綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴   作:温めない麻婆=ちゃっぱ

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第九話 暗躍と日常

 

 

 

 ひとまず住処をどうにかしようと思いウルク市街へ向かうことに決めた。

 ウルクに住む民とは違う珍しい服装から警戒はされたが、ギルガメッシュがサーヴァントを召喚していたこともあってか、ある程度話をして「困っていることはないか?」と聞いたらいくつかの仕事を斡旋してくれた。

 

 おそらくギルガメッシュに報告はされているのだろう。いや、確実にされていると言峰は理解しつつもウルク市街で働く日々を送っていた。

 おそらく王に対して────怪しい服を着た見知らぬ男が外部から来たと告げているはず。

 

 ギルガメッシュに対しての懸念点はある。

 言峰はただそれだけに悩んでいたが、ただ立ち止まっていても仕方がないのだと思考を切り替えた。覚悟を決めたのだ。

 己自身が本物の言峰綺礼ではないこと。偽物であるが故の敵対はされるかもしれぬという可能性。それはカルデアに召喚された幼少期のギルガメッシュと話していて理解したことだ。

 

 言峰綺礼としての記憶に流れる────あの冬木で召喚された大人な方のアーチャーのギルガメッシュが召喚されるのなら、自分を殺しに来るだろうという可能性が高いことも理解していた。

 まあ、もしもカルデアにて子ギルではなく通常の英雄王が召喚されて自分自身が殺された場合、ギルガメッシュに対する警戒心を藤丸立香が抱いていた可能性もあり、カルデア内でいくつか絆に溝ができたかもしれないのでそこも愉悦できるだろうと気にしていなかった。そう言峰は内心、頬を吊り上げる。

 

 

「……ふむ」

 

 

 仕事は出来るということでひとまず住処は与えられた。

 ついでにと服もウルクの民が着ている一般的なものに着替えて一般人に見えるように擬態したつもりだ。そのため一般的な男性の服装であるズボンのみ。上半身裸で過ごしている。

 

 まあ分かる者にはわかるだろうが。

 

 やりたいこともあった。それはいくつかの暗躍。

 ある程度ウルクの国を働きながら探った結果、こちらを見つめる目があることに気づく。その視線を追って森の中に入ってみるとエルキドゥの姿をしたキングゥに会うことが出来た。

 

 

「ついて来い。母さんに会わせる。言っておくが、何かしたら……」

 

「ああ。分かっているとも」

 

 

 やはりと、言峰は理解した。

 敵側としてキングゥと協力しろということだろう。だからレイシフトされたのかと。

 

 キングゥが言うにはティアマトとしての役割を被せられた『彼女』の世話をしろとのこと。腹が減ったら食事を手配し、命じられるがままに動けという。

 とりあえずそれはウルク市街で動く以上は出来ることじゃないと断り、いつものようにスパイの真似事であれば出来ると言っておいた。

 キングゥはこちらを睨んできたがギルガメッシュの近くで動けることがどれだけ重要かわかっているのか拒否されることはなかった。

 

 ギルガメッシュがやっていることについて伝えろと言われたのでそれには了承しておく。

 あとその日が来た時にはいろいろ扱き使ってやるからなとも言われたので、言峰は涼しげな顔で頷いておいた。

 

 まだキングゥは言峰の事を信頼しきっていない様子だったが、接していく内にその警戒心の解き方が分かってきた為、それを解き解すように動いた。

 キングゥは言峰に対して何度も文句を言っていたが、次第に諦めが入っていったのか、言峰が近寄っても何も文句を言わなくなった。

 

 それを狙っていたのだ、言峰は。

 

 ウルク市街で働きつつもキングゥに命じられたことはやる。

 ウルクの民を殺戮しろという言葉には「ほう? それはそれは……確かに私という獅子身中の虫を用いればウルクの勢いを大幅に削ぐことが可能だろう。それこそお前の『母』やその子達による無計画にして無秩序な()()()()()より余程効率的に、な」と煽ってやったらキレて攻撃してきたこともあった。が、相当この皮肉が堪えたのだろう。キングゥから無茶ぶりを命じられることはなくなった。

 

 あの『彼女』については、言峰は慎重に動くことにした。

 

 キングゥだけでなく『彼女』も言峰自身を見下す。それは言峰も理解している。

 もしもキングゥのように藪をつつけば文字通り巨大な蛇が出てきそうだから。なので彼女には最大の警戒をしつつ、従順さを装って動くことを言峰は決めたのだ。

 

 平和すぎる日常に何かが起きる気配はない。

 未だギルガメッシュから「来い」という命令もなく、何かしらの反応も来ないのだ。

 敵対もされず、何かを言われることはない。放っておいて構わない程度の雑兵だと思われているのだろう。

 

 ただ、監視はされているようだった。

 たまに森の中に入っていく言峰は、その背中に視線を感じることがあったから。

 

 しかし監視をしても構わないと言峰は鼻で笑う。

 森の中まで追いかけてきても、意味はないのだから。

 

 なんせキングゥと話していたのはウルクに入ってすぐの頃。そこでも監視の目があったとしても問題はない。だから堂々と動くことにした。

 

 言峰にとって真の意味で味方と呼べる者など存在しない。遍く全ては己の歪んだ欲求を満たすための贄に過ぎない。ひとまずの目標としてゲーティアを盛大に裏切ることに決めていた。だから最終的にギルガメッシュを勝たせればいいのだろうと思っていたから。

 

 もちろん気分が変われば藤丸立香と敵対する可能性も無きにしも非ずだが……。

 それはその時の状況。その日の気分。そして言峰がやるべきことを終えた時に見えた周りの状況による。愉悦が可能な面白おかしい立ち位置を狙うため、言峰は毎日ウルクのために尽くした。

 

 そうして、気づいたのだ。

 

 

 

 

「順調だな……」

 

 

 現在言峰が密かにやろうとしていたのは、ちょっとした布教。

 食事に出されたものの中に豆があるのなら、豆腐が作れやしないかと模索することに決めて動いていたからだった。

 

 

 

 


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