綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴   作:温めない麻婆=ちゃっぱ

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第十一話 ギャグで終わるのはこの話だけ

 

 

 

 

 

 言峰は、己自身に起きている影響というものをちゃんと理解していた。

 最初はもう少し人の事をきちんと考えていたはずだった。裏切り行為についても理解していた。何があろうとも最終的に藤丸立香の味方としてゲーティアを裏切ろうと思っている。それは今も同じく。

 

 ────しかし、状況によってはそれがひっくり返るかもしれない。そう言峰は自分自身の揺れ動かされる感情の答えを見出していた。

 これはある意味、愉悦なるもの。

 

 他人が絶望することが、ではない。

 どのような状況であれ苦悩し絶望の果てにどう足掻くのか、それに興味があった。

 藤丸立香がどのような危機的状況で立ち向かえるのか見てみたいという気持ちもあった。しかし計画通りにうまくいかなくていいという気持ちもある。

 

 もしもこのまま藤丸立香を裏切ったままならば、人理は確実に崩壊するだろうから。

 

 しかしどうにも本能とやらを止める術はない。

 ならばもういっそのこと楽しめばいい。どのような状況であれ、流されるがままに生きようと決めたのだ。

 

 それが言峰の身体に憑依した『彼』自身が見出した答えであった。

 

 だから今、彼は己の欲求に突き動かされるままやるべきことをやっていた。

 ウルクの服を身にまとい、上半身裸で汗を流しながらも────。

 

 

「ああ、ようやくか……この時を待っていた!」

 

 

 香辛料は何処から調達するべきかと悩んだ時もあった。山菜などいくつか探して、見つからない時もあった。どこぞの英霊が「菓子でないならいらぬ!」と放り投げたものを食べ比べ、味に近いものを探す日々。

 

 それ以外にも以前、ギルガメッシュによって召喚された言峰の苗字を一時期使っていたルーラーなる男、天草四郎が言峰の働いている場面に出くわし二度見どころか三度見されたこともあった。

 その時の言峰はレンガ造りを真面目に行っており、いい汗をかいていたのだが、天草四郎はそんな言峰を見てドン引きしてるようだった。

 

 しかし言峰は彼の反応を見てよくわかった。

 

 ウルク市街でたまに監視されているような視線を感じていたのだが、それは監視者による独断かそれともギルガメッシュ王による極秘の任務だったのか。

 

 監視者についてはとにかく、天草四郎は知らなかったらしい。

 

 天草四郎から「何故ここに?」と若干警戒されつつ問いかけられたので、言峰は流石に正直に話せるわけではないととっさに「麻婆を作るために来た」と答えてやった。天草四郎は引き攣った笑みを浮かべた。

 

 その後いくつか彼と会話をして────そうして、麻婆豆腐を作るためのきっかけを知った。

 

 ギルガメッシュ王はこの世のありとあらゆる宝を手に入れたゴージャスなるもの。ならば、言峰が知るあの麻婆を作るための材料も持っているのではないかと。

 

 困難な道のりだった。

 言峰は一時期死ぬ思いをした。しかしある理由で冥府に逝きかけたギルガメッシュ王と話をすることが出来たおかげで材料が手に入ったのだ。

 

 

 

 それが今、ここにある。

 

 

 

 

 言峰はごくりと喉を鳴らした。

 そのピリッとした辛い匂いというのは、空腹へと導くスパイスとなった。

 目に痛いと思えるほどの真っ赤なもの。白色の豆腐が赤色の沼に沈む。その中にいくつかの肉が注がれ、ドロドロに混ざっていく。

 

 あまりの刺激物に悲鳴を上げたのは、空腹でよく菓子をねだる鬼子だった。

 顔を青ざめて逃げ出したのは言峰が麻婆制作時に興味本位で近づいて来たウルクの民も同じく。

 

 ギルガメッシュ王に報告するつもりらしいが────言峰のサーヴァントとしての聴力が良すぎるからだろうか。ウルク市街にすら聞こえてくるほどの笑い声が響き、やがて消えた。それに悲鳴を上げる誰かの声も聞こえた。

 

 

 周りがどのような状況であれ、今の言峰はこれを食らうしかない。

 

 言峰にとって食事とは作業の一つだった。

 栄養を身体に取り込むため。サーヴァントにとっては娯楽のため。

 それをきちんと理解していなかったから、言峰は食事をまともにやるつもりはなかった。

 

 ただ、麻婆だけは別なのだ。

 麻婆は言峰綺礼にとって心を動かされたものの一つ。

 

 そして目の前にあるのは必死に動いた結果手に入ったもの。それを食べないわけにはいかない。

 

 言峰は口を開けて────。

 

 

 

「おいお前、いったい何を食べようとしているんだ」

 

 

 聞こえてきた声に、再び口を閉ざした。

 

 視線が温かな麻婆からとある温かな緑へ向けられる。

 

 冷たい声色。その中に浮かぶ困惑、懐疑、ドン引きしたような感情。

 それらを見た瞬間、反射的に心の中で笑いながらも、言峰はキングゥの方を見た。

 

 

「見て分からないか? ────これは麻婆の、試作品だ。いや、完成品に近い代物だな」

 

「いや、見て分かるわけないだろ。何言ってるんだお前は……」

 

 

 再び呆れたような目が言峰に襲い掛かる。

 

 しかし彼はまじめにやった。真面目に心を動かされたものを作ろうとした。情熱的に、真剣に、魂の逸品を作り上げたのだから。

 

 

 そんな言峰の感情なんて知らぬとばかりにキングゥは鼻で笑う。

 

 

 

 

 

 

「母さんが呼んでる。来い」

 

 

 

 キングゥは言峰に伝えたあと、すぐに彼から離れて何処かへ向かっていった。

 

 きっと早く来いと言いたいのだろう。それはキングゥが言外に伝えてくるプレッシャーで理解している。

 

 

 しかし、と────捨てるわけにはいかないからと、言峰は真剣に麻婆を食べてから行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ここから先はギャグが死んでシリアスが出てくるので、温度差で風邪をひかないように注意してくださいね。また、作者自身いろいろと理解不足な所もあるかもしれないのでそういう時は遠慮なくご指摘していただくと嬉しいです。そして誤字報告、いつもありがとうございます! 本当に助かります!

この作品の続きを期待してくれる方、高評価や感想などしていただけると嬉しいです(もちろん強制じゃないです)

ギルガメッシュ王と言峰との邂逅についても番外編かどこかで書きたいですが、また今度。

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