学園から教員寮への帰路、うす暗い夕方の逢魔が時に、それは現れた。足の重さを感じたレンは、続けて重い空気が、瘴気のようなものが自分を包み込んでいくのを知覚した。
「身体が動かないでしょう? それは仕方のないことよ。あなたの身体は今、急速に
その言葉通り、レンは確かに動けずにいた。指先を動かすこともできず、瞬きすらできない。
聞き覚えのある声だった。そして聞き覚えのない声音だった。
(……誰だ?)
「あなたを永遠のものとしたいの。捕らえて、大事に大事にしまっておきたいの」
背中になにかが這った。レンの頭の中に斎王の警句が蘇る。
(なるほど。これは終点の危機だな)
意外なことに、レンにはまだ余裕があった。この瘴気に覚えがあったのだ。さすがに3回目ともなれば嫌でも慣れる。
(……闇のゲームか)
ならばまだチャンスはある。相手が問答無用で自分を始末するつもりなら、それこそ打つ手はない。
「私たちは一心同体となるの。心も身体もひとつになるの。そうすれば、永遠に一緒。ずっと、ふたりきり」
何かを言おうにも、唇が動かない。レンにできることは、相手の言葉を聞くことだけだ。
「ああ、そういえば、動けないのだったわね」
正面にぬっと現れた顔は、レンのよく知る少女だった。その瞳の色以外は。
レンは反射的に後方へと跳び
「あら、つれない人。ふぅん、デュエルをご所望なのね」
レンは無意識にデュエルディスクを構えていた。だがこれは悪い展開ではない。
「お互いデュエリストだ。デュエルで決着をつけようか。俺が勝てば、その子を返してもらうぞ」
「ふふふっ、私はこの娘の願いを叶えてやろうとしただけだ」
「曲解して、だろう。さっさと構えろ」
「ふん。いいだろう」
『
「私のターン、ドロー。手札1枚をコストに、《スネーク・レイン》を発動。デッキから爬虫類族モンスター4体を墓地へ送る。そして墓地より《溟界の
漆黒の鱗を持つ大蛇がとぐろを巻いて現れる。
「このカードは私のフィールドにモンスターがいない場合、墓地より特殊召喚できる。まあフィールドを離れた場合に除外されるけどね。そしてヌルをリリースし、墓地より《溟界の
高い守備力を持つモンスターを並べ、カードを2枚伏せて雪乃はターンを終えた。
藤原雪乃 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2
カ:溟界の黄昏-カース 守備力2400
ナ:溟界の滓-ナイア 守備力2000
■:伏せカード
■:伏せカード
□■□■□
□カ□ナ□
□□□□□
□□□□□
高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。《
ゴシック風の衣装を着た銀髪の双子悪魔がハイタッチを交わし、レンに向かって一礼する。
「続けて墓地の《Vivid Tail》の効果発動。このカードをセットし、アリアンナを手札に戻す。そしてアリアーヌの効果発動。カードを1枚ドローし、手札から《
白銀の鎧に身を包んだ迷宮城の主が優雅な仕草で登場し、視線をチラリとレンに向けてウインクを送る。
「バトル。迷宮城の白銀姫で溟界の黄昏-カースを攻撃!」
白銀の剣を振りかぶり、白き淑女が突撃する。その双撃は、黄金の鎧を容易く斬り裂いた。
(伏せカードは動かずか)
相手は変わらず闇色の瞳を歪め、奇怪な笑みを続けている。
「カードを2枚伏せてターンエンド」
「エンドフェイズに《毒蛇の供物》を発動。ナイアとおまえがいま伏せたカード2枚を破壊する」
「チェーンして《迷宮城の白銀姫》の効果発動。発動した罠カードとは違う名称の罠カードをデッキからセットする。俺は《聖なるバリア-ミラーフォース-》をセット」
高杉レン LP4000 手札4 モンスター2 伏せ2
白:迷宮城の白銀姫 攻撃力3000
ア:白銀の城の召使い アリアーヌ 攻撃力1800
ビ:伏せカード(Vivid Tail)
聖:伏せカード(聖なるバリア-ミラーフォース-)
□□ビ聖□
□□白ア□
□□□□□
□■□□□
■:伏せカード
藤原雪乃 LP4000 手札3 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー。《溟界妃-アミュネシア》を捨てて《トレード・イン》を発動。カードを2枚ドローする。さらに手札を1枚捨てて《スネーク・レイン》を発動。デッキから4体の爬虫類族を墓地に送る」
(墓地がヤバいことになってるな。爬虫類族限定とはいえ、おろかな埋葬×4だからな)
「墓地の《溟界の滓-ヌル》を自身の効果で特殊召喚。そしてヌルをリリースし、墓地より《溟界の
鋭い爪を持つ獣のような漆黒の爬虫類族が影より現れる。
「その後、おまえは自分の墓地からモンスター1体を手札に加えることができるが、おまえの墓地にモンスターはいない。そして特殊召喚時の効果で、除外されているヌルとナイアを墓地に戻す。続けて《溟界の蛇睡蓮》を発動。デッキから《溟界神-オグドアビス》を墓地に送る。その後、墓地に5種類以上の爬虫類族がいる場合、追加効果が発動できる。当然条件は満たしている。復活せよ、《溟界神-オグドアビス》!」
胴長の巨体をうねらせ、漆黒の蛇がその翼を広げる。
「オグドアビスの効果発動。墓地から特殊召喚されたモンスター以外のモンスターを全て墓地へと送る」
迷宮城の白銀姫はセットカードがある限り効果破壊耐性を得るが、墓地送りには無力だ。レンの場にいる2体の悪魔たちは墓地へと送られた。
「バトルだ。オグドアビスでダイレクトアタック」
「なにっ!?」
セットカードが《聖なるバリア-ミラーフォース-》であることは相手も承知している。攻撃してきたモンスター2体に破壊耐性もない。
(あの伏せカードが罠カードを無効にするカウンター罠か? だとしてもこのままではやられる。使うしかない!)
意を決し、レンは伏せカードの1枚を発動する。
「底知れぬ絶望の淵へ沈め! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動! 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」
崇高なる輝きが世界の全てを包み込む。レンに襲い掛かってきた2体の大蛇は光に包まれて消滅した。
「通った……?」
ミラーフォースは、確かにその効力を発揮していた。しかしそれは、さらなる絶望への呼び水でしかなかったのだ。
「ふふふっ、私のモンスターが相手の攻撃または効果で破壊された場合、ライフを半分払うことで、このカードは手札から特殊召喚できる。顕現せよ――」
闇の中から巨大な蛇舌が現れる。続けて爛々とした一対の瞳が出現し、額に3つの宝玉が埋め込まれた頭部が出現する。
「《蛇神ゲー》!!」
「ゲーだと!?」
驚愕するレンとは対照的に、雪乃の哄笑が闇にこだまする。
「ふふふっ、ハハハハハッ、蛇神ゲーで攻撃! インフィニティー・エンド!」
巨大な毒牙がレンへと迫る。
高杉レン LP4000 → 3900
しかし予想に反して、削られたライフはわずかに100。その結果にレンは困惑した。
(……生きてる? しかし、蛇神ゲーだと!? ダーツとアレは無関係のはず……だよな? そうだ、効果を……)
レンは慌てて蛇神ゲーの効果を確認する。幸いにもデュエルディスクは、蛇神ゲーの効果を正しく表示してくれていた。
(――ッ!? 原作効果ではない。しかしこれは……ラーの翼神竜に匹敵するか、それ以上の……クソッ、こいつも湧いて出たクチか!)
「相手にダメージを与えた時、このカードに「蛇神カウンター」を1つ置く」
額にある宝玉の1つが赤々と光を放つ。
「このカウンターが3つ溜まった時、ふふふっ、どうなるのだろうなぁ!」
結果は言わずとも知れた。レンに残された
「ターンエンドだ」
藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1
神:蛇神ゲー 攻撃力 100
■:伏せカード
□□□■□
□□神□□
□□□□□
□□ビ□□
ビ:伏せカード(Vivid Tail)
高杉レン LP3900 手札4 モンスター0 伏せ1
――――――――――――
「俺のターン、ドロー! 墓地のミラーフォースを除外して、手札から《悪魔嬢アリス》を特殊召喚」
攻撃表示で呼び出されたアリスが「え? マジで?」とレンに視線を送るが、蛇神ゲーがいる限り、強制的に攻撃表示にされるので守備表示で特殊召喚しても結局は同じことなのだ。
「《白銀の城の召使い アリアンナ》を召喚し、リバースカード《Vivid Tail》を発動。悪魔嬢アリスを手札に戻す。この瞬間、アリアンナの効果が発動する。カードを1枚ドローし、手札から《白銀の城のラビュリンス》を特殊召喚する」
先ほどの鎧姿ではなく、今度は純白のドレスに身を包んだ迷宮城の主が現れた。
「白銀の城のラビュリンスの効果発動。墓地の通常罠カードを1枚をセットする」
迷宮城の主が手に持った白銀の斧をドスンと地に落とす。その音に驚いたのか、墓地でスヤァと眠っていたアリアーヌがそそくさと《和睦の使者》をセットした。
「《毒蛇の供物》で破壊した1枚か。なるほど、それを使い回して時を稼ぐ算段か」
この時点で、レンには3つの勝利プランがあった。
まずはプランA。それはデッキアウト狙い。雪乃は2枚のスネーク・レインを使い、デッキの総数はレンよりも少ない。
蛇神ゲーは戦闘ダメージを与えた時に「蛇神カウンター」が1つ灯る。先ほど雪乃自身が言ったように、和睦の使者を使い回して時間を稼ぐ。
次にプランB。それはバーンダメージを与えること。レンのデッキには《墓穴ホール》が入っている。だがこれは相手依存のカードであり、サーチすれば相手も知ることとなり、この策は水泡に帰す。
また、蛇神ゲーは「他の自分のモンスターは攻撃できない」という永続効果を持っており、モンスターを展開することはまずないだろう。
この時代はまだチューナーがいないため手札で効果を発動するモンスターはそう多くない。
最後はプランC。それは直接攻撃でライフを削る。レンのデッキ(正確にはEXデッキ)には直接攻撃できるモンスターがいる。
だが火力の問題があり、コンボを成立させなければならない。
(プランAをメインとするのは消極的すぎるか。隙あらばプランB、主軸をCとした方が良いな)
デッキアウトを狙うなら、こちらもドロー、サーチを抑える必要がある。レンはそれを悪手だと感じた。
(時間をかけるのはマズい気がする)
デュエルが始まってから、雪乃の被支配深度が加速度的に大きくなっている気がしていた。この得体の知れないナニカは、確実に雪乃の意識を侵食しているのだ。
「カードを2枚セットしてターンエンド」
高杉レン LP3900 手札2 モンスター2 伏せ3
ラ:白銀の城のラビュリンス 攻撃力2900
ア:白銀の城の召使い アリアンナ 攻撃力1600
和:伏せカード(和睦の使者)
■:伏せカード
■:伏せカード
□和■■□
□□ラア□
□□神□□
□□□■□
神:蛇神ゲー 攻撃力 100
■:伏せカード
藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー。悠長な策につき合うつもりはない。《サンダー・ボルト》を発動」
「チェーンして《和睦の使者》を発動。さらに《白銀の城のラビュリンス》をリリースして、《闇霊術-「欲」》を発動。カードを2枚ドローする」
相手は魔法カードを見せることで、闇霊術-「欲」の効果を無効にできるが、雪乃の手札は0。選択の余地はなかった。
ひとり残されたアリアンナは天雷に撃たれ、チリチリアフロになった銀髪を整えながら墓地へと沈んでいった。
「だがこれで使い回しはできまい。ターンエンドだ」
「それはどうかな。《戦線復帰》を発動。墓地の《白銀の城のラビュリンス》を守備表示で特殊召喚する」
だが蛇神ゲーの眼光を受けて、強制的に攻撃表示となる。
「……しぶとい」
藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1
神:蛇神ゲー 攻撃力 100
■:伏せカード
□□□■□
□□神□□
□□ラ□□
□□□□□
ラ:白銀の城のラビュリンス 攻撃力2900
高杉レン LP3900 手札4 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。白銀の城のラビュリンスの効果発動。墓地の《和睦の使者》をセットする」
レンは確実にアドバンテージを稼いでいるが、一瞬たりとも油断はできない。2回の戦闘ダメージを受ければ、いくらライフが残っていようと敗北は免れない。
「《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《悪魔嬢アリス》を除外する。《悪魔嬢ロリス》を召喚して効果発動。墓地の《闇霊術-「欲」》と、除外されている《Vivid Tail》、《聖なるバリア-ミラーフォース-》をデッキの下に戻し、カードを1枚ドローする」
幼女の悪魔がポポイと3枚の罠カードをデッキに戻し、代わりに1枚のカードをレンへと届ける。
(――そろった!)
キーカードがそろった。だがあの不明の伏せカードの正体を暴いてからでないと攻め込めない。
あの伏せカード次第では、勝ち筋が消えてしまう。
「カードを2枚伏せてターンエンド!」
高杉レン LP3900 手札3 モンスター2 伏せ3
ラ:白銀の城のラビュリンス 攻撃力2900
ロ:悪魔嬢ロリス 攻撃力1500
和:伏せカード(和睦の使者)
■:伏せカード
■:伏せカード
□和■■□
□□ラロ□
□□神□□
□□□■□
神:蛇神ゲー 攻撃力 100
■:伏せカード
藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1
――――――――――――
「私のターン、ドロー」
「スタンバイフェイズ、《和睦の使者》を発動。さらに《白銀の城のラビュリンス》をリリースして、《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動。俺は「罠カード」を宣言する」
セットカードは《エネルギー吸収板》だった。
(やはり効果ダメージの対策はしていたか。手札は――)
「私の手札は《ハーピィの羽根帚》。魔法カードだ」
「……悪魔嬢ロリスの効果で、墓地の《和睦の使者》をセットする」
「徒労だな。《ハーピィの羽根帚》を発動。おまえの魔法・罠カードを全て破壊する。ターンエンドだ」
藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ0
神:蛇神ゲー 攻撃力 100
□□□□□
□□神□□
□ロ□□□
□□□□□
ロ:悪魔嬢ロリス 攻撃力1500
高杉レン LP3900 手札3 モンスター1 伏せ0
――――――――――――
「俺のターン、ドロー。さて、終わりにしよう。そろそろ」
「ほぅ、ついに膝を折る覚悟を決めたか」
「逆だ」
「……どういう意味だ?」
「俺の勝ちだってことだよ。手札を1枚捨て、悪魔嬢ロリスを対象に、《マスク・チェンジ・セカンド》を発動。EXデッキから《M・HERO
幼女の鎧が変形し、漆黒の鬼と化す。
「バトル」
雪乃のフィールドには蛇神ゲーただ1体。マリクの闇人格にも言えたことだが、絶対的な力を持つとその力を過信しがちになる。
神に頼らなかった遊戯や海馬が、いかに規格外のデュエリストかが分かるだろう。
「手札から速攻魔法《コンセントレイト》を発動。闇鬼の攻撃力を守備力分アップする」
《M・HERO 闇鬼》 攻撃力2800 → 4000
「いくら攻撃力を上げようが、蛇神ゲーには届かんよ!」
「何を勘違いしているんだ? 俺が攻撃するのは蛇神ゲーじゃない。おまえ自身だ」
「なん……だと……」
漆黒の鬼は蛇神をすり抜け、直接雪乃にその拳を向ける。
与えるダメージは半分となるが、その一撃はデュエルを終わらせるのに十分な威力を秘めていた。
「私は……人々の願いを……」
「本質を捻じ曲げ、結果だけを手に入れても意味はない。願いとは己の意志と力で叶えるものだ。おまえの出番はない」
レンは薄々気づいていた。この存在の本質は、単純な"邪悪"ではなく、願いを叶える"システム"か、超自然的な"概念"のようなものだと。
「……違う……私は願われたのだ……ワタシハ……ネガワレタ……ノダァァァ……」
風船から空気が漏れるように、雪乃の身体から白いもやが立ち昇った。
蛇神ゲー 闇属性 レベル12
攻撃力 100 守備力 0 爬虫類族/特殊召喚/効果
このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。
①:自分フィールドのモンスターが相手の攻撃・効果で破壊された場合、LPを半分払って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果の発動に対して効果は発動できない。
②:このカードが特殊召喚に成功した時、LPを半分払って発動できる。相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て破壊する。この効果は無効化されない。
③:このカードは他のカードの効果を受けない。
④:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードをリリースできない。
⑤:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。
⑥:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターは攻撃表示になり、表示形式を変更できない。
⑦:このカードが相手モンスターを攻撃するダメージステップの間、そのモンスターの効果は無効化される。
⑧:このカードが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。このカードの攻撃力は、ダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。
⑨:このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、このカードに蛇神カウンターを1つ置く。このカードに蛇神カウンターが3つ乗った時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。
ぶっちゃけゲーである必要はなかったんですけど、そこはご容赦ください。
アバターとヴェノミナーガを足して最終突撃命令を添えた感じですね。
原作よりはかなりマイルドになってます。