エリートデュエリストを養成する学園、デュエルアカデミア・アメリカ校の試験から一週間。ようやくその結果が届いた。
封書を受け取った母親と共に、少女はドキドキしながら封を切る。
(自信はある。筆記も面接も実技も、ミスらしいミスはなかった)
落ちるはずがない。とは思いつつも、やはり実際に確認するまでは落ち着かない。緊張した面持ちで書類を取り出す。その一枚目には、赤い判で大きく「合格」と押印されていた。
「――よしっ!」
少女は小さくガッツポーズをする。それとは対照的に、母親は小さく項垂れていた。
「ホントに受かっちゃった。ねぇ、なんでアメリカなの? 日本のアカデミアじゃダメなの?」
母親は不安そうに娘に目を向ける。デュエルアカデミアは世界に2校ある。海馬コーポレーションが設立した日本校と、I2社が設立したアメリカ校だ。日本人なら普通は日本校を選ぶ。
「またそれ? 日本校っていっても絶海の孤島だし、あんまり関係ないでしょ」
あっけらかんと少女は言う。それでも日本に居るのと、アメリカに居るのでは、親の安心感は違うだろう。
「でも言葉も違うし……」
当然ながらアメリカ校の授業はすべて英語だ。
「あのね、試験だって全部英語だったよ。それで主席だったんだから、もっと褒めてほしいわ」
そう、少女は大勢の受験生を押さえ、首席で合格したのである。書類には新入生代表の挨拶について打ち合わせがしたいので、他の生徒よりも早く現地入りしてほしいと書いてある。
「それに、プロになるには絶対アメリカ校の方が有利よ。なんたってI2社のお膝元だもの」
日本にもプロリーグはあるが、やはり世界的に注目されているのはアメリカのプロリーグなのだ。
「さっそく準備しないと。あ、荷物はもうまとめてあるから、この住所に送ってね。ふふっ、忙しくなるなぁ」
こうして、首席合格を果たした少女、藤原雪乃は再びアメリカの大地に立つ。
◇
「ではこれが新入生代表挨拶の最終稿になります。よろしくお願いしますね」
「はい。お任せください」
雪乃は小さく頭を下げる
ここはデュエルアカデミア・アメリカ校の校長室。ふたりは最後の打ち合わせを行っていた。
「さて、寮生活で不自由はないかね。日本校ほどではないが、ここも陸の孤島のようなものだからね」
アメリカ校はかなり田舎の方に建設されており、街に出るには車で一時間ほどかかる。
大抵のものは購買部で購入できるし、何なら通販でもいいが、色々と不便なのは確かだ。
「キミは新入生27人の中で最も優れた成績を残した生徒だ。暫定的ではあるが《ファースト》となる。可能な限り便宜は図ろう」
このデュエルアカデミアはプロデュエリストの養成所だ。入学試験の段階でふるいにかけられている。
日本校の実技試験は勝敗よりも内容で審査されるらしいが、アメリカ校は違う。勝つことは最低条件なのだ。
人生の節目である受験という大舞台で、受験用に調整されたデッキにも勝てないようではプロとして大成しないという判断だ。
いじましくとも、泥臭くとも、まずは勝つこと。勝ってこそ初めて道は拓かれる。
故に合格者は少なく、生徒たちも自信を持つ。そして卒業生の9割近くがプロデュエリストになる。
これは日本校に比べて圧倒的に高い数値であり、バックにI2社があるからこその数字だった。
この少数精鋭のやり方を受けて、日本校の分校計画も白紙になったと聞く。
また日本校ではオシリスレッド、ラーイエロー、オベリスクブルーと3つの階級に分けて生徒たちを管理しているが、アメリカ校にはそれがない。
代わりに各学年、上位3名を《スペシャルズ》として扱い、優遇制度を設けている。
例えば学費の免除、豪華な個室、公式大会でのシード枠、新カードの早期入手、そしてプロへの推薦などなど。プロを目指す生徒にしてみれば、垂涎ものであろう。
このスペシャルズの入れ替えは年に2回。前期試験と後期試験の時だけである。
「では、ひとつお願いがあります」
「聞こう」
「校長先生にデュエルを申し込みますわ」
おい、デュエルしろよ。と雪乃は言った。
「私とかね。強者と闘いたいなら、実技最高責任者のキース先生の方がいいと思うが?」
「私、バトルシティのデュエルに感銘を受けましたの」
「随分と懐かしい話だね」
バトルシティのデュエルは映像化されているので、一般人でも入手することはできる。だがデュエルの内容はかなり編集されている。特に闇マリクのデュエルはオカルト部分が削除されあっさり風味となっていた。
「制圧して支配する。普通ならあれでゲームエンドですわ」
「ああ、決勝戦の……残念ながら相手は普通ではありませんでしたが」
レンの敷いた制圧盤面を、遊戯はあっさりと返した。あれを名デュエルと言う者もいれば、
また対話拒否盤面を敷いたレンを指して、壁とやってろと言った者もいた。
「確かに、
「それが望みとあらば、受けて立ちましょう。あの時のデッキではありませんがね」
「ふふっ、かまいませんよ。では、よ・ろ・し・く、お願いしますわ」
色好い返事をもらえた雪乃は妖艶にほほ笑んだ。
そして場所をデュエルアリーナへと移す。
『デュエルッ!!』
先攻後攻の選択権を得たのは雪乃。だが彼女は後攻を選んだ。
「私のターン、ドロー。モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンド」
高杉レン LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2
セ:セットモンスター
■:伏せカード
■:伏せカード
■□□□■
□□セ□□
□□□□□
□□□□□
藤原雪乃 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。ふふっ、随分とお静かなこと。《高等儀式術》を発動するわ。デッキから《
次元の穴から姿を現したのは、巨大な斧を担ぎ、蒼炎を纏った悪魔だった。
「召喚成功時、速攻魔法《収縮》を発動。終焉の王デミスの元々の攻撃力を半分にする」
「……あら?」
雪乃の口から疑問符が漏れる。相手はデュエルアカデミアの教師、ましてや校長ともなれば終焉の王デミスの効果は当然知っているだろう。例え知らなくても、デュエルディスクから情報は得られる。
しかし、この判断の速さは疑問が残る。
「センセイったら見かけによらずせっかちね」
「せっかちな男は嫌いかな?」
「いいえ、遅い男よりはいいわ。早さは回数で補えるし……ね」
「それは重畳」
レンは雪乃の冗談を軽くいなす。
(さすがは校長先生。この程度の口撃じゃ動揺もしないか。さて、普通ならチェーン発動するはず。このタイミングで発動したのは何故?)
相手はデュエルアカデミアの校長だ。意味がないなんてことはない。この行動には必ず意味がある。
「ならば踏み込んでみましょう。ライフを2000払い、デミスの効果発動。このカード以外のフィールドのカードをすべて破壊します!」
「チェーンして《破壊輪》を発動。《終焉の王デミス》を破壊する」
「――ッ!? なるほど、そういうことね」
破壊輪が発動時に参照するのは「攻撃力」である。そして受けるダメージは「元々の攻撃力」を参照する。つまり破壊輪の効果が確定すれば、お互いに2400のダメージを受けることになる。
「だけどそんな決着はつまらないわ。さらにチェーンして《神秘の中華なべ》を発動。デミスをリリースし、その攻撃力分のライフを回復するわ」
藤原雪乃 LP4000 → 2000 → 4400
「デミスがいなくなったことにより、破壊輪は不発になる。だがデミスの効果によって破壊された《マシュマカロン》の効果を発動するよ。デッキから2体の《マシュマカロン》を特殊召喚」
ピンク色のスライムのような物体がレンを守るように分裂する。
「あらかわいい。とも言ってられないわね」
後攻1ターンキルを決めるつもりだった雪乃は、壁モンスターが2体も現れたことでプランを変更せざるを得なくなった。
「ですが、センセイがモンスター効果を使ってくれたので、このカードが発動できます。《三戦の才》を発動。カードを2枚ドロー」
新たに2枚のカードをドローし、雪乃は攻勢に出る。
「《マンジュ・ゴッド》を召喚して効果発動。デッキから2枚目の《終焉の王デミス》を手札に加えます。そして墓地の《
雪乃は2体のモンスターを展開して、2体のマシュマカロンを破壊した。
「カードを1枚伏せてターンを終了します」
藤原雪乃 LP4400 手札2 モンスター2 伏せ1
マ:マンジュ・ゴッド 攻撃力1400
デ:デビルドーザー 攻撃力2800
■:伏せカード
■□□□□
□マ□デ□
□□□□□
□□□□□
高杉レン LP4000 手札3 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《成金ゴブリン》を発動。相手のライフを1000回復し、1枚ドロー。もう1枚《成金ゴブリン》を発動して1枚ドロー。《ブラック・ホール》を発動。フィールドのモンスターをすべて破壊する」
2体のモンスターが漆黒の穴に吸い込まれ、消滅する。
「《イエロー・ガジェット》を召喚して効果発動。デッキから《グリーン・ガジェット》を手札に加える。バトル。イエロー・ガジェットでダイレクトアタック」
ガジェットパンチが雪乃を直撃する。
藤原雪乃 LP4400 → 5400 → 6400 → 5200
「カードを1枚伏せてターンエンド」
「エンドフェイズに《緊急儀式術》を発動します。墓地の《高等儀式術》を除外して、そのカード効果をコピーする。デッキから《アレキサンドライドラゴン》2体を墓地に送り、手札から《終焉の王デミス》を儀式召喚!」
再び漆黒の王が姿を現した。
高杉レン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1
イ:イエロー・ガジェット 攻撃力1200
■:伏せカード
■□□□□
□□イ□□
□□デ□□
□□□□□
デ:終焉の王デミス 攻撃力2400
藤原雪乃 LP5200 手札1 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「私のターン、ドロー。ライフ2000を払い、デミスの効果発動」
「チェーンして《マインドクラッシュ》を発動」
「……マインドクラッシュ?」
またしても雪乃の口から疑問符が漏れた。当然雪乃もマインドクラッシュの効果は知っている。これは相手がサーチをした直後などに使うカードだ。だが雪乃が前のターンにサーチした《終焉の王デミス》はすでに儀式召喚されている。
つまり、レンは雪乃の手札に関して何の情報も得ていないということになる。
「私は《巨大化》を宣言」
「――ッ!? 手札の《巨大化》を捨てるわ」
続いてデミスの効果が適用され、振り下ろされた斧がイエロー・ガジェットを粉砕した。
「……ねぇ、センセイ。タネを教えていただける?」
雪乃は唇に指をあてながらレンに質問した。しだいに紅潮していく顔色が、彼女の気持ちを表している。
「簡単な推測だよ。あの時、キミは《緊急儀式術》でイエロー・ガジェットの攻撃を防ぐこともできたが、それをしなかった。つまりライフを減らしたかった」
それ以外にも、メイン2で除去される可能性を考えたというのもある。
「それはジュニア時代から使い続けているデッキと同じですね。いつまでも同じデッキが通用するほど、この学園は甘くない。アップデートをおすすめしますよ」
「……センセイは受験生のデッキをすべて把握してらっしゃるの?」
「合格者のデッキはすべて把握していますよ。でないとアドバイスもできませんからね」
「ふふっ、やっぱりセンセイはス・テ・キ・な・
昏き穴より光とともに現れたのはひとりの戦士。デュエルを終焉へと導く開闢の使者。
「バトルフェイズに入ります。2体のモンスターでダイレクトアタック!」
デュエルが終わって雪乃は気づく。終始自分が優勢に進めていたように見えたこのデュエルは、その実勝負ですらなかったと。
「校長先生、丁寧な授業、ありがとうございました」
雪乃がペコリと頭を下げる。
「いつか先生の本気を引き出して見せますわ」
「私はいつだって本気ですよ」
「でも全力ではなかった……ですよね。本気の全力でぶつかり合うアツいデュエル。いつか一緒にヤりたいですわ」
雪乃の言葉に、レンは苦笑を顔に広げた。
「ああ、そういえば先生、ひとつ質問があるのですけど、上級生のファーストを教えていただけます?」
「いいですよ。2年生のファーストはケイト・モヘアくん。3年生のファーストはデイビット・ラブくんです」