最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
航空母艦のデッキの上、スピーカーからカウントダウンがはじまった。あと10分ほどで実験とやらがはじまるらしい。
デッキにいる全員、いやこの海域にいる艦隊すべてに緊張がはしる。空を舞う何機もの飛行機が、実験場の島上空から離れ始める。
ウーィルにもサングラスが手渡される。全員が、前方の水平線を見つめている。殿下に握られた手に力がこもる。震え始める。
「ここから30キロほど先、連合王国領の無人島の中央に建設された高さ50メートルほどの櫓の上に、新型兵器の二号弾が設置されています。私たちはこの世界の人類史上初めての光景を目撃することになるでしょう」
ルーカス殿下がつぶやく。ウーィル以外には決して聞こえない小声で。
「二号弾? 初実験ではないのですか?」
「初号弾は皇国で建造され、いま地球の裏側、皇国領の無人島に設置されています。本日の実験は、皇国領での初号弾の起爆と、ここ連合王国領での二号弾の起爆が、同時に行われる予定なのです」
なんでそんな面倒くさいことを。……どちらかが失敗してもいいように、ってことか?
「たしかに、それも理由のひとつではあります。初号弾の仕組みは単純でほぼ確実に起爆することがわかっていますが、二号弾以降は起爆方式が根本的に改良されており、こちらの成功率は90%ほどと見積もられています」
ふーん。人類の歴史上前例のない新兵器なのに、そこまでわかってるのか。さすが殿下だ。
「大丈夫、きっと成功しますよ。……そして、あのくそったれのドラゴンを倒せる力となってくれるでしょう」
ウーィルは、それほど深く考えて言ったわけではない。新兵器というのが『威力が強い爆弾』なのだろうということはわかるが、なぜ殿下がここまで恐れるのかウーィルにはいまひとつ理解できていない。それでも、目の前の若者を励ましたかったのだ。
しかし、殿下は目をそらす。
「そうですね。いかに大型ドラゴンでも、それがたとえ青の守護者であっても、アレの直撃をうけて生きていられるとは思えません。……でも、わざわざ二カ所で同時に起爆するのは、実はドラゴンとは関係ありません。完全に政治の都合なんです」
政治?
「公国、連合王国、皇国の同盟関係が確固たるものであることを世界中に示すため。そして、……三国同盟は地球上のどこであろうとも一撃で破壊する力を持つに至った、と宣言するためです」
宣言? 誰に対して? ……決まっている。同じ人類だ。
「で、でも、殿下が計画を先導したんでしょ?」
「たしかに、プロジェクトの立ち上げを主導したのは我が公国です。ですから、今日の起爆実験でも、王国と皇国の両国は最大限われわれを尊重し、たててくれています」
「ならば、公国の、……殿下の力で、人間に対して使用させなきゃいい」
「……世界中のだれからみても、実質的に計画を進めたのは連合王国と皇国、ふたつの大国です。資金的にも技術的にも、公国だけでは計画は進まなかった。同盟三国あわせてすでに六号弾まで完成しているアレの使い方に、今後わが公国はあまり口をだせないでしょう」
殿下の表情がますます曇る。手の震えがとまらない。
(それでも私は、私は……)
まるでうわごとのように、殿下が口の中で何度も繰り返す。
オレは、なにを言うべきなのかわからない。
ん?
その場にそぐわぬ異質な魔力を感じたウーィルが振り向いたのは、ブルーノと同時だった。
……ドラゴン?
艦隊のはるか後方、とんでもない高空。どこまでも青い空の中、その空よりも青い点が複数飛んでいる。あまりにも遠すぎて、さすがのウーィルにもよく見えない。大型じゃない。小型ドラゴンが……五頭か?
カウントダウンが一時停止。空襲警報のサイレンに切り替わる。
「殿下。小型ドラゴンがこの海域に向かっています。艦内へ避難してください」
水兵がデッキの上の要人達の避難誘導を始める。戦闘機の編隊が迎撃のため必死に上昇していくのが見える。巡洋艦や駆逐艦から花火のような対空砲火を打ち上がる。不安そうな顔のルーカスが、ウーィルを見つめる。
「……問題ないと思いますよ、殿下。我々を攻撃するつもりなら高度が高すぎるし、そもそも小型ドラゴン数頭でこの艦隊をどうにかできるとは思えない」
ウーィルと共にルーカスが見上げた視線の先、一頭のドラゴンが対空砲火の直撃をうけ空中でバラバラになった。
「ルーカス殿下。あれが殿下のアイディアを元に我が国が開発したレーダーと近接信管の威力です。我が王国海軍の卓越した防空能力は、共通の敵、帝国の脅威に対抗する大きな力となるでしょう」
王国の軍人が得意気に殿下に語る。満面の笑顔をむけながら。
つづいて、ようやく高度をあげドラゴンに追いついた戦闘機の編隊が、機関砲で一頭を撃墜。
「あの戦闘機は我が海軍の新型ですな。殿下の仲介による同盟国間の技術協力によりようやく完成した過給器つきエンジンのおかげで、あの高度でも迎撃が可能になりました。実戦配備に手間取りましたが、今日に間に合ってよかった。もちろん、あの新型機は公国にも供与させていただきますよ」
誇らしげなこの人は皇国の軍人だ。……そういえば、あの戦闘機、皇国の国旗がついている。わざわざ地球の裏側から新型戦闘機を運んできたのか。
……近いうちに、人間にとってドラゴンなんて脅威じゃなくなるかもしれないなぁ。