最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
魔導騎士ウーィルが偽学生生活を満喫(?)している学園。講堂に集合した一年生が車座になり、おもいおもいの姿勢で座っている。
その中心、生徒達に語りかけているひとりの女性。といっても、学園の先生ではない。むしろ外見だけなら生徒と同じくらいの年齢に見える。
お坊ちゃんお嬢ちゃんが集う学園にはまったく似合わない、黒いシャツにマントにブーツ。さらに腰にはサーベルを纏った姿。公国騎士だ。
「えー、一年生の皆さんはそろってるっすか? それでは護身術の実習を始めるっす」
スラリとした長身の女性騎士。凛とした立ち振る舞い。腰まで伸びた緋色の髪を三つ編みにした東洋風の顔立ち。
「まずは自己紹介。私は公国魔導騎士、ナティップ・ソングっす。年はみなさんより二つ上。よろしくね、っす」
彼女は、護身術の実習の非常勤講師として学園に招へいされた、……ということになっている。
神妙な顔をして話を聞く生徒達。その様子をみてナティップはにこやかに微笑む。約一名、不機嫌そうな仏頂面で背中に仕込み杖を背負った不穏な少年(?)とは、あえて目を合わせない。
「さて、ご存じの通り、我が公国は魔物やモンスターの出現率が世界平均よりもずっと多いっす。さらに、みなさんはお坊ちゃまお嬢ちゃま。誘拐犯やテロリストに狙われることもあるかもしれませんっす。護身術を学んでおいて決して損はないっすね」
生徒達の大多数は公国市民であり、公国市民は基本的に『公国騎士』という存在に好意的だ。憧れを抱いていると言ってもいい。ましてや目の前の女性は騎士の中でもエリート中のエリート、魔導騎士だ。若いから、女性だから、東洋からの移民の血が入っているからといって、バカにした態度をとるものはいない。みな、ナティップを真剣に見つめている。
特に女生徒は、その多くが憧れの視線だ。若くしてエリート魔導騎士の地位を実力で勝ち取った女性に対する羨望の眼差し。あるいは、ナティップと同じ女性魔導騎士が、公王太子殿下のお妃候補として報道されているせいもあるかもしれない。
「さて、一般市民に可能な護身術といってもいろいろあるっす。まず手っ取り早いのはナイフや拳銃などの武器ですが、あぶない武器を違法に隠し持つのは学生である皆さんにはお勧めできないっす。魔法も有効な場合がありますが、まず魔力を持って生まれなかった人は魔法が使えませんし、多少魔力を持っていたとしても護身術として使えるレベルで使いこなすのはかなりの訓練が必要でしょう、っす」
一方で、男子生徒達がナティップをみる視線は、ちょっと異なっていた。
ある男子の視線は、一歩あるくたびフワリとしたスカートから覗くナティップの長い脚にむいている。別の男子は、大きく張りのある胸を凝視。そして、マントから覗いた二の腕。くびれた腰。濡れた唇。……ガブリエルなどは、ナティップの全身にかぶりつきだ。
そんな男の子達の不埒な視線をかろやかにいなしつつ、ナティップは講義をつづける。
「そもそも、プロの犯罪者を相手にして戦うのは、素人のお子様では無理っす。たとえただのチンピラや物取りだとしても、理屈の通用しない相手はかえって危険。魔物やモンスターは言わずもがなっす。戦おうなんて思ってはいけないっす。……質問したそうな顔をしている男の子がいるっすね、どうぞ」
ガブリエルを指さす。
「じゃ、じゃあ、悪漢に襲われたら、僕らはどうすればいいんですかぁ?」
一歩間違えば失礼とも思われかねない、なれなれしい態度。しかし、それが不快にならない。それこそが、この少年の才能なのだろう。
にっこりと微笑むナティップ。
「まず一番重要なのは、危険な状況にならないよう気をつけること。君子危うきに……、ってやつっすね。それでも危ない状況になってしまったら、皆さんがやるべきことは……」
やるべきことは?
ごくり。生徒達が生唾を飲み込む。
「大声をあげて助けを求める。そして逃げる!」
は?
拍子抜けした様子の生徒達。公国最強の騎士様に護身術をおしえてもらえると思っていたのに……。あっけにとられたままの者もいる。
「そうがっかりした顔をしないで。それなりに修羅場をかいくぐってきた魔導騎士のひとりとして断言するっすが、これこそが皆さんにとって間違いなく最強の護身術っす! まずはみんなで一緒に、大声をだす練習をしましょうっす。……みなさん、お上品な教育を受けてきたと思いますが、本気の大声だしたことがあるっすか? これが意外と難しいっすよ」
「それではみなさん、声を揃えて! きゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『きゃぁぁ』
「ぜんぜん声が出ていないじゃないっすか! もう一度! ぎゃあああああああああああ!!」
『ぎゃあああああ』
「まだまだ! うぎゃああああああああああ!!」
『うぎゃああああああああ!』
「良くなってきたっすね。ぐわわわわわわぁぁぁぁぁ!!!」
『ぐわゎぁゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
超名門校の講堂の中、悲鳴というより断末魔のような絶叫に満たされた中で、ナティップの講義は続く