割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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第12話 創造主の心

侮っていたわけではなかった。

ましてや慢心していたわけでもない。

自分が最強のデュエリストだなどと、思ったこともない。

 

無敵のデュエリストなどいない。

その証拠に、自分は何度も負けてきた。

 

(凄まじい少年でシタ。初見であるはずのカードに、即座に対応してきまシタ。あの才覚(センス)は、彼以上の――)

 

「激闘だったな」

 

半ば放心していたペガサスは、馴染みの声を聞いてハッとなった。

 

「……ええ、一般参加の少年が、まさかここまでのデュエリストとは思いませんでシタ」

 

未発表のカード、トゥーンに対して、遊戯は的確ともいえる対応をした。

 

「あのコンボで流れが変わったな」

 

序盤はペガサスが優勢に進めていたように見えた。だが遊戯はただ耐え凌いでいるように見えて、虎視眈々と反撃の機会を窺っていたのだ。

 

(遊戯のデッキは一見破綻しているように見えて、実はあらゆる状況に対応できるカードが詰め込まれていた)

 

まったく情報のないペガサスを相手にするために、遊戯が知恵を絞った結果だった。

そして勝利を手繰り寄せた。

ペガサスは負けたのである。

 

(俺の見るかぎりだが、千年眼を使用しているような気配はなかった。遊戯からもそこまで敵意を感じなかったので、おそらく使用しなかったのだろう)

 

レンにペガサスの心奥は分からない。それでも、ペガサスが変わっていったのは感じていた。

そして遊戯とのデュエルで確信に至った。ペガサスは心の闇に打ち勝ったのだと。

 

「もうすぐ授賞式(パーティー)が始まる」

「ええ、いきまショウ」

 

ペガサスはうなずき、ゆっくりとソファから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会は終わった。最後のデュエルの後に行われた授賞式(パーティー)もつつがなく終了し、参加者は館を出て港へと向かって行った。

静寂を取り戻した館の中で、レンは胸騒ぎを覚えてペガサスの私室へと向かっていた。

そして駆けつけた扉の前では、Mr.クロケッツが床に倒れていた。

 

「クロケッツ! ……死んではいないな。気絶しているだけか」

 

その形相は、何か恐ろしいものでも目撃したような凄まじいものであったが、とりあえず無事と判断したレンは扉を厳しい視線で睨み付ける。

 

「ペガサス、ちょっといいか?」

 

やや乱暴にノックをするも反応はない。

ドアノブに触れてみるが、扉はびくともしなかった。この扉に鍵はない。ということは、なにか別の力によって施錠されていることになる。

懐から拳銃を取り出し、ドアノブに向けて2回発砲。通用するかどうかは賭けだったが、びくともしなかった扉は、レンの力でもギリギリ開けられるくらいの重さに軽減されていた。

中に飛び込むと、室内にはうずくまっているペガサスと、三白眼の白髪の少年がいた。

レンはすぐに状況を把握した。

 

「なんだァ、テメェ……うおッ!?」

 

即座に発砲。狙いは肩と脚。だが2発の弾丸はどちらも獏良の身体に当たる寸前で、粘土にめり込んだように、中空で停止していた。

 

「イキナリやってくれるじゃ……チィッ!!」

 

続けて2発。狙いは眉間と心臓。これも防がれる。空になった弾倉を抜いて再装填(リロード)し、間髪入れずに6発射出。これもすべて防がれる。

 

(これでいい。車を走らせるのにガソリンが必要なように、オカルトパワーも無から生み出しているわけではない……はず)

 

その予測が当たっていたのかは分からない。そして反撃してこないところを見ると、おそらく攻撃と防御を同時にはできないとレンはあたりを付けた。

 

「チィィ、拳銃程度どうとでもなるが……この草ァ! オレ様を捕食しようとしてやがるのか! なめやがって!」

 

(……草? 草生えるwってわけじゃないだろうし……ペガサスがなにかやっているのか?)

 

レンの目には、獏良が身体にまとわりつこうとするナニカ(・・・)を振り払おうとしているように見えた。

空になった弾倉をさらに再装填。

 

「チィィ、メンドくせぇ! ここは見逃してやらぁ!」

 

再装填の隙をついて反転した獏良は窓を突き破って逃げていった。窓の外を眺めると、獏良はピンピンした様子で走り去っていた。

この口径での狙撃は無理と判断し、レンはペガサスへと向き直る。

 

「怪我はないか? ペガサス」

「ええ。しかし、随分と過激なことをしマスね」

「最初の2発で通じないことが分かったんでな。遅滞戦術に切り替えた」

 

いつもは髪に隠れているペガサスの左目があらわになっていた。そこは空洞ではなく、しっかりと千年眼が収まっている。

 

(奪われるのは阻止できたか。しかし獏良はどこでペガサスが千年眼を持っていることを知ったんだ? 千年リングは千年アイテムを探知するみたいな設定はあったが、こんな離れた場所(孤島)にまで有効なのか? というかどうやって来たんだ?)

 

レンは首をひねるが、答えは出そうになかった。

 

「治療班を呼んでくる。ここで安静にしてろ」

「……ええ、お願いしマース」

 

ペガサスは弱々しい口調でそう頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンがデュエルモンスターズを商業展開するにあたって細心の注意を払ったのが、カードの偽造についてだ。

これはペガサスをもってして「ここまでやる必要はないのでは?」と言わしめるほど徹底的にやった。

海馬とも相談し、デュエルシミュレーターでもコピーカードを弾く仕様にしている。

 

というのも、勝手にカードを作られると困るからだ。すべてのカードデータはI2社のサーバーに保存されており、そこにないデータのカードが使用された場合、当然だがエラーが出るようになっている。

これは後発するデュエルディスクでも搭載されるシステムである。

よってI2社の把握していないカードが使用される可能性はほぼ0なのだ。

 

そう、ほぼ0である。

ほぼと言ったのは、完全に0ではないからだ。人間にカードの偽造は不可能なレベルだが、ならば精霊では?

これがほぼ、と言った理由だ。

 

この世界には精霊という存在がいる。幸か不幸か、レンは出会ったことはない(・・・・・・・・・)が、いるのは確信を持って言えた。

実際に異世界(精霊界)の研究を真面目にやってる人もいる。

 

つまり、精霊がカード化された場合、あるいは精霊がカードを作った場合、システムが認識してしまうのではないかという危惧があった。

というのもこの世界が、わりと非常識で非科学的な(遊戯王)世界だからである。

 

またこの世界には、世界で1枚という極端なレアカードは存在しない。先行配布などで、期間限定で少数のカードは存在するが、数ヵ月後には一般販売されて、その価値は落ちる。

つまり、レアカード窃盗集団(グールズ)がこの世界には存在しないのだ。

おそらくカードの偽造が難しいことに加え、カード自体の価格が安いことが影響しているのだろう。

 

強いていうならば、海馬の持つ世界に3枚しかない《青眼の白龍》だが、海馬がそれを手放すとは考えられないし、ましてや奪われるとも思えない。

仮に奪われたとしても、草の根分けても探し出すだろう。

 

なんにせよ。

レンの介入とペガサスが綺麗になったことで、原作に比べると世界は多少マシになった。

 

――デュエルで笑顔を

 

レンが口にした言葉はペガサスのお気に入りにもなっていた。

デュエルはみんなを笑顔にする。

そう信じて、レンは今日も業務に勤しんでいる。

 

 

 




決闘者の王国編、完!
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