――社長を辞めたからといって安穏とはさせまセーン。校長として頑張ってもらいマース
――ふぅん。俺たちが造るアカデミアと貴様らが造るアカデミア。どちらが優れているかは、数年後に分かるだろう
――クククッ、俺様はレアだぜ。教師なんてガラじゃあねぇが……ま、報酬次第だな
――また辺鄙なところに造るんだねぇ。非常勤とはいえ、年寄りには堪えるわよ。まぁ、まだまだ若い者に負けるつもりはないけどね
――私は私の意思でここに来たのです。なので気にしないでください。マリクの件は感謝しています。その恩返しとでも思っていただければ
◇
大病院の個室だけあって、窓から一望できる街の眺めは壮観だった。
医師の話では2日ほど寝込んでいたらしい。多少の衰弱はあるが、そこまで大事ではないとのことだ。
マッケンジーはレンよりも一足早く目覚めたらしいが、記憶障害を起こしており、ここ数年の記憶がないらしい。
ともあれ、身体の異常を感じられなかったレンは翌日に退院した。
そして2週間後、改めてマッケンジー宅を訪れ、彼との面談を行った。
「ではここ数年の記憶は全くないと?」
「ええ、何か得体の知れないものと……会話したような記憶は、ぼんやりとはあります。そこから先はまったく……」
こう言われては、レンも嘆息するしかない。
出された紅茶をすすりながら、ふと入り口の方へ目を向けた。そこで、部屋の様子を窺っていた少女と目が合った。
「娘さんですか?」
「ええ、レジー。挨拶をしなさい」
「……こんにちは」
口調は刺々しく、目つきは鋭い。どうやら嫌われているようだが、レンに思い当たるふしはなかった。
「パパはこの人に負けたから、あんなことになったの?」
「いや、それは……」
「でもパパがこの人とデュエルしているところを見たって人がいたよ。だからパパが倒れたって! 校長になれなかったって!」
確かに見方によっては、そうなるだろう。だがレンも倒れたのだから、痛み分けというのが正しいのだが、それを知らないレジーには父がデュエルに負けて倒れたという事実しか分からない。
(そもそもデュエルに負けて倒れるってのを受け入れているのはどうなんだ? それに校長になれなかったとは?)
あの面談は、マッケンジーを教頭として雇うかどうかの面談だった。校長はレンで決定しており、マッケンジーが校長になるなどあり得ないことだ。
(ああ、俺の身体を奪って校長になるつもりだったのか。いや、それだとレジーに校長になると告げるのはおかしいな。俺の意識を支配して、実質的な校長になる予定だったのか? それだってペガサスが気づきそうなものだが……)
穴の多い計画だとは思うが、確かめようにも
「違うんだレジー。彼は関係ない……たぶん」
そして肝心の本人の記憶がないものだから、彼女も納得し辛いのだろう。
「もう少し経てば、記憶もはっきりしてくるかもしれません。今日のところはこれでお
「申し訳ありません。たいしたおもてなしもできずに」
「いえ、とりあえず席は空けておきますのでご安心を」
そう言ってレンはマッケンジー宅を後にした。
そして駐車場に移動したところで、何者かの気配を感じて振り返る。
そこにいたのは、先ほど挨拶を交わした少女、レジー・マッケンジーだった。
「お願い、パパを見捨てないで!」
その声には縋るような想いが込められていた。
(どういうこと?)
だがレンはよく分かっていなかった。おそらく思春期特有の暴走思考で、パパが切り捨てられるとでも思ったのだろう。
I2社が設立するデュエリスト養成所はかなり話題になっており、そこの教頭に抜擢されたマッケンジーもまたしかりである。
レンは気づいていなかったが、この件をきっかけに足の引っ張り合いも起こるだろう。もっとも、自己を高めず、他人の足を引っ張るような輩はペガサスに一蹴されるであろうが。
「何か誤解があるよう……」
「どうしてもダメというのなら、デュエルで勝ち取るわ!」
そう言ってデュエルディスクを構える。この世界ではデュエルで得るもの、失うものの比重は大きくなりつつある。
就職活動で筆記・面接・決闘とあるのも、レンにとっては未だに慣れないことであった。
(「とりあえず」と言ったのが悪かったかな? にしても、この
レンの知る「レジー・マッケンジー」というキャラクターは、高校3年生の落ち着いた女性である。
だがいま目の前にいる少女は、まだまだ幼い。
(こうなったら、クドクド説明するよりデュエルで決着をつけた方が早いな。時間をおけば頭も冷えるだろう)
元々マッケンジーを切り捨てるつもりはない。このデュエルで負けても、レンには失うものはないのだ。
『デュエルッ!!』
「私のターン、ドロー」
(さて、俺が負けた方が話は早いのだろうが、わざと負けるというのはありえないな)
それはデュエリストの矜持に反するし、レジーも納得しないだろう。
「フィールド魔法《暴走魔法陣》を発動。発動時の効果処理でデッキから《召喚師アレイスター》を手札に加える。そしてそのまま召喚。アレイスターの効果でデッキから《召喚魔術》を手札に加える」
杖を携えた白法衣の少年が、反対の手に持った魔導書を開く。
「《召喚魔術》を発動。フィールドのアレイスターと手札の《教導の聖女エクレシア》を素材とし、《召喚獣メルカバー》を融合召喚。そして墓地の《召喚魔術》をデッキに戻し、除外されている《召喚師アレイスター》を手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンド」
高杉レン LP4000 手札4 モンスター1 伏せ1
メ:召喚獣メルカバー 攻撃力2500
■:伏せカード
暴:暴走魔法陣
■□□□□
□□メ□□暴
□□□□□
□□□□□
レジー LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《サンダー・ボルト》を発動するわ」
(いきなりだな。ここは止めるしかないか)
「チェーンしてメルカバーの効果発動。手札の《ライトニング・ストーム》を捨て、その発動と効果を無効にして除外する」
メルカバーの持つ白銀の剣が、雷光を切り裂いた。
「想定内よ。永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を発動。その効果により、手札から《The splendid VENUS》を特殊召喚するわ!」
レジーのフィールドに、白き翼の天使が舞い降りる。
「ヴィーナスの威光により、天使族以外のモンスターの攻守は500ダウンするわ」
召喚獣メルカバー 攻撃力2500 → 2000
「さらに《豊穣のアルテミス》を召喚。カードを2枚伏せてターンエンドよ」
(さすがに攻撃はしてこないか)
レジー LP4000 手札0 モンスター2 伏せ2
ヴ:The splendid VENUS 攻撃力2800
豊:豊穣のアルテミス 攻撃力1600
■:伏せカード
■:伏せカード
神:神の居城-ヴァルハラ
■■神□□
□□ヴ豊□
暴□□メ□□
□□□□■
メ:召喚獣メルカバー 攻撃力2000
■:伏せカード
暴:暴走魔法陣
高杉レン LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー」
(アルテミスということは、エンジェルパーミッションか。ならあまり動かない方がいいな)
「そのままバトルフェイズに入る。メルカバーでアルテミスを攻撃」
「攻撃宣言時、カウンター罠《攻撃の無力化》を発動。その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了するわ。そしてアルテミスの効果で1枚ドロー!」
メルカバーの攻撃は時空の渦に吸収され無効になった。カウンター罠ゆえに、メルカバーの効果もチェーンできない。
またアルテミスのドロー効果もチェーンブロックを作らない永続効果のため、メルカバーでは止められない。
(まあ《The splendid VENUS》がいる限り、メルカバーでも魔法・罠は止められないんだがな。しかし、このままターンを渡すのも不安だな)
「《召喚師アレイスター》を召喚して効果発動。デッキから《召喚魔術》を手札に加える。そしてそのまま発動」
「チェーンして《魔宮の賄賂》を発動。召喚魔術の発動と効果を無効にして破壊するわ。その代わり、あなたは1枚ドローできる。そして私もアルテミスの効果で1枚ドローするわ」
「……なるほど。では1枚ドロー。そして召喚魔術の効果でフィールドのアレイスターとメルカバーを除外して《召喚獣アウゴエイデス》を融合召喚。アウゴエイデスの召喚時効果により、《The splendid VENUS》を破壊する」
光輝なる召喚獣の指から放たれた光が、最上級の天使を包み込んだ。
「……え?」
レジーの口から呆然とした言葉が漏れる。
「ちょ、ちょっと待って! 魔宮の賄賂の効果で召喚魔術は無効になったはずよ!」
「フィールド魔法《暴走魔法陣》の効果で融合モンスターを融合召喚する効果は無効化されない」
「でも私のフィールドにはThe splendid VENUSがいる……いたわ。ヴィーナスがいる限り、私のフィールドの魔法・罠カードの効果の発動及びその発動した効果は無効化されないのよ!」
「暴走魔法陣の効果は「融合モンスターを融合召喚する効果は無効化されない」のであって、相手のカード効果を無効化する効果ではないんだ」
「……え?」
またしてもレジーの口から呆然とした言葉が漏れた。これはレジーの勘違いというよりは、自分のエースモンスターを過信した結果だろう。無効化されない=絶対に通ると思い込んでしまったのだ。
この世界はデュエルディスクがすべての処理を
そのせいか、今回のようにその事態に直面しないと自覚できないのだ。
「あ~、キミにはまだ早かったか。この
「バ、バカにしないで! ちゃんと分かったわよ! ただ……納得できないだけよ!」
「ああ、それなら分かるよ」
レンはしみじみと頷いた。同じような効果でも、カードが違えば裁定が変わるのはよくあることだ。
「まあそれを言っても仕方ないだろう。
高杉レン LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2
ア:召喚獣アウゴエイデス 攻撃力2000
■:伏せカード
■:伏せカード
暴:暴走魔法陣
■□□□■
□□ア□□暴
□豊□□□
□□神□□
豊:豊穣のアルテミス 攻撃力1600
神:神の居城-ヴァルハラ
レジー LP4000 手札2 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。カードを2枚伏せてターンエンドよ」
レジー LP4000 手札1 モンスター1 伏せ2
豊:豊穣のアルテミス 攻撃力1600
■:伏せカード
■:伏せカード
神:神の居城-ヴァルハラ
■■神□□
□□□豊□
暴□□ア□□
■□□□■
ア:召喚獣アウゴエイデス 攻撃力2000
■:伏せカード
■:伏せカード
暴:暴走魔法陣
高杉レン LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
――――――――――――
「私のターン、ドロー」
(アルテミスを守備表示に変更しなかったということは、手札にアレを握っている可能性が高いな。攻撃してこなかったのは伏せカードを警戒したか、カウンターを狙っているか……)
「《召喚師アレイスター》を召喚して効果発動」
「ライフを1500払い、《神の通告》を発動するわ。アレイスターの効果発動を無効にして破壊する!」
「さらにチェーン。ライフを半分払い、《神の宣告》を発動」
「ならこちらもカウンター罠《ギャクタン》を発動するわ!」
「さらにチェーン。ライフを半分払い、手札から《レッド・リブート》を発動」
「くっ、そんな……」
カウンター罠の応酬はレンに軍配が上がった。アレイスターの効果発動は成立し、デッキから《召喚魔術》を手札に加える。
「《召喚魔術》を発動。フィールドのアレイスターと、キミの墓地のThe splendid VENUSを除外して、《召喚獣メルカバー》を融合召喚」
レンは召喚獣の鉄板の動きでレジーを追い詰める。除外されたアレイスターの回収も忘れない。
「バトル。メルカバーで豊穣のアルテミスを攻撃」
「……ダメージ計算前に手札の《オネスト》の効果を発動するわ」
無駄だとは分かりつつ、レジーは手札を切る。当然レンはメルカバーの効果でそれを無効にした。
「アウゴエイデスでダイレクトアタック」
アウゴエイデスの指先から放たれた光線がレジーに突き刺さり、デュエルは終わりを告げた。
「うぅ……ひっく……パパ……ごめんなさい……」
(デュエルに負けて泣く……か。若いなぁ。まあ今回はそれだけではないが)
レンは膝をつき、へたり込むレジーに視線を合わせて、優しく語りかける。
「レジー。キミのパパについては、心配しなくていい。体調に問題がなければ、ちゃんとアカデミアで教鞭を取ってもらうつもりだ」
「……ひっく……ホントに?」
「ああ、本当だ。それと、キミに訊きたいのだが、キミは記憶に何らかの障害があったりはしないかね?」
そう問われ、レジーはわずかに瞑目した。
「実は……私の中の
(本能がリミッターをかけているのか?)
「そうか。すまない、変なことを訊いたね。でも思い出したくないと思っているのなら、無理に思い出さなくてもいいと思うよ」
「そう……かな?」
「そうさ」
レンははっきりと断言した。大人に確信を持って言われれば、子供は意外と納得するものだ。
「うん……なら、そうする」
少しだけ雰囲気が変化して、声色が変わる。
「それと……あ、ありがとう」
レジーはようやく年相応の笑顔を見せた。
前回はちょっと唐突すぎたというか、漫画版GXを読んでない人にとっては誰やコイツってなったかもしれませんね。
簡単に言うと漫画版のラスボスです。とはいえ完全復活はしてないので、エースカードも持ってないし、原作より弱体化しています。
設定上では様々な人間に乗り移り、最終的にエド・フェニックスの父親 → ミスターマッケンジーの体を乗っ取っています。
主人公の影響でそのルートに変更があったのでしょう。
まあこんな感じのサクサクぐあいです。次回より学園編です。