最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました   作:koshikoshikoshi

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美少女騎士(中身はおっさん)と護身術の実習 その05

 

 ……すげぇな、ナティップちゃん。

 

 ウーィル必殺の初撃をかわし、空中で華麗に一回転。音も無く着地したナティップ。その華麗な身のこなしを目の当たりにしたウーィルが、口の中だけでつぶやく。

 

 オレがこの姿になる前、ウィルソンの頃なら良い勝負だったかもな。いや、勝負が長引けばスタミナで負けていた可能性すらあるぞ。

 

「さすがっすねぇ、ウーィルちゃん先輩。……そういえばわたし、ウーィルちゃん先輩の本気の本気ってのを見たことないんっす」

 

 自分の間合いの距離、正面からはなった渾身の正拳が難なくかわされ、さらに剣で反撃までされたナティップが、嬉しそうに笑う。

 

 あれ、そうだっけ? この姿になってからコンビ組んで仕事したことなかったか。

 

「ウーィルちゃん先輩ならばいいっすよ、私のすべてを見せてあげても。だから、ねぇ。……見せて? あなたの本当の強さを」

 

 ぞくりとした。

 

 妖しく微笑みながら唇を舐めるナティップちゃん。その姿は、妖艶だった。もの欲しげで、そして蠱惑的だった。自他共に認める中身おっさんのウーィルをして、おもわず背筋がゾクゾクするほど色っぽかった。

 

 この戦闘狂め!

 

 そして気付く。ここが学校だということに。思春期の青少年達が見守っているということに。

 

 あああ、いかん。いかんぞ。ナティップちゃんのこの顔は、ガキ共に見せてはいかんものだ。男の子達には目の毒だ。もちろんメルもだめだ。

 

 ウーィルの頭が一気に冷めた。今のいままでどこかへ行っていた『おっさんとしての良識』が突然よみがえる。

 

 どうする? 守護者としての力を使ってしまえばいかにナティップちゃんが強くても勝てるだろう。……たぶん。しかし、生徒達の前で魔導騎士を倒してしまうわけにはいかんだろう。かといって、露骨に手加減するのもだめだ。どうやってこの場を納めりゃいい?

 

 

 

 

 

 

 その時だ。講堂の外、あきらかに至近距離から爆音が響いた。

 

 エンジン音? 飛行機か? どうしてこんなところを……。息をのんで勝負の行方を見守っていた生徒達も、さすがに異変に気付く。

 

 学園は公都郊外にある。海軍の航空基地からは距離がある。通常の訓練でも、飛行機がこんなところを飛ぶことはない。

 

 バリバリバリバリ!

 

 今のはただのエンジン音じゃない。機関砲だぞ!

 

「ナティップ!」

 

 講堂に怒号が響く。驚いた生徒達が振り向く。そこにはもうひとりの魔導騎士がいた。獣人だ。

 

「ジェイボス先輩、いまの何っすか?」

 

「小型ドラゴンだ。海軍の戦闘機に追われて地上まで降りてきやがった」

 

「ドラゴン? 何頭っすか?」

 

「一頭だけだ。おまえも外に出ろ! 俺たち二人でやるぞ!!」

 

 目の前のウーィルとの勝負を放り投げ、ナティップがダッシュ。走りながら、同じく駆け出したウーィルに向けて言い放つ。

 

「『生徒さん』はここに隠れていて欲しいっす! ドラゴンは魔導騎士に任せて、他の生徒さん達を頼むっす!」

 

 そう言われてしまうと、ウーィルは立ち止まるしかない。袖を軽く引っ張られ、振り向くと殿下だ。

 

「試験稼働中の早期警戒レーダー網がさっそく役に立ったみたいだね。……小型ドラゴンなら、また青の守護者の手下だろう。金の転生者を偵察に来たんじゃないかな?」

 

 そ、そうか。まぁ、小型ドラゴンが一頭だけなら、あのふたりで問題ないな。

 

「……それにしても動きが早いね、青の彼は。もしかしたら、第五の転生者が十五歳になる前に、金の転生者を仲間に引き入れて一気に勝負をしかけてくるつもりなのかもしれない」

 

 殿下がつぶやく。その深刻そうな顔をみて、ウーィルの表情も曇る。そして見つめる。視線の先は同級生のジュリーニョ・カトーレ。金の転生者だ。

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい。あれ、あの騎士。あれは獣人だよな」

 

 だが、深刻な顔した殿下とウーィルに見つめられる当の本人は、そんな自覚はまったくなかった。講堂に現れたもう一人の魔導騎士の姿に目を見開き、隣のレンを相手にまくし立てている。

 

「ん? 彼はオオカミ族で魔導騎士だ。騎士団一の剛剣使いとかで、公都では結構有名人だよ。知らなかったのかい?」

 

「わ、わたしがお父様に拾われてこの国に連れてこられたのは五年前。それ以来、礼儀作法や学問は厳しく躾けられてきたが、屋敷と学園以外はほとんど経験が無い。友達もいない。世俗についてはほとんど学ぶ機会はなかった。……この国では、まさか本当に獣人が騎士になれるのか? 他の人々はイヤがらないのか?」

 

「ああ、なるほど。この国でも獣人への差別がないとは決して言えないが、でも列強国の中ではかなり開放的というか、おおらかというか、いいかげんというか、それほど厳格なものではないみたいだね。最近は大陸諸国から獣人やエルフの亡命者も増えているそうだよ。そもそも公王太子殿下が純粋な人類じゃないし」

 

 したり顔でレンが解説。それを聴いたジュリーが黙り込んだ。

 

 

 

 

 

 ズシーン!

 

 ふたたび講堂に轟音が鳴り響いた。ドラゴンが学園の運動場に墜落したのだ。

 

「凄ぇ! 空中でドラゴンの正面から正拳をたたき込んで撃墜してしまうなんて!」

 

「その前に、女性騎士様を腕力だけで空中にぶん投げた、あの獣人の騎士様も凄いぞ!」

 

 窓から外を覗いていたのだろう。男子生徒達の叫び声が講堂に響く。生徒達から自然と拍手がわきおこる。

 

 

 

 

 

「ふむ、もう片付いたか。さすが魔導騎士だね。あのドラゴンが君の偵察だとすると、青髪のスカした野郎はおそらくすぐに次を送り込んでくるよ。対応を考えておいた方がいいな、……どうしたんだい? 何か考えごとかい? ジュリー」

 

「なぁ、この国の魔導騎士は実力主義なんだろ? さっきのオオカミ族も実力で成り上がったのか? この国では本当にそんなことが可能なのか?」

 

「ん? 君も魔導騎士になりたいのかい?」

 

「ちがう! ちがう! 私が言いたいのはそんなことじゃない。……私は、死にたくなかった。泥水をすすって生きる地獄の中、そんな理不尽な世界を私の手で終わらせるため、何としてでも15歳まで生き延びたかった。そのために、偽善好きな金持ち老人が気まぐれに差し出した救いの手を受け入れたんだ。見栄と自己満足のためだけに形だけの養女として飼われる立場を甘受してきたんだ。転生者としての矜持も、現世のオオカミ族として誇りも、すべて捨てたんだ。なのに……」

 

 ふむ。

 

 ジュリーの独白(?)を聞いて、レンは首を捻る。何を言っているのか。脈絡というものがない。おそらく本人も、自分が何を言いたいのかわかっていないのだ。

 

 面倒くさい娘だな。ある意味、殿下と似ているかもしれない。しかし、だからこそ放っておけない、か。

 

「………そうだね、ジュリー。君のお父様、カトーレ卿のことを、ただの偽善家で好事家で見栄っ張り老人だという人もいる。暗黒大陸で拾った獣人の娘を気まぐれでお飾りの養女にしたのも、見栄のためだと言う人もいる。世間のウケ狙い、お涙頂戴で勲章を狙っているという話もある。ボクには、それが真実かどうかわからない」

 

 ジュリーはうつむいた。そしてなにも言わない。しかし、わずかに眉間に皺を寄せ頬を膨らませたことに、レンは気付いた。

 

 ふむ、やっぱりね。そういうことか。

 

「ははは、すまない。言い過ぎた。でも、……これまではともかく、今となっては君は『お父様』の悪評なんて信じてはいないのだろう? いや、たとえ偽善だとしてもかまわないじゃないか。カトーレ卿が、獣人だって騎士になれるこの国に君を連れてきたこと、そのおかげでこの学園でボクみたいのと友達になれたことは事実なんだから」

 

 数分間の沈黙。言うべき言葉を必死に探しているジュリーが口を開く前に、レンがたたみ掛ける。

 

「ちなみに、さっきの獣人の魔導騎士。この国のスラムで野垂れ死ぬ寸前だったオオカミ族の子供を拾って騎士にまで育てたのは、おっさんだった頃のウーィルだ。……この世界はたしかに禄でもないけれど、そんな根っからのお人好しもいるんだよ。カトーレ卿を悪く言われて怒るということは、君だって内心ではわかっているんだろ?」

 

「……無駄だぞ」

 

 数分間の沈黙の後、やっとのことでジュリーが口を開いた。

 

「何を言われたって、今さらわたしはこの世界を存続させようなんて思わないからな」 

 

「はははは。ジュリー、君も転生者だ。魂は見た目通りの年齢じゃないのだろう? せっかくの二度目の人生なんだから、もっと気楽に生きようじゃないか」

 

「無駄だって! わたしは『この世界も捨てたもんじゃない』なんて絶対に思わないぞ! 思うもんか!!」

 

 はいはい。

 

 レンが笑う。頬を膨らませたジュリーも、いつの間にか笑っていた。

 

 

 

 

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