割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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お久しぶりです。もうちょっとだけ続けます。まあボチボチと。



第25話 学園計画

アメリカは都会とそうでない地域の差が大きい国である。レンやペガサスの生まれたネバダ州は、世界でも最大級のカジノの都、ラスベガスのある州だ。

大小のカジノホテルが存在し、俗に「眠らない街」とも呼ばれている。

そこから東にふたつの州を越えていくと、穀倉地帯として有名なネブラスカ州がある。

いわゆる田舎とされる地域だ。交通の便も悪く、娯楽も少ない。

レンはそこに居を構えるある人物を訪ねていた。

 

「しかしあんたも律義だね。メールで済む用件だろうに」

「顔を見て話したかったのですよ。ミセス」

「日本人らしいおためごかしだねぇ」

 

マイコ・カトウはクスリと笑った。悪い気はしていないらしい。

レンは日本人ではなく、日系アメリカ人なのだが、わざわざ訂正するほどのことではない。

マイコ・カトウも同じく日系人なのだが、日本人としての文化を好んでいるようだ。

 

(年代的に純粋な日本人の可能性もあるな)

 

いわゆる戦前戦後に移住してきた日本人のことだ。あの時代はかなりゴチャゴチャしており、日系移民の排斥運動などもあった激動の時代だ。

レンもあえて仔細を調べようとはしなかった。過去を探られて気分の良い人間は少ないだろう。

 

「今日はお答えを伺いに参りました。此度新設されるデュエルアカデミアで教鞭を取っていただけませんか? 教頭の席を用意しております」

 

マイコ・カトウがカードプロフェッサーを引退し、3人の孫もすでに彼女の手を離れていることくらいは調べている。

レンは彼女に教鞭を取らないかと勧誘しているのだ。

 

「……この車椅子、調子がいいわ。I2社ではこんなものも作ってるんだねぇ」

「いえ、実は製作したのは海馬コーポレーションなのですよ。ここだけの話、KCでは新たにバイク型のデュエルディスクを開発しているようで、その応用だそうです」

「バイクに乗ってデュエルするのかい? そりゃあ面白そうだねぇ!」

 

マイコ・カトウはコロコロと笑った。

 

「ふふっ、私を高く買ってくれるのはありがたいがねぇ。この年で常勤は厳しいかね」

「ということは、非常勤ならば良いと?」

「ええ、いかがかしら?」

 

マイコ・カトウは猫のような愛らしい笑顔でそう言った。

 

「構いません。それで十分ですよ。では後ほど書類を持ってお伺い致します」

 

最上ではないが、上々の返事をもらうことができた。レンはそのまま席を立とうとするが、マイコ・カトウがそれを手で制した。

 

「せっかく来たんですもの。デュエルでもどうかしら?」

 

その瞬間、穏やかな瞳が鋭くなった。

 

「心配しなくてもデュエルの勝敗で契約をごねたりはしないわ。余興よ、余興」

 

(意外と好戦的な人だな。いや、デュエルはコミュニケーションのひとつだから、意外と俺を見極めようとしているのかもな。今はネタデッキしか持ってないが、まあいいか)

 

デュエルでしか見えないものがある……のかもしれない。

 

「受けて立ちましょう」

「素敵なお返事ね。では――」

 

場所を庭に移し、ふたりのデュエルが始まる。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私が仕掛けたんですもの。先攻はお譲りするわ」

 

「ではお言葉に甘えて。私のターン、ドロー。ふむ、ミセス。このデュエル、思いのほか早く決着がつきそうですよ」

 

「あら、そんなに手札が良かったのかしら」

 

当然マイコ・カトウはこの程度の口撃で動揺するような胆力ではない。カードプロフェッサーとして、負けられないデュエルを繰り返してきた経験は、決して揺れることのない精神力(マインド)を作り上げたのだ。

 

「モンスターをセットし、《太陽の書》を発動」

 

「太陽の書……リバース効果ね」

 

カードの影に隠れていたモンスターがその姿をあらわにする。そしてふたりのデュエリストにひとつずつダイスを投げ渡した。

 

「《ダイス・ポット》のリバース効果発動」

 

「……なんてリスキーな」

 

マイコ・カトウが呆れたようにつぶやく。確かにこれならば、思いのほか早く決着がつくという言葉も頷ける。なにせこのターンでデュエルが終わる(・・・・・・・・・・・・・・)可能性もあるのだから。

 

「では私から――出目は『5』ですね」

 

「次は私ね」

 

マイコ・カトウがデュエルディスクを操作して、ソリッドビジョンのダイスを振る。

その出目は――

 

「――『6』ね」

 

「……ん?」

 

ダイス・ポットの効果は小さい目を出したプレイヤーが、相手の出目×500のダメージを受けるというものだが、例外がある。相手が『6』を出した場合、6000ポイントのダメージを受けるのだ。

 

「ぐわぁああぁぁ!!」

 

(さい)の壺から吐き出された炎を浴びて、レンのライフは燃え尽きた。

 

「……ごめんなさいね。こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないわ」

 

「……笑えばいいと思いますよ」

 

レンは精一杯の強がりでそう言った。

 

(なんだか余計に分からなくなったわね)

 

デュエルでレンの為人(ひととなり)を見極めようとしていた彼女は、肩透かしを食らった気分だった。

 

(そうか、この子はカードプロフェッサー(わたしたち)のように、勝敗に執着していない。純粋にデュエルを楽しんでいるんだわ)

 

孫たちの幼い頃を思い出す。新しいカードを手に入れて、ワクワクしながらデッキを組む。エースカードだ、アイドルカードだと言って、まったくシナジーの無いカードを1枚だけ入れておく。

そういった「童心」を持ったまま大人になったのだと、マイコ・カトウは思った。

 

(大体は成長するにつれ「勝つ為のデッキ」に変わりそうなものだけど。この子は少し違うようだね)

 

無論、レンも勝つ為の(ガチ)デッキは持っている。ただ使う場所をわきまえているだけだ。

だが基本的に(ひとつ)のデッキを改良、改善していくスタイルの多いこの世界では、レンのように複数のデッキを使うデュエリストは稀な存在ではある。

 

(悪意の人ではない。分かったのはその程度かね。まあ、面白い子ではある。しばらく付き合ってみるのも、悪くないかもしれないわね)

 

少しだけ、マイコ・カトウは若かりし頃のワクワクを思い出した。

 

「そういえば、キースのボウヤには声をかけたのかい?」

「キース……キース・ハワードですか? いえ、彼は教師という職には興味ないかと……」

 

彼女にかかれば全米チャンプもボウヤ扱いだった。

 

「見かけによらず、あの子は意外と教えたがりだよ。殿堂入りも見えてきたし、そうなったらヒマになるんじゃないかね。声をかけてみたらどうだい?」

「……そこまでおっしゃるのでしたら、一声かけてみましょうかね」

 

絶対断られるだろ、と思いながらも、レンは社交辞令でそう言った。

 

 

 




バトルシティ編では感情を出さないようにデュエルしていましたが、それ以降は普通に楽しんでデュエルしているようです。
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