最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と親バカ陛下(こちらもおっさん)

 

 騎士団駐屯地の正門前、目の前に停まった馬車を見上げながら、ウーィルはあ然としていた。

 

 ウーィルだけではない。公王宮へと出かける彼女を冷やかし半分で見送りに出ていた公国騎士たちは、みな口をあけ、ポカンとしている。

 

「こ、これがウーィルちゃん先輩のお迎えっすか? ずいぶんと豪華な馬車っすね」

 

 ナティップちゃんが見つめる視線の先にあるのは、四頭の馬にひかれた豪華な馬車。

 

 漆黒の塗装。上品で控えめな金色の装飾。そして優美な曲線で構成された車体。大きな窓。ドアには公王家の紋章。

 

「この馬車見たことあるわ。たしか現陛下と妃殿下の結婚式のパレードで……」

 

 あああ、そういえば。たしかに結婚式のパレードにつかっていた馬車だな。

 

 ……って、なんでそんな馬車がオレを迎えに来るんだよ! 事前の宮内省から連絡では、目立たないよう普通の車をよこすって言ってたぞ。そもそも今日はただのお食事会だろ。なんでこうなった?

 

 

 

 

 騎士団駐屯地の正門前にいるのは騎士と馬車だけではない。ここは公都の中心部だ。ビジネス街の真ん中だ。好奇心旺盛な市民達が、いったい何事かとおおぜい集まってきたぞ。ああ、カメラをかまえた新聞記者達も。

 

 あ然とする魔導騎士の集団をみて、馬車の御者のおじさんは苦笑いしている。馬車を先導する護衛の騎馬がオレ達に近づき、声をかけてきた。

 

「驚かれたでしょう。魔導騎士ウーィルをお迎えするのならどうしてもこの馬車がいいと、陛下が突然いいだして……」

 

 馬の上から困惑した顔で語るこの騎馬騎士、駐屯地でたまに見かける男だ。オレ達と同じ公国騎士。公王宮守備隊に所属する騎士だ。

 

 って、陛下ぁ?

 

 オレをご招待したのはルーカス殿下だ。陛下とお会いする予定はない、……はずだよな?

 

「ご存じの通り、陛下は少々茶目っ気がありすぎる上に、一度言い出したら聞かない方ですので……」

 

 騎馬騎士が、ため息をつきながらつぶやく。

 

 はぁ?

 

 

 

 

 

 馬車のドアが開く。執事のような侍従のような地味な格好のおっさんが降りてきた。

 

「君が騎士ウーィル・オレオだね。……お待たせてもうしわけない。どうぞ」

 

 オレの手をとり、馬車に乗るよう促す。

 

 ん? このおっさん、見たことある、……よな? オレだって公王宮には何度か行ったことがある。公王家の身近に仕える人間ならば、見覚えがあって当然なのだが。

 

「へ、へ、へ、へ、陛下ぁ?」

 

 おっさんを指さし素っ頓狂な声をあげたのは、魔導騎士小隊隊長だ。

 

 はぁぁぁ? 何言ってるんだレイラ。こんなところに陛下がいるはずが……。

 

 改めて男の顔を見る。ラフな黒髪。精悍な男らしい顔立ち。

 

 ……うわぁ! このおっさん、たしかに公王陛下だわ。

 

 あまりの事に声を上げそうになるオレ。おっさんは、茶目っ気たっぷりの表情で口の前に指を立てる。

 

「騎士ウーィル。早く馬車へ。マスコミが騒ぎ出すとやっかいだ」

 

 いやいやいや、マスコミや市民が騒ぎ出したら、それはあんたのせいだと思うぞ。

 

 

 

 

 

 さすが公王家御用達の馬車。外見だけではなく中身も豪華。

 

 足元はふかふかの絨毯。シートもふかふかで、サスペンションもふかふか。乗り心地抜群で馬車の中ということを忘れてしまいだ。ついでに、この見晴らしのよい窓は、防弾仕様なのだろう。

 

 だが、おそらく一生に一度しかないであろうこんな体験も、それを堪能する余裕は今のオレにはない。

 

 それもすべて、オレの正面に座るおっさんのせいだ。

 

 アンデルソン・アトランティーカ公王陛下。わが公国の国家元首であり、ついでに名目上とはいえオレ達公国騎士の主君。たしか年齢は三十五歳。もとのオレ、おっさんだったオレと同い年だ。

 

 そのおっさんが、オレをみている。公国国民の生命と財産に責任を持つ男、そのいかにも一国の元首らしいしかめ面。決して広くはない空間の中、至近距離から黙ってオレの全身を見つめている。

 

 性的でイヤらしい視線というわけではない。嫌悪感は感じない。だが、オレの中身をすべて見透かすような視線。もっと端的に言えば、まるで品定めするかのような視線。それをこの至近距離から浴びせられて、緊張しないわけがない。

 

「うんうん、なるほど。ふむ、ルーカスの奴なかなかやるではないか」

 

 口の中でなにやらブツブツ言い始めたぞ。 

 

 

 

 

「あ、あのぅ、陛下……」

 

 重い空気と沈黙に耐えきれず先に口を開いたのは、ウーィルだった。公王陛下がおだやかな笑顔でこたえる。

 

「これは失礼した。驚かせてすまないね、魔導騎士ウーィル・オレオ。こうでもしないと、二人きりで話す機会がつくれないと思ってね」

 

 陛下といえば騎士であるオレの主君なんだから、用があるならいつでも呼び出してくれていいんだが。

 

 オレは頭の中でそう思い、ちょっとだけ丁寧な言葉に変換したうえで口に出した。

 

「息子に内緒で、息子よりも早く君と会い、息子を驚かせたかったんだよ」

 

 息子というと、ルーカス殿下か。そういえば陛下は子煩悩で知られている。ひとり息子のルーカス殿下をネコかわいがりしていることは、国民皆が知るところだ。

 

「公王宮の前、君が私といっしょに馬車から降りてきたら、ルーカスの奴はおどろくだろうなぁ。楽しみだ」

 

 茶目っ気たっぷりの笑顔のおっさん。

 

 たしかに、自分が食事に呼んだはずの騎士がこんな馬車で、しかも父親と一緒に現れたら、そりゃルーカス殿下も驚くだろう。でも、いくら可愛い我が子だからといって、年頃の子をあまりいじると嫌われても知らないぞ。

 

「……ルーカスは、あまり人付き合いが得意なほうではない。その奥手な息子がここ数日、妙にソワソワしていてね。聞けば、命を救ってくれた騎士を公王宮に招待するというじゃないか。しかもそれは妙齢の女性騎士だという。親としては、そのお相手に会いたくなるのは当然だろう?」

 

 あー、オレも年頃の娘がいる身だからな。わからなくもないが……。でも、それはちょっと勘ぐりすぎじゃないかなぁと思いますよ。

 

「おっとその前に、私にはやらねばならぬ事があった。……騎士ウーィル。まずは礼を言わせて欲しい。先日はルーカスを守ってくれてありがとう」

 

 狭い馬車の中、わざわざ立ち上がって礼をいう陛下。反射的に立ち上がろうとしたオレを制して、頭を下げる。

 

「あ、頭をあげてください。殿下をお守りするのは騎士の仕事ですから……」

 

「もしあの場でルーカスの身に何かあったらと思うと、今でもこの身体が震えるよ。私だけではない。君のおかげで公国は救われたといっても過言ではないくらいだ」

 

 そんなおおげさな、……とは言えないな。この国の公王太子殿下だもんな。

 

 

 

 

 

 騎士団駐屯地から公王宮まで、ゆっくり歩いてせいぜい三十分。護衛を引き連れた馬車でも同じくらいか。ちょうど帰宅ラッシュで大通りも渋滞必至の時間だから、もう少しかかるかな。なんにしろ、それほど長い時間ではない。

 

 いかに陛下が茶目っ気たっぷりの人間だといっても、オレと息子を驚かせる目的のためだけに、こんな馬車を用意したわけではあるまい。そろそろ本題に入るのだろう。

 

「さて、ここからが本題だが、……魔導騎士ウーィル・オレオ。君の事は『ウーィル』と呼ばせてもらっていいかね?」

 

 オレの眼をまっすぐに見つめる陛下。妙に真面目な顔だ。

 

 は、はぁ。かまいません、が……。

 

「ではウーィル。……これから私の事は、『お義父さん』とよんでくれたまえ」

 

 ……はぁ?

 

 

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