最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
寄宿舎の自室。ふと時計を見ればもうすぐ22時だ。
「そういえば今日は月食があると新聞に書いてあったな。ここからも見えるかな?」
ガブリエルが窓を開け放つ。明るい満月の光が部屋の中に射し込む。
しまった。ガブをごまかす口実が思いつかないまま、こんな時間になってしまった。
ルーカスは頭を抱える。
うーーん、どうしよう? ……ええい、ここは無理にごまかさず、正面突破でいこう。
「ガブ。さっき誕生日パーティの招待状を送るといったよね。……そのかわりといってはなんだけど、ちょっと頼みがあるんだ」
「なんだ、ルーカス。親友の頼みならなんでもきいてやるぞ」
「ありがとう、ガブ。私、転入生のウイル君とお話をしたいんだ。隣の部屋にいくので、もし消灯に間に合わなかったらうまくごまかしておいて欲しいのだけど」
「は? かまわないが、……転入生との話なら俺も興味あるな。俺もいっしょに隣の部屋行ってもいいか?」
「い、いや、とても重要で個人的なことだから、二人きりにして欲しい。……お願いだ、ガブ」
どこの国の風習なのか知らないが、顔の前で両手を合わせて哀願するルーカス。上目遣いに見上げるハーフエルフの瞳。……こんな顔をされて、断れる人間は世界でもあまりいないだろう。
「わ、わかったよ、親友。存分に話し合ってこい」
いまどき決められた消灯時刻を律儀に守る生徒などほぼいないとはいえ、さすがにこの時間に部屋の外をうろうろする者はいない(門限破り常習犯である一部女子留学生は除く)。
誰もいない廊下、ルーカスは隣の部屋のドアをノックした。
「誰だ?」
「開けてくださいウーィル。ルーカスです」
「……どうしました、殿下?」
躊躇無くドアが開く。そこにいるのはルーカスよりも小さな影。怪訝な顔。そして……。
うわ!
ルーカスはおもわず悲鳴をあげた。
うつむき気味の彼の目に最初に飛び込んできたのは、細くて白くてとにかく華奢な二本の脚。眩しい太ももがギリギリまで丸見えなのは、ウーィルがいつもの寝間着姿、上半身にシャツ一枚で下は下着のみしか着ていないからだ。ついでにメガネもしていない。
「ウウウウウーィル。なんて格好してるの?」
目の前の半裸の少女をあわてて部屋の中に押し込む。ドアを閉める。
「お、おい、ルーカス。いま女の子がいなかったか!」
ドアの外からガブリエルの声が聞こえる。見ていたのか!
「ば、ばかだなぁ、ガブ。ここは男子寮だ。女の子なんているわけないじゃないか!」
「ええ? し、しかし、きわどい格好した小さな女の子が確かに……」
「見間違いだよ見間違い! と、とにかく、私は転入生のウイル君と話があるから、しばらくふたりにしてくれないか! おねがいだ、親友!!」
「そ、そうか。おまえがそこまで言うなら、わかったよ親友」
隣の部屋のドアが閉じる音が聞こえる。……納得してくれたか。ルーカスがホッと胸をなでおろす。
「ウーィル。ダメだよ、そんな格好でドアを開けちゃあ。ここは男子寮なんだから、誰かに見られたらどうするの?」
「シャワー浴びてたんだよ。……自分の部屋でどんな格好しようと勝手だろ?」
憮然とした顔で見上げる少女。目一杯に胸を反らして腰に手をあて、眉を上げてちょっと頬を膨らませたその表情が、まるで年端のいかぬ幼女が精一杯に大人ぶって怒っているようで……。
……か、かわいい。
おもわず口から漏れてしまった。
「なに?」
ますます憮然とする幼女。それがますます可愛らしくて、微笑ましくて、いじらしくて、……ルーカスは目の前の幼女を両わきで持ち上げ、抱きしめてあげたい衝動を抑えきれない。
「ま、まて、殿下。 なんか目つきが変だぞ! なぜ、にじり寄ってくる? その広げた両腕はなんだ? オレをどうするつもりだ? ……そ、そもそも、何のためにこの部屋に来たんだ?」
はっ!
寸前のところで、ルーカスは正気に戻った。
あ、危なかった。つい自制心をなくしてしまうところだった。
「過去形にするな。オレは今も危ないと身の危険を感じているぞ」
いつのまにか仕込み杖を握っているウーィル。いつでも抜けるよう、逆手に構えている。
「うん、もう大丈夫。安心して」
「安心できないなぁ……。で、何の用なんだ、殿下。もうすぐ消灯時間。お子様は寝る時間だぞ」
「大事な話があるのです。私たちとこの世界にとって、とても重大なお話が」
「……以前にもこんな展開があったな。あの時は、巨大青ドラゴンと対峙することになったが」
「うん。根本的にはあの時と同じ話といえるかもしれません。でも今日はあのドラゴンだけじゃない、すべての転生者と守護者にかかわる特別な日。……ああ、もう月食が始まる。ウーィル、お願い。私の手を握ってくれる?」
おずおずと右手を差し出すルーカス殿下。
握ればいいのか?
ウーィルがその手をとる。握る。お互いが指と指を絡める。たしかに体温を感じる。……その瞬間、二人の周囲の世界が反転した。