(負けた……俺が……この……俺が……)
海馬は崩れ去るブルーアイズを呆然と眺める。
(亡き義父によって刻みつけられた憎しみを抱え――復讐の
消え去ったブルーアイズの先には、悠然と立つ宿敵の姿があった。
(遊戯……貴様は……俺の……)
奥歯を噛みしめながら、海馬は虚空に手を伸ばす。
「海馬。今、俺と貴様の間に勝敗の境界は存在するが、力の差はない!」
「くっ、
「海馬。俺は決闘者としての貴様は認めているつもりだ。だがな、怒り、憎しみ、そんなものをいくら束ねたところで、俺には届かないぜ!」
海馬の心中にあったもの。それは遊戯を倒し《決闘王》の称号を手に入れることで、忌まわしき過去と決別すること。
「海馬。貴様は気づいていないのかもしれない。いや、認めたくなかったのかもしれないな。孤高であることが強者の証とでも思っていたのか? あえてもう一度言うぜ。貴様は最初から、
「――くっ」
海馬はデュエルリングの外へと目を向ける。そこには目に涙を溜めてこちらを見つめている
「その想いをカードに乗せることができていたら、結果は違っていたかもしれないぜ」
「フン! 吠えるのは勝者にのみ与えられた特権。今は黙して引いてやるわ。遊戯! 受け取るがいい!」
海馬はデュエルディスクから1枚のカードを取り出し、遊戯に投げつける。
神のカード、《オベリスクの巨神兵》が遊戯の手に渡った。
「確かに受け取ったぜ! 海馬」
「遊戯、俺を倒した以上、決勝戦で敗北することは断じて許さん! いくぞ、モクバ!」
「うん、兄サマ!」
海馬は白いコートをたなびかせながら、塔の中へと戻っていった。
◇
決勝戦までのわずかな休憩時間、遊戯は部屋でデッキ調整に勤しんでいた。
というのも、決勝の相手である高杉レンの戦術がまったく読めないからである。
一回戦で使用した《人造人間-サイコ・ショッカー》は、罠カードを封殺する強力なカード。ならばデッキに入れる罠カードは少なめにした方がいいのか。
二回戦で使用した《ワイトキング》は、ラーの翼神竜に正面から撃ち勝つほどの力を秘めたカード。状況次第では攻撃力10000を超えてくる可能性もある。
あるいは城之内とのデュエルで使った魔術師デッキ。遊戯が知っているだけでも3つのデッキがある。
そして忘れてはならないのが《ラーの翼神竜》だ。オシリスやオベリスクの効果さえとどかない最高位の神。
だがその弱点は露呈された。他のカードの効果を受けないという
――どう思う? 相棒
(ワイトはないと思う。あれは必要なパーツが多いから専用のデッキでないと真価が発揮できない。それに爆発力はあるけど、安定感があるとは言い難いから、決勝戦で使うとは思えないかな。それに、あの人がネタの割れた手を使うとも思えない)
――確かにな
相棒の言い分に納得する遊戯。
どちらの遊戯も、レンはデュエリストとしてかなり高い次元にいると思っていた。
海馬のような分かりやすい力強さは見えないが、知識・戦術・理解力・応用力といった点では海馬を凌ぐかもしれない。
そして
さらに遊戯はレンの癖のようなものにも気づいてた。レンは速攻を好む。防御カードは必要最低限しか積んでいないだろう。
決勝戦はおそらく殴り合いになる。そんな予感があった。
――かつてない激闘になる
遊戯の額に冷たい汗が流れる。海馬戦とはまた違った意味の緊張を感じていた。
結局、遊戯のデッキが完成したのは時間ギリギリになった頃だった。
◇
場所は移り、レンもまたデッキ構築に頭を悩ませていた。主にラーの翼神竜について。
(神は特殊召喚モンスターではない。直で墓地に送っても蘇生できる。だが弱点もある)
それはレン自身も考えた除外やデッキバウンスだ。フィールドではほぼ無敵に近い存在だが、墓地にいる間は隙ができる。
(回復効果を逆手に取られる可能性もある)
回復をダメージに変換する《シモッチによる副作用》を使われるとラーの強みが封殺される。
効果を受けないのはあくまでラー自身であって、プレイヤーではないのだ。
(そういえばバーンカードに制限はかかっているが、回復カードにはかかってないんだよな)
《シモッチによる副作用》、《ギフトカード》、《成金ゴブリン》でゲームエンドになる。
(神を無視されることも考えられる)
つまり直接攻撃だ。例えば《流星の弓-シール》を採用したベンケイ1キルなど。
(ネタが割れれば意外と弱点多いな。もしかして神ってそんなに強くない……?)
相手が神を持っていることが分かっていれば、対策はいくらでもあるということだ。
(そもそも俺が使って大丈夫なのか? バクラは普通に使っていたが、たぶんマリクの主人格が憑依してたはずだから、ギリセーフという判定だったかもしれんし……)
神の怒りを買うのは避けたいレンだった。
(というか、あの精神を焼く炎は何なんだろうな)
(まあ、使わない方が無難だろう。さて――)
レンは改めてカードケースに目を移す。
(デュエルが常に劇的であるとは限らない。あっさりと終わることもあれば、ぐだついて終わることもある)
むしろ
かと思えば、お互いに手札事故を起こしてぐだることも稀によくあった。
(そうだ、デュエルが常に劇的である必要はない。決勝戦だからといって盛り上げてやる必要もない。武藤遊戯、キミにも決闘者としてのプライドがあるだろう。神のカードを渡して、はい終わりでは味気ない。俺はキミに全力で挑もう)
それからしばらくの時間が経ち、レンのデッキは完成した。
◇
「只今より、バトルシティ・トーナメント決勝戦を開始する!」
天高く掲げられた磯野の手が振り下ろされ、遂にバトルシティ最終戦の幕が上がる。
『デュエルッ!!』
先攻を得たのはレン。
「私のターン、ドロー。《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《
目まぐるしく魔法少女たちが入り乱れる。度重なるドロー、手札交換に遊戯は警戒を強める。
「《ワンダー・ワンド》をウォーテリーに装備。そしてこのカードとウォーテリーを墓地に送り、カードを2枚ドローする。《融合派兵》を発動。EXデッキの《E・HERO サンダー・ジャイアント》を公開し、デッキから《E・HERO スパークマン》を特殊召喚する」
魔法少女に続いて、雷を操るヒーローが現れ――
「《トランスターン》を発動。スパークマンを墓地に送り、《サイレント・ソードマン LV5》を特殊召喚」
その姿が青き意匠の衣を身に纏った沈黙の剣士へと変わる。
「《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《
後光の差す悪魔に続いて、次元の彼方から電脳の人造人間が帰還する。
「最後に《レベルアップ!》を発動。サイレント・ソードマン LV5を墓地に送り、デッキから《サイレント・ソードマン LV7》を特殊召喚」
さらに沈黙の剣士が最終進化を遂げ、ひときわ巨大となった大剣を構える。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
手札を全て使い切る猛攻を見せ、レンはターンを終えた。
高杉レン LP4000 手札0 モンスター3 伏せ1
威:威光魔人 攻撃力2400
サ:人造人間-サイコ・ショッカー 攻撃力2400
7:サイレント・ソードマン LV7 攻撃力2800
D:D・D・R(対象:人造人間-サイコ・ショッカー)
■:伏せカード
D□■□□
□威サ7□
□□□□□
□□□□□
武藤遊戯 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー!」
威光魔人の効果は、場所を問わずモンスター効果が発動できなくなるというものだが、サイコ・ショッカーもサイレント・ソードマン LV7も、発動しない永続効果のため、威光魔人の影響を受けない。
これにより魔法・罠・モンスター効果をすべて封殺することができる。
だが当然、完璧な盤面というわけではない。まず壊獣などのリリースには無力だ。ラヴァ・ゴーレムでまとめて除去されれば最悪である。
リリースを警戒して《生贄封じの仮面》にするか、罠カード自体を封じる《王宮のお触れ》または《人造人間-サイコ・ショッカー》を採用するか迷ったあげく、遊戯の
「手札を1枚捨て、《幻想の見習い魔導師》を特殊召喚するぜ!」
「発動しない特殊召喚か。だがサーチ効果は発動できない」
「承知の上だ。さらに
並び立つ沈黙の魔術師と沈黙の剣士。レンの眉がピクリと動いた。あの2体のサポートカードには、
「バトルだ! そしてバトルフェイズに速攻魔法《サイレント・バーニング》を発動。お互いのプレイヤーは、手札が6枚になるようにドローする。俺の手札が増えたことにより、サイレント・マジシャンの攻撃力もアップするぜ! サイレント・ソードマンLV7を攻撃!」
サイレント・マジシャンの攻撃力が一気に4000まで跳ね上がり、その魔術が沈黙の剣士を襲う。
高杉レン LP4000 → 2800
「サイレント・ソードマンLV3で威光魔人を攻撃! そして手札から速攻魔法《沈黙の剣》を発動。サイレント・ソードマンLV3の攻守力を1500アップさせる」
続けて巨大化した
高杉レン LP2800 → 2700
「まだまだいくぜ! 《ディメンション・マジック》を発動。フィールドの《サイレント・ソードマン LV3》をリリースし、手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚。そして《人造人間-サイコ・ショッカー》を破壊するぜ!」
そして最後に残ったサイコ・ショッカーも、遊戯のマジックコンボにより粉砕される。
「ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!
「手札から《バトルフェーダー》の効果発動。このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了する」
「くっ、墓地の《沈黙の剣》と《サイレント・バーニング》を除外して効果を発動するぜ。デッキから《沈黙の剣士-サイレント・ソードマン》と《サイレント・マジシャン LV8》を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドだ」
最後の一撃はとどかなかったものの、遊戯は見事に盤面を覆してターンを終えた。
「エンドフェイズに罠カード《王宮のお触れ》を発動」
武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2
ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500
沈:沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン 攻撃力2500
■:伏せカード
■:伏せカード
■□□□■
□ブ□沈□
□□バ□□
□□触□□
バ:バトルフェーダー 守備力 0
触:王宮のお触れ
高杉レン LP2700 手札5 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。ライフを1000払い、《簡易融合》を発動」
遊戯の場には、1度だけ魔法カードの発動を無効にできる沈黙の魔術師-サイレント・マジシャンがいる。
だが遊戯はこれを通した。
「EXデッキから《サウザンド・アイズ・サクリファイス》を融合召喚扱いとして特殊召喚する。そして効果発動。《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》をこのカードに装備する」
「手札の《ホーリー・エルフ-ホーリー・バースト・ストリーム》の効果を発動するぜ。このカードを特殊召喚し、その効果を無効にする!」
遊戯の手札から飛び出た聖なる光が、千眼呪縛を弾き返す。
「《フォーチュンレディ・ライティー》を通常召喚。そしてこのカードと、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を対象に、手札の《時花の賢者-フルール・ド・サージュ》の効果発動。対象のカードを破壊し、このカードを特殊召喚する」
「くっ、破壊された《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の効果発動。手札から《サイレント・マジシャン LV8》を特殊召喚するぜ!」
白い髪をたなびかせながら、最上級の沈黙の魔術師が遊戯のもとに馳せ参じる。
「こちらもライティーの効果を発動。デッキから《フォーチュンレディ・ファイリー》を特殊召喚。ファイリーの効果発動。《サイレント・マジシャン LV8》を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える」
「なにっ!? ぐあっ!」
武藤遊戯 LP4000 → 500
「《
魔術文字が空間を侵食していく。それはやがて五つの魔法陣を形成し、魔力の奔流を生み出した。
その光は遊戯のフィールドのカードをすべて破壊していく。
「破壊された《運命の発掘》の効果発動。カードを1枚ドローするぜ!」
王宮のお触れの効果が適用されるのは、あくまでフィールドの罠カードのみ。墓地で発動する罠カードには影響しない。
「バトル」
「墓地の《光の護封霊剣》を除外して効果発動。このターン、相手モンスターは直接攻撃できないぜ!」
(用心深さがあだとなったか。もっと強引に攻めても良かったかもな)
クインテット・マジシャンの全体破壊効果を狙い過ぎたとレンは反省する。
「ターンエンド」
高杉レン LP1700 手札2 モンスター3 伏せ0
バ:バトルフェーダー 守備力 0
ク:クインテット・マジシャン 攻撃力4500
フ:時花の賢者-フルール・ド・サージュ 攻撃力2900
触:王宮のお触れ
□□触□□
□□バクフ
□□□□□
□□□□□
武藤遊戯 LP 500 手札2 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン」
デッキに指を添える。恐らくはこれがラストターンになる。このターンに逆転できなければ、自分は負ける。遊戯の直観がそう告げていた。
肺に溜まっていた重い空気を吐き出し、運命のカードを引く。
「――ドロー!」
引き込んだのは、いま遊戯がもっとも欲していたカード。
「このカードをドローした時、相手に公開することで、このカードは手札から特殊召喚できる。こい、我がしもべ! 《守護神官マハード》!」
光の中から、太陽のような
(ここでマハードを引き当てるか)
遊戯の引きに目を見張りつつも、その表情は崩れない。何故なら、遊戯が攻撃してきた瞬間に、自分の勝利が確定するからだ。
「いくぜ! マハードで時花の賢者-フルール・ド・サージュを――」
マハードに攻撃指令を出そうとした瞬間、遊戯のデュエリストとしての勘が待ったをかけた。
このまま攻撃すればやられる――と。
遊戯は気持ちを落ち着けてフィールドを眺めた。伏せカードはない。だとすれば、この直観の正体はレンの手札にある。
遊戯は己の知識を総動員し――その正体に辿り着いた。
「俺はこの
その瞬間、レンの表情は確かに驚愕に彩られていた。
「マハードで時花の賢者-フルール・ド・サージュを攻撃! このカードが闇属性モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、このカードの攻撃力は倍になる!」
集束した光の魔術が、デュエルを終焉へと導く。
「バトルシティ決勝戦――勝者、武藤遊戯!!」
磯野の手が上がり、勝者の名が高らかに宣言された。
ダメステいいっすか?
ダメです。