最強おっさん騎士、目覚めたら美少女騎士になっていました 作:koshikoshikoshi
とりあえずこの艦は安全ということで、要人達の艦内への避難は一旦中止となった。みな、空の彼方を見上げ、残り三頭のドラゴンを眺めている。
「殿下。あれはまたしても青ドラゴンですね」
「……うん。きっと青の彼が実験を偵察しに来たんだ」
戦闘機と対空砲火に追われながらも、ドラゴン達は撤退しようとはしない。実験場の島を遠巻きに、旋回するように飛び続ける。
あのスカした野郎、どこまでも目障りな奴だな。
「なぁ、ブルーノ。あれ、墜とせるか?」
のこり数頭のドラゴン、ここからではほとんど豆粒にしか見えない。
魔導騎士ブルーノとウーィルの任務は、あくまでも大臣と殿下の護衛だ。だから、こちらを攻撃する気のない小型ドラゴンなど無理して撃ち落としてやる義理などないのだが。……ないのだが、同盟国の連中にだけ良い格好させておけないよなぁ。
「さすがにちょっと遠すぎて……」
そうか、残念。
「一網打尽は無理かと。……でも、一頭くらいならなんとかなると思いますよ」
我が公国最強の呼び声高い魔法使いがウインク。そして、自分の護衛対象に視線で尋ねる。国防大臣がうなずく。それを確認したブルーノが空に杖を掲げる。低い声で呪文を唱えはじめる。
おおお!
水兵達から歓声があがった。
ブルーノの杖が、空中に金色の文字をなぞる。彼の頭の上、巨大な魔法陣が描かれる。強烈な太陽の下、金色の粒子を伴う円環が回転を始める。
デッキの上に人々は気付いた。周囲の気温が急激に下がっている。赤道直下の濃密な大気が、白い霧に覆われる。キラキラ、キラキラ。航空母艦の飛行甲板のうえ、小さな氷の粒が吹雪となって舞う。
いつのまにか、魔法陣からそそり立つように何本もの氷の槍が形成されている。眩しいほどの太陽に光を反射して白く輝く氷の槍の束。
そして、杖が振り下ろされる。ブルーノが叫ぶ。刹那、氷の槍が飛ぶ。凄まじい速度で射出。最後尾のドラゴンに迫る。
おおおおお、すげぇなブルーノ。冷気のブレスを操る青ドラゴンを、逆に氷の槍で串刺しにして撃ち落としたぞ。
公国の水兵達は大歓声。王国と皇国の連中も驚いているようだ。
いまや公国以外では魔法使いの数は激減しているそうだから、たしかにこんな大技めずらしいだろうなぁ。
……オレも、魔導騎士として一発いいところを見せてやるか。
ウーィルは背負っていた剣を下ろす。さりげなく、ルーカスが鞘をささえる。
おやおやウーィル、騎士としてそれはどうなんです?
自分がつくった魔法陣がユラユラと消えつつあるその下、剣を抜いた同僚のウーィルの姿を見ながら、ブルーノはおもわず苦笑した。
仮にも騎士が、自分の主君に鞘を持たせて平気な顔しているというはさすがに、……といっても、二人の連携があまりにも自然なせいか、誰も違和感を抱いていないようだが。それどころか、子供の騎士と従者ごっこのようで、かえって微笑ましい光景に見えなくもないのが、なんともこの二人らしい。
長い鞘を抱えたルーカスを背中に護るように、ウーィルは構える。剣を振り上げる。
周囲の人々が固唾を呑み、食い入るように美少女魔導騎士を見つめる。
いったいなにをするつもりだ? ……まさか、剣で? こんなに遠くから?
ふふふふ。公国最強の魔導騎士、ウーィルの力を目の当たりにした同盟国のみなさんがどんな顔をするのか、楽しみですね。
いくぞ!
……すかっ。
ウーィルは剣を振り下ろした。それは、見守る人々が想像していたような剛剣ではなく。むしろ、単なる気が抜けた素振りにしか見えない。
だが、……次の瞬間、人々は目を見張る。ウーィルが振るった剣の軌道に沿い、黒い影が走ったのだ。それは空間の裂け目。暗黒の断層。
それがドラゴン目がけて飛ぶ。空間を切り裂きながら光速で迫る。
すぱっ!
一頭のドラゴンが縦に両断された。
遙か彼方、対空砲火も届かない空の向こう。二枚の開きにされたドラゴンが、音も無く海面に墜ちていく。
「やれやれ、とんだ邪魔がはいりましたが。……ドラゴンは残り一頭。戦闘機があれを撃墜次第、安全を確認。実験準備をやりなおしましょう」
デッキの上、常識を超越した技を披露した魔導騎士の剣に対する拍手喝采は鳴り止まない。それを制して、国防大臣が声をかける。
大臣がちょっと得意顔なのは、自国の騎士の力を同盟国に見せつけることができたからだろう。じっさい、ウーィルの剣を目の当たりにした同盟国の要人達は、国防大臣が声をかけるまでただただポカンと口を開いたままだった。
しかし、そんな少々緩んだ雰囲気は、めずらしくきつい口調のルーカス殿下によって締め直された。
「……いえ、大臣。もうあのドラゴンは無視して結構です。いますぐ戦闘機を下がらせて、このままカウントダウンを再開してください」
カウントダウン再開。生き残ったドラゴンは、ゆっくりと実験場の珊瑚礁に近づいていく。
「殿下。奴は実験とやらを偵察にきたんでしょ? わざわざ見せちゃっていいんですかね? なんなら、残り一頭も私が飛んでいって斬っちゃいましょうか?」
「ありがとうございます、ウーィル。でも、のこり一頭では、実験の脅威にはなり得ません。……ならば見せてやりましょう。この世界の人類が、ついに転生者や守護者にも対抗できる力をもったということを」
10、 9、 8、
スピーカーから歪んだ声。カウントダウンが続く。
(かつて青の転生者は、人は自ら滅びの道を歩んでいると言った。それは本当かもしれない。いや、他ならぬ私こそが、それを推し進めている張本人といえるだろう)
何度も何度も繰り返してきた自問自答。ルーカスは激しく頭を振る。強制的に思考を中断する。
(確かにアレは人の自滅につながる力かもしれない。それでも、自らの選択による自滅の方が、異世界から来た『転生者』により滅ぼされるより百倍ましだ。私はそう信じる。……信じたい)
7, 6, 5、
おっかない顔をしているなぁ。
ウーィルは、隣のルーカスの顔を見つめる。このハーフエルフの少年が、こんな顔をすることは実に珍しい。
「……殿下。わすれちゃいましたか?」
中身おっさんの少女騎士は、我慢できずに口をひらいた。
えっ? な、なんのことですか、ウーィル?
「言ったでしょ、オレにも責任をわけてくれって。そりゃあなたはいろいろと重大な責任を背負っているんでしょうけど、全部一人で背負う必要ないんです。あなたの目の前に居るこの私は、見た目こそこんな小さな少女ですが、中身は図太いおっさんです。そしてなにより、オレはあなたの騎士なんです。あなた一人くらいなら、平気で支えられますよ」
4, 3、
「……ウーィル」
ルーカスは前を向いたまま、再びウーィルの手を握る力を込める。ウーィルは握りかえすだけではなく、指を絡めてやる。殿下の冷や汗を感じる。お互いの体温を交換する。
2, 1、 起爆!
一瞬の沈黙。
カッ!
水平線の向こう、この世界の誰も見たことのない閃光が出現した。