割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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第37話 押し売り

未来予知の力というのは、千年タウクの能力であって、イシズの能力ではない。イシズの能力はあくまで千年タウクの力を引き出せるというだけであって、イシズが未来予知できるわけではないのだ。

 

だがこの少年は違う。タロットカードを使いはするが、それは補助的なもの。むしろ演出的な部分が大きい。その方が、客が納得しやすいから。

しかし千年タウクと違い、確実な未来が見えるわけではない。とはいえその力を求める者や、恐れる者はいる。それが迫害にまで発展することも、ある。

 

(正直、関わるつもりはなかったんだがな)

 

そもそも斎王の居場所をレンは知らない。調べようともしていない。I2社の力を使って探すこともできたが、変に藪をつつきたくなかったというもある。

では何故この少年(正確には兄妹(きょうだい))がレンの前にいるのかというと、イシズが拾ってきたからだった。

 

ここで何故イシズがI2社にいるのかを説明すると、エジプトから派遣されて来たのだ。

エジプト政府側としてはマリクの件でレンが譲歩しすぎたことを不気味に思っているらしく、人材派遣という形の人質を差し出して来たのだ。そして意外にも、イシズ自身も乗り気だった。

 

(闘いの儀も終わったしヒマになったのかね。まあ秘書として雇って、後は夜行月光に引き継げばいいか)

 

と思っていたのだが、何故かイシズはレンについて学園(アカデミア)設立に尽力することとなった。

今は保健室で養護教諭を務めている。

 

話を斎王琢磨に戻そう。

当時の彼らは逃亡中だった。特定の誰かというよりは、人々の悪意(世間)からといった方が正確かもしれない。

レンに彼らを保護することはできる。I2社の力を使わずとも、それくらいの権力や財力はある。

 

しかしこれまで、様々な悪意にさらされてきた彼にとって、善意というのもまた胡散臭いものなのだ。

レンは一切気を緩めぬ彼の気配からそれを感じ取った。

 

「取引をしましょう」

「……伺いましょう」

「私は、こう見えても敵の多い身でね。キミは私に危機が迫った時、それを教えてくれるだけでいい。その対価として、キミと妹が不自由なく暮らせる生活を保障しましょう」

 

無論これは方便だ。レンに敵対している人間はいない……こともないが、社長を辞めた今ではわざわざ狙いに来る者もいないだろう。またI2社に限っていえば、レンよりもペガサスの方が影響力は高い。

先日襲われた"悲劇"は交通事故のようなものだろう。

 

斎王はレンの目を見据えた。

相手はI2社の元社長。後ろ盾としては申し分ない。だが、信用していいのか。問題はその一点に限る。

 

「もちろん契約書も用意しましょう」

「……分かりました」

 

これが決め手になった。このアメリカは契約社会と呼ばれるほど、契約書の内容を重視する。ここで自分の意思を明確にしておけば、いざという時にも有利になる。

まだ全面的に信用したわけではないが、一時の住処を手に入れるには悪くない条件だと思った。

 

またレンは気づいていないが、彼の傍らで浮遊し、少年に微笑みかける金髪の少女も、斎王を安心させる一助となっていた。

こうして斎王琢磨とその妹、美寿知はレンの庇護下に入った。

 

(もう随分と昔のことだな)

 

急にそんなことを思い出したのは、携帯電話の液晶に映る名前を見たからだ。彼の方から連絡が来るのは、初めてだったから。

 

「ハロー、斎王。元気かね」

「契約を果たす時が来たようです」

 

声は至極真面目だった。いや、深刻というべきか。

 

「穏やかではないね」

「逆位置の恋人(THE LOVERS)。不倫や浮気などの不誠実な男女関係に陥ったり、快楽に溺れ気持ちのコントロールが抑えられなくなります」

「……私は独り身だ。不倫も浮気もありえないな」

「ええ、続きがあります。正位置の死神(DEATH)。それが表すものは終点、損失。あなたは今、どうやっても止められない流れに飲み込まれています。手の打ちようがないまま物事が強制的に終了してしまう、ということもありえます」

「……穏やかではないな」

 

知らずに口調が素へと戻っていた。

 

「普通に考えれば、あなたに片思いをしている女性が衝動的に、あるいは計画的に動き出す可能性があります。あなたを攫い、監禁する。あるいは、心中する」

「強硬手段に出る前に、まず告白してほしいところだがな」

 

あいにくと、この学園に来てからそんな経験はない。

 

「……ここからは私の勘ですが、そんな生易しいものではないような気がします。なんにせよ、警戒してください」

 

そう言って斎王は通話を切った。

 

斎王(占い師)でも勘とか言うんだな。しかし……)

 

レンは斎王の言葉を反芻する。

 

(終点……終わり。損失……命。物事……人生。取りようによっては物騒だな)

 

そんなことを思いつつも、今日は早く帰ろうと、レンは校長室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原雪乃が入学時から一度もファーストを譲らなかったのは、本人のたゆまぬ努力と、ささやかな願掛けのおかげだったのかもしれない。

このデュエルアカデミアの歴史はまだまだ浅いが、それでも3年間ファーストを守り通せた生徒はいない。

 

その史上初の実績を掲げてプロへと入る。その時、初めて雪乃はあの人に想いを伝えようと決心していた。

しかしそれは、最後の最後で覆された。

 

万丈目準という男は、いつまでも2番手に甘んじている男ではなかったということだ。

闇の竜が迫り、己のライフを削り取る。

デュエルディスクから聞こえる乾いた音、敗北を告げる音はいつまでも耳に残った。

 

(油断していたつもりは、なかったのだけれど……)

 

努力していたのは自分だけではない。万丈目もまた、兄たちの重圧に負けず努力し続けていたのだ。

それが最後の最後に結実した。

 

(どうしようかしら)

 

この気持ちをなかったことにはできない。しかし、何も伝えずに卒業して、ただの一生徒として見送られるのは御免だ。

彼の記憶に残りたい。

彼の心に、藤原雪乃という名前を刻みたい。

 

――あの男が欲しいのか?

 

最初は憧れだった。それがいつしか、恋心へと変わった。

 

――屈服させればいい

 

巷では恋愛決闘(ラブデュエル)というものが流行っているらしい。先日読んだデュエル雑誌で特集されていた。無論、勝てば付き合えるというものではなく、デュエルという形での告白のようだが。

 

――力が欲しいか?

 

それは闇の底から響いてくるような声だった。そこで雪乃は、はたと気づく。

 

(この声は、なに? どこから聞こえて……)

 

――力が欲しいのなら

 

室内は霧のような、白いもやのようなものに包まれていた。

深淵から漏れ出た光が、雪乃の心を侵食していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――くれてやる

 

 

 




次回は1枚だけオリカが登場します。一応『神』のカードなのでご容赦ください。
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