最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)とイカ その03

 

 駆逐艦の艦長は混乱している。

 

 海軍が設定した進入禁止領域は絶対だ。あそこで何が行われているのかについて彼は何も知らされてない。しかし、公国だけではなく、王国海軍や皇国海軍も含めた連合艦隊の司令部から、侵犯する者は場合によっては警告無しに撃沈するよう厳命されている。

 

 そこに突入してきたのが、目の前の警備船だ。何度警告しても従う気配がないが、しかしさすがに自国の沿岸警備船への発砲を命じるのは躊躇われた。

 

 そこに船長からの通信だ。

 

「ばかやろう! 砲をむける相手が違う!!」

 

 その声と口調には聞き覚えがあった。最後まで現場一筋のまま海軍を退役した、彼の大先輩だ。自分よりも遙かに年上の海の男に怒鳴りつけられ、駆逐艦の艦長は狼狽した。そして、やっと気付く。彼の艦と警備船の間を泳ぐ、異形の化け物の存在に。

 

「なんだ、あれは?」「不明です!」「とにかく、主砲を化け物に向けろ。照準は適当でいい、撃て!」

 

 イカの至近でいくつもの水柱があがる。そして、潜水。

 

「……やった、のか?」

 

「下から来るぞ、逃げろ!!」

 

 ふたたび無線機の中、警備船船長の怒鳴り声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「下から来るぞ、逃げろ!!」

 

 警備船の船長が叫ぶ。

 

「取り舵一杯!」

 

 しかし、イカのターゲットはこちらではなかった。

 

 再び、イカが凄まじい速度で水中から巨体が飛び上がる。全長数十メートルの巨大な物体が、上空百メートルまで上昇。そして駆逐艦めがけてトップアタック。

 

 まさか自分が狙われるとは思っていなかった駆逐艦が、慌てふためきながらも空中のイカに対して対空砲火を浴びせる。同時に、イカの身体全体が銀色に輝く。莫大な魔力で覆われる。

 

 さすがにこの至近距離、対空機関砲の直撃を喰らえばいかに魔物といえど無事ではすまない。しかし、イカの膨大な魔力による防御力は強大だ。しかもこの巨体。直撃を数発喰らった程度では痛くも痒くもない。

 

 巨大な質量と運動エネルギーを伴う魔力の塊が、真上から駆逐艦に突き刺さる。煙突から艦内に突入。そのまま機関を、そして鋼鉄製の船体そのものを貫く。

 

 機関を破壊された駆逐艦は沈黙。数十秒後、眩しいほどの閃光とともに一瞬で爆沈。大音響が海原に響き渡る。

 

 

 

 

 

「いわんこっちゃない」

 

 船長は見た。イカが駆逐艦に突っ込む直前、行きつけの飲み屋の丸テーブルほどもある巨大な目玉で、奴はこちらを見た。目が合った。

 

 奴にとって駆逐艦は邪魔だから排除しただけだ。理由はわからないが、奴の標的はこっちだ。次はこの船が狙われる。

 

 予想通り、きっかり五秒後、みたびイカが飛び上がる。銀色の巨大な凶器が空中に駆け上がる。

 

「総員、何かに掴まれ! 騎士様も……」

 

 警備艇の乗員が犠牲になるのは仕方が無い。しかし、魔導騎士ふたりは客人だ。しかも若い女性だ。彼女達だけでもなんとか逃がしてやらなくては。

 

 だが、船長は言うべきことばを失った。彼の視線の先、ふたりの少女魔導騎士がブリッジの窓から上空に飛んだのだ。

 

 

 

 

 

「ウーィルちゃん先輩。いつまでゲロ吐いてるっすか! あの非常識なイカ、私が一発ぶんなぐるからトドメを刺して欲しいっす」

 

 そんなこと言っても、……うわぁぁぁぁ!

 

 ナティップちゃんがオレの身体を問答無用で掴みあげる。そして、窓から上空に投げ飛ばす。

 

 いーーやーー。

 

 なんという怪力。オレの身体が宙を舞う。落下を始めたイカと猛スピードですれ違う。そして上空、オレは見下ろした。正面からイカに立ち向かおうと自らジャンプするナティップちゃんを。

 

 

 

 

 

 空中。イカの魔物はその巨大な目玉で目標を定めた。十本の脚を動かし姿勢を制御。ヒレ動かし軌道を修正。狙うのは真下。大きな音をたてて水面を走る固いもの。

 

 それが何なのか彼にはわからない。しかし、そこには魔力の持ち主がいる。彼にとって生まれて初めて見るほどの、強大な魔力。

 

 次の瞬間、視界の端、空中に小さな者を捕らえた。水中とは屈折率が違う空気中では、彼の巨大な目玉はハッキリものが見えない。

 

 すれ違ってから気付く。

 

 あれこそが、彼が求める魔力。

 

 すれ違いざま、彼は必死に長い脚を伸ばす。だが、すでに落下を始めている彼の手は届かない。

 

 そのせいで、彼は気づかない。目の前、落下する彼の正面に立ちはだかる別な者に。

 

 

 

 

 警備艇のクルー達、そして周囲に展開する海軍の軍艦に乗る水兵達は、全員が空を見上げていた。彼らのはるか上空、警備艇に向けて一直線に落下する巨大なイカを。警備艇からジャンプ、空中に踊り出した女性魔導騎士を。イカの頭のその先端を、正面から迎え撃つ彼女の正拳を。 

 

「このイカ野郎、どっちを見てるっすか! うりゃぁぁぁぁ!!!!」

 

 ナティップは空中で正拳をたたき込む。全身全霊全魔力を正拳に込め、イカの頭を正面からぶん殴る。

 

 魔力と魔力、運動エネルギーと運動エネルギーのぶつかり合い。そして衝撃。イカの頭、魔力によりダイヤモンドより硬くなったその先端がぐちゃりと潰れる。三十メートルほどもある巨体が上方に吹き飛ばされた。

 

「……やっぱり全力でぶん殴ると気持ちいいっす! あーすっきりした。ざまーみろっす。あとは、ウーィルちゃん先輩に任せたっす」

 

 涼しい顔で警備艇に着地するナティップちゃん。

 

 一方で、水兵たちはみな一様に口をあんぐりあけていた。

 

 ありえない。信じられない。……これが、これが、わが公国が誇る魔導騎士なのか。

 

 

 

 

 

 だが、魔導騎士による巨大モンスター退治はまだ終わっていない。

 

 ナティップの拳により上空に吹き飛ばされたイカ。その更に上空、剣をかまえる少女が空中で待ち構えていた。

 

 うわーーー、本当にあの巨体をぶん殴りやがった……。

 

 空中で眼をむいたウーィルに、イカの巨体が迫る。長い腕が空中でふりまわされる。

 

 ウーィルは眼を回している。平衡感覚はボロボロだ。それでも本能的に剣を握る。空中に鞘を置き去りに、剣を抜く。そして薙ぐ。

 

 スパッ!

 

 イカの巨体を空中で二枚に開く。そのまま回転、そして適当に剣を振る。

 

 スパッ!

 

 もう一回転して、三枚に。さらに一回転で四枚に。五枚。六枚……。

 

 数秒後、集結した艦隊の乗員すべてが食べても食べきれない量の膨大なイカ刺しが、海に落下していった。

 

 

 

 

 

 うひーー。

 

 直後、ウーィルは航空機とすれ違った。目の前の島の基地から発進したと思われる公国海軍の大型双発機。

 

 パイロットと目が合った。ウーィルの眼には、救いの天使に見えた。

 

 き、気持ち悪い。もうダメだ。オレはあんなに揺れる船には帰りたくない。乗せていってくれ。

 

 もともと激しい船酔いの上、ナティップちゃんの馬鹿力による超回転。とんでもない頭痛とめまいと吐き気により、ウーィルは正常な判断力をなくしていた。

 

 その目の前に大きな飛行機が通りかかったのだ。彼女は無意識に手を伸ばす。自分の体重と加速度を制御。翼の上に着地。そこに座り込む。

 

「た、たのむ。このまま、波のない、動かない地面に連れて行ってくれ」

 

 目を丸くしてしているパイロットを見つめ、必死に訴える。通じたかどうかはしらない。確かめる気力もない。そのまま彼女は、翼の上に横になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海軍航空隊のパイロットは冷静だった。そして腕は確かだった。

 

 突如として空中に現れた少女を翼に乗せたまま、彼女の船酔いを悪化させることなく、島の基地に無事着陸してのけたのだ。

 

「あーー、まだ地面が揺れているような気がする……」

 

 半日ぶりに揺れない地面に降り立ったウーィル。たくさんの人間が周囲に集まっているが、それどころではない。

 

 ……さて、と。これからどうしようか?

 

 まだ頭の中と三半規管はグルグル回っているが、それでも面倒くさい事になったことは理解している。

 

 レイラの怒号と始末書は確定として、……まずはどうやって公都まで帰ろうか。

 

 たしかここは、かつてなんとか殿下が住んでいた無人島のはずだ。なのに周囲にはたくさんの建物。たくさんの人々。周辺の海域には海軍の大部隊。我が国だけではなく、王国や皇国など同盟国の船もいた。

 

 きっと海軍の秘密基地か秘密研究所か、そんなところだろう。

 

 渋い顔をしてこちらに向かってくる偉そうな男達は、やっぱり海軍の制服を着ている。銃を構えている奴もいる。

 

 オレ、機密保持のため拘束されちゃうのかなぁ。面倒くさいからみんなぶん殴って逃げだそうかなぁ。でも、あまりトラブルにはしたくないなぁ。……ていうか、よく考えたらこの島も艦隊もオレとナティップちゃんがイカのモンスターから護ってやったようなもじゃねぇか。礼を言われるのならともかく、文句を言われる筋合いなどない、……よね? ないと思う。ないんじゃないかなぁ、たぶん。

 

 いまひとつ強気になれないウーィルの視線の先、滑走路の向こうから駆け寄ってくる少年の姿がうつる。

 

「ウーィル!! どうしてここに……」

 

 おおお、天の助けとはこのことだ。

 

 人垣をかき分け、目の前に現れたメガネの少年。線が細くて耳が長い。ルーカス殿下だ。 

 

 

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