割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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第14話 バトルシティ開幕

十七歳を迎えたペガサスに待っていたのは、恋人の死という絶望だった。最愛の女性(ひと)を喪ったペガサスの傷は深く、彼は数ヵ月もの間部屋へと引き籠り、誰とも会おうとはしなかった。

 

そしてペガサスは、気がつけばエジプトの地を訪れていた。現世の人の魂は来世へと継がれ、永遠のものとされるという死生観に興味を持ったからだ。

そこで彼は、己の人生を一変させるものと出会う。

不思議な雰囲気を纏う少年と、人の心を見通す千年眼。

ペガサスはその千年眼の所有者として認められた。

 

彼は千年アイテムが邪悪な意志を秘めていると思っているようだが、実際のところは少し違う。

武器を持てば使いたくなるのが人の(さが)であるように、力を持てばそれを使いたくなる。

結局のところ、どんな道具も使い方次第なのだ。知らずのうちにペガサスは、人の心を読み取るという安易な方法に頼りがちになった。

 

それは彼の親友にも向けられた。

高杉レン。ハイスクールで出会った友人のひとりで、自分を資産家の御曹司として扱わない稀有な人間であった。

ペガサスは彼の心を少しだけ覗いてみた。

 

そこに広がっていたのは一面の青空だった。

心が洗われるような景色。暖かく、かと思えば寒気を感じることもある。なんとも不思議な感覚だった。

ひとつ言えることは、この空は何者にも縛られず、自由で、確かな個を持っているということ。

多くのしがらみが存在するペガサスは、少しだけ彼を羨ましいと思った。

 

もっと彼の深いところ、記憶を読み取ってみたいという衝動に駆られた。

だがペガサスは、寸でのところで踏みとどまった。

それをしてしまえば、レンとの友情が壊れてしまうと思ったからだ。

 

それからペガサスは、この力は簡単に使うものではないと確信した。

その力を使うのはビジネスで重要な決断をする時、相手が自分を騙そうとしていないか、嘘をついていないかを見極める時に限定した。

 

デュエルで使用したことは一度もなかったのだ。

キースとのエキジビジョンマッチでも千年眼は使用していない。あの時は両者同じデッキで闘っていた。そしてデッキを用意したのはペガサスだ。当然デッキのカードはすべて把握している。その有効な使い方、戦略についても。

つまり情報アドバンテージは圧倒的にペガサスが優位だったのだ。勝敗は最初から明らかだった。

 

力に溺れ、闇に吞まれようとしたペガサスの手を掴んだのは、紛れもなくレンだったのだ。本人にその気はなくとも、ペガサスは彼に恩義を感じていた。

幻影だけを追い続けていた自分を現実に引き戻してくれたのだ。

 

――雲のような人デスね

 

胸中でつぶやく。

闇はすでに晴れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯に千年眼を届けるという大仕事を終えて、レンは寿司を食っていた。

 

(回転寿司も侮れんな。というか普通に美味いし。本格的な寿司屋の方が美味いのは当然だが、あの堅苦しい雰囲気はどうも苦手だ)

 

そんなどうでもいいことを考えながら、しらうおの軍艦巻きを口に運ぶ。社長であるレンがおらずとも、I2社の業務は普通に回っていた。

ペガサスは忙しいといっていたが、なにも全部自分でやる必要などないのだ。むしろ仕事を振り分けてやった役員連中は嬉しそうですらあった。

 

(とはいえ、日本に長居する理由もないんだよな。さすがに遊び惚けるのは体裁が悪いし。海馬に挨拶でもして帰るか)

 

シメのいくらの軍艦巻きを口に放り込み、レンは店を後にした。

アポを取り海馬コーポレーションに向かう。

 

(そういえば海馬と遊戯の因縁はどうなってるのかな? 同じ学校だし面識はあるだろうけど、もしかしたらデュエルもしているのかもしれないな)

 

武藤双六を巡る因縁がなくなったとはいえ、遊戯と海馬は同じ学校という近い場所にいた。

そこで何があったのか、レンには知る由もない。

 

「高杉様、お待たせ致しました。こちらへどうぞ」

 

特に問題もなく社長室に通されたレンは、定型の挨拶を口にした。

 

「ご無沙汰しております。海馬社――危ねぇ!」

 

いきなり何かを投げつけられたレンは、ギリギリでそれを掴み取った。

 

「ふぅん。待っていたぞ、高杉レン」

「はぁ、すいません」

 

約束の時間ピッタリに来たレンは、それでも日本人的な感覚で待たせてしまったかな、などと思っていた。

だが手に収まったそれを見て、考えが変わった。

レンが握っていたのは透明のカード。中にはパズルのピースが埋め込まれていた。

 

「悪いな、レン。キースと決着がつけられなくて、兄サマちょっと機嫌が悪いんだ」

「ああ、今はプロリーグの真っ最中だからね」

 

モクバがレンに囁きかける。

スポンサーが付くというのは、良いことばかりではない。賞金稼ぎをしていた頃よりは、確実に自由は減っただろう。

全米チャンプという肩書がある以上、プロリーグよりバトルシティを優先するのは余程の理由がなければ不可能だ。

 

「俺との勝負から逃げた男になど興味はない。バトルシティのことは、貴様も知っていよう。貴様にも参加資格をくれてやる。開催は一週間後。精々楽しんでいくがいい。フハハハハッ!」

 

(いや、いらないんですけど)

 

とも言えず、レンはなし崩し的にバトルシティに参加することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城之内克也は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の海馬をぶちのめさねばならぬと決意した。

 

「なんで俺のデュエリストレベルが『2』なんだよ!」

 

バトルシティに参加するにはデュエリストレベルが『5』以上でなければならない。つまりこのままでは城之内はバトルシティに参加できないのだ。

しかし、決闘者の王国で決勝トーナメントまで残った城之内がレベル2というのは、海馬の陰謀にほかならないと城之内は睨んでいた。

実際この判定には海馬の私情が多分に含まれている。

 

「やっぱあいつは一度ギャフンと言わせなきゃらなねぇ!」

 

そう息巻いて、城之内は遊戯と本田を連れて海馬コーポレーションの本社ビルにやってきたのだった。

 

「たのもぉーー! ってモクバじゃねぇか。ちょうどいい。この俺がデュエリストレベル2のワケをキッチリ説明して……おぉ?」

 

たまたまロビーにいたモクバに詰め寄ろうとした城之内だったが、脇から現れたSPに拳銃を突き付けられて両手を挙げた。

 

「て、てっぽーだとぉ!? この国の治安はどーなってんだ!?」

 

ホントにこの街の治安はどーなってんだ?

 

「ああいいおまえら。銃を下ろせ。で、連れ立って何の用だよ?」

 

モクバは慌てた様子もなくSPたちを下がらせる。

 

「お、おう。えーっと、そうそう俺のデュエリストレベルだよ! レベル2はおかしいだろーが!」

 

「デュエリストレベル? ああそれか。その問い合わせは山ほど来てるんだ。あれはKC(ウチ)独自の判定だからな。納得いかないヤツが多いんだよ」

 

実際、I2社はデュエリストレベルなどというものは設定していない。あくまでバトルシティは海馬コーポレーション主催のデュエル大会なのだ。

 

「だからウチの決闘(デュエル)マシーンと勝負しろよ。勝てばデュエリストレベルを5に変更してやるよ」

 

「おお、話が早くて助かるぜ」

 

意外にもあっさりと話がまとまって城之内は拍子抜けした。報酬はデュエルで勝ち取れという海馬コーポレーションらしい解決法だった。

そうして城之内はデュエルリングに上がった。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ワタシの先攻デス。ドロー。手札の《ディメンション・アトラクター》を捨てて効果を発動シマス。次のターンの終了時まで、墓地へ送られるカードは墓地へ行かずゲームから除外されマス。《被検体ミュートリアST-46》を通常召喚。召喚時効果により、デッキから《ミュートリアの産声》を手札に加えマス。そしてこのカードをリリースし、手札の《ミュートリアの産声(罠カード)》をゲームから除外して効果を発動シマス。デッキから《ミュートリアル・アームズ》を特殊召喚シマス」

 

巨大な試験管から飛び出したロボットのような物体が妖しく瞳を光らせる。

 

「カードを2枚伏せてターンを終了シマス」

 

決闘マシーン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

ア:ミュートリアル・アームズ 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□ア□□

 

□□□□□

□□□□□

 

城之内克也 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「いきなり攻撃力3000のモンスターが出てくんのかよ。なぁモクバ、やっぱ決闘マシーン(アレ)って強いのか?」

 

「あったりまえだぜぇい! なんたってウチが作った決闘マシーンだからな!」

 

本田の疑問にモクバは胸を張って答える。

 

「けどデュエリストレベルは5だから、そんなに強いってほどじゃないぜ。むしろこのくらい倒せないようじゃ、バトルシティの参加を認めるわけにはいかないぜい!」

 

「心配すんな本田! こんな機械に負けるほど俺はやわじゃねぇ! 俺のターン、ドロー!」

 

「城之内くん、落ち着いていこう!」

 

「おう! サンキュー遊戯!」

 

ビッと親指を立て、遊戯に大丈夫だと合図を送る。

 

「《異次元の女戦士》を召喚。そして《最強の盾》を装備するぜ」

 

異次元の女戦士 攻撃力1500 → 3100

 

「バトルだ。異次元の女戦士でミュートリアル・アームズを攻撃! 次元斬り!」

 

決闘マシーン LP4000 → 3900

 

「へへっ、その伏せカードはブラフか? 俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

女:異次元の女戦士 攻撃力3100

盾:最強の盾(対象:異次元の女戦士)

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□盾■■

□□女□□

 

□□□□□

■□□□■

 

■:伏せカード

■:伏せカード

 

決闘マシーン LP3900 手札2 モンスター0 伏せ2

 

――――――――――――

 

「ワタシのターン、ドロー。フィールド魔法《ミュートリア進化研究所》を発動。発動時の効果処理として、除外されている《被検体ミュートリアST-46》を特殊召喚シマス。そして召喚時効果でデッキから《フュージョン・ミュートリアス》を手札に加えマス」

 

「フュージョン? 融合か!」

 

城之内が警戒を強める。

 

「《被検体ミュートリアST-46》をリリースし、フィールドの《ミュートリア進化研究所》を除外して効果を発動シマス。デッキから《ミュートリアル・ミスト》を特殊召喚シマス」

 

試験管から現れたのは全身に結晶をまとったミュートリア。それぞれの魔石からは稲妻、炎、冷気が放出されている。

 

「リバースカード《ミュートリアの産声》を発動。墓地の《被検体ミュートリアST-46》と除外されている《ミュートリアル・アームズ》をデッキに戻し、《シンセシス・ミュートリアス》を融合召喚シマス」

 

黒い触手のようなものをうねらせながら、妖しい光を放つ合成体(キメラ)が現れる。

 

「融合召喚成功時、《シンセシス・ミュートリアス》の効果発動。《異次元の女戦士》を破壊シマス」

 

「なにぃ!? ならチェーンして《激流葬》を発動だ。フィールドのモンスターを全て破壊するぜ!」

 

「さらにチェーンして《ミュートリア超個体系》を発動。発動時の処理として、デッキから《被検体ミュートリアM-05》を手札に加えマス。次に《激流葬》の効果が適用され、フィールドのモンスターは破壊されマスが、ワタシは破壊の代わりに《ミュートリア超個体系》を除外シマス。よって破壊されるのは《異次元の女戦士》のみデス」

 

「なんだって!?」

 

全てのモンスターを呑み込むはずだった津波は、しかし女戦士ひとりを攫っただけにとどまった。

 

「バトル。シンセシス・ミュートリアスでダイレクトアタック」

 

「させねぇ! リバースカード《大捕り物》を発動。ミュートリアル・ミストのコントロールをいただくぜ!」

 

「チェーンしてミュートリアル・ミストの効果を発動シマス。このカード自身をゲームから除外してカードを2枚ドローシマス」

 

ミュートリアル・ミストは寸でのところで投網をかわし、対象を失った大捕り物は不発に終わる。

 

「攻撃は続行されマス」

 

城之内克也 LP4000 → 1500

 

「くっ、だがなんとかライフは残ったぜ」

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行シマス。《被検体ミュートリアM-05》を通常召喚。召喚時効果により、デッキから《ミュートリアル・アームズ》を手札に加えマス。そしてこのカード自身をリリースし、手札の《ミュートリアル・アームズ》を除外して効果発動。デッキから《ミュートリアル・ビースト》を特殊召喚シマス」

 

現れたのは獣のようなミュートリア。魚類のような尾を叩きつけて城之内を威嚇している。

 

「カードを1枚伏せてターンを終了シマス」

 

決闘マシーン LP3900 手札4 モンスター2 伏せ1

 

ミ:ミュートリアル・ビースト 攻撃力2400

シ:シンセシス・ミュートリアス 攻撃力2500

■:伏せカード

 

□□■□□

□ビ□シ□

 

□□□□□

□□□□大

 

大:大捕り物

 

城之内克也 LP1500 手札2 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。《カップ・オブ・エース》を発動するぜ!」

 

ミュートリアル・ビーストには、相手が発動した魔法カードの発動と効果を無効にする効果を持っているが、決闘マシーンはこれを静観した。

 

「おしっ、表だ。カードを2枚ドローするぜ。続けて《大捕り物》を墓地に送って、《マジック・プランター》を発動」

 

「チェーンしてミュートリアル・ビーストの効果を発動シマス。手札を1枚除外して、《マジック・プランター》の発動と効果を無効にシマス」

 

「さすがにこっちは止めてくるか。けどそれは計算通りだぜ。まずはその伏せカードを破壊する。《サイクロン》を発動だ!」

 

巻き起こった竜巻が決闘マシーンの伏せカードを剥がす。

 

「手札の《真紅眼の黒竜》を墓地に送って、《紅玉の宝札》を発動。カードを2枚ドローし、デッキから《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》を墓地に送るぜ。よっしゃー! いけるぜ! 《死者蘇生》を発動。墓地の《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》を特殊召喚するぜ!」

 

漆黒のドラゴンが黒炎の翼を翻し、真紅の瞳を輝かせる。

 

「さらに真紅眼の黒炎竜を再召喚。そして魔法カード《フォース》を発動。ミュートリアル・ビーストの攻撃力を半分にし、その数値分、真紅眼の黒炎竜の攻撃力をアップするぜ!」

 

ミュートリアル・ビースト 攻撃力2400 → 1200

 

真紅眼の黒炎竜 攻撃力2400 → 3600

 

「バトルだ! 真紅眼の黒炎竜でミュートリアル・ビーストに攻撃! ブラック・メガ・フレア!!」

 

黒き炎を浴びて、獣のミュートリアが焼失する。

 

決闘マシーン LP3900 → 1500

 

「破壊されたミュートリアル・ビーストの効果発動。除外されている《ミュートリアの産声》を手札に加えマス」

 

「かまわねぇぜ! どうせ次のターンはねぇしな! バトルフェイズ終了時に真紅眼の黒炎竜の効果発動。このカードの元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるぜ!」

 

再度放たれた漆黒の炎が決闘マシーンに直撃した。

 

 

 

「へへっ、ざっとこんなモンよ! これでいいんだろ、モクバ!」

 

城之内はスキップしそうな勢いでモクバのもとに駆け寄る。

 

「ああ、後で書き換えておいてやるよ。ホラ、これがバトルシティに参加できるパズルカードだ」

 

モクバは透明なカードを城之内に投げ渡す。

 

「おう、あんがとよ!」

 

「でもよぉ、城之内。3ターン目……だったか? あいつが《被検体ミュートリアM-05》の効果使って総攻撃してきてたら、おまえ負けてたんじゃねぇか?」

 

「ん? そうだったか?」

 

城之内は考え込むようにほほを掻く。

 

「本田くん、それは結果論だよ。もしかしたら城之内くんの伏せカードはミラーフォースのような逆転のカードだったかもしれない。決闘マシーンはそう考えたんじゃないかな?」

 

「ふ~ん。そんなモンか」

 

「まぁデュエリストレベルが5だからか、全体的に(あら)は多かったね。例えば、攻守が同じミュートリアル・ビーストを攻撃表示で出したのとか。守備表示なら返しのターンを耐えられたと思うよ」

 

「そんならフォースの対象をシンセシス・ミュートリアスにすりゃいいだけなんじゃねぇの?」

 

「いや、シンセシス・ミュートリアスには相手が発動したカードに対応して耐性を付ける効果があるから、フォースは効かないよ」

 

「あ~、そうなのか」

 

「おいおまえら、デュエル談義は帰ってからにしろよ! こう見えてもオレは忙しいんだぜぇい! 用が済んだらさっさと帰りな!」

 

モクバは本田の尻を蹴っ飛ばし帰るように促した。

 

「痛って! まあ待てよ、モクバ。俺にもデュエルさせてくれよ」

 

「おまえがかぁ?」

 

モクバは訝しむように本田と睨み付けた。

 

「やめとけ本田。決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)予選敗退のおまえにゃ無理だって」

 

そう言って本田の肩にポンと手を置く城之内。

 

「やってみなけりゃ分かんねぇだろ! 俺も出てーんだよバトルシティ! な、頼むよモクバ。このとーり!」

 

本田は手を合わせてモクバに拝み倒す。モクバはため息を零しながらも了承してくれた。

そして城之内の予想通り、本田はキッチリ敗北した。

 

 

 




ちょっと本田くんの扱いが悪いかもしれません。ファンの方には申し訳ない。
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