割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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第32話 交流戦1戦目

鮫島という男について考えてみる。

まず善人であるということに疑いはない。アカデミアを問題なく運営していることも評価できる。

だが教育者としての能力には疑問が残る。

 

それは非情に徹しきれないということ。

それは退学者が極めて少ないということ。

それは赤の制服のままでも卒業を許されていること。

 

(この階級制度も色々と分かんないんだよなぁ)

 

アメリカ校では最低限の一般教養、デュエルの知識、そしてデュエルの強さが求められる。その中で最も重視されているのがデュエルの強さだ。

極論だが、試験で全勝すれば、筆記の成績がどうであれ《ファースト》として認められる。無論、赤点は論外だが。

だが日本校は少々違うように思えた。もちろん部外者であるレンは、詳細な採点基準など知る(よし)もないが。

 

(ここらは海馬と鮫島の意見の食い違いかもしれんな)

 

基本的にデュエルが強ければ問題なかろうという海馬と、生徒の将来を考えれば学力や知識も必要だという鮫島。

デュエルエリートを育成するという主旨からはズレているような気もするが、開校してまだ数年ゆえ議論の余地はあるのだろう。

 

(鮫島も……まぁアニメほどアレ(・・)ではないみたいだし)

 

少なくとも生徒を軟禁したり、失踪した生徒を隠蔽したりはしていないようだ。

またアメリカ校と交流があるため、良いところは取り入れられている。鮫島はそういう柔軟さを持っていた。

 

原作で問題になっていたアンティルールは、そもそも原作とはカード価値が違いすぎるため、この世界ではなかなか成立しない。むしろトレードの方が盛んになっている。

カードが捨てられていた枯れ井戸も、購買部でポイント変換できるようにしたことで解消した。

 

(三幻魔がいてユベルがいないってのも、独特だよな)

 

ユベルの存在は、十代の身辺調査をすればすぐに分かる。三幻魔(と影丸)については、KCと協力して上手く処理した。

今は神のカードと共に、墓守の谷にて厳重に封印されている。

そんなわけで、学園は割と平和である。

 

(後はダークネスと破滅の光だが……)

 

ダークネスの正体は宇宙が1枚のカードから生まれた時のカードの裏側である。だがレンはこの世界がその成り立ちではないと推測していた。だとすれば表側も裏側もなく、ダークネスも存在しない。

 

(斎王は、異能はあるもののごく普通の少年だった。破滅の光は、たぶん憑いていない。調査の結果、存在自体はしてそうだが……どう動くかは予測すらできんな)

 

混同されがちだが、ダークネスと破滅の光は別種の存在である。

 

「高杉校長、そろそろ始まるようですよ」

「……そのようですね」

 

眼下に目を向けると、交流戦の1戦目が始まるようだった。

最初の対戦カードはツァン・ディレvs遊城十代。

司会兼審判であるクロノスがデュエル開始を宣言する。

 

「ではこれヨーリ、先鋒戦、シニョール遊城十代とシニョーラツァン・ディレのデュエルを始めるノーネ!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

先攻はツァン・ディレ。

 

(手札は悪くないね。欲を言えば門が欲しかったけど、そう簡単には引けないか。でもまだ引き込める可能性はある)

 

「ボクは永続魔法《六武衆の結束》を発動。そして《六武衆-ザンジ》を召喚し、続けて《六武衆の師範》を特殊召喚。これで六武衆の結束に武士道カウンターが2つ乗った。このカードを墓地に送り、カードを2枚ドロー」

 

2体のサムライを呼び出し、さらに2枚のカードを引き込む。目当てのカードは引けなかったが、彼女の大将軍(エース)が手元に舞い込んできた。

 

「手札から《大将軍 紫炎》を特殊召喚!」

 

紫紺の覇気を纏った大将軍がツァンのフィールドに舞い降りる。

 

「うぉぉ、カッケー!」

「ふふふっ。そうでしょう、そうでしょう」

 

無邪気にはしゃぐ十代の反応を見て、ツァンも悪い気はしなかった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだよ」

 

ツァン・ディレ LP4000 手札2 モンスター3 伏せ2

 

大:大将軍 紫炎 攻撃力2500

師:六武衆の師範 攻撃力2100

ザ:六武衆-ザンジ 攻撃力1800

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□大師ザ□

 

□□□□□

□□□□□

 

遊城十代 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「よぉし、俺のターン、ドロー! まずは《予想GUY》を発動。デッキから《E・HERO スパークマン》を特殊召喚。続けて手札から《キリビ・レディ》を特殊召喚して、効果発動。このカードを墓地に送り、手札から《E・HERO シャドー・ミスト》を特殊召喚するぜ。そんでシャドー・ミストの効果でデッキから《マスク・チェンジ》を手札に加えるぜ!」

 

雷と闇のヒーローが十代の脇を固める。そして十代はさらなるヒーローを呼び出す。

 

「《E・HERO エアーマン》を通常召喚して効果発動。俺は相手の魔法・罠カードを破壊する効果を選択するぜ」

 

「させないよ。チェーンして《デモンズ・チェーン》を発動。エアーマンの効果を無効にして、攻撃を封じる!」

 

「ならさらにチェーンして速攻魔法――あれ?」

 

十代は手札から速攻魔法を発動しようとするが、強制的にチェーンを切られて処理が始まった。

 

「な、なんでマスク・チェンジが発動できなかったんだ? もしかして壊れた?」

 

十代が困惑しながら軽くデュエルディスクを叩いているが、審判のクロノスは手を額に当てて天を仰いでいた。

 

「あ~、えっとね。ボクのフィールドに《大将軍 紫炎》がいるから、魔法・罠カードは1ターンに1度しか発動できないよ」

 

「マジかよ!? そんな効果があったのか!?」

 

「マンマミーア! やっぱりアナタはドロップアウトボーイナノーネ! 公開情報の確認を(おこた)るナンーテ、ありえなイーノ!」

 

「ゲッ! 悪かったよ、クロノス先生。まぁこんなこともあるって」

 

まるでコントのようなやり取りをする十代とクロノスを、ツァンは少し冷めた目で見つめていた。

 

(緊張して見落としたってわけでもなさそうだし、ボクが軽く見られてる? いや、ボクを油断させてハメようとしてるのかな? でもそんなタイプには見えないけどな~)

 

ツァンは遊城十代というデュエリストを測りかねていた。そしてこの試合の前に交わした、ふたりの言葉を思い出す。

 

――赤で代表に選ばれたということは、相当の実戦派だぞ

――そうね。赤だからといって油断しない方がいいわ

 

あのふたりは赤というレッテルだけで相手を過小評価したりしない。むしろ、赤なのに代表に選ばれたことに警戒の色を示していた。

 

(普通に考えれば、青より強いから選ばれたってことだよね。まあなんにせよ、ミスがうつらないようにしないと……)

 

ミスというのは連鎖しやすいものだ。ベストのプレイで負けたのなら納得もできるが、プレイミスで負けた時の悔しさは筆舌に尽くしがたい。

 

 

――『クロノス教諭』

 

 

いまだ説教を続けていたクロノスに頭上から鮫島の一声が入り、デュエルは再開される。

ここで十代は大きく深呼吸をした。(ミス)の連鎖を止めるための、無意識の所作だった。

 

(おっ、空気が変わったね。ようやくスイッチが入ったかな?)

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

遊城十代 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

シ:E・HERO シャドー・ミスト 攻撃力1000

ス:E・HERO スパークマン 攻撃力1600

エ:E・HERO エアーマン 攻撃力1800

■:伏せカード

 

□□□□■

□シスエ□

 

□ザ師大□

■□□□デ

 

大:大将軍 紫炎 攻撃力2500

師:六武衆の師範 攻撃力2100

ザ:六武衆-ザンジ 攻撃力1800

■:伏せカード

デ:デモンズ・チェーン(対象:E・HERO エアーマン)

 

ツァン・ディレ LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

――――――――――――

 

「ボクのターン、ドロー。《六武衆-イロウ》を召喚し、魔法カード《六武式三段衝》を発動するよ」

 

六武式三段衝は3つ効果の内1つを選択して発動できる。

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

相手フィールド上にセットされた魔法・罠カードを全て破壊する。

 

(さてどうするかな。モンスターを一掃すればゲームエンドまで狙えるけど……)

 

身代わり効果を持つ六武衆の弱点は全体除去である。あの伏せカードがミラーフォースのような逆転のカードであれば、ツァンは一気に苦しくなる。

 

(あのセットカードがサーチした《マスク・チェンジ》だと決め打ちするのは危険すぎるね。ここは確実にいこうかな)

 

「ボクはセットカードを破壊する効果を選択するよ」

 

「くっ、俺の《ヒーロー・シグナル》が!」

 

「後続を呼び出すカードかぁ。まあこれは結果論だから仕方ないね。ボクは4体のモンスターで総攻撃するよ!」

 

ツァンの号令一下、先陣を切った大将軍の一刀がエアーマンを切り伏せ、続く師範の一撃がシャドー・ミストを両断する。

 

「墓地に送られたシャドー・ミストの効果発動。デッキから《E・HERO ブレイズマン》を手札に加えるぜ!」

 

さらにザンジの刺突がスパークマンに突き刺さり、イロウの抜刀術が十代を襲った。

 

遊城十代 LP4000 → 3300 → 2200 → 2000 → 300

 

「くぅぅ、効いたぜ!」

 

「ボクはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ツァン・ディレ LP4000 手札0 モンスター4 伏せ2

 

大:大将軍 紫炎 攻撃力2500

師:六武衆の師範 攻撃力2100

ザ:六武衆-ザンジ 攻撃力1800

イ:六武衆-イロウ 攻撃力1700

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□大師ザイ

 

□□□□□

□□□□□

 

遊城十代 LP 300 手札3 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! よし、これなら! 俺は《皆既日蝕の書》を発動。おまえのモンスターを全て裏側守備表示にするぜ」

 

4体のモンスターたちがパタリパタリとカードの裏に隠れていく。

 

「くっ、やってくれるじゃない」

 

「《E・HERO ブレイズマン》を召喚して効果発動。デッキから《融合》を手札に加えるぜ。そして発動だ。フィールドのブレイズマンと手札のリキッドマンを融合。現れろ、絶対零度の支配者! 《E・HERO アブソルートZero》!」

 

フィールドに水柱が立ち昇り、それが一瞬にして凍り付く。その中央に絶対零度の支配者が降臨した。

 

「リキッドマンの効果発動。カードを2枚ドローして、1枚を墓地に送る」

 

その瞬間、ツァンは伏せカードへと目を向ける。

 

(ここじゃない。あいつの手札には《マスク・チェンジ》がある。ならばあのコンボが来る!)

 

「手札から速攻魔法《マスク・チェンジ》を発動。フィールドのゼロを墓地に送り、EXデッキから《M・HERO アシッド》を特殊召喚するぜ! ゼロの効果でモンスターを全て破壊し、アシッドの効果で魔法・罠カードを破壊する!」

 

「響プロの必殺コンボだね。だけどモンスターは護らせてもらうよ。チェーンして《墓穴の指名者》を発動。墓地の《E・HERO アブソルートZero》を除外して、その効果を無効にする!」

 

「なにっ!? だがもう1枚の伏せカードは破壊させてもらうぜ! アシッドレイン!」

 

水の飛礫(つぶて)が伏せカードを撃ち抜く。だが相手の場には4体のモンスターがいる。アシッドで1体削ったとしても、エンドフェイズに皆既日蝕の書の効果で3枚ものドローを許してしまう。

そうなるとライフが300しかない十代は、そのまま押し切られる公算が高い。

 

「なら俺はこのドローに賭ける! アシッドをリリースして《アドバンスドロー》を発動。カードを2枚ドローするぜ」

 

アシッドが水柱となって消え、2枚のドローカードへと変わる。

 

「いけるぜ! 魔法カード《ミラクル・フュージョン》を発動。墓地の《E・HERO スパークマン》と《沼地の魔神王》を除外して、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》を融合召喚だ!!」

 

白き翼を広げ、光輝なるヒーローが光臨する。

 

「沼地の魔神王? リキッドマンの時だね!」

 

「その通り! シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は墓地の「E・HERO」の数×300アップするぜ!」

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻撃力2500 → 3700

 

(くっ、攻撃力3700……確かあのカードはバーン効果を内蔵していたはず……やっぱりか。このターンでやられることはないだろうけど、ザンジの自爆特攻で破壊するのは不可能になったね)

 

紫炎を破壊されればその攻撃力分の2500のダメージを受ける。残りのライフではザンジで無理矢理突破するのは不可能だ。

だがこのターンを乗り切れば、3枚のドローができる。ならば解決札が引き込める可能性は十分にある。

 

「さらに《H-ヒートハート》を発動。シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は500アップし、貫通効果を得る!」

 

「か、貫通!?」

 

しかし十代もターンを渡せば敗北の可能性が高いことは分かっている。シャイニング・フレア・ウィングマンにさらなるパワーアップを施し、このターンでの決着を狙う。

 

「バトルだ! シャイニング・フレア・ウィングマンでセット状態の《大将軍 紫炎》を攻撃! シャイニング・シュート!!」

 

光の拳が紫炎の鎧を突き破る。そして――

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンの効果発動。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」

 

逆の手から迸った光の奔流が、ツァンを包み込んだ。

 

「――ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 

 

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