最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と殿下 その02

 

 公王宮の飯は、想像したほど豪華でも形式張ったものでもなかった。

 

 公国騎士は決して高給取りではない。旧貴族出身の者でなければ、普段の生活レベルは食事も含めて一般の公務員や庶民と大差ない。もちろん、オレオ家もそうだ。

 

 ウーィルは少女姿になる前から、ひとり娘のため食事の栄養にはできる限り気を使ってきたつもりだ。だが、主に経済的な問題により、それに加えて多忙により、基本的に質素で手軽な食事にならざるを得なかった。格式高い食事など食い慣れてはいない。

 

 だから、ルーカス殿下により公王家の飯にお呼ばれしたとき、ウーィルはちょっと緊張したのだ。いったいどんな豪華で面倒くさい飯を食わされることになるのかと。

 

 だが、ウーィルの心配は杞憂だった。

 

 ゲストもホストも若者であることを考慮してくれたのだろう。決して形式張らず、それでいて一流の食材を一流の料理人が心を込めて調理した料理の数々は、確かに美味かった。

 

 さすが公王宮の飯だ。メルも連れてきてやりたかったなぁ。

 

 長いテーブル。ウーィルはデザートのアイスクリームを口に放り込みながら、正面に座るメルの同級生を見る。

 

 繊細そうなメガネの少年が、チラチラとこちらを見ている。そして、目が合ったことに気づくと、意を決した表情で話しかけてきた。

 

「ウ、ウーィル・オレオさん。そ、そ、そのセーラー服、お似合いですね」

 

「は? ええ、えーと、こんな女性っぽい格好は普段から慣れないもので、動きにくくて……」

 

「そ、そうですか……」

 

 沈黙。

 

 うーん。いまいち会話がはずまない。さっきから何度も話しかけてくれるのだが、すぐに途切れてしまう。

 

 口を開くときの思い詰めた表情からみて、おそらくドラゴン退治の礼だけでなく、もちろんただの世間話でもなく、オレに対して何か特別に話したいことがあるのだろう。なのに、会話がつづかない。

 

 これまでの人生でも一二をあらそう美味い飯を食っているにもかかわらず、その点だけが小骨のようにウーィルの喉に引っかかる。

 

 

 

 

 他人との会話が苦手という点では、ウーィルもルーカス殿下と大差ない。だから、話したいことがあるのに話しかけられないというシチュエーションには、ウーィルも覚えがあった。

 

 きっと自分も、妻と付き合い始めた頃、こんな感じだったのだろう。

 

 だが、今の殿下の様子からみるに、彼が話したいことは、色恋沙汰とは違うような気がする。

 

 ていうか、もし色恋沙汰ならちょっと困る。オレがこんな身体だということも問題だが、それ以前にオレはまだ妻を忘れられない。そのうえ、年頃の娘も居る。いくらなんでも娘と同級生、しかも公王太子殿下とお付き合いなど、どう考えてもオレには無理だぁ。

 

 ……おっと先走り過ぎた。

 

 色恋沙汰でないならば、なんだ? おっさんとしては、青少年の相談事には、可能な限り乗ってやりたいもんだが。

 

 殿下が切り出せないのならば、本来は中身は大人であるオレが会話をリードしてやらないといけないのだろう。だが、繰り返すが、そして自慢じゃないが、オレも他人と話すの得意じゃない。こんな場合、いったい何を話せばいいのやら。

 

 無理矢理話題をさがす。

 

「そ、そういえば殿下、今日は学校はお休みですか?」

 

 今日は平日だ。メルも寄宿舎から学校に行ってるはずだ。

 

「え、そそそそうなんです。今日は公王太子としての公務ということでお休みをいただきました。学校だけではなく、寮にも外泊許可をもらってあるんです」

 

 へぇ。お勉強だけでなく礼儀作法やらもそれなりに厳しい学校のはずだが、やはり殿下は特別なんだなぁ。

 

 そんなオレの思いが顔に出てしまったのか、殿下がフォローを入れてきた。

 

「も、も、もちろん、私が公王家の人間だからといって、無条件で欠席が認められるわけではありません。重要な公務のために欠席する場合は、本来は宮内省から内閣をとおして学校に申請書をだしてもらうのですが、今日はウーィル・オレオさんをご招待するということで、お父様、……公王陛下から直接校長先生に特別の配慮をお願いしました」

 

 そ、……それはどうも。

 

 このお食事会って、そんなに重要な案件だったのか。小粋な会話のひとつもできなくて、本当にもうしわけない。だが、どうしたらいいのかわからんのだ。あああ、体力勝負のボディガードなら簡単なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 結局、食事が終わっても、お茶をすすっても、陛下とバルバリー爺さんが部屋に乱入してきても、いつまでたってもオレ達の会話は盛り上がらなかった。オレの帰り際、決死の形相の殿下が口を開くまでは。

 

「ウーィル・オレオさん、おねがいです。お帰りになる前に、……ほ、ほんのちょっとだけお時間をいただけますか? 二人だけになれる場所で」

 

 殿下の声が完全に裏返っている。その迫力に、ちょっと引く。

 

 ふ、二人になれる場所?

 

「あ、ああ。かまわない、……ですよ。なんのお話しですか?」

 

「大事な、本当に大事なお話なんです。私達二人と、この世界の未来についての……」

 

 はぁ。

 

「ひょっひょっひょ、殿下、気持ちはわかるがのぉ、ふたりともまだ未成年ですぞ。まかりまちがって公王宮の中で不祥事など起きたら、最近はマスコミもうるさいからのぉ」

 

 バ、バ、バ、バルバリーさん! 騎士ウーィル・オレオの前で何てこと言うんですか!

 

「あー、父としては、お互いに同意の上ならば構わんと思うぞ。もしふたりの仲に反対する者がいたら、私が全力で叩きつぶしてやるからな」

 

「お父様も、黙って! お願いです。ちょうどあと一時間くらいなんです。お願いですから。私達のことはほおっておいてください」

 

 ふだん気の弱そうな殿下が、眉間に青筋を立てて怒鳴る。その超ど迫力に、さすがのおっさんと爺さんもたじたじとなる。

 

「わ、わかった」

 

 それにしても、一時間? 妙になまなましい時間だな。いったい何を……。

 

 

 

 

 

 殿下とふたりきりで廊下を歩く。案内してくれたのは公王宮の地下室。おそらく倉庫として使われている部屋の一角。

 

 壁に立て掛けられた大きな絵を額ごと動かすと、隠し扉があらわれた。いかにも頑丈そうな鉄でできている。

 

「へー、公王宮の中に、こんなところがあるんだ」

 

 仰々しい鍵穴にでっかい鍵を挿し込みながら、殿下が振り向く。

 

「ここに扉があることを知っているのは、公王宮でもほんの数人だけなんです」

 

 ギイイイ。

 

 ゆっくりと、扉がひらかれる。

 

 ゴクリ。ウーィルがツバを飲む音だ。

 

「ウーィル・オレオ、さん。……いっしょに来てくれますか?」

 

「そのまえに、これは陛下にもお願いしましたが、私の事はウーィルと呼んでいただけますか?」

 

 いちいちフルネームで呼ばれると、肩がこるのだ。

 

「あ、……うん。ウーィル。いっしょに来てくれますか?」

 

 もちろん。

 

 

 

 

 ドキドキしながら、扉をくぐる。

 

 そこはまるで魔王の城につながる地下迷宮、……ではなかった。実際に足を踏み入れてみれば、そこは大人二人が並んで歩ける幅のごくごく普通の廊下だ。壁はコンクリート。電灯もある。

 

「普通……だ」

 

 ウーィルのつぶやきを聞いた殿下が、くすりと笑う。

 

「あはは、ごめんなさい。変な期待させちゃった? この通路がはじめにつくられたのは中世時代らしいけど、目的はただの緊急避難用のものだし、最近は近代化もされてきちんと整備されているんです」

 

 ちょっとがっかりしたウーィル。しかし殿下の表情は緩まない。

 

「だけど、……この通路は、私とあなたが出会った場所につながっているんだ」

 

 は?

 

 

 

 

 地下通路をルーカス殿下とふたり、無言で歩く。殿下は正面を向き、真剣な顔だ。

 

 そんな殿下の横顔を眺めながら、ウーィルは馬車の中で公王陛下から伝えられた言葉を、頭の中で反芻していた。

 

「騎士ウーィル。ルーカスは命の恩人である君の事を信用しているようだ。そんな君に知っていて欲しいことがある。聞いてくれるかね?」

 

 はぁ。いいですよ。さんざん息子自慢したくせに何をいまさら。

 

「……実は、我が公王家には代々の言い伝えがあってね。公国が危機に陥ると、異世界の知識をもった転生者が一族に生まれ救いをもたらすと」

 

 その手の言い伝えって、どこの国の王家にもあるのでは。王権の正当性を示すためのおとぎ話でしょ。

 

「そのとおりだ。だが、この件についてはただの言い伝えではないんだ。なぜなら、私は実際に転生者を知っている。先代公王の弟殿下、ルデス・アトランティーカ。私の叔父だ」

 

 ああ、ルデス殿下。知ってます。絵が得意で変……。

 

 先代公王の弟君を変人よばわりしかけた事に気づき、ウーィルはあわてて口をつぐむ。

 

「いいんだ。たしかに叔父は変人だった。公国の政治にはまったく関わろうとせず、無人島に自分専用のメイドと二人きりで住みつき、風変わりな絵ばかり描いていた人だ」

 

 変人ルデス殿下が無人島に住んでいた話は全国民が知るところだが、自分専用のメイドなんて話は一般市民にとってははじめて聞く話だな。

 

「私は幼い頃からそんな叔父が大好きでね。彼がたまに公都を訪れるたびお話をねだったものだ。本人が言うには、叔父には前世の記憶があり、彼はもともとこの世界とは別の世界の絵描きだったそうだ。私は、文化も文明も異なる異世界の話を、いつもわくわくしながら聞いたものさ」

 

 へぇ、この世界とは別の世界なんてものが実在するのか。おとぎ話みたいですね。

 

「残念ながら、これはハッピーエンドのおとぎ話ではないんだ。先代公王が亡くなり私が即位した直後、叔父は話の続きを教えてくれた。彼がこの世界に転生させられたのは、実はある重要な使命のためなのだそうだ。そして、そのせいでいつも命をねらわれている。無人島に住んでいるのは市民を巻き込まないためだ、と」

 

 重要な使命?

 

「もちろん、すべては想像力豊かな叔父の作り話である可能性もある。だが、彼はこうも言ったのだ。自分はもうすぐ青ドラゴンに殺されるだろうと。しかし、彼が死んでも公王家の血筋にはまた同様の使命を帯びた者が生まれるだろう、と。公王として、その者を護ってやってほしい、と。……その数年後、実際に叔父は青い巨大ドラゴンに襲われて亡くなった」

 

 ……そうだ。ルデス殿下の住む島が巨大な青ドラゴンに襲われたのは、オレが騎士になった直後のことだ。ドラゴンの魔力による大爆発の衝撃波が数十キロはなれた公都まで響きわたったことを覚えている。

 

「そして、叔父が亡くなった直後に生まれたのが、……息子ルーカスだ。私は、息子ルーカスが、叔父と同じだと確信している」

 

 ルーカス殿下も転生者だ、と?

 

「ルーカス本人は、父である私にすら何も話してくれないよ。アレは、何でもできるが、何でもすべて自分で背負い込もうとする性格だ。あるいは『重要な使命』とやらに我々を巻き込みたくないのかもしれない」

 

 陛下はうつむきながら唇を噛む。息子が頼ってくれない自分が情けないのか。

 

「騎士ウーィル!」

 

 陛下が姿勢を正す。そしてふたたび頭を下げる。

 

「君のことは調べさせてもらった。始末書が多いことを除けば、その年齢で魔導騎士としての実績は申し分ない。剣の腕だけならば歴史上最強、ドラゴンにも負けないと騎士団上層部からのお墨付きだ。お願いしたい。息子を、……ルーカスを助けてやって欲しい。君の力で」

 

 異世界とか転生とか使命とか面倒くさそうだなぁ。でも、同じ年頃の子を持つ親としての気持ちは痛いほどわかっちゃうんだよなぁ。

 

「……オレは騎士だ。あらためて言われなくたって、殿下を守りますよ」

 

 ウーィルは、自分の薄い胸を叩く。

 

「ありがとう……」

 

 

 

 

 

「ウーィル。もうすぐ目的地ですよ」

 

 殿下の言葉に、ウーィルは我に返る。

 

 歩いた通路の長さはせいぜい数百メートルほどか。突き当たり階段を昇ると、また同じ扉。

 

 扉の向こうは、……廃墟? 大聖堂?

 

「そう、君が破壊した大聖堂の跡です」

 

 ウーィルがドラゴンの群ごと破壊した大聖堂の敷地。立ち入り禁止となっているものの、いまだ完全に片付けられてはいない。土台はもちろん、石造りの壁や柱の一部がところどころ残されている。

 

 再建についての方針がまだ決まっていないうえ、木っ端微塵にされた膨大な数の巨大な石材を処理するのに必要な予算と工数の目処が立っていないのだ。

 

「ドラゴンの群が公都を襲ったあの日、私は最初からわかっていました。あのドラゴン達は私を、私ひとりを狙っていたことを」

 

 え? ドラゴンが公都を襲った日って、オレがこの少女姿になったあの日のことか?

 

「だから、私はこの通路をつかって無人の大聖堂に逃げました。公王宮にいては、お父様や公王宮の人々を巻き込んでしまうと思ったから」

 

 えっ? えっ? それじゃぁ、あの時……。

 

「おもったとおりドラゴン達はここに集まりました。でも、結果として私は追い詰められてしまった。もうダメだと覚悟を決めた時、あなたに出会ったの。……騎士ウィルソン・オレオ」

 

 え? 

 

「で、で、で、殿下? オレがウィルソンだったことを知っているのですか?」

 

「知っています。……あなたをその姿にしたのは、私、です」

 

 えええええ?

 

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