最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
「な、なぁ、これ、護身術の実習だったよな?」
講堂にあつまった生徒達。彼らがあ然とした表情で見つめる先では、エリート学園の授業とはとても思えぬ光景が繰り広げられていた。
講堂の真ん中、実習講師として招へいされたはずの女性魔導騎士と転入してきたばかりの男子生徒のふたりが、実習そっちのけで対峙しているのだ。
ひゅん。ひゅん。
準備運動のつもりか。スラリとした長身の女性魔導騎士が空中にむけて拳を、そして蹴りを繰り出す。生徒達への自己紹介の際、自分は騎士だが剣よりも拳が得意だと笑顔で語った彼女の言葉に偽りなく、その速度は人間離れ、いや現実離れしていた。
生徒達のほとんどは、彼女の動きを目で追うことすらできない。拳や蹴りが見えるわけがない。だが、蹴りのたびに講堂に反響するかん高い風斬り音を聴き、あるいは正拳突きから少し遅れて天井を揺らす衝撃波を実感すれば、素人だってわかる。その一発一発の凄まじい威力が。魔力によりブーストされた彼女の身体能力のやばさが。そして、公国魔導騎士という存在の異常さが。
しかし、その凄まじい威圧を正面から受けている相手は、まったく動じていない。転入してきたばかりの同級生、ウイル・俺王だ。
「今の、蹴り、……だよな。魔導騎士様の蹴りも凄いが、どうしてあれを目の前にしてあんなに落ち着いていられる? あいつ、本当にサムライなのか?」
ガブリエルがみまもる視線の先、同級生の中でも一際小柄な転入生の頭は、正面に立つ騎士の胸くらいしかない。その彼に向けて放たれる、凄まじい速度の蹴り、拳。だが、そのすべてを眼前にしながら、まるで少女のように微笑む転入生。その異様な光景に、ガブリエルの背中に冷たい汗が流れ落ちる。
「あーーあ。こうなるんじゃないかなぁ、と危惧していた通りになってしまったか」
講堂の入り口付近。生徒達からは見えないよう物陰から実習(?)を見守るもうひとりの魔導騎士がいた。生徒の誰よりも大柄。全身銀色の毛並み。オオカミ族のジェイボスだ。
ジェイボスは、講堂の真ん中でどす黒いオーラを放射しながら静かに対峙するふたりの同僚女性騎士を眺め、ため息をつく。
「だからナティップに講師役なんて無理だって隊長に言ったのに。……あまり俺は目立ちたくなかったが、一応お目付役ってことになってるから、止めるべきなんだろうなぁ」
やれやれと言ったていで、ふたりを止めようと一歩踏み出すジェイボス。そして、とまる。
「ん? ……なんだ?」
ジェイボスは窓から空を見あげる。頭の上の耳を空に向ける。全身の神経を上空に向け集中する。そして、舌打ち。
「また来たのかよ」
「さて、私は準備オッケーっすよ。そろそろ始めましょう。……本気出していいっすか? ウーィルちゃん先輩」
騎士がつぶやく。それを聴いてしまった生徒の大部分は、訳がわからず呆気にとられる。
今までの準備運動。あれで本気ではなかったというのか!
本来ならば「なぜ騎士様が転入生に対してそれほど気を使うのか」と疑問をいだくべきであろう。しかし、彼らにそんな余裕はなかった。「魔導騎士の本気」……その単語を耳にしては、目をそらすことができるはずがない。
そして本気の魔導騎士と対峙している当人は、……笑っていた。
ふむ。これは一応護身術の実習だよな。悪人役の魔導騎士様を、たまたま木刀を持っていた善良な学生であるオレが撃退するという筋書きだよな。ならば、そろそろ護身術を実演してやらないと、授業にならないってわけだ。へへへ、しかたないよなぁ。
ウーィルは下に垂らしていた木刀を構える。ゆっくりと振り上げる。上段。剣の下には、眩しいほどの笑顔。
「そちらこそ準備はいいのかな、騎士様。……いくぞ」
ウーィルが前に踏み込む。残像を残しつつ。神速。木刀が空間を切り裂いた。
女子生徒達が悲鳴をあげる。彼女達には、ウーィルの剣により女性騎士が縦に両断されたように見えたのだ。
しかし次の一瞬、生徒達の目に飛び込むのは驚くべき光景。僅かに身体を反らしてギリギリで剣を避けた騎士が、逆に一歩踏み込んだのだ。そして、至近距離から転入生の顔に向けて正拳をたたき込む。
剣を振り下ろしたウーィルの視界、衝撃波を引きずりながら凄まじい速度の拳が迫る。身体を縮め、かろうじて下に逃げる。
ぶわっ
かすめた拳の風圧により髪の毛が舞い上がる。おかまいなく、振り下ろした剣を床ギリギリで止める。ウーィルの上、見上げれば腕を伸ばしきった女性騎士の胸。密着した体勢。その無防備な脇腹に向けて、今度は剣を振り上げる。
ひっ!
またしても悲鳴。
だが、それもあたらない。騎士が真上にジャンプ。跳んで剣を避けたのだ。
渾身のストレートを放った直後の体勢から、どうすれば真上に跳べる? それなりに心得のあるガブリエルがポカンと口をあけている。しかも、小柄とはいえ転入生の頭の上を飛び越え、そのまま一回転するなんて。
ほんの一瞬の攻防。クラスメイト全員が息をするのも忘れて見守る。レンとジュリーニョ、白の転生者と金の転生者も例外ではない。
「おいおいおい、あの女性騎士はただの人間だよな。獣人ですらないよな。黒の守護者が時空の法則を使わず手加減しているのはわかるが、それでもあの動きについていけるなんて、……あの騎士、人間の女のくせになかなかやるじゃないか。かっこいいぞ」
ジュリーはあきらかに興奮している。隣のレンの胸元を掴みながら、早口でまくしたてる。
「そ、そんなに興奮しないでくれたまえ。……この国の魔導騎士は確かにちょっと普通じゃないから、君が見とれて憧れるのもわからないでもないけどね」
「あ、あ、あ、あこがれるわけないだろう。私が人間なんかに」