割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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第36話 学園祭

交流戦(お祭り)が終われば、また別の学園祭(お祭り)が始まる。

交流戦から3ヵ月ほどが経ち、藤原雪乃は自室でカタログを眺めながら唸っていた。そのカタログには様々なモンスターが描かれている。

その中からコスプレする対象を選ばなければならないのだ。

 

来たる学園祭。1年生はコスプレすることが義務付けられていた。そして、ただコスプレするだけではない。学園からそのモンスターを主軸としたデッキが支給され、そのデッキで来場者とデュエルしなければならないのだ。学園祭はお祭りでありながら、授業の一環でもある。

 

「勝つことを念頭に置けば、ハーピィ・レディやドラゴンメイドなんかは良さそうだけれど……」

 

ちなみに、支給されたデッキをいじることは許されない。完全にレンタルデッキで闘わなければならないのだ。

あまりネタに走ると後悔することになる。

 

「《薔薇恋人(バラ・ラヴァー)》は攻めすぎかしら……」

 

そこには背中が大きく開いた赤いドレスを身にまとった貴婦人が描かれていた。

 

「霊使いもなかなか面白そうね」

 

ヒータのへそ出しルックはともかく、他は比較的おとなしい衣装だった。

 

「幻奏は……あのコンビはなかなか強固なロックだけど、レンタルデッキだからどうかしらね」

 

デッキの内容は当日にならないと分からない。その為のギミックが搭載されているかは現段階では不明なのだ。

 

「あら、これは……」

 

とあるページで雪乃の手がとまる。それはレンがバトルシティで使用していたカードの1枚だった。

とはいえ専用のデッキではなく、ギミックのひとつとして採用していたのだが、このレンタルデッキはおそらく専用の構築がされているだろう。

 

「これにしましょう」

 

雪乃はパタンとカタログを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルアカデミアの学園祭当日。校庭では定番のたこ焼き、焼きそば、りんご飴などの屋台が並んでいた。

だが運営しているのは生徒たちではない。生徒数が圧倒的に少ないこのアカデミアではどうやっても困難なのだ。

 

つまるところ、この学園祭は生徒の運営するものではなく、デュエルアカデミアという場所で開催されるお祭りと言った方が正しい。

都市部から離れ、娯楽の乏しいこのデュエルアカデミアに通う生徒たちへのささやかな贈り物といったところだろう。

 

そしてこの学園祭の目玉といえるのが、1年生のコスプレデュエルだ。生徒数の関係上、いつもは閑散としているデュエルアリーナは多くの観客が詰め寄せ、満員御礼だった。

毎年1年生がコスプレをして挑戦者(お客さん)と闘うのだ。プロの卵ともいえるアカデミアの生徒とデュエルできるとあって、希望者は多い。ファーストの雪乃はそこで大トリを務める。

その控え室で、雪乃は最後のデッキ確認を(おこな)っていた。調整はできないが、デッキ内容を暗記しておくのは基本である。

 

「むっ。早いな、藤原」

 

控え室に来た万丈目が雪乃に声をかける。が、雪乃は万丈目の姿(コスプレ)を見て呆気に取られていた。

 

「アナタはてっきりドラゴン族を選ぶかと思っていたけれど、意外ね」

「俺は普段からドラゴンを使ってるからな。変わり映えしないデッキでは評価されないと思ったんだ。カタログを見る前から【ローレベル】でいくと決めていた」

 

万丈目はブスッとした口調で答えた。

 

(デッキ選択ではなく、初見のデッキをどう回すかが見られるところだと思うけれど……)

 

雪乃はそう思ったが確信はない。万丈目の言うように、普段のデッキと似たようなデッキではなく、正反対のデッキを選んだ方が、チャレンジ精神が旺盛であると評価される可能性もある。

ともあれ、いまさらな話であるが。

 

「それ……おジャマ・イエローよね」

 

触覚のような目玉に黄色い身体。そして赤い海パン。コスプレではなく、そんな着ぐるみを来た万丈目に問う。

 

「このデッキは凄いぞ。おジャマモンスター6種が3積みで18枚も入っている。事故率がハンパない!」

 

やけくそ気味に万丈目が叫ぶ。

 

「通常モンスター2体で《始祖竜ワイアーム》が出せるんじゃない?」

「そんな気の利いたものが入ってると思うか?」

「まあ、そうよね」

 

雪乃のデッキにも、正直微妙とも言えるカードが入っていた。とはいえ、抜いたり差し替えたりするわけにもいかない。

 

「まあ、勝ち筋はいくつかありそうだ。ところで、おまえの格好は……ハイネか?」

「……黒だけで判断したでしょ? まあ、闇属性・魔法使い族というところは合ってるわ」

 

雪乃が呆れたようにため息を零す。

そうこうしているうちに、万丈目が呼ばれ、大トリの雪乃に声がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ本日最後のコスプレデュエル! 大トリを務めるのは当然ファーストの生徒だ! アカデミアの1年トップ、藤原雪乃!」

 

ノリノリで司会をしているヨハン・アンデルセンの紹介で、雪乃はデュエルリングに進み出た。

観客席に向かって大きく手を振る。

 

「そして対戦者の登場だ!」

 

反対側の入場口から現れた少女に、会場は一瞬静まり返る。そして、それが大歓声に変わった。

 

「オイオイオイ、ブラック・マジシャン・ガールじゃねぇか。完成度たけぇな!」

「オイオイオイオイ、可愛すぎだろ! 死んだわ俺」

「僕も」

「ワイも」

 

何人かの観客が鼻血を出してぶっ倒れる。

 

(まあ、お客さんがコスプレしちゃいけないわけじゃないけど)

 

毎年の名物だけあって、客側もコスプレしてくる場合はある。しかしここまで完成度が高いのは珍しい。まるでカードの中から飛び出てきたようである。

雪乃は内心で舌を巻いた。

 

「応援ありがと~! 頑張りま~す!」

「こいつは可愛らしい挑戦者だ。先攻後攻の選択権は挑戦者(キミ)にあるぜ。どっちを選ぶ?」

「じゃあ先攻でお願いします!」

「了解だ。じゃあいくぜ。せーの!」

 

ヨハンが観客席に向かって合図を送る。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「わたしのターン、ドローで~す。いきなり行きますよ。《黒魔術の秘儀》を発動。手札の2枚を融合します!」

 

ブラック・マジシャン・ガールは手札の2枚を指に挟むと、くるりと手首を回転させる。

 

「精霊界の平和を守るため、わたし(勇気)お師匠さま()融合(ドッキング)! 融合召喚! 愛と正義の使者、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》!」

 

融合の渦中から現れたのは、2体の魔術師。その登場に観客は一層の盛り上がりを見せる。

 

「まだまだいくよ~! 《死者蘇生》を発動。墓地の"わたし"、復活! そしてブラック・マジシャンズ(わたしたち)の効果でカードを1枚ドローします」

 

ふわりとブラック・マジシャン・ガールが蘇り――

 

「そして《星呼びの天儀台》を発動。わたしをデッキの一番下に戻し、カードを2枚ドロー!」

 

すぐさまデッキに戻って、ドローカードへと変わる。

 

「さらにモンスターをセットして、カードを2枚伏せてターンエンドで~す」

 

B・M・G LP4000 手札1 モンスター2 伏せ2

 

超:超魔導師-ブラック・マジシャンズ 攻撃力2800

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□■□■

□□超□セ

 

□□□□□

□□□□□

 

藤原雪乃 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。永続魔法《フォーチュン・ヴィジョン》を発動。デッキから《フォーチュンレディ・ライティー》を手札に加えるわ」

 

ブラック・マジシャンズ(わたしたち)の効果でカードを1枚ドローしますね」

 

「好きになさい。フィールド魔法《フューチャー・ヴィジョン》を発動」

 

周囲の景色が歪み、異次元空間に包まれる。

 

「《フォーチュンレディ・ライティー》を召喚。この瞬間、フューチャー・ヴィジョンの効果が発動され、ライティーは次の私のターンのスタンバイフェイズまで除外されるわ。そして効果でフィールドを離れたライティーの効果発動。デッキから《フォーチュンレディ・ファイリー》を特殊召喚」

 

ライティーが杖を振るって呼び出したのは真紅の衣装を身にまとった魔法少女。その少女が杖を振るえば、巨大な火球が現れる。

 

「ファイリーの効果発動。《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

「な、なんですと~!? ですがただではやられませんよ。破壊時効果により、墓地からお師匠さまを、デッキからわたしを呼び出しちゃいます!」

 

魔術師の師弟が炎に包まれたかと思えば、それぞれが左右の違う位置から出現する。さながら脱出マジックのようだったが、破壊されたことに変わりはなく、きっちりダメージは発生していた。

 

B・M・G LP4000 → 1200

 

「カードを4枚伏せてターンエンドよ」

 

藤原雪乃 LP4000 手札0 モンスター1 伏せ4

 

フ:フォーチュンレディ・ファイリー 攻撃力400

■:伏せカード

■:伏せカード

ヴ:フォーチュン・ヴィジョン

■:伏せカード

■:伏せカード

チ:フューチャー・ヴィジョン

 

■■ヴ■■

□□フ□□チ

 

セブ□ガ□

■□■□□

 

セ:セットモンスター

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

B・M・G LP1200 手札2 モンスター3 伏せ2

 

――――――――――――

 

「わたしのターン、ドロー。おっ、良いカードを引けましたよ」

 

ブラック・マジシャン・ガールはニマッと笑って、詠唱のために息を吸い込む。

 

「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる爬行(はこう)する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形。結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れ。魔導の九十・《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!!」

 

「カウンター罠《運命湾曲》を発動。そのカードの発動を無効にして除外するわ」

 

しかしブラック・マジシャンの杖より放たれた魔術は、無情にも次元の穴に吸い込まれていった。

 

「えぇっ!? 頑張って覚えたのに……噛まずに言えたのに……っていうかなんのコストもなしのカウンター罠ですか!?」

 

「一応、私のフィールド上のモンスターが「フォーチュンレディ」のみという条件はあるわ。それに無効にしたカードはこのターンのエンドフェイズに持ち主の手札に戻るわ」

 

「……それって一時しのぎにしかならないのでは?」

 

ブラック・マジシャン・ガールは訝しんだ。

 

「ええ、そうね」

 

と雪乃も同意する。だが昨今のデュエルにおいて、1ターン稼ぐことの意味は想像以上に大きい。

 

「う~ん、これは悩みどころですねぇ」

 

ブラック・マジシャン・ガールがほほに指をあてて首を傾げる。相手の場には3枚の伏せカード。攻め込むには少々不安がある。エンドフェイズには《黒・魔・導》は帰ってくるが、次のターンに発動条件である《ブラック・マジシャン》が場に残っている保証はない。

 

「待った方がいいんでしょうけど、今日はお祭りです。攻めちゃいますよ。装備魔法《魔術の呪文書》を発動。わたしの攻撃力を700アップします!」

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000 → 2700

 

「バトルフェイズに入ります。まずはわたしが先陣を切ります!」

 

ブラック・マジシャン・ガールが手にしたロッドをくるりと回す。

 

「攻撃宣言時、《パワー・フレーム》を発動。その攻撃を無効にし、このカードをファイリーに装備するわ。そしてファイリーの攻撃力はその時の攻撃モンスターとの攻撃力の差分アップする」

 

フォーチュンレディ・ファイリー 攻撃力400 → 2700

 

「ありゃりゃ、パワーアップがあだとなっちゃいましたか。ですが甘いです。リバースマジック《ディメンション・マジック》を発動。セットモンスターをリリースして、手札からもうひとりのわたしを特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン・ガールの隣にもうひとりブラック・マジシャン・ガールが現れる。

 

「ブラマジガールがダブルでキター!」

「ブラマジガールがふたりとか豪華すぎるだろ!」

「でもさ、ディメンション・マジックを伏せてたのなら、ファイリーの効果をかわせたんじゃね?」

 

(ブラック・マジシャンズの効果は破壊時にしか発動できない。リリースしてしまえば、ダメージは回避できるけど、後続は呼び出せない。それよりもフューチャー・ヴィジョンの効果にチェーン発動されてたら、かなりキツかったわね)

 

ライティーの効果は「時の任意効果」なのでチェーン2以降にフィールドから離れるとタイミングを逃すのだ。

 

(《ワンダー・ワンド》が入ってるのは絶対に罠よね。便利なドローソースではあるのだけれど……)

 

「その後、相手モンスター1体を破壊します。《フォーチュンレディ・ファイリー》を爆☆殺! もうひとりのわたしで直接攻撃! ブラック・バーニング!」

 

ブラック・マジシャン・ガールの振るう杖から炎の魔術が迸る。

 

藤原雪乃 LP4000 → 2000

 

「これでお終いです! お師匠さまでダイレクトアタック! ブラァァック・マジック!」

 

「そちらは通さないわ。《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドロー」

 

「むむっ、かわされちゃいましたか。わたしはこれでターンを終了します。エンドフェイズに《黒・魔・導(ブラック・マジック)》が戻ってきますよ」

 

「こちらもエンドフェイズに《フォーチュン・インハーリット》を発動するわ。次のスタンバイフェイズに手札から2体まで「フォーチュンレディ」を特殊召喚できる効果よ」

 

B・M・G LP1200 手札1 モンスター3 伏せ1

 

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2700

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

魔:魔術の呪文書(対象:ブラック・マジシャン・ガール)

■:伏せカード

 

 □魔■□□

 □ガガブ□

 

チ□□□□□

 □□ヴ□□

 

ヴ:フォーチュン・ヴィジョン

チ:フューチャー・ヴィジョン

 

藤原雪乃 LP2000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

ドローしたカードを確認した雪乃は、思わず口角を上げた。

 

(我ながら良い引きだわ)

 

「スタンバイフェイズに除外されていたライティーが戻って来るわ。そして《フォーチュン・インハーリット》の効果で、手札から2体の《フォーチュンレディ・ウォーテリー》を特殊召喚。それぞれの効果で、カードを4枚ドローするわ」

 

「4枚ドロー!?」

 

「そしてフォーチュンレディの共通効果で、ライティーとウォーテリーのレベルが1つあがるわ」

 

フォーチュンレディ・ライティー レベル1 → レベル2

フォーチュンレディ・ウォーテリー レベル4 → レベル5

 

「さあ、反撃開始よ。永続魔法《異次元隔離マシーン》を発動。私のフィールドのライティーと、あなたのフィールドのブラック・マジシャンを除外するわ」

 

「お、お師匠さまァァァ!」

 

次元の穴に吸い込まれていくブラック・マジシャンに手を伸ばすが、その手が届くことはなかった。

 

「効果でフィールドを離れたライティーの効果発動」

 

「また赤いあの子ですか!?」

 

「そうしたいところだけど、ファイリーは1枚しか入っていないのよ。私が呼び出すのは、《フォーチュンレディ・ダルキー》!」

 

漆黒の衣装を身にまとった魔法少女が現れる。それを見たブラック・マジシャン・ガールは思わず「あっ」と声を漏らした。

 

「もしかしてあなたの衣装……」

 

「今頃気づいたのかしら? そうね、あなた風に言うのなら、"私"で攻撃、と行きましょうか」

 

ダルキーが杖を腰だめに構え、ブラック・マジシャン・ガールへと向ける。

 

「私で、攻撃力の低い方のあなたを攻撃! ダーク・フェイト!」

 

「ふふっ、甘いですね。マシュマロンマシュマロくらい甘々です! 攻撃宣言時、《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動! 絶望の淵に沈みなさ~い!」

 

ブラック・マジシャン・ガールが華麗なステップで逆転の舞いを披露するが、そのバリアは乾いた音を立てて崩れ去った。

 

「はぇ?」

 

「永続魔法《フォーチュン・ヴィジョン》の効果よ。自分フィールドのカード(フォーチュンレディ・ライティー)が効果で除外されたため、このターン、私のモンスターは効果では破壊されない」

 

「な、なんですと~!? ですがふたりの攻撃力は同じ……」

 

「速攻魔法《タイム・パッセージ》を発動。私のレベルを3つ上げるわ。そしてレベルが上がったことで、攻撃力も上がる」

 

フォーチュンレディ・ダルキー 攻撃力2000 → 3200

 

漆黒の杖から放たれた暗黒魔法がブラック・マジシャン・ガールが包み込む。

 

「ジャ、ジャストキル~!」

 

「対戦ありがとうございました」

 

デュエルを終え、雪乃は優雅に一礼した。

 

 

 




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