綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴 作:温めない麻婆=ちゃっぱ
『行かないで、いかないで────』
聞こえてきた声に言峰は我に返った。
ふと気づけば周りは闇の中。何もかもが歪み、認識すらも全て薄暗く憎しみすら抱く悪へと改造されていくようなもの。
何処かで見たことのあるような────でも何かが違う泥のようなもの。それに浸かっている感覚だった。
薄寒い場所だった。
吐き気がするような何かに、言峰は襲われ続けていた。
言峰としてではない、ラスプーチンのサーヴァントとしてのエネルギーを食らいつくそうとしているのだろう。
身体が酷く軋む。何かに内側から食らいつくされていく感覚に襲われる。
自分が自分じゃなくなる恐怖にも似た何かが這い上がってきたと、錯覚した。
激痛に襲われた。
魂を歪ませるような何かに、自分が侵されていくと理解する。
何故こうなったのか。言峰はちゃんと理解していた。
口を開けたら周りにある何かが入り込んできて内側へ侵入するだろう。もう今更な気もしたが、気分が悪くなることだけは避けたいので言峰は決して口を開かない。
ただ、キングゥに呼び出されたから来た場所で、突然突き落とされたのだ。
蛇の巣穴のような場所。抵抗する間もなかった。
いや、言峰が本気を出せば抵抗しキングゥや『彼女』から逃げ、生き延びることぐらいは出来る。しかし言峰はキングゥがどう動くのかを見てみたい衝動に駆られ、無抵抗のままでいることに決めてしまった。
それが、どういう最後になるのかも知らずに。
言峰によってラスプーチンのサーヴァントとして召喚された『彼自身』は、本能である感情に振り回されて動くのは程々にした方がいいと理解した。むしろここまでやってきてよく生きてきた方かと思っている。
このまま消滅したら『自分』はどうなるだろうか。消えてしまうのか、それとも中身が異なるラスプーチンとして座に登録される────のは、あり得ないかと、彼は思考を回す。
さて、このまま消えてしまう方が早い気もするが、まだ言峰は抵抗する力があった。
ここから先は、どうするべきかと彼は悩む。
『いかないで────』
ごぽり……と、言峰は何かを吐き出した。
口を閉ざし続けていても、内側に侵入する何かを止めることはできない。
これはきっと、人をラフムへと変えてしまうもの。
サーヴァントをオルタへと堕としていく極悪なるものだろう。
もう何時間、何日、何か月経ったのだろうか。
永劫ともいえる時間を繰り返してきた気がする。己自身が屈するまで、心が泥に侵され全てがアレの配下となるために攻撃され続けている。
『抵抗しないで』
愛おしいというような声は、明らかに言峰に向けて放たれている。
それを受け止めるつもりはない言峰は、ただどうして自分はこのままここに居るのだろうかと首を傾けた。
死ぬときは一瞬。後悔はなかった。己を殺すために動いたキングゥにも、恨みなんてものはない。
これは己の油断が招いた事態なのだから、このまま消滅してもそれは自分に問題があっただけでとりあえず麻婆は食べれたのだし、愉悦するために裏切ろうと思っていたがまあ仕方なしと受け入れるつもりだったのだ。
その時の状況に、ただ流されるように。
エネルギーとして消耗されるのなら、それもまた運命というべきものと許容した。
しかし何故か、言峰はそれらに侵し尽くされても、襲われ続けてもなお意識はそのままだった。
痛みはある。違和感も確かに存在する。
それなのに、どうして自分は消滅しないのかと────。
(……ああ、そういえばそうだったな)
言峰は嗤う。
彼の中には、サーヴァントとしてのラスプーチン。そしてその依り代たる言峰綺礼がいる。
己の中に彼らがいる限りというか、一番の問題は言峰綺礼だが、あの男が自分を生かし続けているようなものかと理解したのだ。
彼は言峰綺礼であり、ラスプーチンであり、また『彼自身』であった。それを言峰は理解していた。
だから自分はオルタにはならない。
彼の中に眠る言峰綺礼がそれ等の毒を飲み干すように、抵抗し続けるのだ。
────まだ、やるべきことが残されているぞと言うかのように。
だから言峰は泣き続ける誰かの声に耳を貸さずに動くことに決めた。
突き落とされた場所から這い上がることを選んだ。
どのくらいの時間がかかってもいいと、彼は己の力が尽きるまでやるべきことを成そうとする。
「……はぁ」
這い上がってきた先で、顔についた泥を拭い捨てた。
そうして周りを見て────目を見開いた。
「q@;q@」
「uyq@6j5f」
そこにいたのは、ラフムの群れだった。
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私的な話ですが今日は中辛の麻婆を作って食べてみました。全然辛さが足りてなかったので次は激辛に挑みます。