綺麗な言峰とか呼ばれ始めた奴 作:温めない麻婆=ちゃっぱ
普通だったらこのままウルクの中央。ギルガメッシュ王がいる方へ向かうはずだと藤丸達は思っていた。
しかしマーリンは曖昧な態度で「まあまあ、お腹は空いてないかい?」と行列に並ぶことになり、あっという間に店内に。
その内部は和風と中華風が絶妙な具合に作り上げられたデザインとなっていた。
藤丸は周りをキョロキョロと見つめる。何処にでもありそうな一昔前のラーメン屋に似てるかもしれないと思ったのだ。
まるで、藤丸がほんの小さな子供の頃に行ったような場所。ちょっとだけ油臭くて、そしてちょっぴり涙が出そうな唐辛子の香りが店内に漂っている。
お客は皆麻婆ばかりを注文しているようだ。「麻婆をくれ!」「私もそれを!」「辛い、お代わり!」「この辛さ、この刺激! 涙が出るほど鼻にツンと来る味! くぅ~! 生きてるって感じがするなぁ!」とお祭り騒ぎのように盛り上がっている。
藤丸達がいる場所はカウンター席ではなく、店内の奥にあるテーブル席。四つの椅子が置いてあるそこに座り、藤丸の隣にマシュ、その正面にマーリン。そしてマーリンの横────には誰も座らず、何故か椅子を斜めにずらしマシュの隣に移動したアナがそこに座る。
マーリンは傷ついた様子もなく、楽しそうに「アナは恥ずかしがり屋だからね、まあこれぐらいは可愛い範囲だよ!」と言っているのを見たフォウに飛び蹴りされて椅子ごと後ろに倒れる珍事も起きた。
そうして少しだけ待っていると、お冷を持った店員────ならぬ、天草四郎。
「ああ、カルデアのマスターですか。何にします? 麻婆ですか。それとも麻婆ですか?」
「あ、天草さんそれは実質一択なのでは!?」
「というか何で天草がお店にいるの!? 言峰さんは……いや、いないって分かってるけど……」
「先輩……」
表情を曇らせた藤丸の背中をマシュが優しく撫でる。
それにマーリンが何故か安心するように微笑んでいる。心配してくれているのか……と思ったけれど、フォウがジト目で猪が突進してくる前に見せるような動きをするのでこれは良くない方の微笑だと理解した。
とりあえずマーリンについては放っておいて、今は天草だと彼を見つめる。
彼は何故か白Tシャツに長ズボンで腰にエプロンを巻いている。額には汗を流していた。Tシャツには『店長代理(不本意)』と日本語で達筆に書かれている。もしかしてこれ天草が作ったんだろうか。そう藤丸は思いながらも彼に向かって話しかけた。
「ええと、天草はなんでここで働いてるの?」
「……いろいろと事情がありまして。ああ、それより麻婆を食べますよね。四人前」
「私はいらない」
「アナさんは無しと……では杏仁豆腐でもいかがですか? まあこのウルクでは本場の様な味は出せませんが……」
「いい、それにする」
「ではアナさんには杏仁豆腐。他三人には麻婆豆腐ですね」
「僕は甘口で頼むよ! 流石に一口食べただけで意識が飛ぶような激辛はちょっとね────」
「激辛麻婆三つと杏仁豆腐一つですね!」
そうして、天草は店の裏手へ入っていく。なんというか、彼に向かって何かを言う前にいつの間にか麻婆を頼まれている事実に藤丸はたじろいでしまっていた。
マシュの方を見ると、彼女は藤丸と目が合い────何故か覚悟を決めたように頷いてくる。
「頑張りましょう先輩。ウルクの麻婆豆腐……つまり言峰さんの作るあの麻婆豆腐のお味ということになります」
「ハッ!? 言峰さんが作る麻婆豆腐……よし、美味しくいっぱい食べようね。マシュ!」
「は、はい! 例え味覚が壊れようとも全力で挑ませていただきます!!」
ガッツポーズを決めたマシュと、それに合わせるように同じポーズをとり笑った藤丸。
そうして和んだ後、藤丸はマーリンを見た。
「……それで、天草と顔合わせをするためにここに来たの?」
「ああそうだね。彼はこのウルクで────ギルガメッシュ王の奪還を行うための計画を立てている最中なんだ。そこにカルデアの君たちも巻き込みたい」
「はい?」
「えっ……あの、今聞き捨てならない言葉が聞こえたように思うんですが。ギルガメッシュ王は……その、何処かに捕まっているのでしょうか?」
「ああそうだよ。ちょっと……死にかけた余波でね。流石に四度目はうまくいかなかったらしい……王は今、冥府に囚われているんだ。もちろんギルガメッシュ王は一度死にかけた時にこうなるかもしれないと予期してか、自らが冥府に囚われた時用に準備をしていたから安心してほしい」
「いやいや安心できないから!!」
「は、早く迎えに行った方がいいのでは!? ここで麻婆を食べているよりも────」
「うっ、でもマシュ……言峰さんの料理……」
「はっ!? そうです……ですが、どうしましょう……」
「なーに、心配はいらないさ。それより麻婆に慣れておいた方がいいと思ってね」
「……麻婆に、慣れる?」
意味が分からないという藤丸に、マーリンはただ笑うだけ。
アナの方を見ると、彼女は疲れたように溜息を吐いただけだった。
藤丸「麻婆美味しい……ピリッとしてて美味しい……うぅ、グスッ……言峰さんに会いたいよぉ……おかわりくださいお願いします……ぐすっ……」
マシュ「はふっはふっ……な、なかなかの辛さ。汗が噴き出て止まりません。流石は言峰さんの残した麻婆豆腐……言峰さん……はふっ……はふっ……流石言峰さんです……味覚が壊れるかと錯覚するほどの辛さ。いえ、マシュ・キリエライト。頑張って先輩に続いて完食して、何杯でもおかわりしてみせます……それが言峰さんの気持ちを知るための、最善……!!」
アナ「マーリン。聞きたいことが……」
マーリン「何だいアナ?」
アナ「彼女たちの表情がまるで……ウルクで目にする親子のような、あの言峰という男が彼女たちの親のように見えてくるんですが……」
マーリン「まあ、心を救われ、生きていく故で必要な方法を教えてくれた師でもあるわけだからね。親のような情を抱くのは仕方がないかな」
アナ「そうですか……それともう一つ。藤丸立香は何故あの麻婆豆腐を食べて平然としているんでしょうか」
マーリン「それは僕が言うべきことじゃない」
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