最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
ルーカス殿下からのご招待?
あー、確かに今日の午後だった。今日の朝までは確かに覚えていたんだけど、始末書作成に神経を集中していたらすっかり忘れていた。
「なに呑気なこと言ってるのよ。たしか駐屯地までお迎えの車が来るんだっけ? 準備はちゃんとできているんでしょうね?」
ルーカス殿下からのご招待というのは、港で青ドラゴンの群から殿下を護ってやったお礼に、公王宮でのお食事会にご招待された件だ。
……いや、準備といっても、公王宮へいって殿下と一緒に飯をくうだけだし。いまさら準備するものなんてなにもないけどな。
「着ていくお洋服は? ウーィル、あなたまともな私服もってないでしょ。ちゃんと用意したんでしょうね」
あーーー、えーと、いろいろ考えたんだが、この公国騎士の普段の制服で行こうかと。さすがに礼装はやりすぎだと思うが、いま着ているこれって一応公務員の制服だし、世界中のどこの王様の前に出ても問題ないはず、だよな?
「だめよ。殿下からの招待状にも書いてあったでしょ。公務じゃないから私服で来て欲しいって。……あなた、まさか用意していないんじゃないでしょうね」
い、いやいや、オレもな、服は買いに行こうと思ったんだよ。だけどな、なけなしの勇気を振り絞って洋服屋さんにいったら、あのオーガ事件だろ。結局あれから忙しく買い物に行けていないし……。
「なにやってるのよ、このアホ娘! 殿下からのご招待をなんだと思ってるの! あなた公王家に仕える騎士なのよ!!」
えええ? 騎士が公王家に仕えてるって、そんなの形式だけだろう。オレ達公国騎士は国家公務員であって、仕えているのはあくまで『公国』のはずだぞ。
……しかし、オレの反論はレイラには聞こえていない。
「あーー、本当にもう! どうしよう? いまから買いに行く時間なんてないわよね。そうだ、ナティップ! あなたの私服ウーィルに貸してあげて」
「えっ? ウーィルちゃん先輩のためなら全然かまわないっすけど、けど、けど、その、えーと、サイズが……」
ナティップちゃんがオレの身体の上から下まで視線を動かしながら、口よどむ。
……わるかったな。
たしかに、ナティップちゃんは、手足が長くて出るところとは出て引っ込むところはきちんと引っ込んでいるスタイル抜群美女だ。ひいき目に見てせいぜい中学生ボティのオレとは、身長だけじゃなく何から何までサイズが違っている。
「じゃ、じゃあ、メルちゃんの服は?」
同じだよ。自慢じゃないがうちのメルは15歳にしてはちょっとスタイルがいいぞ。オレみたいなちんちくりんとは違う。サイズがまったくあわないよ。
「メルちゃんが小学生の頃、私が買ってきてあげた服があるでしょう?」
オレは衣食住のうち『食住』は一人でもなんとかなる。一人暮らしも長かったからな。しかし、『衣』については全く興味もなければ知識もない人間だった。自分の服などどうでもよかったし、他人の着ている服にも興味がなかった。特に女性の服装などまったくわからない。若い頃は妻が『せっかくオシャレしてもぜんぜん気づいてくれない』などとよく嘆いていたものだが、オレにはどうしようもなかった。
その妻が亡くなってから、メルはオレが男手ひとつでそだててきた。しかし情けないことに、オレには、かわいい娘にいったい何を着せればよいのかさっぱりわからない。だから、たまたま同じ職場だったレイラに土下座して頼んだものだ。娘の服を買ってきてください、と。
レイラが言っているメルが小学生の頃の服というのは、それのことだろう。
……たしかに、メルの小学生の頃の私服はまだあるはずだ。処分した記憶はないからな。しかしな、レイラよ。考えてみろ。たとえサイズがちょうどよかったとしても、あんな小学生用のヒラヒラした可愛らしい服を、公国魔導騎士が着るのはおかしいだろう。
そもそも、娘が小学生の頃に着ていた服を、中年おっさんである父親が、……じゃなくて社会人の姉が借りて着るというのは、プライドが許さない。人間の尊厳に関わると思わないか? オレは絶対にイヤだぞ。
「なに偉そうに平らな胸を張ってふんぞり返ってるのよ! 見た目幼女が偉そうに!!」
な、なにぃ! どこが平らだって? ……じゃなくて、『偉そう』とは何事だ? しかも二回も言ったな! 相手になってやるから表に出ろよ、このとしm……わぁごめんなさい。オレは何も言ってません! だからそんな怒らないで! 槍をもちだすのはやめて!!
「はぁ。……考えてみれば、たしかに小学生のメルちゃんに買ってあげた服では幼すぎるわよね。でも、ど、どうしよう?」
だから騎士の制服でいいだろ? もう考えるのも面倒くさいし。
「だめだっていってるでしょ! せっかくの殿下のご招待なのよ!!」
確かに殿下のご招待だが、どうしてそんなに気合い入れなきゃならないんだ?
「いい? ウーィル。よく聞きなさい。亡くなった公王妃殿下は、もともとエルフ族のただの民間人の学生だったわ。その妃殿下が陛下に見初められたのは、お二人が学生時代の学園祭パーティの食事会だったそうよ」
ほぉ。それが何の関係があるんだ?
「ウーィルも、殿下と年齢が近いんだし、しかもあなた殿下の命の恩人なのよ。一緒に食事すれば、もしかしたらもしかするかもしれないじゃないの!」
はぁ? レイラ、おまえはオレに玉の輿を狙えと言ってるのか? おまえは年頃の知り合いにみさかいなく縁談を持ちかけるお見合いおばちゃんか?
オレは呆れて何も言い返す気力がなくなってしまった。
かわりに横から割り込んできたのは、またしてもアホのジェイボスだ。
「たたた隊長! ウーィルに玉の輿なんて無理。絶対に無理。しかも公王家なんてダメだ。俺は反対です。反対! 反対! 反対! 反対!」
お、おい、ジェイボスよ。オレのためにそんなに熱くなるな。玉の輿なんてレイラが勝手に妄想しているだけで、絶対にそうなることはないから。それに、今のレイラに何を言っても無駄だ。ここは黙って好きなようにさせておいたほうがいいぞ。
「ジェイボスは口を出さないで! あなたウーィルと関係ないでしょ!」
「お、俺は、ウーィルの家族みたいなものだ!」
「家族? 家族なのね? ならば、ウーィルの幸せのために協力するのがあたりまえでしょ!」
レイラ隊長のその一言で、ジェイボスは黙ってしまった。何も言えなくなった。
『……この根性無しのヘタレおおかみが!』
レイラ隊長が口の中だけで吐き捨てるようにつぶやいたジェイボスへの罵倒は、ウーィルには聞こえなかった。
「わかったわ。こうなったら私の実家のコネを最大限につかいましょう。我が家の古くからの馴染みに、公王家御用達の服飾店があるわ。私の父の名前を出せば今からでも無理をきいてくれるはずよ。さぁウーィル、いっしょに行くわよ! いそいで!!」
うわー、やめてぇ。レイラの実家って、公国の旧貴族の中でも公王家に次ぐぐらいの名家じゃねぇか。オレのためにそんな権力やコネをつかうのはやめてくれぇ。
力尽くでオレを連れ出そうとするレイラ隊長。必死に抵抗するオレ。地面にめり込むほど落ち込んでいるジェイボス。面白がって見ているだけのナティップら他の隊員達。
「騎士ウーィル・オレオ! お届け物ですよ」
昼間っから無駄に騒々しい魔導騎士第一小隊。その詰め所のドアが開き、事務のおばちゃんが顔を出す。
騎士団長を含む現役すべての公国騎士を入団時から知っている彼女は、駐屯地ではバルバリ爺さんの次に年配であり騎士団の影の支配者とも言われている。その彼女が手招きしたのは、オレだ。どうやら小包を届けてくれたらしい。
オレに?
「ええ。上品そうなエルフの女性が駐屯地に直接届けてくださったのよ。あなたにお礼ですって」
手紙と紙袋。差出人に心当たりがない。……まぁ、おばちゃんがチェックしたのだから、爆弾じゃないだろう。
「ウーィルちゃん先輩。この住所、大通りのブティックっすよ」
ナティップちゃんが、オレの後ろから肩越しに手紙を覗きこんでいる。
あー、なるほど。オーガ騒動のあった洋服屋さんか。たしに住所はあの辺かもしれない。
手紙をひらくと、タイプライターではないじつに美しい手書きの文字。
なになに?
『先日はありがとうございました。お礼に騎士様に似合いそうな洋服を見繕いました。いま公都の若い女性で流行っている服です。よかったら着てください」(意訳)
へぇ。お礼なんて気にしなくていいのになぁ。
「ウーィルちゃん先輩! お洋服、お洋服っすよ! あけていいっすか? あけるっすよ!!」
ナティップちゃんが、オレの腕の中から紙袋をもの凄い勢いでひったくる。そして開く。たたまれていた服を広げる。
なにをそんなに興奮しているんだ、君は?
「だってウーィルちゃん先輩のために見繕われたお洋服っすよ! 可愛らしいに決まってるじゃないっすか! ……きゃー本当に可愛い!!!」
シャツは半袖。胸元に赤いリボン。特徴的なのは大きな黒い襟。スカートは何本もプリーツがはいったフワリとした膝上の丈。
こ、これ、たしかに可愛らしいけど、……海軍の水兵さんみたいだなぁ。