまえば、戦闘力よりも見た目の格好良さ重視の制服なのだ。近代になってゼロからデザインされた女性騎士の制服は、特にこの傾向が強い。

 

 実際、女性騎士を含めた儀仗隊は、公国を訪問した海外要人に非常にウケがよい。市民や観光客に大人気の公王宮正門前の守備隊は、時間帯にかかわらずかならず女性騎士が含まれるようローテーションされている。

 

 もちろん、実戦部隊である魔導騎士には、専用の戦闘服が用意されている。しかし、特に第一小隊の魔導騎士達は、やぼったい戦闘服をあまり着用しない。公都に出現する神出鬼没なモンスターを相手にするには、市民の協力が不可欠だ。そのためには、市民に親しまれた目立つ制服の方が便利な場合が多いのだ。

 

 てなわけで、ナティップちゃんとウーィルも、普段の任務時にはスカートを着用していた。見た目はとても格好良く、可愛らしいが、決して戦闘には向いたものではない。……とはいっても、この二人をスカートの裾を気にせざるを得ないような事態に追い込める力をもつ相手など、滅多にいない。……はず、なのだが。

 

 

 

 

 

「ふぉっふぉっふぉっ。長年修行してきた風魔法、ついに魔法陣無しの無詠唱での発動に成功したようじゃのぉ」

 

 バルバリーのジジイの魔法か!

 

 騎士バルバリー。魔導騎士の最長老。宮廷魔道士として公王家に仕えた経験もある、神聖魔法の達人。

 

 その彼の魔法によりウーィルとナティップちゃんのかん高い悲鳴があがった直後、ノースもジェイボスも一瞬にして怒気が抜けた。ふたりの視線は、……いやその瞬間、部屋の中の騎士全員の視線が、一点に集中していたのだ。皆が凝視する先にいるのは、もちろん必死にスカートを抑える二人の女性魔導騎士だ。

 

 露わになったガラスのように白く子鹿のように華奢な脚はウーィル。そして、ナティップの健康的な色気に溢れる長い脚。どちらも世間一般の男の目を引く魅力的な光景であったが、魔導騎士小隊の男共に限ればどちらかといえば後者をみつめる者が多かったかもしれない。

 

「バ、バルバリーさん、室内でそれはやめて欲しいっす」

 

「さっさと風をとめろ、ジジイ!!」

 

 ウーィルに罵倒されたバルバリーは、口の中でもぐもぐ何ならつぶやく。直後、何事もなかったかのようにピタリと風がやむ。

 

 

 

 

 

「お、お、おまえらいつまで見てやがる! 仕事しろ仕事!」

 

 風が収まっても、騎士達はスカートに隠された脚を名残惜しそうに見つめている。

 

「ひゃっひゃっひゃ、ウーィルとナティップが入隊し同僚になった時からずっと使うチャンスを狙っておったのじゃ。なかなか使い勝手のよい魔法じゃのお。名付けて『神風の術』とかどうじゃろ、……なぁ副隊長、そしてジェイボスよ」

 

 気まずい顔で顔を背けるジェイボス。そしてノース。

 

 くそ。ジジィめ。あんたの得意なのは神聖防御魔法じゃなかったのかよ。その年齢で新たな属性の魔法を取得できるのかよ。ていうか、スカートまくりとか小学生かよ。エロジジイの執念恐るべしだな。しかし、……助かった。ジェイボスの代わりに礼を言うよ。ありがとう。

 

 

 

 

 

「はいはいはーい。魔導騎士小隊のみんな、静かにしなさい。……どうしたのこの部屋の惨状は? さっさと片付けて」

 

 間が良いのか悪いのか、レイラ隊長が帰ってきたのはちょうどそのタイミングだった。

 

「ほらほら副隊長、そんなに恐い顔しないで。ジェイボスも落ち着いた? ウーィルは、……『ギャー』はないでしょ、『ギャー』は。あなたもっと乙女らしい可愛い悲鳴をあげられないの?」

 

 うるせぇよ。レイラ隊長、見ていたんなら最初から止めに入れよ。

 

「止めようかと思ったんだけどね。……血気盛んな若い騎士の青臭ささ、じゃなくて若さ故の熱い血潮があまりに眩しくて、羨ましくて、止められなかったのよ」

 

 確かになぁ。最近のレイラは、魔物との闘いの指揮をとるよりも、予算や人員確保のため、そして魔導騎士小隊という組織を守るための国内外の敵と政治的な闘いの方が多いものなぁ。ジェイボスやナティップちゃんの騎士としての純粋な正義感を見せつけられたら、そりゃ眩しいかもなぁ。

 

「……隊長。すいません」

 

 ノース副隊長が隊長に頭を下げる。

 

「かまわないわよぉ、副隊長。あなたが熱くなるところなんて久しぶりに見られたし」

 

 そして、レイラは詰め所の中を見渡す。

 

「えーと、ジェイボスとナティップ。魔導騎士小隊が誇る最有望若手騎士の二人は、まだ今回の件に納得していないのね?」

 

「「……はい」」

 

 あ、あれ? オレには聞いてくれないの? 年齢だけならオレの方が二人より若手だぞ。なにより当事者だぞ。

 

「ウーィルはあの件に納得してるんでしょ? それに、あなた見た目はともかく精神がおっさんっぽいから、私はもともとウーィルを『若手』扱いしてないの」

 

 えええ? オレの精神おっさんっぽい? これでも見た目に合わせようと努力してるんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

「いい? いまから私がいうことは、独り言よ。だから、耳に入ったことは決して口外しちゃだめよぉ」

 

 と前置きののち、レイラは今回の件の顛末を語りだした。

 

 

 

 ウーィルがぶちのめした若造は、警察に引き渡された。そして公都警察は、例によって若造達をおとがめないまま解放するだろう。

 

 一方で、事件の後始末は騎士団に押しつけられた。すなわち、オーガの処分と、ウーィルが破壊した石畳の補修と、オーガがずっこけた際に偶然それに巻き添えをくらい病院送りになった市民への対応だ。

 

 

 

「……ひどい話だな、おい」

 

「ウーィル、あなたがそれを言う? 例によってあなたが市街地で暴れたせいなのよ? ……まぁいいわ、はなしはまだ続きがあるの」

 

 

 

 しかし、病院送りになった男の身元を調べてみればとんでもないことがわかった。男は帝国情報部の工作員だったのだ。しかも若造達にオーガを与え、事件をそそのかし、さらに公国政府高官とつながる証拠も大量にでてきた。出てきてしまった。とても隠匿できないほどの決定的な証拠が。

 

 ことここに至り、事件は騎士団の手を離れ、内務省の情報部に引き継がれることになった。もちろん今後の調査は極秘に行われる。そのため、国内の帝国シンパの勢力を油断させるためにも、表面上ウーィルは処分されることになる。

 

 

 

 

「……というわけ。わかった?」

 

「ウーィルの処分は表面上だけ、ということなんですね」

 

「納得したなら、さぁさぁ仕事に戻る!」

 

 ジェイボスもナティップちゃんも、わかったようなわからないような微妙な顔つきながら、とりあえず自分のデスクに戻る。

 

 そして、微妙な顔つきなのは、たぶんオレも同じだろう。

 

 うーん、もしかしたらこれもレンさんがいう『運が良い』ことなのかなぁ? それはともかく、そんな陰謀まがいな事にまきこまれる中間管理職はたいへんだねぇ。でも、極秘なのに、みんなに話しちゃっていいの?

 

「私の立場としてはね、部下の若い子達にきちんと納得してもらうことの方が大事なのよ。それに、ここだけのはなしだけど、我が公国政府の上層部はすでに帝国との融和はあきらめたみたい。同盟国である王国や皇国もね。だからこの件の秘密保持にも、そんなに気を使わなくてもいいんじゃないかな」

 

 それは、……大陸でもうすぐ二回目の大戦が始まるってことか? 公国もそれに巻き込まれると?

 

「そうかもね。でも、もし本当に戦争がおこるのなら、今度は新大陸や東洋まで含めた本当の世界大戦になると思うわ」

 

 はぁ。未来ある娘を持つ身としては、戦争は避けてほしいものだが。こればかりは、一介の騎士ではどうにもならんなぁ。

 

「それよりも、ウーィル!」

 

 レイラが思い出したように言う。

 

「あなた、ルーカス殿下からお食事に招待されたのって、たしか今日の午後よね? お洋服の準備はできてるの?」

 

 あ! ……忘れてた。

 

 




 
 
魔法とモンスターと架空の公国が存在する異世界ですが、科学や文化や世界情勢は我々の世界の第二次大戦直前の頃とちょっとだけ似ているという設定です。
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