夏に何か出すと言っておいて、何も出せていない悲しみを力に書きました。
もうちょっと設定練りたい。
遠い昔の記憶だった。
とある時代に世界を巡り続ける、ボロ布のような旅人がいた。
彼女は、大切な何かを見つけるために、
ずっとずっと、ずっとずっと昔から、
旅路を歩んでいた。
その頃の私はヒトの言葉をニュアンスで理解できど、
ヒトの言葉は話せないものだから、
ついに、探し物が何であるか、知ることができなかった。
いつからか彼女の足は、動かなくなった。
休んでもいた。眠ってもいた。
それでも、一生をかけて酷路を歩き続けることは、
人の肉体には過ぎたる業だった。
だから、彼女は足を買うことにした。
共に歩んでくれる足を。
共に目指すべきものを探す瞳を。
もうそう長くない命を、
いつか還る骸を運んでくれる、そんな友を。
そうして出会い、
その頃の私だった、名付けられた
目覚ましが鳴っている。
窓から溢れる朝の光が、乱雑に散らばる白毛を照らす。
すっと伸ばされた細い腕は、
正確に目覚ましのスイッチを叩き、
朧げに開かれた黄金の瞳が、世界を正しく認知させた。
ということは、それは夢だったのだろう。
遠い異国の地。
ボロ布の彼女を、
四足歩行の
共に旅をしたあの日々は。
ウマ娘。
走ることが大好きな、そんな生物。
断じて、あのロバに似たイキモノではない。
しかし、数えるのも忘れるぐらいあの夢を見た後では、
流石に、あのロバ擬きな自分が本当だったのではないかなんて、
バカバカしい考えが脳裏にこびりついたままだ。
「ま、いっか。」
ずっと夢のことを気にしていても仕方がない。
大事なのは今現在と現実である。
テレイドスコープはささっと起きて、身支度を始めることにした。
点けられたテレビから流れる昨日の大レースのリプレイと
窓の外からのばたばたと力強い足音をBGMにパジャマを洗濯機に放り込み、
普段着をタンスから引っ張り出す。
貧血気味なのか低血糖気味なのか知らないが、
ずっとこの調子の薄ら痛む頭、ちらつく視界に顔をしかめつつ、
キッチンのインスタントココアとお湯、更に山盛り砂糖を投下。
満を持していっきのみ。
これで頭痛は誤魔化せる。
が、今日は特に酷いようだ。音が一瞬遠ざかって、反響する。
視界だってもとに戻らない。
いやまあ、かって知ったる我が家だ。目が無くともウマ娘のセンスとフィジカルで移動には困らないが、めんどくさいのは変わらない。
やっぱり理由はわからない。やはり低血糖というやつなのだろうか。
頑丈過ぎるのが我が取り柄なのだが、
肉体の許容範囲を越えると直ぐこれである。
限界を無視できるのは便利だが、どうにも反動がキツイ。
流石に昨日の、
仕方がない、学校には休みの連絡を入れておこう。
昨日の事故について、もう学校に伝わっているのは知っているが、
休みの連絡はまた別だろう。
▶
怒られてしまった。
激情家な担任なのは知っていたが、
それにしても怒ることはないだろう。
身体に傷一つなく、臓器に不全も無い。
熱無し、咳無し、少々の立ち眩み_______
「おっす!テレスコ!ニュース見たぜ?まーだ体調悪そうだし、そんなとこでぼーーとしてないで布団にダイブだ!!」
「ひゃあっ」
視界が突如ひっくり返る。
頭が誤作動を起こして喉が鳴った。
受話器が空を飛び、
ばふんと____運よくカーペットの上だったようだ___転がった。
私とは違う、美しい銀色の髪が舞う。
むにゅんとなんとも言えない感触が顔面を遅い、その身長差を思い出す。
「ゴールドシップ、相変わらずだね。」
「おうおう元気無さそうじゃねーか。そんなお前さんの為に大親友なゴールドシップ様がやってきてやったぞーかくごしやがれ!!」
「やめてゴールドシップやめて。さすがのわたしでもさんけつはしぬ。やめてゴールドシップやめて。」
その完成された無邪気さは凶器、ゴールドシップのゲリラ攻撃である。
すわいつの間にな違法侵入だ。断じて許さん。
「そんな顔するなそんな顔するな。ほらお見舞いにカレスコが大好きな金林檎を剥いてやるからこのまま一回意識落とせ。鮮やかな失神術、その身で味わうがよーい!」
カレスコって誰だよ。私はテレイドスコ___なに金林檎だと。いやまて確かに林檎は大好物だが、
金林檎なんてゲームじゃあるまいし。いやホントに金色。
まさか金箔_____カクリ
「よし、落ちたな。コイツ、トレーナー以上に丈夫だから寝かしつけるのが一苦労なんだよな....タキオンに睡眠薬でも今度頼むか。さーてさてさてさてー、さっさと林檎剥いてトレセン向かうか。ゴルシちゃんは大忙しだぜ☆」
ま、ニュース見たときはヒヤッとしたが、なんとか大丈夫そうで安心したぜ。
情報が直ぐ届かなかったのは、昨日レースがあったことを譲歩してトレーナーはピコピコ百連(ウマ娘の腕力)の刑として、あとは、
頑丈過ぎる肉体。
そして、事故現場にぽつんと一つ残っていた
やっぱり、
「ま、準備はなんとかなるだろ。手回しもマックイーンとかに頼んであるし。」
とある日、偶然見つけてしまった、
万人、いやそれ以上分の一人の逸材である。
今のトレーナーと出会えた時のようなワクテカを抑えられないゴールドシップは、
いつになく上機嫌で林檎を剥く。
その皮は、確かに黄金に輝いていた。
▶
目を覚ましたらターフにいた。
もう一度言おう。
目を覚ましたらターフにいた。
知らない景色だ。
どないせっちゅうねんと叫びたくなったが、
遠くからウマ娘たちの掛け声や足音が聞こえてきている。
ここで叫べばまるっきり不審者なのでぐっとこらえることにする。
あれ、叫んでもいないのにこっちを見ている。
「ね.....見.....あの子....袋」
「ゴー....プ....可哀....」
自分を見下ろす。
袋である。そりゃ叫ばずとも目立つ。
ご丁寧にもデカデカとデコられたゴルシ印の対ウマ娘用の強化袋のようだ。
首だけが袋からつき出せており、ピチピチなサイズが故、
手を動かす余裕すらも無い。
行動制限の完璧な手法に、降参である。
警戒しているのか、関わりたくないのかわからないが、少々薄情が過ぎるのではないだろうか。
ああ、きょうもそらはあおい。
▶
未だに眩む視界を端に寄せ、テレイドスコープは能天気に微睡み始めた。
今日と明日に関しては学校は休みだし、ここは兎に角静かで暖かだ。
体調不良と現実逃避のダブルパンチは、彼女を夢へと落としてゆく。
テレイドスコープが見れる夢は一つだけ。
異国の旅路を進む者の物語。
親近感と強烈なデジャヴュを覚える、珍妙な生物は兎も角、その数多の御話を、彼女は大好きだったのだ。
・スコウプ = テレイドスコープ
時代と環境と共に、伝えられてきた伝承は変質していく。
この世界におけるスコウプテレイドスコープという馬は、競走馬では無い故に、モブウマ娘という存在でしかないわけだが。
その微かな信仰は、確かな力となっていた。
テレイドスコープ:レンズの先の景色を万華鏡模様に変化させるお洒落スコープの意。カレイドスコープの親戚。
走るより歩く方が好きなウマ娘。
道草が好き。幼い時は野草を拾ってはその場で戴いていた。今でも手が出そうになっては踏み止まる。よくスーパーの駐車場の花壇に自生していたノビルをむしゃむしゃしていた。怒られた。よく山道で自生していたフキをむしゃむしゃしていた。怒られた。
異質な頑丈さを持ち合わす。
中身が頑強過ぎて何度か骨が皮膚を突き破ること多数。
筋肉がゴムのように引き伸ばされること多数。
普通に死ねるので幾度の病院送り。
ウマ娘は人型のくせにその馬力なので、カタチに慣れない幼い時期によく起こる悲惨な事故であったが、それにしては頑丈過ぎた。