ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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お久しぶりでございます!
gobrinです!

遅れてしまってすみませんでした!
課題とか課題とか課題とか課題とかで死にそうになってました!
途中で書くのを止める、なんてことは絶対にしませんので気長に待っていてくださいお願いします!

そして、ぶっちゃけ今回あまり進んでいません!すみません!

では、どうぞ!



第二十話

 

次の日、光は東京エリアの至る所を駆けずり回っていた。

傍に舞はいない。舞もまた、別の場所で走り回っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

あの後、立ち上がれるようになった光は、駐車場の入り口まで歩いて行った。

 

そこでは、蓮太郎が膝をついて項垂れていた。

 

「里見先輩……?」

 

「光……延珠が、延珠が……」

 

蓮太郎は虚ろな瞳で、光に縋り付くようにして呟いた。

光は蓮太郎の肩に手を置き、必死に話しかける。

 

「里見先輩、しっかりしてください!あなたがそんな調子でどうするんですか!?まだ延珠ちゃんがやられてしまったと決まったわけではないでしょう!!」

 

「でも、でも……延珠のスマートフォンに掛けたら、延珠以外の奴が出て……それはきっと、ティナで……」

 

「――ッ。……だとしても!まだ、延珠ちゃんが殺されてしまったとは限らない!しっかりしろ、里見蓮太郎!!」

 

「…………」

 

「……クソッ」

 

光の発破にも、蓮太郎は項垂れるだけだった。

光は悪態をついて、夜のビル街に目をやった。

 

(延珠ちゃんのスマートフォンにティナが出たのだとすれば、少なくとも延珠ちゃんが戦闘不能にされているのは間違いない。問題は、殺されているかどうかだけど……ティナのあの迷いを、信じるしかない。――っと、そうだ)

 

光は自身の服の袖に付いている小型マイクのボタンを押し込む。

すると、どこかに電話がかかり……繋がった。

 

『――――もしもし、俺だ』

 

「あ、お父さん。ボクです。延珠ちゃんがティナに敗北したみたい。殺されちゃってる可能性もないわけじゃないけど、ボクはその可能性は低いと思ってる。だから、どんな手段を使ってでもいいから探してくれないかな?」

 

蓮太郎に聞こえないような小さな声音で、光は樹に考えを伝える。

それを受けた樹は――。

 

『あいよ、わかった。監視カメラによる捜索が主になると思うが……取り敢えず、調べておいてみる』

 

「ありがとう、本当に助かります。じゃあ、お願いね。ボクは舞を待ってるから」

 

『おう』

 

短い通信を終え、光は再度外の風景に目を移す。

舞が出発してからもある程度の時間は経ったが……。

 

と、そこで、何者かが飛び降りてきた。

 

「ぐすっ、えっくぅ……」

 

涙を流している舞だった。

 

「舞、どうしたの?泣かないで、ほら……」

 

舞が泣いている理由に見当はつくが、一応光は確認のために訊ねる。光が涙を拭きとってやると、舞は涙声で話し始めた。

 

「だって、だって……延珠も犯人も、見つけられなくて……」

 

「……そっか。でも、言いつけ通り戻ってきたね。偉いぞ」

 

「ううっ……ぐす……」

 

光は舞の頭を撫でて慰めながら、聖天子に話しかける。

 

「聖天子様、今日の会談は中止です。今日、これ以上狙撃されることは恐らくないと思いますが、念のため僕が引き続き護衛に付きます。里見先輩は……どうにかして、送り届けましょう」

 

「……わかりました。里見さんを送る車を手配します」

 

「すみません、よろしくお願いします」

 

聖天子が手配のために車の方に戻っていく。光はそれを見送って、蓮太郎に視線を向けた。

 

(延珠ちゃんは、ティナに連れ去られたと見てまず間違いない。舞がここまで動揺している理由は、きっと二人がいなかったからだけじゃない。何か、ショックな光景を見てしまったんだ。そして延珠ちゃんのことを心配して焦燥に駆られるけど、ボクの言いつけがあって戻って来なきゃいけない状況に陥って、感情がパンクしちゃったんだと思う。舞を泣かせた原因の半分以上はボクだろうね)

 

でも、と光は思う。

 

(――――舞まで失うわけにはいかなかった。舞なら単身でもティナに遅れを取ることはないと思うけど、相手の情報なしに勝てるかと言われれば微妙なところだし……この時間帯は、ティナの時間だ。危険を冒して舞が倒されたりしたら意味がない)

 

光は自身の自分勝手な行動に尤もらしい理由をつけて正当化する。光にも、あまり褒められないことをしている自覚はある。

 

(それにしても、里見先輩、大丈夫かな……ティナには、延珠を殺す気はないんだと思う。連れ去ったってことは、何らかの処置をしたいんだ、恐らくだけど。殺す気なら、戦闘不能にしたその場所で、頭を踏みつぶせばいいんだから。……でも、これはあくまでもただの推測。不確定な情報を里見先輩に伝えるわけにもいかない)

 

光が色々と考えていると、イヤホンに着信が入る。

 

「もしもし」

 

『光か、俺だ』

 

樹が掛け直してきた。

 

「どうしたの?」

 

『悪い、何か細工がされていたようでな……監視カメラが作動していなかった。ティナの姿も、ティナがどちらに延珠を連れ去ったのかもわからない』

 

「そうか……仕方ない、虱潰しに探し回るしかないね」

 

『俺は引き続き調べてみる。無事に帰ってこいよ』

 

「うん、その点は大丈夫。舞も戻ってきたよ。これから、聖天子様を聖居に送り届けてから帰ります」

 

『了解』

 

通信が切れる。

聖天子が光の下へやってきた。

 

「光さん、車の手配は完了しました。そろそろ着くと思います」

 

「ありがとうございます。あっと、そうだ。警察に連絡しないと……」

 

光が携帯を取り出そうとすると、聖天子がそれを止めた。

 

「警察には私から連絡しておきました」

 

「あ、そうでしたか。何から何まですみません……」

 

「いえ、気にしないでください。私には、これくらいしかできることがありませんから……」

 

聖天子が沈鬱な表情で言い終わるのと同時に、手配したという車が到着した。

その車に蓮太郎を乗せ、蓮太郎の家に送り届けるようにお願いする。

運転手は快く頷き、車を発進させた。

 

「では、聖天子様。僕たちも、行きましょう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして光は聖天子を聖居まで無事に送り届けたあと帰宅し、樹から進展がなかったことを知らされる。

そして今日、樹から監視カメラの作動を妨害されていた範囲を聞いて、舞とともに延珠を探し回っているのだ。

 

舞には円状になっていた監視カメラが作動していなかった範囲内の捜索を頼み、光はその外側を手当たり次第に探していた。

樹は、家で警察の無線、警察への通報を盗聴しながら外側に存在する監視カメラの映像を調べていた。

まあ、ビルの屋上から屋上へと移動されていた場合、監視カメラはほとんど意味をなさないのだが。

 

 

―――一日目は、収穫なしに終わった。

 

 

 

 

 

 

二日目。

そろそろ舞が範囲内での人を隠せそうな所は全て調べ終わるという時に、樹から光へ連絡が行った。

 

『光、見つけた!』

 

「お父さん、本当に!?」

 

『ああ!廃墟群がある方向に向かうティナが、監視カメラに映っていた!だが、どの廃墟までかはわからん!』

 

樹が、どこの廃墟群なのかを光に伝える。

その廃墟群の監視カメラは全て死んでいるので、無理もないことだった。

 

「場所を絞り込めただけでも僥倖だ!お父さん、舞は家に戻るように指示を!ボクの方が確実に近いからね、舞は休ませる!」

 

『わかった!俺は舞を回収してから、余裕があればお前も拾う!』

 

「ありがとう!じゃあ、行ってきます!」

 

『念のため、気をつけろよ!』

 

「わかってます!」

 

光は通信を終えて、樹に教えられた廃墟に向けて、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここの建物の中のどこかに、延珠ちゃんが――」

 

光の目の前には、廃墟となったビル群が乱立していた。

その数は、両手でも数えきれないほどだ。

 

「ま、探してみるしかないよね!」

 

現状を言葉に出して気合いを入れ、光は一つ目のビルに突入した。

 

 

 

 

 

「――――ん?」

 

三つめのビルを捜索し始めた時、ピリッとする感覚に襲われた。

光にも覚えのある感覚だ。

 

「……そっちからか」

 

その感覚に導かれるように、光は廃墟の中を進む。

 

「なっ――」

 

目的の部屋に辿り着いた光が見た光景は、衝撃的なものだった。

ここは一階部分だから――――恐らく、社員食堂か何かだったのだろう。

そこそこの広さの部屋が手前にあり、その奥にも一つ部屋がある。

 

その奥の部屋の真ん中に、延珠が倒れていた。

 

光もすぐさま駆け寄りたいのはやまやまだが、それはできない。何故なら――――。

 

「立花流槍術三ノ型四番『斬渦牢』!!」

 

ドガァァンッッ!!

 

光が最速で短槍を引き抜き連結させて技を使った瞬間、けたたましい音と共に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかも、爆弾が仕掛けられていたのはご丁寧にも檻の内側。爆発の衝撃で吹き飛んだ檻が、()()()()()()存在を脅かさないようにという光には嬉しくない配慮までされていた。

逆に光は、吹っ飛んで来る檻の破片を処理しなければならなくなったというわけだ。

 

普通、檻の中で爆弾が爆発などしたら、檻の中にいる存在もバラバラになる。――だが、この場合何も問題はない。

 

「ステージⅢのガストレアが、一、二、三……六体か。ご丁寧にまあ、こうも色んなタイプを揃えたもんだ。逆に感心するね」

 

肉食の哺乳類、草食の哺乳類、雑食の哺乳類、鳥類、爬虫類、昆虫類。選り取り見取りである。まあ、どいつもこいつも毒を持っていそうな器官を備えているのだが。

 

「なんでガストレアがバラニウムの檻に入っててそんなに元気なのか、とか知りたいことはそこそこあるけど―――今はどうでもいいや。――――――さっさと延珠ちゃんを取り戻しに行かなきゃね」

 

元々光にとっては、ステージⅢのガストレアが何体いようと関係ない。以前の段階でもほぼ無傷で倒せていたのに、武器が進化した光の相手は、このガストレア達には務まらない――。

 

「一気に行こう。立花流槍術三ノ型五番『瞬菊』」

 

光に時間を掛けるつもりは毛頭ない。一足飛びに手近なガストレアの懐に潜り込むと、誰の目にも留まらぬ速さで連結長槍を振るう。

そのまま流れるように次なる獲物に向かおうとしたところで、光の背中を怖気が駆け巡る。

 

(――ッ、コイツ!なんで上半身の半分を吹き飛ばされて息があるんだ!?)

 

『瞬菊』で猿型のガストレアの左わき腹と右肩を結んだ線の上に当たる部分を全て弾き散らしたというのに、ガストレアは残った右腕で殴りかかってきていた。

 

(くっ……!『瞬菊』じゃあ間に合ってもガストレアの膂力を抑えきれない!どうすれば―――!?)

 

『瞬菊』は、下段に構えた連結長槍を超速で振り上げる技なのだ。

さっき光は、右腰に構えた連結長槍を左上に斬り上げるようにして攻撃した。その結果、今の光の状態は連結長槍の左手側を下向きにして左腰のすぐ横に添え、右手側を振り上げているというものになっている。このまま『瞬菊』を使うことも不可能ではないが、威力は格段に落ちてしまう。普段咄嗟に使う時よりも格段にだ。ガストレアと打ち合えば、負けることは必至だろう。

故に光は、他の行動を起こさなければならなかった。今すぐに。悩む時間すら与えられない。

 

(――くそっ!!こうなったらやってみるしかないっ!!――――立花流槍術三ノ型五番・亜種『破筒』!!)

 

この状況を打破することだけを考えた光の頭に浮かんだ行動を実行に移してみる。

光の左手が僅かに上がり、右手が思いっきり引き落とされる。中心より左手に近い位置を支点に爆発的な速度で回転した連結長槍が、ガストレアの右腕を消滅させた。最早直感で使った技だったが、何とかなったらしい。『破筒』などという新しい技を生み出してしまった。

 

「立花流槍術三ノ型五番『瞬菊』――六連ッ!!」

 

残った胴体目掛けて攻撃を叩き込み、攻撃を受けたガストレアが弾け飛ぶという結果を見ることなく、次の獲物目掛けて攻撃を仕掛けること五回。威力重視の一撃で吹き飛ばす。

光の周りでは、五体のガストレアが息絶えていた。辛うじて即死を免れた個体が、毒を持つ器官を利用した攻撃を光に仕掛けようと動こうとした時。その時すでに、ガストレアの首は地面に落ちていた。

 

「――――立花流槍術一ノ型三番『弦月・上』」

 

連結長槍が描いた半円の軌道が、ガストレアの首を通っていた。

光は全てのガストレアが絶命していることをしっかりと確認してから、奥の部屋へと向かう。

その時、『ピッ』っと、何かが起動されるような機械的な音が光の耳朶を打った。

 

「――――」

 

バッと音が聞こえそうな速度で音源の方を見た光は、絶句した。

 

(アレは――爆弾!?)

 

今回は殺しても爆発しないのかと一瞬安堵していたが、全くもって見当外れだったらしい。恐らくそれぞれのガストレアの心臓に何か機械が埋め込まれており、心臓が鼓動している限り信号か何かを送り続けていて、それが途絶えたら爆弾が起動するというシステムになっているのだろう。もしくはその真逆か。どちらにせよ、たった今光が窮地に立たされているのは間違いない。

見える範囲にある爆弾は、四つ。部屋の天井の四隅に仕掛けられている。そこまで大きくはないが、中身が何なのかわからない以上、威力は想定できない。もし強力な爆弾だったら、このビルを吹き飛ばすくらいはわけないだろう。

 

「とにかく、延珠ちゃんを……!」

 

光は少々焦りながらも隣の部屋へ駆けこむ。さっきパネルに見えた残り時間は、五秒。一刻の猶予もなかった。

 

部屋に入る時、一瞬強いピリッとした感覚がある。

光は部屋の入り口を見て、その正体が予想と違わぬことを知った。

 

(――――やっぱり、モノリスほど大きくはないけど、バラニウム壁……)

 

黒い二枚の板が、入り口の両側にそびえ立っていた。

檻に入っていたガストレアはこちらの部屋に入ろうともしなかったようだが、これも理由の一つのようだ。

 

(っと、急がなきゃ。もう時間がない!)

 

光は視線を切って延珠の下まで駆け寄ると、延珠を肩に担ぐようにした。

 

(走って部屋から飛び出す時間はない!)

 

この部屋に飛び込む時に連結を解除しておいた二本の短槍をまとめて右手に握り、同時にボタンを押し込む。

炸薬の力が推進力となって、光たちをガラスのない窓枠から外に飛び出させた。

それと同時に、さっきの部屋も含めてビルの至る所から爆発が起こる。

 

(――マズッ、このままじゃ爆風に巻き込まれる!?)

 

一階から飛び出した光たちは、当然地面の近くを勢いよく飛んでいる。

そしてそれは、爆発した一階部分が吹き飛ばされてくるのを回避できないということを意味する。

さすがの光も、空中で人を抱えながらコンクリートの破片を撃墜しきれるほどではない。しかも担いでいる人間の体格が自分とあまり変わらないのだからなおさらだ。

 

光の決断は早かった。

 

「くっ……!」

 

右手に持っていた短槍二本を投げ捨て、鞘から一本を抜き去り、先を地面に向けてボタンを強く押し込む。

 

「ぐぅっ……!?」

 

急な方向転換に身体が悲鳴を上げるが、火薬によって上への推進力を得た光たちは、爆風に呑まれることなく危機を脱することができた。

 

しかし、人を一人抱えた状態で炸薬一発分で得られる推進力などたかが知れている。

 

結果光は、爆風を辛うじて回避した直後に地面に尻を強かに打ちつけることになった。

 

「いてて……っと、延珠ちゃんの無事を確認しないと」

 

光は独り言ち、抱えていた延珠の顔を覗き込む。

呼吸を確認。……寝ているだけのようだ。――――だが。

 

「……いや、眠りが深すぎじゃないか?あんな爆発でも起きないなんて相当だよ……?――っ、まさか!?」

 

光は袖のボタンを慌てて押し込み、樹と連絡を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車を運転している樹の携帯が高らかに音を発する。この着信音は、光だ。

 

「悪い、舞。俺の代わりに出てくれ」

 

「はーい。もしもし、光?」

 

『ああ、舞か。お父さんに伝えて。延珠ちゃんを見つけた。でも、様子がおかしい。昏睡している。急いで』

 

「わ、わかった!伝えるね!」

 

ピッ、という小さな音がして通話が切れる。

舞が今の内容を樹に伝えると、樹は車の速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

それから少しして。

 

キキィッという車のブレーキ音が光の耳に届く。樹の愛車だ。

樹が運転席から降りてきて、こちらに駆けて来る。

 

「光!何だこの状況は……!?」

 

「説明は後で!今は一刻も早く延珠ちゃんを病院に……!」

 

「ああ、そうだな!早く行くぞ!」

 

「ボクはちょっと気になることがあるから、ここに残るよ。延珠ちゃんを病院に送り届けたら、またここに来てほしい。舞に付いていてもらえば大丈夫だと思う」

 

「わかった。また後でな」

 

樹が車に駆け寄り、すぐさま発進させる。光が見たところ、延珠の命に別状はないはずだ。目を覚まさないのは、何か薬剤を投与されたからだろう。

それも、樹が病院に連れて行けば安静にさせることができるため問題は少ないはず。

 

 

そう考えた光は樹を見送ると、まず先ほど放り投げた短槍の回収に向かう。

 

「えっと……多分この辺に…………あった」

 

自分が放り投げた後、短槍が爆風で吹き飛ばされただろう位置を探すと、瓦礫の隙間から短槍の端が僅かに覗いていた。

 

 

瓦礫を一つ一つどかしていくこと十数分。

瓦礫に押しつぶされながらも傷一つ付いていない二本の短槍を鞘にしまった光は、爆発した部屋の辺りに向かって歩き出す。

 

「この辺かな……」

 

偶然にも倒壊したビルは斜めに崩れ落ちていたようで、光が用がある部屋は崩れてはいても他の部屋の瓦礫の下敷きにはなっていなかった。

光は、ラッキーと思いながら瓦礫を一つずつ退けていく。樹が延珠を病院に送り届けてくる前に終わらせてしまいたいが、意外と時間がかかりそうだ。

 

「これは、中々に骨の折れる作業になりそうだね……」

 

光はそう独り言ち、自身の感覚も頼りに黙々と作業を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……やっと掘り起こせた……」

 

三十分後。

光はそこそこの努力の末瓦礫を退けていた。

 

「……やっぱり、ちょっと色が濃いように見えなくもないような気もする……」

 

光が見つめているのは、バラニウムの壁。延珠が倒れていた部屋の入り口に置かれていた物だ。光の目的はこれだった。

光はとても曖昧なことを、バラニウム壁と短槍を見比べながら呟く。

短槍に使われているバラニウムに比べて、バラニウム壁の方が気持ち色が濃いような気がしなくもない。

 

(まあ、これは後で調べるとして……それにしても、だ)

 

光は再び短槍をしまい、集中して考え始めた。

 

(これ、ティナがやったのかな……?――――いや、違うな。これは明らかに延珠ちゃんを探しに来た()()を狙った仕掛けだ。仮にティナが情報を――ボク達が延珠ちゃんの捜索に乗り出したっていう情報を入手できるほどに探りを入れてきていたなら、逆にお父さんもその情報を摑み返すくらいのことはやっていたはずだ。それがなかったってことは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことかな。くそ、気づかなかった……。それも多分、()()()()()()()()が、だよね。それが延珠ちゃんを利用して罠を仕掛けたんだ)

 

光は目を閉じ、視線を探る。

 

(――――今は、ボクを見張ってる奴はいないな)

 

自身を監視している奴がいることに気づけなかった光だが、こうして集中して探れば自身に向けられる視線に気づかないわけがない、という程度には視線に敏感だ。まあ、何か他のことをしていればその限りではないのだが。

光の感覚によれば、現在光を監視している者はいなかった。

 

復讐相手には、視線に敏感な光に気づかせない程の実力者がいるらしい。これは少々厄介なことになった。

 

「これは、お父さんに報告かな……」

 

光が小さく呟いた直後、遠くから樹の愛車の走行音が聞こえてくる。

光は立ち上がり、樹を待った。

 

 

 

 

 

「おう光、待たせたな。用ってのは何だったん――」

 

駆け寄ってきた樹の声が、途切れる。樹は、光が掘り起こした物体を見つめていた。

 

「……これは、バラニウム壁、か?」

 

「恐らくね。それと、これはボクの気のせいかもしれないけど、ちょっと色が濃い気がするんだ。お父さんはどう思う?」

 

「うーむ……確かに、そんな気もするな。こいつは持ち帰って、調べてみよう」

 

樹の目から見ても、光の持つ短槍よりも濃いバラニウムが使われているように見えるらしい。

持ち帰って詳しく調査することになった。

樹が両手で一つのバラニウム壁を抱え上げる。

 

「うおっ……これは中々重いな……光にはちょっと厳しそうだ。そこで待っててくれ。俺がやる」

 

樹が力を込めて持ち上げる様子を見て、確かに無理そうだと光は判断する。大人しく樹に任せることにして、口を開いた。

 

「わかった。ところで話は変わるんだけど、ボク……なのかボクらなのかはわからないけど、監視されてるみたい」

 

「はあ?誰にだ?」

 

「ボクらの復讐相手」

 

「はあっ!?」

 

樹が手を滑らせてバラニウム壁を落としそうになる。

それに気づいていながらも光は気にすることなく、淡々と続ける。

 

「ボクがそれに気づいたのはさっき――と言っても、状況的に判断したものだけどね。延珠ちゃんが攫われたことを利用して、ボクを殺そうとしてる奴がいたみたい。爆弾の起爆方法やガストレアの性質から鑑みても、復讐対象が相手なのは間違いないと思う。ボクが監視に気づけなかったから、相当な実力を持ってる相手がいるっぽいね……」

 

「そうか……光は視線に対しては俺より敏感だからな。その光でさえ気づかないとなると………かなりの相手ってことか。そんなのも相手にいんのかよ…………それにしても」

 

「ん?」

 

バラニウム壁を持ち直し険しい顔をして呟く樹が、言葉を切った。

催促するように光が樹を見ると、樹は悔しそうにしながら口を開く。

 

「監視に気づかなかったとは……クソッ、気分のいいもんじゃねえな……」

 

「ああ、それはしょうがないと思うよ。ボクですら気づかなかったし……。かなり遠くから見てるんだろうし、そんな遠くまで気にしてなかったでしょ」

 

「まあ、それはそうなんだが……悔しいものは悔しい」

 

言いたいことはわかるよ、と言うように光が二、三度頷く。

二つ目のバラニウム壁を樹が運び出すのに合わせて、光も連なって歩き出した。

 

「それでさ、どうしよう?ボクもこれからはかなり警戒するけど……他にも対策を考えなきゃだよね?」

 

「そうだな、光の言う通りだ。まあ、今はそのことは置いておこう。これを家に置いてから病院に――家は大丈夫かな?」

 

「ああ、襲撃とかそういうこと?多分大丈夫だと思うけど…………相手の力量がわからないから何とも」

 

いくら光が監視を警戒すると言っても、限界がある。しかしその具体的な対策を考えるのは後に回し、ひとまず延珠を搬送した病院に向かうことにする二人。

 

樹はその前にバラニウム壁を家に預けてきたいのだが、懸念事項が一つ。これを設置して罠を仕掛けていった連中がバラニウム壁を取り返すために襲撃してくることだ。

可能性としては高いわけではないだろうが、低いとも言えない。相手の優先事項や行動理念がわからない以上、判断のしようがないのだ。

また、相手の実力も不明瞭なため、家に預けるのが安全という確証もない。

だが、相手に取り返すつもりがあったなら、病院まで持っていくのは愚策。下手をすれば病院が戦場になるからだ。

 

「あー、どの道調べるのは司馬重工にお願いすることになるよね?なら案の一つとして、ボクを病院で降ろしてからお父さんが司馬重工に行って未織さんに調査を依頼するっていうのもアリなんじゃない?」

 

もちろん、襲撃の危険性について言及した上でね、と光は付け加える。

樹はその案について数秒考え、頷いた。

 

「それが一番よさそうだな。未織ちゃんが受けてくれるかは微妙だが……まあ、そこは成り行きで行くか。光は里見君と話しておきたいんだろ?」

 

「うん。今後について話しておきたいから……ボクらは連携してことに当たらないといけない。じゃないと、ティナには勝てない気がするんだ」

 

樹と光は車に乗り込み、廃ビル群を後にする。

他愛ない会話をしながらしばらく進んだところで、光が突然後ろを向いた。

 

「……どうした?」

 

「――いや、ちょっと視線を感じただけ。ボクに気づかれたことに気づいて、もうこっちは見てない」

 

「それって……」

 

「うん、間違いなく()()()。すごいなあ……ボクに気づかれたことにすぐ気づくだなんて……」

 

光が険しい表情を浮かべている。樹も難しい顔をして、光に訊ねた。

 

「そうか……距離はわかるか?」

 

「大体は。ライフルで狙撃するのは不可能ってレベルの距離だと思うよ」

 

「……マジかよ」

 

「マジ。こりゃ相当気を引き締める必要がありそうだね」

 

「そうだな………」

 

それ以降は二人の間に会話はなく、車は病院に向けて進み続けた。

 

 

 




とまあこんな感じです。いかがでしたでしょうか。

ティナとは、次回くらいには戦ってくれるんじゃないかなーなんて思ってますが、どうなることやら……。

一応頭の中には、どんな感じで戦ってどんな感じにまとめるか、みたいなものはあるんですが、細部の文章について全く考えてないのでどのくらいの字数になるかわからないんですよね……。

まあ前書きでも言ったように、気長に待っていただけるとありがたいです、はい。

感想や誤字脱字の指摘など、お待ちしております。

次回は、みんな大っ嫌いな(はずの)変態クソ野郎が出てくるよ!心の準備をしておいてね!(展開的にそこまでは間違いなく行ける)

では、また次回。
なるべく早めに上げられるように頑張ります。


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