最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
寄宿舎の食堂。三列の長いテーブルに着席した寮生達が視線を向ける先、寮長の三年生が転入生を紹介している。
「えー、食事の前に新しい仲間を紹介しよう。一年生のウイリアム・オレオウ君だ」
生徒達がざわめく。紹介された転入生の少年は、まるで小学生のように小さかった。
ちょっと不自然な銀色の髪。大きなメガネ。そして、背中に背負う不審な棒状の物体。
「ウイルと呼んでくれ。よろしく」
無愛想かつ慇懃無礼。お子様のような体躯、少女のような声に似合わぬ不遜な態度に、特に上級生達から遠慮無く厳しい視線が投げかけられる。
「質問、しつもーーん」
一番に手を上げたのは、お調子者で有名な二年生の少年だ。
「東洋の辺境から公国へようこそミスター・ウイル! ところで背中に背負った長い棒はなんですかぁ? まさかサムライの腹切り用ブレードじゃないですよねぇ」
公国にとって、同じ島国であり立憲君主国である皇国は、貴重な同盟国だ。はるかかなた地球の裏側にある国ではあるが、その文化や歴史はそれなりに公国の人々にも知られている。とはいっても、その知識の一部が歪んだオリエンタリズムにより少々斜め上に偏向しているのは否定できないが。
「これはステッキだ。オレは王国人の血も入っているからな。……田舎者が知らないのも無理はないが、連合王国ではステッキは紳士の嗜みだ。男なら全員が常に持ち歩くものだ」
ウソだぁ。……その場にいる全員が心の中で突っ込んだ。
連合王国も公国の同盟国だ。今や大陸の覇権への野望を隠さなくなった強大な帝国に対抗するため、海洋国家による三国同盟の関係はますます強固になりつつある。距離的に近いこともあり、公国と王国、両国国民の交流は非常に盛んだ。もちろんお互いの文化はよく知られている。王国の学生が校内でステッキなど背負ってるはずがないということも。
だが、お調子者はその突っ込みを声にはできない。他のほとんどの生徒達も同じだ。転入生の小さな身体から発せられる異様な迫力、どす黒く禍々しいオーラに圧倒されてしまったのだ。
食堂でしかめ面のまま黙って食事をとったウイルは、『誰もオレに話しかけるな』オーラを全開のままひとり自室に帰ろうとした。上級生も含め、ほぼすべての生徒がそのオーラを恐れおののき近寄らない中、無理やり捕まえたひとりの女生徒。
メル・オレオ。彼女がウイルを強引に引き留め、談話室に連れ込んだのだ。当然のごとく隣にはレンもいる。ニヤニヤしながら姉妹(?)の会話を眺めている。
「ちょっとおねぇちゃん。どういうことなのよ!」
「おねぇちゃん、って誰だ? オレはウイル・オレオウだ」
「それはもういいから」
「……ちなみに、騎士団から依頼されて皇国大使館がでっち上げた戸籍では、『オレオウ』は『俺王』と表記されているんだよ」
レンが得意気に裏話を暴露する。
「ほぅ。それはオレも知らなかった。皇国語は難しいからな。で、皇国の言葉で『俺王』ってどういう意味なんだ?」
「アイアムキングという意味さ」
「おねぇちゃんにピッタリじゃん。ところで背中のそれ、まさか本当に剣じゃないでしょうね? そんなの背負ったまま学園生活をおくるつもりなの?」
「ねぇウーィル。それ、杖の中に剣が仕込まれている、仕込み杖ってやつだろ?」
「オレは騎士だからな。しかもこれは任務だ。どんな形であれ帯剣するのは当たり前だろう」
「はぁ。お堅い学園がよくそんなもの許したわね。……じゃなくて。仕込み杖も、学生になりすますのも、任務なら仕方ないけど。だけど男の子のふりをするってどういうことなのよ。おねぇちゃん、一応女の子なのよ。男子寮の中に女の子がひとりなんて危ないでしょ!」
「オレに言われてもしらん。しかし男子寮といってもガキばかりだ。心配ないだろ」
「ガキって、いまのウーィルも16歳じゃないのかい。……とはいえ、確かにこの学校の男の子達がウーィルをどうにかできるとは思えないけどね」
「でも、でも、殿下の隣の部屋なんでしょ? あんなんでも一応男の子だし、同じ部屋にガブ君もいるし、他の部屋も男の子ばかりなんだよ」
「これこれメル。『あんなんでも一応男の子』なんて言い方はやめてあげなさい。あんなんでも一応この国の殿下なんだからね。彼は君のお義兄さんになるかもしれないんだよ」
「そ、そ、そ、そうだったわ。おねぇちゃん公王太子妃殿下になるんだから、なおさら気をつけなきゃ。男子寮で何かあったら大声上げるのよ! もし襲われたら斬っちゃっていいわ!!」
「おおおまえら、いったいなにを!」
おなじく談話室。珍しく放課後に公務の予定がないルーカス殿下も、ガブリエルとくつろいでいた。決して盗み聞きするつもりはないのだが、転入生と女子生徒のひそひそ話がいやでも耳に入ってくる。
いま、『あんなんでも一応殿下』と言ってる女生徒の声が聞こえたような気がしたけど、……きっと気のせいだよね。気のせいということにしておこう。
「おいルーカス!」
口をとがらせたガブリエルが声をかけてきた。どうせろくなことじゃないんだろうなぁ。
「あの転入生、ちょっと生意気じゃないか? 入ってきたばかりのくせに、いきなり女の子達と仲良くやりやがって」
やっぱり、ろくでもなかった。
「そんなにメルやレン達と仲良くしたいのなら、君の方から声をかければいいじゃないか」
「メル? レン? ルーカスおまえいつのまに女の子達をファーストネームで呼び捨てにするような仲になってるの?」
しまった。
「あああ、そうかそうか。メル・オレオ嬢はおまえの義理の妹になるかもしれないんだもんなぁ。いいなぁ、殿下。おまえといい、転入生といい、自分達だけ女の子と仲良くして、うらやましいなぁ」
この時代。ルーカスの前世の世界の歴史とくらべれば、文化のレベルはだいたい百年前に相当する。公国は他の列強と比較してかなり開放的なお国柄ではあるが、それでも学生の男女が大っぴらにお付き合いするのは世間体的になかなか難しい。特に、ここはお堅い名門校。新大陸から来た陽気なガブリエルでも、女の子に気楽に声をかけることなどできない相談だ。
「わ、わかったよ、ガブ。月末の公王宮での私の誕生パーティー、君も招待するから。それを口実にだれか女子生徒をエスコートすれば?」
「ほんとか? 剣と魔法の国の王宮でのパーティかぁ。食い物も美味いんだろうなぁ。……じゃなくて、誰を誘おうかなぁ?」
ガブリエルは新大陸の資源豊かな新興列強国『南部諸州連合』の出身だ。彼の実家は、綿花や石油を扱う世界的な大貿易商の御曹司。たしか南北大陸の間の大運河の開発にもかかわってるはず。公国としても重要な取引先だから、もともと招待するつもりだったんだけどね。
「な、なぁルーカス。ミス・メル・オレオを誘ったら、いっしょに来てくれるかなぁ?」
いまだに転入生(男子)との会話に盛り上がっているメルを横目に見ながら、ガブが問う。すがるような目がちょっと可愛い。
もちろんもともとウーィルの妹であるメルにも招待状は送る予定だったんだけど。……でも、きっと、メルはパートナーとして別の人を選ぶんじゃないかなぁ。……とは口にだせなかった。
そんなことよりも。
ルーカスにとっては目の前にもっともっと重要な問題があった。
月蝕。今晩の22時か。なんとかしてウーィルと二人きりにならなきゃ。……どうやって同室のガブリエルをごまかそう。